(すみません。訂正し忘れたまま投稿していました)
「前進!――前進!Ура!」
外海に向かって進み出したミンスクに、沖にいた艦娘たちが近づいてくる。
「では改めて。私は名取。長良型軽巡洋艦の二番艦で、この艦隊の旗艦をつとめています。よろしくお願いしますね」
一番年長に見える少女が話しかける。船もほかの船よりも二回り以上大きい。
返事を……でもなんと名乗れば――そう思ったとき、再び言葉が頭に浮かんできた。その言葉をそのまま口にする。
「ミンスク――――私はキエフ級重航空巡洋艦2番艦ミンスク――、です。よろしくお願いします」
どうにも以前の名前を思い出せないまま、とりあえずミンスクと名乗っておこう、そのような形で自分の呼称について折り合いをつけることにした。その間、残りの少女たちの自己紹介が続く。
「初めまして。睦月型駆逐艦三番艦、弥生、です」
「睦月型駆逐艦三日月です。よろしくお願いしますね。」
名取とともに沖合にいた艦娘たち。艦の大きさは暁たちよりもまだ少し小さめに見えたが、雰囲気は落ち着いていると感じられた。
「えっと、名取さんにやよいさんと三日月さん――それと、あかつきさんといかずちさん、いなづまさん――ですね。よろしくお願いします」
駆逐艦の形は識別できなかったが、少女の姿は最後に呼んだ二人を除いて容易に見分けられた。
(前方の、淡い髪の色をした落ち着いた感じの少女がやよい。黒髪の少女が三日月。後方から来る、黒髪で帽子をかぶった少女があかつき、茶色の髪の少女たちがいかずちといなづま)
幸い今回は正解だったようだが、おそらく最後の二人は何度か間違えてしまいそうだ、そう思いながらミンスクは少女たちに向かって頭を下げた。
(海外艦?聞いたことのない名前だし、さっきの叫び声も聞いたことがないわ)
「これから境港要港部に向かいます。ミンスクさんは私の後についてきてください。輪形陣でミンスクさんを護衛します」
(さかいみなと?港?堺?りんけいじん?)
またいろいろと理解できない単語が耳に入ったが、それよりも艦娘たちが一斉に動き出す様子が目に入ってミンスクの注意をさらった。
(これは……これでぶつからないのはけっこう凄いんじゃないかな)
おそらく幾何学的に定められた所定の位置につこうとしている動きに気を取られかけたところで声がかかる。
「ミンスク、ちゃんと前を見てないと危ないわよ」
「あ、すみません」
気がつくと前方の名取との間隔が狭まっていた。
(スピード出しすぎた。安全運転。安全運転)
しばらくはひたすら名取の艦尾を追って進む。まわりの艦の様子も気にはなったが
(よそ見したらまずいしなあ……自分も船だったら、レーダーとか載ってないのかな)
そう思った次の瞬間、頭の中にまわりの艦の位置が浮かんできた。まるで昔のテレビに出てきたレーダーの画面のように、中心から等距離に6個の輝点が浮かぶ。
(レーダー?マジで?)
自分の脳内にそのような画像が浮かんできたことのほうがショックで、ミンスクがその6個の輝点がきれいに正六角形を描いていたことに気が付くのはかなり後になってからになる。
(海の上を進んでいけて、レーダーみたいなことも出来る、一体俺って……)
またしても自己の存在について考え込みかけて「ミンスク!速度出しすぎ!」怒られるのだった。「すみません」
「ミンスクさんは重航空巡洋艦でしたか。普段はもっと速度を出しているのです?」
「えっと、もっと早く動けると思うし、全力とかでなく普通に動いてももう少し速度は出せそうな感じ、です。今はちょっと意識して速度を落としている感じかな」
「今は戦闘中ではないので燃費を考えて速度を落としています」
名取によると、ここは南西諸島の南端に近く――現在位置がやっと分かった――これから二昼夜かけて米子市の北にある境港に帰投する予定だという。
一方、艦内のもう一つの意識は、最初からレーダーで動きを追っていた。
――まあこれは護衛半分監視半分なのだろうが……それにしても見事な艦隊運動だ。太平洋艦隊の全盛期でもここまでの正確さと速さはなかなか出せなかった。これはかのフィッシャー提督の艦隊にも勝つのではなかろうか。
完全に囲まれた状態になっても不安にはならなかった。МИНСКの知る日本の軍艦(ああ、ゴエイカンとかいうのだったか)は、決して向こうから先に手を出してくることは無かった。
(このまま操艦の妙を見ながら
実際にはまわりにいるのは海上自衛隊の護衛艦ではなく大日本帝国海軍の軍艦であり、むしろ最初に遭遇した際に問答無用で攻撃されなかったのが相当な幸運であったことをМИНСКが認識するのはもう少し先のことになる。
≪境港≫
ミンスクたちが東シナ海を北上している頃、境港要港部では職員たちが艦隊の帰投まで二日あるとは思えなないほどのあわただしさで動いていた。
話は数時間前にさかのぼる。
宛 境港要港部・尼子直久提督
発 第1艦隊・名取
先程ノ大型艦ハ航空戦艦ニ似タル艦型。
全長260メートル以上。
後方ヨリ中央ニカケテ斜行セル飛行甲板。
大型艦橋ノ前方ニ大型ノ魚雷発射管ラシキモノ8基
主砲・搭載機ハ確認デキズ。
水偵ガ至近距離ニ近ヅクモ反応ナシ。
艤装解除ニテ放置サレタカノゴトシ。
マタ浜辺ニ流木ヲ並ベタSOSノ文字ヲ発見。
調査ノ為、暁、雷、電ヲ上陸サセル。
「空母ラシキ未知ノ大型艦」の報で始まった要港部の緊張は、この通信文が届いたことでピークに達した。
(「航空戦艦ニ似タル」だって?伊勢型ではないのか?)
要港部のトップである提督・尼子直久の頭脳が高速回転を始める。
水偵が至近距離まで近づいて確認した以上、伊勢型、あるいは――いきなり航空戦艦としてドロップすることは考えづらいが――扶桑型なら見間違えることは考えづらい。利根型・最上型の航空巡洋艦だとしても同様だ。だが、知識を探っても伊勢型・扶桑型以外で航空戦艦と見間違えるような艦はなかなか出てこなかった。
南西諸島でのドロップは扶桑型以上に考えづらいが、大改装前のフューリアスなら後部に巨大な主砲が残っているはずだし、ゴトランドなどの航空巡洋艦を戦艦とは間違えないだろう。万が一距離感を誤っていたとしても、中口径の主砲が見えるはず。
前方に大型の魚雷発射管?そんな組み合わせは歴史上どこの国も作らなかったはずだ。もちろん秘密裏に計画されて、未完に終わった艦で、いまだに情報が公開されていないという可能性もゼロではないが……
(それよりは、未確認の敵艦という方が可能性は高い)
敵艦も、その多くはかつて実在した艦に対応付けられる形をしているが、そこから逸脱する頻度もその度合いも艦娘よりも大きいというのが定説だった。
仮に可能性が五分五分以下であったとしても、危険性を考えれば敵である場合を優先して考えるべきなのは明らかだった。だが
(至近距離に近づいても反応なし?)
航空戦艦であれ、巡洋艦であれ、航空戦力を活かそうとするならば彼我の距離のあるうちに動くはず。敵側ではほとんど報告された例がないが、故障か燃料切れで動けないとしても――
(せめてもの反撃はしてきそうなものだが)
これまで知られている限り、一部の潜水艦が味方に気付かれずにやりすごそうとするケースはあっても、敵の水上艦が互いに視認できる距離にあって攻撃してこないというケースは皆無だった。戦闘狂と言われる一部の艦娘ですら退避を選ぶような、戦力的に圧倒的に不利な状況ですら、逃走よりも突撃を選んでくるのが深海棲艦という存在なのだ。それが、攻撃も逃走もしないとは。
(罠か?だが味方はすでに雷撃必中距離まで近づいている)
仮に大型の魚雷での攻撃を狙っているとしても、配下の艦娘たちはもともと水雷戦の専門家だ、停止した大型艦など怪しい動きをした瞬間に61センチ魚雷の餌食にするだろう。
(そもそも、大型艦を餌にしてまで罠にかけるほどの戦力ではないのだし)
艦隊の主は、自分の艦隊が全体の中でどの程度の地位を占めているかについて、過大な評価はしていなかった。
(むしろ、もしも敵の大がかりな罠であったならば、敵がその種の罠を仕掛けてくるようになった、という行動パターンの変化の方がよっぽど重大だ)
その場で名取たちが陥ったのと似たような混乱をきたしていた思考は、見返した文面の中の、ある言葉の意味に気付いたところでぴたりと止まった。
「斜行せる飛行甲板――――!アングルドデッキか!」
『大侵攻』直前、人類の全盛期ともいうべき時代の最後に英米超大国が建造した大型空母の特徴。艦娘にせよ深海棲艦にせよ、出現するのは最新でも第二次大戦末までの艦船と相場が決まっていたがこれは……
(もしも艦娘ならば世紀の拾い物かもしれないな。それこそあいつらに一泡吹かせられる位の)
提督の脳裡に、一度要港部に所属し、いまはいない大型艦の姿が浮かんだ。
(今度は他の鎮守府に奪われないように……)
「ちょっと、あんた!大丈夫なの?少しは落ち着いたらどう?」
かたわらに立つ秘書艦が、司令官の懊悩ぶりに思わず声をかけたときには、すでに方針は決まっていた。
「艦隊に打電。文面は――――
ゲームだと、たとえば金剛型が終始「高速」だったり、艦載機に96式よりも前のものが無かったりすることから、ドロップ/建造直後の時点で第二次大戦の少し前くらいの状態になっているようですが(公式のアナウンスとかありましたっけ?)そのあたりは「設定改変」ということで。
18インチ砲搭載の航空巡洋戦艦とかも浪漫かと(本作中で出るとは限りません)