絶対正義は鴉のマークと共に   作:嘘吐きgogo

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というわけで短編集以来の外伝の初書き下ろしの話です。

注意:連載化にあたり、この話の結末は1話のあとがきに書いてあったものと変わっております。1話の続きですが、短編版のIF物として読んでください。

本編の方がちょっとにつまっていまして、まだ少しかかりそうなんですが、そろそろ更新しなくてはと思い。外伝を上げて場つなぎという反則すれすれの行為ですw

本編を楽しみにしていらっしゃる方々にはこの場で謝罪させていただきます。
スミマセン。話は大体できてるんでもうしばらく待ってください。



外伝:地獄は鴉のマークと共に 2話ー出会い

「もはや我らに猶予はないのだ!」

 

 ダンッ、と初老の男が眼前にあるテーブルを強く叩きながら叫ぶ。その声には焦りさえ浮かべてはいるが決して不安から来る弱々しい物ではなく、それはどこか重々しく他人には無い強さと気品と呼べる物が確かにあった。

 そして、それを男と同じ場に座したまま聞く面々たる人物達。その全員が言葉を発する事無くとも溢れ出す、似た威圧感――すなわちカリスマを持っていた。

 それも当たり前とも言えるだろう。ここにいるのは皆、それぞれ一人一人が一国を統治せし王という立場にいる者達なのだから。

 

 ここは聖地マリージョア――世界政府の中心地であり、世界貴族達が住む世界最高峰の土地。そして、今、開かれている各国の王達の会議――世界会議(レヴェリー)の行われる場でもある。

 

 輝かしいばかりの講堂。壁にかけられた絵画から床に敷き詰められた絨毯にいたるまで、その全てが一般人が一生働いても手に入れる事ができぬ程の一級の品で埋め尽くされている。

 しかし、一面、純白の壁とそれを覆う金の装飾に囲まれた室内は、その華やかさとは裏腹に、夜の海を覆う暗がりにも似たあまりにも濃すぎる空気に包まれていた。

 

「これは我らだけの問題ではない! このままでは世界その物の危機なのだ!」

 

 普段からも厳格な空気の中で行われるこの会議だが、今回の会議はその議題の内容の重大さと深刻さに集まっている王達の顔にも余裕が無く苦渋や焦りが浮かんでいる。

 その内容とは……

 

 

 

「『三つ足』霊烏路 空!!」

 

 

 

 初老の男は一枚の手配書を叩き付ける様に取り出す。

 それは、燃え盛る都市を背景に、一対の黒い翼を誇示する様に広げ右腕の制御棒を構えて歪に笑う黒髪の少女――議題の中心でもある霊烏路 空の手配書であった。

 手配書の額は世界政府への危険度を表すのだが、その手配書に書かれている額は他に類を見ない、八億八千万ベリーという高額である。

 

「この化け物を一刻も早くどうにかしなければならない!」

 

「……それは重々理解してはいるが、具体的にどうすれば良いというのだね?」

 

 引き続き、強く叫んだ初老の男に異を唱えたのは、今まで黙って聞いていた王の一人だった。

 

「なんだと?」

「そんなことはあの化け物が出没して以来、誰しもが考えていた事だ。だが、奴を討伐する為に海軍が出した十五隻の艦隊は瞬く間に壊滅させられ、居場所を把握しようにも、”世界最速の移動能力”とまで言われている奴を追う事は実質、不可能。襲撃に備えようにも、偉大なる航路を含めた四つの海(・・・・)に無作為に飛び回る一国の軍事力を軽々と超える相手にどうしようと言うのだね?」

 

 飄々としたその男の言い方に、怒りのあまりに瞠目したのは初老の男だけでは無い。

 

「そのような物言い失礼ではないか!」

「貴様の国は東の海にあるから、そう他人事の様に言えるのだ!」

 

 同じく席をともにする王達の幾人もが立ち上がり、声を荒げ糾弾する。

 

「この世界会議の空席を見ても同じ事が言えるのか!?」

 

 糾弾していた王の一人のが憤りを隠さないまま、不自然に空いている席を指差す。

 百七十カ国以上に及ぶ世界政府の加盟国の王達が一堂に集まる世界会議。その国の事情などがある為に、全ての国の王が集まれる訳ではないが、それでも欠席している国が多過ぎた。その欠席している国の中には、ほぼ毎回、会議に参加していた大国もある。

 

「ぐぅ……」

 

 言われるまま、その空席を見た男はその顔を歪め押し黙った。その不自然な空席の意味は考えるまでも無いからだ。

 

 一斉の沈黙。皆、その空席を見てそれぞれ思いを胸に強く抱き、言葉を飲込んでいた。

 その長い沈黙の中、会議を開いてから沈黙を保っていた、一人の年老いた王が静かに語りだした。

 

「西の海、北の海、南の海、そして、偉大なる航路。そこに存在する、独自の文化を持ち反映した数多の国々……その中にある世界政府加盟国の三十八カ国が、あの化け物によって滅ぼされた。かつての美しい風景は見る影も無く、今そこに見えるのは消えぬ灼熱の炎の大地か、怨霊が沸き上がる底無しの奈落のみ。…… 自分の守るべき国がその様な生き物一匹住めぬ、おぞましい光景にならぬ様、今回の会議が開かれた筈じゃ」

 

 年老いた王はそこで一度、言葉をきり、他の王達の顔を見渡し、その顔に諍いの跡が残っていない事を確認すると言葉を続けた。

 

「あやつが何故、東の海だけを襲っていないかは分からん。ただの偶然かもしれぬ、何らかの理由で後に回しているだけかもしれぬ。いつ襲われるかも分からん。我らが愛すべき国を……否、この美しき世界を守るため……

 

 

……世界会議を続けよう」

 

 

           ◇               ◇

 

 

 ――東の海のとある島。

 その島は凪の帯の近くにあるせいか、特殊な海流と島を常に覆う渦状の気流によって人の手の届いておらず、鬱蒼とした森が島全体に生い茂っている。

 歪な木が一面を占める森の中を暫く進み、島の中心近くにまでいくと直径百メートルはあるであろう深く巨大な穴があいている。その穴からは絶え間なく熱気が吹き出しており、それによって穴の周りには木が一本も生えていない。

 深く巨大の穴の遥か底は、熱気の元であろう絶え間ない炎によって輝いている。そして、まるで炎に蓋でもするかの様に網目状の鉄骨が穴の底を塞いでいた。

 

「う……うん」

 

 そんな地上とは比べ物にもならない程の熱気に包まれた穴の底で眠っていた一つの影――史上最悪の化け物、『三つ足』霊烏路 空は目を覚ました。

 

 よく見れば、穴の壁には奇妙な模様が描かれており、それがどこか機械めいて点滅している。そう、この異常な熱を発する巨大な穴は幻想の核融合炉であり、ウツホ自身が作り上げたこの世界で唯一の居場所であった。

 世界政府が必死になって探している、ウツホの住処とも呼べる場所が、皮肉にも平和の象徴である東の海の外れに存在していた。

 

 通常ならば触れる事すらできない程に熱された鉄骨の寝床に、火傷一つ追っていない左手をついてウツホは静かに立ち上がる。

 目が覚めるたびに目の前に広がるいつも通り(・・・・・)の光景に、いつも通り(・・・・・)に絶望する。

 

 

 ”まだ、私はここにいる”

 

 

 初めは驚きだけだった

 

 次は夢じゃなかった事への驚きと少しの興奮

 

 その次はこの世界を知った事の驚きと不安

 

 そのその次は自分への驚きと期待

 

 そのそのその次は色んな事への驚きと楽しさがたくさん

 

 そのそのそのその次は大きすぎる驚きと疑問だらけ

 

 そのそのそのそのその次は悲しみでいっぱい

 

 そのそのそのそのそのその次は怖くて仕方なかった

 

 そのそのそのそのそのそのその次は怖くて怖くて怖くて怖くて怖くて怖くて怖くて怖くてこわくてこわくてこわくていたかった

 

 そのそのそのそのそのそのそのその次はいたいだけだった

 

 そのそのそのそのそのそのそのそのその次はぜつぼうした

 

 そのそのそのそのそのそのそのそのそのその次はぜつぼうした

 

 そのそのそのそのそのそのそのそのそのそのその次はぜつぼうした

 

 そのそのそのそのそのそのそのそのそのそのそのその次はぜつぼうした

 

 そのそのそのそのそのそのそのそのそのそのそのそのその次はぜつぼうした

 

 そのそのそのそのそのそのそのそのそのそのそのそのそのその次はぜつぼうした

 

 そのそのそのそのそのそのそのそのそのそのそのそのそのそのその次はぜつぼうした

 

 そのそのそのそのそのそのそのそのそのそのそのそのそのそのそのその次はぜつぼうした

 

 そのそのそのそのそのそのそのそのそのそのそのそのそのそのそのそのその次はぜつぼうした

 

 

 

 そのその………………………………………………………………その次はぜつぼうして

 

 

 

 

 

 …………………………こわれた

 

 

 

 

 その次からぜつぼうしかしてない

 

 

 

 

「なんだっけ? ……あぁ、そうだった。今日も……行かなきゃ」

 

 寝ぼけてた頭が覚めてきたウツホは、今考えてた事も忘れてしまう。彼女(・・)は細かい事は考えられず、忘れてしまうのだから、ウツホ(・・・)も直ぐに忘れてしまうのは仕方ないんだ、と。

 

 背の一対の黒い翼に力を込めると、ウツホは疾風と化し、融合炉を駆け抜ける。

 ここを飛び立つ時に、ウツホの頭はただ一つの事で埋め尽くされる。”地上を地獄に変える”ただ、それだけに。

 

 帰れない。それは今までで十分理解した。このよく回らない頭でも理解できる程に重ねてきた。だから、ウツホは世界を変える。”ここ”から帰れないのなら、”みんな”が地底から出て来れないのなら、出て来れる様にすば良いんだ、とウツホは”彼女”になった時に気がついた。

 故に、ウツホは止まらない。先の見えない深い暗闇に見えた、一筋の光明。それは一度見つけてしまった者を食虫植物の如き、巧妙さで捉えて離さない。それに見入った者は、分け目も振らずに求め続ける。どんな犠牲を払ってでも。

 しかし、ウツホは気がついていない。自分が見ている光明は、正に食虫植物のそれと同じく、破滅に向かう罠でしか無いという事に。

 

「『東方』は駄目……幻想郷にあたっちゃったら、さとり様に怒られるもんね。今日はあっちにいこう」

 

 空まで駆け上ったウツホは、忘れない様に毎回繰り返してきた事を呟くと、偉大なる航路の方角に飛び立っていった。

 

 

           ◇               ◇

 

 

「……雪」

 

 核反応のエネルギーで赤く輝く流星となっていたウツホが、それに気がついたのはただの偶然だった。

 本来、雪などウツホの発するあまりの熱量によって、視界に入る前に蒸発してしまう。いや、それどころか、ウツホの通った衝撃で雪雲すらも消し飛ばしてしまう筈だった。

 

 

 だからだろうか、ウツホは見る筈の無かったその雪を見て、見る事無い筈だった地底の光景を幻視した。

 

 

 地底では雪が降る。すると忌み嫌われながらも、明るい地底の妖怪達が片手に酒をもって騒ぎ立てるのだ。

 鬼火が陽気に飛び回り宴会の提灯代わりになって、明るい土蜘蛛と釣瓶落とし達がそれを見て楽しそうに天井からぶら下がってる。いつも他人を嫉妬して陰気を放つ橋姫は隅で一人で飲んでいて、鬼なんかは中心で喧嘩をおっぱじめて、周りでは野次馬が笑いながらも巻き込まれていた。そして、あまり近づけない主達、姉妹といつも通りちょっと遠くから、盗み食いしてる親友の隣で私は歌うのだ。

 

 

 

 幻視は数秒程だった。

 だけど、それはとても、とても……楽し気な光景だったから――

 

 

 そのままウツホは近くにあった、雪降り積もる冬島に誘われる様に降りていった。

 

 

 

 だから、それは間違いなく偶然だったのだろう……

 

 

           ◇               ◇

 

 

 薬草を取りにいったら、歌声が聞こえた。

 薬草探しに夢中になって、人里に近づきかとも思ったけど、ここは何時も採取しに来ている所だし、人なんて近づかないような場所だった。だから、直ぐに逃げずに、まず疑問に思った。

 立ち止まって考えていると、薬草を探しに集中していた時より歌がよく聞こえてきた。

 

 綺麗な歌声だった。

 歌詞が無く、ただ声を出して、歌というより鳥達の鳴き声の様に、純粋に気持ちだけを表していたみたいだった。

 

 でも、その歌声は確かに綺麗だったけれど、どこか泣いている様だった。

 人間は嫌いだ。人間は俺を見ると勝手に怖がって、襲ってくる。俺が好きな人間は俺の事を見てくれた二人だけだ。

 

 だけど、俺は医者だから。その泣いている様な歌声をほおってはおけなくて、歌声のする方向に向かっていった。

 

 

 

 

 森を抜けた山の高台。流石にドラムロックまでとはいかないけど、見晴らしの良いそこからは島が見下ろせる。

 そこに歌声の主はいた。

 後ろ向きで全貌は分からないけど、そいつは白い大きなマントを羽織り、高台から島を見下ろして、やっぱり綺麗だけど、どこか悲し気な歌を歌っていた。

 

 俺は来たは良いけど人間に話しかけるのが怖くて、仕方なく木に隠れる様にそいつを見ていると、そいつが突然、歌うのを止めてこっちに振り向いた。

 

 そいつは改めて前から見ると、見た事の無い奇妙な格好をしていた。寒く無いのか、と思える様な薄着をしているいて、ここいらの人間では無いだろうことが想像できる。右手には何に使うのかわからない、奇妙な棒を肘の辺りから付けている。

 でも、そんな奇妙な格好なんて気にもならなかった。俺は急に振り返ったそいつの目を見た瞬間、それから目を離す事ができなくなったからだ。

 

 そいつの瞳は、どこまでも深く黒い、まるで分厚い雲に覆われた夜空のようだった。

 蕩けたコールタールの様にどこか流動的に蠢きながらも、一切の色を変えず、全ての光を貪欲に飲込もうとする黒い瞳。

 これは引力だ。見た者は皆その瞳にとらわれ、そして最後にはそこに落ちていく。そんな錯覚さえ覚える。

 

 俺がその瞳に捕われたのが瞬間だったのと同じく、その引力を持つ瞳が俺を捉え、斥力に変わったのも刹那だった。

 黒いだけの瞳の中に突如生まれた空白の白。受動器官であるはずの眼球がたちまちに能動器官へと変わったかの様に、暗い瞳の中から放たれた一条の光を放っていた。

 俺は息をのんだ。斥力なんてとんでもなかった、光を放つ太陽を望まぬ者がいない様に、その光もまた間違いなく引力だった。

 

 

 そいつは、その小さな輝きをともした目で、俺を見た時からしていた驚きを含んだ顔を、ゆっくりと、まるで心の底から笑っている様な可愛らしい笑顔に変えて

 

 

「化け物だぁ」

 

 

 俺が一番聞きたく無い言葉を、これ以上無いって言うくらい嬉しそうに言い放った。

 

 

           ◇               ◇

 

 

 

 だから、それは間違いなく偶然だったのだろう……

 

 

 

……霊烏路 空とトニー・トニー・チョッパーが出会った事は。

 




今回は場つなぎ的な形&気分転換も含めた外伝投稿でした。

三人称の練習と、色々自分で制限して書いてなかった書き方の挑戦をしてみました。

実は自分、執筆する際はその書いてるシーンにイメージを当てた曲を聴いて、妄想力を高めながら頑張ってます。
今回のウツホが歌ってる所の歌のイメージは、東方ボーカルアレンジの「追憶のソール」を元にしたりしてますので、興味有る方はニコニコ等で聞いていただけると、イメージが伝わりやすいかもw
「追憶のソール」は自分かなりお気に入りですw

本当は感想で書かれた質問を纏めてSBSの様な物も作ろうとしたのですが、うれしいことに感想の数が思った以上に多くて、諦めましたw


左腕も大分治ってきましたし、ようやく一昨日、引越しも終わり一段落つきました。

さて、本編書こうとしたら、ジャンプの方で原作が魚人島にいってしまって、大慌てです。
友達にジャンプ借りて、設定との矛盾がないかひやひや確認してますw
今のところは多少の変更はあれど、大きな変更ないんでいいんですが、これからが怖いですね~。
完結してない作品の二次創作の怖さですね。
もう、さっさと書いて「自分が書いたときは出てなかった設定です」って言って逃げたいけど、自分の執筆速度の遅さと週一連載漫画の速度では勝ち目がない罠w


前書きでも書きましたが、今回はちょっと反則な手を使って更新してしまい申し訳なかったです。
本編の方は近いうちに上げると思いますので、もうしばらくお待ちください。


新規あとがき
IF物としての交差点は、外伝のウツホがチョッパーと出会うことです。短編版はここではドラムを素どうりしていたという違いがあります。

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