今回は番外編です。
あとがきにお知らせあります。
誤字修正いたしました。
空さん、younoさん
誤字報告ありがとうございます。
――オハラ消失の約一年五ヶ月前
海軍本部のとある船の上で数十名の兵士達が集められていた。
彼らは新たに編成される隊のために集められた兵士達で、数名を除いてそのほとんどが訓練上がりの新兵だ。
今、彼らはこれから自分達が任務で使う事になる予定の船の甲板で整列し、自分たちの隊の隊長になる人物を持っていた。
しかし、隊長を迎える筈の新兵達のその顔は優れず、不安そうにお互いに囁き合っている。
「俺達の隊長って新米の少尉なんだろ?」
「任務に就いた事もないらしいな」
「聞いた所によると、訓練時に問題起こした奴らしいぞ」
「一応、曹長がいるけど、無茶な事言われないと良いが」
これから偉大なる航路で任務をする新兵達にとって、経験のない新米の隊長と言うのは頼りないものだ。しかも、訓練時に問題を起こしたと言う噂もあるのだから、彼らが不安になるのも無理はない。海軍には階級を盾に無茶な命令をする者がいる。今回の隊に集められた兵士は数名を除いて新兵達とほとんど階級に差がなく、彼らの中で一番階級が高くて曹長なのだ。新米と言えど少尉には強く意見はできない。
海賊も増えて来たこの時期に、そんな隊長の下に就かなくてはいけないのかと、不安を隠せずにいた。
そんな状態で兵士達がこれから来る筈の隊長を待っていたが、いくら待てども目的の人物が来ない。
仕方なく、隊長の人相を知っている曹長と数人の兵士が探しにいく事になった。
他の兵士達は甲板からは出てはいないものの列を崩し、所々に集まり、お互いに更に募った不安を口にしていた。
「いくら階級が上だからって、新米のくせに時間も守らないのかよ」
「先が思いやられるな」
「これは問題起こしたっていうのは本当かもな」
「そんな奴の下に就かないといけないなんてついてないな」
兵士達が甲板でそうやって話し合っていると、キョロキョロと辺りを見渡し、恐る恐る歩いている少女が船に乗って来た。
少女は海軍基地に似つかわしくない格好――変わった靴に、緑のスカートを履き。胸に目のような赤い飾りをつけ、マントを羽織っている――していた。
そんな少女に兵士達が気づかない筈もなく、直ぐに少女に話しかける。
少女は間違って乗って来たのだろう。これから曹長達が厄介な隊長を連れてくるのだ。このままだと、少女も自分達も因縁を付けられるかもしれない。と
「おい、お嬢ちゃん」
「勝手に乗って来ちゃダメだよ」
「直ぐに降りた方が良い」
「ここにはそろそろ怖い方が来るからね」
兵士達が声をかけると
「う、うにゅ? また間違えちゃったのかな? ここ船多過ぎてよく分からないよ。中将も適当に言うんだもんな~」
と少女は愚痴を吐いている。
やっぱり間違って乗って来たらしい。
兵士達は少女にどの船に乗るつもりだったか聞いて、それを教えてあげようとすると
「時間かなり過ぎちゃったし、初日からこれじゃあ部下に示しがつかないよ」
「へ?」
「ぶ、部下?」
「もしかして……」
「少尉! 探しましたよ!」
隊長を捜しにいっていた曹長達が戻って来て、少女に驚きの言葉をかけた。
突然の事で兵士達が呆然としている間に、曹長が少女に敬礼しながら、二、三言葉を交わすと全員に整列する様に叫ぶ。
それに対し、甲板にいた兵士達も呆然としていた兵士も直ぐに少女の前に整列する。
「全員! 霊烏路空少尉に敬礼!」
少女の横にいた曹長がそう命令すると、兵士全員が少女に対し敬礼をする。
命令で反射的に敬礼をしてしまったが、曹長を除いた隊長の事を知らなかった兵士達は
この女の子が俺達の隊長? と考えていた。
どんな厄介なのが来るのかと構えていたが、まさか年端もいかない少女が来るなどとは考えてもいなかった。
「海軍本部少尉、霊烏路 うにゅほでしゅ! これからよろしゅく!」
「「「「「……」」」」」
「……また噛んだ……」
少女――ウツホは膝と両腕をつき、背の羽は悲しむかの様に項垂れ、落ち込んだ。
その時、曹長を含む全ての兵士達の心は一つにだった。
『『『『『また、なんだ』』』』』
問題を起こした厄介者が来るほうがマシだったかもしれない。と思った新兵達であった。
「しっかし、参ったよな~」
「あんな子が俺達の隊長とは」
「これからどうなるやら」
数名の兵士が船の廊下を歩いている。
多少の問題は合ったが、あの後無事に巡回任務に就き、船は偉大なる航路を航行していた。
「巡回任務って、もし海賊なんて発見しちまったらどうなるんだ?」
「今の時期、発見しないわけないだろ。商船より海賊船の方が多いんだぜ?」
「てっことは?」
「曹長ぐらいしかまともに戦えないだろ、あの少尉じゃあな~」
兵士達は、軍艦に乗っているはずなのに、まるで沈む事が決まった泥船に乗り込んだような気になってくる。
「おっ!」
ドンッ、と会話に気を取られていた兵士達の一人が廊下を掃除をしていた兵士とぶつかってしまう。
気を取られていて前方を見ていなかった自分が悪かったが、兵士は気落ちしていた所に雑用にぶつかって苛立つ。
「おい、気をつけろよ!」
ぶつかった兵士は、八つ当たり気味に背の低い海兵の襟元に掴みかかる。
「うにゅ?」
掴みかかった時に目深に被った軍帽から雑用の顔が除くと、そこには不思議そうな顔をしたウツホの顔があった。
海兵の服を着ているが、よくよく見れば、背中にマントを羽織っている。
「しょ、少尉!? 申し訳ありませんでした!」
掴みかかった兵士はそれに気がつくと直ぐに手を離し、敬礼をする。一緒にいた兵士達もそれに続き敬礼する。
それに対し、ウツホは気にしくて良いよ、と手を振り、よれた襟元を直す。
「な、何故、少尉が掃除などを?」
兵士は、上官に掴みかかってしまった焦りから頭を占める疑問をとっさにウツホに問う。
ウツホは襟を直し終え、襟を掴まれた時に落としたモップを手に取ると、また不思議そうな顔をしてそれに答えた。
「船乗ってるときって、掃除以外に何かやる事あるの?」
「「「は?」」」
帰って来たのはあまりに予想外の解答だった。
兵士達は一度お互いに顔を合わせ目配せをすると、兵士の一人がおずおずと答える。
「掃除するのは雑用の仕事で少尉の仕事ではないかと」
「そうなの? じゃあ、何をすればいいの?」
「え~と、隊の書類とか、船全体の管理とか……」
「私、掃除以外に船の事何もできないよ? 書類とかよくわからないし」
「……」
絶句。まさかここまで頼りにならないとは。
兵士はこのまま黙っている訳にもいかず、だからといって何を言っていいのかわからず、場を流すために口を開く。
「と、取りあえず、掃除は雑用にお任せください。道具は片付けておきますので」
「そう? せっかく着替えたのに」
ウツホは掃除道具を取られると、「なにをしようかな~」と言いながら去って行った。
その姿を見て、兵士達は更に不安を募らせるのだった。
ウツホの船が海軍本部から出港して数日後、偉大なる航路を巡回していると
「ん?」
見張りの兵士がとある船を発見する。
発見した船を確認しようと望遠鏡を覗き込むと、兵士の顔がドンドン青ざめていった。
「おい、どうした?」
それを見ていた他の見張り役の兵士が不信に思い声をかける。
「か、かっ!」
「か?」
望遠鏡を覗いていた兵士が驚きで開ききってしまった口を何とか動かし、答えようと無理矢理に声を出す。
「海賊船だ! 二本の爪を構える髑髏のマーク!」
何とか言葉にした声は、勢いがついたせいか大きな叫びとなり甲板まで響く。
それを聞いた兵士達は同じ様に顔を青ざめ、口を開いて固まる。
「相手に食らいつく二本の爪……」
「懸賞金、五千六百万ベリーの凶悪犯、ホーニッド・ウォンの海賊船だぁー!!」
固まっていた兵士の中の誰かが叫ぶと、甲板の兵士達はパニックに陥る。
それも無理はない。ホーニッド・ウォンは残虐で有名な海賊であり、海軍相手でも積極的に攻撃してくる海賊だ。しかも、五千万ベリーを超える大物の賞金首。新米の少尉と曹長、それに乗組員のほとんどが新兵しかいないこの船に勝ち目などある訳がない。
ドォン!
近くで波が立ち、船が揺れる。
海賊船が撃って来た砲弾が船の近くに着水したからだ。
「撃って来たぞー!」
「どうするんだ!?」
「俺に聞くなよ!」
パニックになっていた兵士は海賊船からの砲撃で更に慌ててしまい、全く対応できていなかった。
「うるさいな~、どうしたのよ?」
大慌てな甲板に場違いで眠た気な声が通る。
その声のした方向に目を向ければ、眠た気に片手で目をこすっているウツホの姿がある。
実は、ウツホは結局やれる事がないので船の屋根の部分で日光浴兼昼寝をしていたのだが、この騒ぎで甲板に降りて来た所だった。
そんな気の抜けたウツホの様子に一瞬呆気にとられながらも、それどころではないと兵士は今の状況を伝える。
「か、海賊です! 少尉! どうしましょう!?」
切羽詰まった様子で兵士が必死に叫ぶが、ウツホは「うにゅ~」と変な欠伸をして気に留めた様子もない。
その頼りない様子に、兵士達のウツホに対するただでさえ低かった評価はこれ以上ないくらいまでに下がった。
そんな中、欠伸が終わったウツホが未だ眠そうな口調で
「海賊なら捕まえないと……」
等と言い出す。
ドカンドカンッ、と海賊船から砲弾が近くに着水し船が揺れ、場慣れしていない兵士達の精神を削る中にそんな発言。
理不尽な命令で死んでいく海兵も確かにいるが、これは酷い。
現状を何も理解できていない無能な上司のせいで死んでたまるか。と兵士は更に必死な形相でウツホに叫ぶ。
「できる訳ないでしょう! 相手は懸賞金五千六百万ベリー、あの残虐で有名なホーニッド・ウォンですよ!?」
その叫びに流石に驚いたのか、ウツホは眠た気に閉じていた目を開き、その大きな目をパチパチと瞬きしながら、驚いた顔で答える。
「えっ? できないの?」
「当たり前です!!」
「確かに、五千六百万ベリーは戦うとキツイか~」
仕方無さそうに呟くウツホに対して、兵士は「キツイって、どう考えても無理だろうが」と突っ込みたい気持ちを飲み込む。
しかし、その様子に兵士達は安堵する。少なくともこれで無茶な命令で死ぬ事はないのだから。
そう兵士達は思っていた。が
「じゃあ、戦わないであの船を沈めましょ」
「「「「「は?」」」」」
まさか白兵戦で勝つのは無理でも、砲撃戦ならば勝てるとでも勘違いしているのか。と兵士達は考え、慌てて止めようとすると
「よいしょ、っと」
ブォン。
ウツホがマントに右腕を突っ込み、勢い良く引き抜く。その右腕には先ほどまでは無かった茶色い六画形状の棒――制御棒が付いていた。
ウツホの急な行動に兵士達が呆然としていると、ウツホは制御棒の付いた右腕を海賊船に向け、左手を添えて構える。
そして、制御棒からキュゥンという何かをためているような独特な音がしたかと思うと、凄まじいジェット音と共に制御棒から一筋の光――レーザーが海賊船に真っ直ぐと伸び、突き刺さった。
「「「「「えっええええええええ~!!?」」」」」
その光景に兵士達の誰もが驚愕する。
しかし、ウツホはそれを気にした様子も無く、撃つ度に少しづつ右手を動かしながら、立て続けにレーザーを海賊船に打ち込む。
ドォォオオオオオン!
ウツホが六発目のレーザーを海賊船に叩き込んだ時、海賊船が爆発した。
レーザーの余熱で船に積んであった砲弾が連鎖的に爆発したのだろう。船は中から弾け、炎をにくるまれながら海へと沈んでいった。燃えていく海賊旗がどこか冗談の様にも見えていた。
「「「「「……」」」」」
兵士達は現在目の前にしていても、信じられない光景に沈黙するしか無い。
「じゃあ、海に落ちた海賊の回収はよろしくね」
「へ? は、はっ!」
兵士達の動揺など知ったものかとウツホはそう告げると、先ほど降りて来た屋根の上へと戻っていく。
「あっ、折角だから色々、技試せば良かった」
「最後まで気を抜くなー! 怪我をしていても相手は海賊だ!」
ウツホが戻った後、とっさに返事はしたもののどうしたものかと兵士達が戸惑っていると、騒ぎを聞きつけた曹長達が甲板に来て兵士から事情を聞きだし、戸惑っている兵士達に一喝し直ぐに海賊捕縛の指揮を取り始めた。
「そっちの縄、持って来い!」
「うわっ! こいつの怪我ヤバいぞ!」
「船医、早く手当てしてやれ! 死なれると厄介だ!」
海に落ちた海賊達は皆酷い怪我と火傷を負っており、抵抗はほどんど無く回収は速やかに行われていた。
奇跡的にレーザーが直撃したものはいなかったが、その余波や爆発に巻き込まれたのだ。今の所死人は出ていないが、放っておけば死ぬであろうものも多かった。
「あ……あァ……」
「おい、あれ見ろよ」
「あれもしかして、ホーニッド・ウォンか?」
「げぇ、血塗れじゃねか」
新たに引き上げられた海賊は全身に船の残骸が突き刺さり、酷い有様だった。その海賊はたった今壊滅した海賊団の船長で残虐と名高い、ホーニッド・ウォンの成れの果てだ。
この惨状をあの頼り無さそうな新米の少尉があっさりと引き起こしたとは今でも信じられない兵士達だった。
「うわぁぁああ!」
「でめぇら、よぐもやっでぐれだなぁ!」
この怪我ではとても動けないだろう。という兵士達の隙をついてホーニッド・ウォンが兵士達の拘束から逃れる。流石は五千万越えの賞金首と言った所だが、動くたびに体中から血を吹き出していて無理に動いたりなどしたら死んでしまうのは明らかだ。しかし、そんなのは関係ない。
彼はただ今まで通りに、やられたらやり返す。その一心で動いているのだから。
「何をやっているんだ! 早く取り押さえろ!」
曹長の命令で、何人もの兵士達がホーニッド・ウォンを押さえ込みにいく。
「あぁぁあ!! じゃばだー!」
「「「ぐぁあああ!!」」」
しかし海賊の意地か、どこからそんな力が出るのかホーニッド・ウォンは押さえ込みに来た兵士達をまとめて吹っ飛ばす。
兵士達を吹っ飛ばしたホーニッド・ウォンはそのまま兵士達が持っていた剣を奪い、一人でも多く斬り殺そうと振り回し始める。
「曹長! 手がつけれません!」
もはや、ほとんど意識なんてないだろう。ただ、暴れる。彼はそうやってこの偉大なる航路を生きて来たのだから。
もはや仕方ないかと、曹長が射殺命令を出そうとした時、ふよふよと直径一メートル程の、二つのリングに囲まれた半透明の光弾がゆっくりと、暴れるホーニッド・ウォンに近づいていった。
もちろん感情のまま暴れ回っているホーニッド・ウォンがそれを無視する訳無く、持っていた剣で切り掛かる。
「がばっ!!」
光弾に剣が当たった瞬間。バチンッ、と青白い火花が散ったかと思うとホーニッド・ウォンが吹っ飛び、そのまま船の壁にめり込み気絶する。
「これ火も出ないし、使い勝手良いかも」
一部始終を見守っていた兵士達を他所に、船の入り口の屋根の上から機嫌良さそうなウツホの声だけが聞こえていた。
ホーニッド・ウォンの海賊団を壊滅させてからも、ウツホの船は何度も巡回任務で海賊船と遭遇したが、その度に圧倒的火力でウツホが壊滅させていった。
その容赦のない姿に兵士達は当初、恐怖に近い感情を抱いていたが
――とある日、昼間の甲板
航海中のウツホの船の上、数名の兵士がモップブラシで甲板を掃除しながら会話をしていた。
「この間の少尉もすごかったな~」
「どんな海賊団でも発見して数分もせずに壊滅だもんな~、普通じゃあ考えられないぜ」
「あぁ、最初はどうなるかと思ったけど、良い船に乗ったな俺達」
「もしかしたら偉大なる航路にいる海軍船で一番安全かもな」
と笑い合う。
会話の内容は自分達の上司、ウツホの先日の活躍についてだ。
既にウツホは数ヶ月で幾つもの海賊団を壊滅させており、その姿を目の当たりにしていた部下達の評価も底辺から鰻登りに上がっていた。
しかし、笑い合っている兵士達の中には表情の優れないものもいる。
「でも、少尉怖くないか?」
顔の優れなかった兵士が、ポツリとそう呟く。
「は? どこが?」
「お前らだって回収する時の海賊達の姿を見てるだろ?」
「確かに酷い有様だけどよ、相手は海賊だぜ? それとも無傷で捕まえられるとでも思ってんのか?」
「いや、そうは思わないけどさ。少尉……笑いながらやってるだろ?」
「「「……」」」
その言葉に先ほどまで笑いながら答えていた兵士達も二の句を告げなくなる。確かにその通りだからだ。
ウツホが海賊船を沈める時は、普段からは想像もできない程の凶悪な笑みを浮かべて、さも楽しそうに笑い声を上げて行っている。
ウツホが壊滅させた海賊達を回収して、酷い有様を実際に目の当たりにしている兵士達に、その惨状を楽し気に引き起こすウツホに対して恐怖を抱くものがいるのも仕方が無いだろう。
彼らは海軍であり、海賊ではないのだから。
ゴトンッ。
とその時、甲板の上に何か固いものが落ちた音が突然響き、驚いた兵士達は音のした方向に目をやる。
そこには何か白いものに包まれた大きなものが落ちていて、それはかすかに上下に動いていた。
「なぁ」
「あぁ」
それを目にした兵士達はそれに近づいてみると
ゴロン、っとその物体が突然動き、その物体を包んでいた白い布が捲れる。
「すぅ~」
「「「「……少尉」」」」
落ちて来たのは屋根の上で寝ていたウツホだった。落ちて来た所の甲板が軽くへこむぐらい強く打ち付けたのにも関わらず、目を覚まさずに気持ち良さそうに眠っている。
兵士達は先ほどの話しを聞かれたかとも思ったが、ウツホの熟睡している様を見てそれは無いと安堵する。
「おい、どうする?」
「起こした方が良いんじゃないか?」
「じゃあ、起こせよ」
「ええ!? 俺がか!? お前やれよ!」
「何で俺なんだよ!」
先ほどまでウツホの事を悪く言っていたうえ、その怖さを再確認してしまっていた兵士達は今はなるべく関わりたくない。だからといってこのまま甲板に寝かせて置くというのも気が引けてしまい、お互いに役目を押し付け合う。
「すぅ~、うぅ~ん」
その兵士達の騒ぎ声をうるさく感じたのか、仰向けになっていたウツホは自分の羽に寝ながら器用にマントごと包まり、顔以外は外から見えない形に身を抱え、より寝心地の良い体勢へ移る。その姿は端から見ると卵から顔を出した雛の様にも見えた。
そして
「えへへ……」
寝心地のいい格好に移ったおかげか、ウツホは寝ながら見た目の年相応の可愛らしい笑みを浮かべる。
「「「「「……」」」」」
――また、とある夜まじかの甲板
薄暗くなった甲板では数名の兵士が這いつくばって何かを探しており、甲板の入り口辺りには荷物を抱えた兵士達がそれを見守っていた。
「お~い! 見つかったか~?」
「いや~だめだ~、暗くて見つからない。灯り持って来てくれ~」
「ったく、倉庫の鍵を落とすなんてな……」
仕方ないと、兵士の一人が灯りを取りに行き、残りの荷物を持った兵士達も荷物を置いて捜索に加わる。
しかし、日もくれてしまい中々見つからない。
もう、灯りが無いとダメだと諦めようとした時
「はい、灯り」
とうずくまって鍵を探していた兵士達の手元が明るく照らされた。
「おぉ、助かっ……って!! あっちぃいいいい!!」
「ぎゃぁああああ!!」
「火花が、火花が!」
シュゴォオオ、っと火を噴いている”灯り”の元から飛び散った火花が兵士達に降り掛かり、兵士達はそれに焼かれ慌てて逃げ出す。
その”灯り”を持っている人物――ウツホは不思議そうな顔で逃げ出した兵士達を見ている。
「灯りいらないの?」
「「「「使えるか! そんな危ないもの!!」」」」
思わず兵士達は階級の差を忘れて突っ込む。
そう言われて、ウツホはふてくされた様な顔をして、兵士達を照らしていたレイディアンドブレードを消す。ウツホ自身は熱さを感じないので火花が当たっても気がつかなかったが、レイディアンドブレードは制御棒の口から既に周りに火花を散らしてるので、そんな物を近くで灯り代わりに使われてはたまったものではない。
ブスブス。
「?」
「?」
「うにゅ?」
「?」
「?」
ボッ!
「「「「「おぉおおおお!?」」」」」
どこからか焦げた臭いと音がしたかと思うと、甲板の至る所から火の手が上がる。
先ほど散った火花の高温で船が燃え始めたのだ。
いきなりの事でそこにいる全員が驚くが、レイディアンドブレードで熱せられた甲板は思いのほか火の手が回るのが早く、ドンドン火が激しくなった。
「「「「「「し、しししししし消火だぁああああ!!」」」」」」
その騒ぎは船の乗組員全員を巻き込んで、夜中近くまで続いた。
その結果、元々の原因である鍵を落とした兵士も罰を与えられたが、ガープ中将に何か有ったら報告しろと言われていた曹長に兵士達の前でウツホは泣きながら謝る事になった。
涙目で必死に謝るウツホの姿。
「「「「「……」」」」」
食堂ではニコニコと可愛らし気な笑みを浮かべて、嬉しそうに食事をする姿。
サインをしなければいけない書類を忘れ、ガープ中将に怒られてへこんでいる姿。
いつのまにやら、雑用に代わって楽しそうに掃除をしている姿。
「「「「「……か、かわいい」」」」」
そんな戦闘時の頼りになる姿と普段のどこかほっとけない姿のギャップ。
男所帯の船の上では、ウツホが兵士達にとって”手のかかる妹……のような上司”という認識になるのにそう時間はかからなかった。
力への恐怖などそんなウツホの前には有って無い様な物だった。
昔から「かわいいは正義」と言う通りに。
一年も立てば、兵士の全員が最初では考えられない程にウツホに対して大きな信頼を置いていた。ウツホと一緒ならどこまでも着いていくと言っても良い程に。
そしてウツホの階級が大尉になると、部下の者達の階級も何人かは上がり、副官である曹長も少尉へと昇進した。
だからといってその昇進が完全におこぼれと言う訳ではない。
海賊のほとんどをウツホ一人で片付けてはいるが、一年も巡回しておれば部下の者達も何度か戦闘に駆り出されるのは当然であった。海賊を回収する時にも、まだ反抗する者も少なからずいたし、陸地の町などでの戦闘だとウツホ一人で戦うと言う訳にもいかなかったからだ。
一年前に新兵だった者達も、今や立派な海兵だと言える。
しかし、その更に数日後に任務が巡回任務から討伐任務へと急に変わり、前とは比べ物にならないくらい忙しくなった。
討伐任務ともなると、相手をする海賊の強さも危険度も飛躍的に上がる。
そして、そんな命がけの任務が終われば、また次の任務。とあまりの忙しさで船も兵士達も疲労が溜まっていった。
「あ~、キッツイな~」
「何で、いきなりこんな忙しくなったんだ? 手柄を立てすぎたからか?」
またもや討伐任務を受けてとある島にいた海賊を捕縛し、海軍本部に向かっている船の廊下で、疲れが溜まっている兵士達がつい愚痴を吐いてしまっていた。
それに対し兵士の一人がコソコソと答える。
「噂だと、大尉がとある中将に怪我を負わせてしまったらしいぞ」
「えぇ!? そんなバカな! 中将に怪我させるなんて……いや、大尉なら……」
「「「「ありえるな」」」」
「と言う事は、俺達が忙しいのって」
「あぁ、大尉の皺寄せだな」
「「「「まったく、あの人は」」」」
と皆、溜め息をつきながら廊下を歩いて行くと
ズゴッ、と何かがめり込む音。
兵士達の数人がどこかデジャブを感じ、他の兵士達も嫌な予感をしながら後ろを振り向く。
そこには想像していた通り、着替えてモップを持ちながら船の廊下に頭をめり込ませているウツホの姿があった。
メキッ、ベキキキキキ、と頭をめり込ませたまま、ゆっくりと倒れ込んでいく。
兵士達は聞かれてしまった事に焦り小声で話し合う。
「おい! なんで気がつかなかったんだ!?」
「それなら、お前もだろ!? 会話に夢中だったし、着替えてて分かんなかったんだよ!」
「今の聞いて、大尉ショック受けて落ち込んで……アレは、落ち込んでるんだよな?」
「うっわ~、頭をめり込ませたまま倒れたから、壁に床に向かって一直線に穴あいてるぞ」
「うっ」
ビクリと倒れ込んでいた、ウツホの体が動く。
それにヒソヒソと小声で罵り合っていた兵士達はピタリと会話を止めてウツホに目を向ける。
「ウワーン、私だって泣きたいよー!」
とウツホは叫ぶと、泣きながら文字通りに飛んで逃げて行った。
「「「「大尉……」」」」
そのウツホの姿に、ウツホを責めるつもりは無かったが罪悪感を覚えてしまった兵士達だった。
それと
「「「「……壁が」」」」
穴の空いた壁がウツホの羽の突風をまじかで受けて完全に剥がれ、そこには大穴が空いてしまっていた。
兵士達は、そこから覗ける青い海と空を途方にくれて見つめていた。
「「「「「「「「なにぃいいいい!? 大尉一人で先に行ったぁああ!?」」」」」」」」
その後、海軍本部には無事に着いたが、船の整備が追いつかないと新しい任務にウツホだけが先に行く事となり、後から船が追いかける形となっていた事を聞いた部下達が叫ぶ。
叫び終わると兵士達は急に不安げな顔つきになり、各々ブツブツと口を開く。
「あぁ~、大尉、絶対に迷ってる」
「永久指針持ってるのに、泣きながら海の上さまよってる」
「やっと道が分かっても、急いでいこうとして気づか無いうちに能力で周りに被害出してる」
「それどころか、そのせいで永久指針と指令書、燃やしてしまっているかも」
「そして、目標の海賊倒した後にそれに気がついて、どうして良いか分からずに泣いてるかも……」
「「「「「「「「ありえる!!」」」」」」」」
兵士達は整備中の船など待っていられるかと、他の船の使用許可を取りに走る。
普通ならば緊急でもなければ、その日のうちに他の船の使用許可などまず降りないが、どうやって手に入れたのか少尉がどこからか許可書を持って来て、今までに無い程の手際の良さでウツホの後を追いかけていった。
そんな怒濤の任務の日々は五ヶ月後、やっと途切れを見せた。といっても討伐任務が終わっただけで別の任務に既に就いているが。
今やウツホの船は他の軍艦と共に、普段ならまず通らない凪の帯を航行し、その目的地に向かっていた。
西の海への極秘任務――バスターコールだ。
怒濤の討伐任務の嵐が終わったかと思えば今度は極秘任務。
隊が設立してたった二年間でこれだけの事をする船も、いくら海軍本部とはいえそうはないだろう。
その過剰スケジュールのおかげか、隊長のウツホも部下達もまたもや昇進。ウツホは少佐に、副官の少尉は中尉になり、乗り込んだ時は三等兵だった新兵達も一等兵や中にはもっと上の階級についた者もいる。
通常ならば、このように部下まで一様に昇進する事はまず無い。部下達までこの速度で昇進するのはこの船ぐらいのものだ。
その理由はウツホのおかげで通常ではこなせない数の任務をこなしているのもあるが、新兵の数の多さが一番の理由だ。元々、ここまで新兵の多い船は異例だった。偉大なる航路は経験が無ければ非常に危険な海だ。まず一部を除いて新兵ばかりの部隊など機能する筈がない。
しかし、誰の思惑か考えるまでもないが、その機能する筈のない部隊が設立され、なおかつ通常の部隊よりもうまく機能してしまったのだから驚きだ。成果を上げれば、新兵だらけなのだから階級も皆あがるというものだろう。
新兵ばかりと言う事は、海軍の船でもめったに通らない凪の帯などもちろん通った事も無いので
「「「「「ぎゃぁああああああ!!」」」」」
「グゥオォオオオオオオ!!」
ほとんどの乗組員が船の何倍もある大型の海王類など初めて目にする。
海軍の船の底には海と同じエネルギーを発する海楼石が埋め込まれており、凪の帯でも海王類に気がつかれない様になってはいるがそれも絶対ではない。
襲われる危険性はある。といっても
ジュゥウウウウウ!!
この船には関係ないようだが。
海面から出て来た、魚類とほ乳類が混ざったような姿をした海王類が船を襲う前に、その大きな頭を丸ごと包むような光弾に焼かれて死に絶える。
死んでしまって船の横にプカプカと浮くその死骸を
「これ食べれるかな?」
とその海王類をしとめた張本人――ウツホが指を加えて食べたそうに見つめていた。
ウツホの船はオハラに着くまでに数匹の海王類に襲われるという運の無さだったが、その度にウツホが仕留めてコックに料理させていた。
因みにウツホは美味しそうに食べていたが、兵士達は誰も食べてはいなかった。得体の知れないものを口にしても大丈夫なのは少佐だけだろうと皆言わずとも理解していたからだ。
兵士達はそのウツホの姿を見て、ある意味お腹いっぱいでは有ったが。
兵士達は、オハラに着けば興味津々と行った様子で作戦を忘れオハラを見物しに乗り込もうとするウツホを止めたり、止められて仕方なく船の周りから辺りを見渡すウツホがどこか行かない様に見張ったり、結局やる事が無くて暇そうにしているウツホにシルバー電伝虫を渡したりと、任務までの時間をこれまたある意味、有意義に使えていた。
また、作戦が始まれば、一気に雰囲気が変わるウツホに皆敬慕の念を抱きつつ、ウツホに命令された通り島からなるべく離れた所で砲撃を開始する。
そして、今、頭上には巨大な太陽。
誰もが驚くその光景にウツホの船の兵士達だけが、静かにその光景を見つめていた。先ほど飛んで行った自分達の隊長の仕業だと全員が理解しているからだ。そしてあの太陽がとてつも無い威力を秘めているだろう事も。
この時、オハラの消失を想像していたのは彼ら以外は誰一人としていなかった。
太陽が落ち、オハラの有った場所には巨大な穴、空まで届きそうな巨大なキノコ雲。辺り一面には灰が黒い雪の様に降り続ける。
キノコ雲に映る歪な三本足の鳥の様な姿。場違いな楽し気な笑い声が音も死んだこの場所にどこからか響き渡る。
その地獄の様な光景をその場にいた者達が深く心に刻んでいた時に、ウツホの船の者達だけが全く別の事を考えていた。
「「「「「「「「笑ってないで早く降りて来て欲しい」」」」」」」」
彼女がいないと船が動かせないのだからと。
無茶苦茶なウツホの元で一年半近くも働いている部下達は、どこの船の兵士達よりも逞しく成長していたのだった。
今回は予期せぬトラブルで更新が遅くなってしまいました。
今回は部下達から見たウツホの話ですね。
ウツホは自分ではしっかりやってるつもりでしたが、実はあんまりしっかりやってなかったみたいな事を書きたかったです。
今回の話のほとんどが皆様の感想からの妄想でできていたりしますw
数日前からアクセス数がおかしいw
1日にユニーク1000近くとか、当初の目標だったのに連日越えていてびっくりですw
お気に入り500近く、感想も90越え。
ユニーク25000近く、PVに至ってはは205000近く。
このような駄文に本当に嬉しい限りですw
!!ちょっとアンケートです!!
前から感想で幼少期ルフィとの接点あるの?
といわれてたんですが、幼少期に会ってた方ががいいですか?
あっても無くても、二通りのパターンは考えてあるのでどちらでもいいんで、アンケートします。
麦わら一味とのつながりは、ロビンとルフィ以外は作らない予定ですので、皆さんの意見がほしいです。
!!!お知らせです!!!
前に書いたとおり、ちょっと問題が起きてしまい。年末年始が忙しくなってしまい、二月辺りまで更新できないかもしれません。
暇な時に少しずつ書いてはいくので、微妙に更新する可能性も無くはないですが、1月は多分かけません。
楽しみにしていただいてる方、誠に申し訳ありません。