絶対正義は鴉のマークと共に   作:嘘吐きgogo

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前回の文は随分、雰囲気変えたから読んでくれてる人が離れてないといいな〜。とドキドキでした。
特に感想では何か言われなくて安心しました。
今でもちょいドキドキですがw

今回は昨日投稿するつもりだったのですが、風邪を引いてしまい薬飲んだら書く気分が出なかったので遅れてしまいました。
不定期更新って書いてあるから執筆遅れても大丈夫なはずw



5話ー心象

「……、……う」

 

 どこか聞き慣れた声が聞こえる。

 

「ちょっ……の? ……くう」

 

 何所で聞いたんだっけ? 何時も聞いてた声。

 忘れちゃいけない……そうだ、この声は確か……

 

「ねぇ! 聞いてるのお空!?」

「うにゅ? あ、あれ?」

 

 目を開けると、赤い髪を両サイドでおさげに編んでいる少女がこちらを覗き込んでいた。

 

 

 ――ドロドロに溶けた溶岩が止めどなく対流し、燃え盛る炎が辺り一面を焼く。吹き上がる熱風が大気を乾燥させ、熱気で吹き出るはずの汗すら出ない。

 ここは地底の灼熱地獄跡。私は熱せられ、水分が蒸発しきってボロボロになった岩の上に立っていた。

 その光景に呆然としていると、先ほどから話しかけてきた赤い髪少女——お燐が胡散臭気にこちらを見ていた。

 そうだ、お燐だ。なんでわかんなかったんだろう?

 

「なにしてんのよ? 火力が下がってるじゃない」

「あ、うん。寝ちゃってたみたい」

「全く、仕方ないね。ほら、新しい死体(燃料)持って着たよ」

 

 そう言うと、お燐はいつも押している猫車——車輪が一つ付いた手押し車、から死体を降ろす。

 頭に付いている黒い猫耳と、腰から生えている耳と同じ色をした二本の尻尾が機嫌良さそうに揺れている。

 お燐は死体を運ぶのが相変わらず好きみたい。

 

 私はお燐から受け取った死体を眼下に燃え盛る炎に投げ込むと、炎の勢いが段違いに増す。

 勢いの増した炎から出た、更なる熱気が私を心地よく包む。

 

「う〜ん、熱気が気持ちいいわ」

「う〜ん、熱気が気持ち悪いよ。あたいには熱すぎだ」

「そう? この良さがわからないなんてお燐はまだまだだね」

「何がまだまだなのよ?」

「地底の妖怪としての心儀よ」

「無いよそんなもの。あんたが熱くないのは太陽の神様を飲みこんだからでしょ」

「そうよ、黒い太陽、八咫烏様。おかげで私はとっても熱さに丈夫」

「つまり心儀は関係ないじゃない」

「うにゅ?」

 

 お燐は呆れた顔をすると、熱さの限界に着たのか、そそくさと猫車を押して出口——地霊殿の方に向かう。

 

「あっ、待ってよお燐。変な夢を見たんだ。聞いてよ」

 

 私は慌ててお燐を追いかけようと出口に向かう。

 

「え!?」

 

 足が動かない。

 お燐はこちらに気がつかないのか先に行ってしまう。

 私は慌てて体に力を入れると、つっかえてたかの様に急に体が動き、地面に倒れ混んでしまう。

 どうして? とおかしく思い下半身を見れば。

 

 

 足が無かった。

 

 

 それどころか左肩から右脇腹にかけて一直線に上半身が千切れていて、少し離れた所で残った下半身が冗談の様に転がっている。

 その間にもお燐はこちらを向かずにどんどん離れて行く。

 

「待って! 待ってよ、お燐!」

 

 私は頭以外で唯一、残った制御棒が付いている右腕を動かし、地面を何とか這うが、もがくばかりで一向に先に進まない。

 そもそも出口は上にあるため、飛ばないと辿り着けない。

 羽すら千切れている私にそれはかなわない。羽で飛ぶ訳ではないが、鳥は羽が無ければ飛べないのだから。

 それでも私は一心不乱にもがいて、既に出口の穴から出て行こうとするお燐に手を伸ばして助けを求める。

 

 

「お燐! 気づいてよ! おかしいんだよ、私の体が無いの! ねぇ、お燐ってば! おりぃぃぃぃぃん!」

 

 

 私の声が聞こえていないかの様に、お燐は一度もこちらを振り向かず、出口から出て行った。

 

 

 

 

 

 

「……ぃん!」

 

 がばっと、急激に上半を跳ね起こすと、掛けられていた布団がずり落ちる。

 どうやら私はベットに寝ていたらしい。

 じっとりとした汗が体から溢れていて、服が肌に張り付いて気持ち悪い。

 

 ここは?

 辺りには蠢く溶岩も、燃え盛る火炎も無い。目に入るのはここ数日で見慣れた、木でできた壁に家具。

 サークリュー島の酒場の二階。私が泊まっていた部屋だ。

 

 何時寝たんだっけ?

 昨日は確か休みをもらって……そう、中央広場で休んでたら教会が崩れて、海賊が……。そして、刀で

 

 

 

 そうだ!? 体!

 慌てて体を見るが、左手も下半身もちゃんと付いている。

 汗で張り付いた寝間着の上を脱ぎ捨て、斬られたはずの左肩を見ると、そこには軽く包帯がまかれ、ガーゼが当ててある。包帯とカーゼを剥がせば、左肩に赤く細い傷があった。まるで何かに引っ掛けたような傷で、とても刀で斬られた傷とは思えない。

 そも、あんな勢いで斬られては生きている事自体が不思議だ。

 いったい、何が?

 私が何が置きたのか記憶の整理をしていると、トントンとノックの音に思考を中断させられた。

 

「おい、起きているか?」

「あ、はい」

 

 マスターの声だ。

 それに勢いで答えると、扉を開いてマスターが入ってきた。

 

「起きたか、食事を持ってき……」

「?」

 

 マスターは言葉を途中で区切ると、クルリと体を回し後ろを向いた。

 どうしたんだろう?

 

「服を着ろ」

「うにゅ?」

 

 何か変な声が出た。一度もこんな変な言葉を使った事無いはずだけど、何かしっくり来る。

 それに、ついさっきも使ったような? そんな、わけないか。

 

 それより服って?

 自分の格好を見れば、上着は先ほど脱ぎ捨てていて、見た目の割に大きい胸をさらけ出している。白くきめ細かな肌が汗で濡れているのはどこか官能的だ。

 あぁ、そっか。忘れてた。

 脱ぎ捨てた服をもう一度着る。

 気持ち悪い。 汗で湿ってるのを忘れてた。

 着たのを再び脱いで汗を軽く拭き取り、近くの椅子に掛けられていたいつもの服を手に取って、上着だけ着替える。

 

 マスターにもう振り向いても良いと伝えると、マスターはゆっくりとこちらを振り向いた。

 マスターはしばらく無言でこちらを見た後

 

「大丈夫か?」

 

 何も無かったかの様に話し始めた。

 私が気にしない様にしてくれたようだ。私は元々男だし、そういうのは特に気にならないんだけどね。

 

「はい、もう大丈夫です」

「そうか、食事を持って来たから食べると良い」

 

 そう言って、鍋を机において、おかゆをよそってくれた。

 それを受け取り、一口含めば、柔らかく煮た白米に薄めの味付けがしており、それが卵とニラによく合っている。それとほのかな酸味。梅かなにかが入っているのかな?

 酸味が食欲を増してくれて、起き抜けなのに気がつくと奇麗に食べてしまった。

 やっぱり、マスターの料理は美味しい。おかゆは苦手だったんだけど、美味しくいただけてしまった。

 食べ終わって落ち着けば、あの時——バーダインに斬られた時の事を自然と思い出してきた。

 

 

 

 

 

 バーダインの刀が私に向けて振り落とされるのを見て、全身が強張る。

 左肩に痛みと衝撃を感じ、私は真っ二つに切り裂かれる。

 

 

 はずだった。

 

 

 ギイィィィィィィイ!

 

 耳元で聞こえたのは肉が切り裂かれる音ではなく、まるで金属同士を無理矢理、摺り合わせたかのような音だった。

 加速した視界で捉えたのは、私の体がバーダインの刀を押し返している姿だった。

 叩き付けられたバーダインの刀は衝撃に耐えきれずに、バキンと音を立てて折れる。

 バーダインの顔に浮かべていた笑みがゆっくりと驚愕に変わって行く。

 私の目はそれをどこか人ごとの様に見ていたのに、私の頭はそれを何一つ理解してなかった。

 私の頭を占めていたのはたった一つ。

 

 

 恐怖。

 

 

 斬られた。

 死ぬ? 斬られた。

 肩が痛い。 斬られた。

 血が出て熱いそれが体を垂れる。 斬られた。

 衝撃で体がギチリと軋んだ。 斬られた。

 斬られた。 斬られた。

 赤い刃? 斬られた。

 

 

 飛び散った赤い刃に映るのは……私の目ぇ?  斬られた。

 

 

 斬られたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

 

 

 ジュゥウっと肉が焼ける音。

 

「ぐぁあああああ!」

 

 私は気がつけば地面に叩き付けていた制御棒を、バーダインに叩き付けていた。

 地面を焼いた制御棒は未だその高温を保っており、叩き付けた箇所を焦がす。

 たまらずバーダインが地面に倒れ込み、焼かれた痛みを少しでも逃がすため地面をもがく。

 それを見逃さず、私は未だ転がっているバーダインを上から押さえ込む様に飛び乗り制御棒を振り上げる。

 

「や、やゔぇ……」

「ああぁぁぁぁぁぁ!」

 

 バーダインが何か言おうとしたのを無視して、私は体を縛る物を吹き飛ばす様に吠え、また制御棒を叩き付ける。

 凄まじい力で叩き付けられた制御棒は、バーダインの頭を地面に沈め、肉を焼く音と叩き付ける音と共に地面に深く皹をを付けた。

 

「か、かぺっ」

 

 バーダインは口から血を吹き出し、白目を向いているが

 

「ああぁぁぁぁぁぁ!」

 

 私は止まらない。制御棒を振り上げては、何度も何度も叩き付ける。

 もはや制御棒だけでなく、左手も使い、端から見ると、だだをこねている子供の様にがむしゃらに叩き付けた。

 

 

 

 私が殴るのをやめたのは、バーダインが血と黒い焦げ跡で誰だか判別が付かなくなってからだった。

 私の服と制御棒はバーダインの返り血で赤く染まっている。それだけの血を流しながらもバーダインは時折、痙攣していて死んでいないようだ。

 地面すら砕く威力で叩き付けたというのに、この世界の海賊は何所までも頑丈らしい。

 

 バーダインの上から転がる様に降りて、地面に転がると左手と膝をついてうつむく。

 荒い息を整えていると、鼻から血の独特な臭いと生き物が焦げた香ばしい臭いが大量に入ってくる。

 それでも息が整い、落ち着いてくると肉を撃った生々しい感触が今更、蘇ってきて

 

 

 

 すごく……

 

 

 

 胃の中の物を全部出しきる様に吐いた。

 一度では止まらず、胃の中にはもう何も無いのに胃液だけでも止まらず、何度も吐く。

 吐き終わると、私は立ち上がるが、直ぐさまふらりと倒れ込み意識が遠のく。

 ただ私はそのまま地面に叩き付けられる事は無く、誰かに抱きとめられた。

 涙で歪む視界の中で最後に見えたのは、ここのところ毎日見ていた渋いマスターの顔だった。

 

 

 

 

 

「……治療と着替えは町医者の先生がやってくれたから安心しろ」

 

 私が気絶する前の事を思い出していると、私が食べた食器を片付けながらマスターがそんな事を言ってきた。

 いきなり考え始めたから勘違いしたのかな? さっき胸見せちゃったし、普通の女の子なら気にするかも。

 そうじゃない事を伝えると、思い出した事の中で気になった事があったので聞いてみる。

 

「あの、マスターは何故あの時あそこにいたんですか? それに残りの海賊はどうなりましたか?」

「残りの海賊は俺と町の奴らで捕縛した。あそこにいたのは海賊を捕縛していたら、たまたま辿り着いた」

 

 えっ? マスター戦ってたの!? まだ結構、海賊いたと思うんですけど。

 

「遅くなって悪かったな。あいつ等、お前が倒したのも含めて全部で三十八人もいたから手間取った」

 

 私が倒したのは船長合わせて十三人。半分も倒せてなかった。

 結局、私は今の力を試そうとして無駄に命を危険さらしただけか。

 

「……お前が船長を倒してくれたおかげで、残った海賊達も直ぐに捕縛できた。皆、感謝していたぞ」

「私は……ただ、自分勝手に戦ってただけです。町を助けようとか、一欠片も考えてもいませんでした。」

「……」

「最初は海軍に入る前に、今の自分がどれだけ通用するかとか考えて無謀に海賊に向かって行って……結局、怖くて動けなかった」

「……」

 

 胸につっかえてた事を一度、言葉にすると止まらなかった。

 マスターも何も言わずに聞いてくれる。

 

「何とか奮い立たせて戦ったら、結構、簡単に海賊を倒せちゃって、それで調子に乗って。私の力は使えるんだって。人を助けたのも、正面から戦うついででその人の事なんて考えてませんでした。全部、自己満足の結果で感謝されるのはおかしいですよ」

「……助けた人を避難させたのは何故だ?」

「えっ?」

「戦うためだけならば、助けた人を避難させる必要は無かったはずだ。それにどんな理由であれ助けられた者にとって、助けられた事実は変わらない」

 

 結果、町の助けになった事は間違いない。その事は忘れるな。

 そういってマスターは私の頭を一撫でして出て行った。

 

 私は撫でられた頭に手をやって、起こしていた上半身をもう一度ベットに投げ出した。

 助けられた人には関係ない、か。

 頭に浮かんだのは、助けたあの女の子の笑顔と感謝の言葉だった。

 

 それなら……良いのかも……ね。

 横になって考えていたら、眠気がでてきて、私は少しずつ瞼を閉じて行った。

 

 そういえば寝ていた時に、何か夢を見た気がするけど、思い出せない……な。

 

 

 

 

 

 あの襲撃から五日たった。

 あれから目を覚ました私は壊れた町の修復作業を手伝っていた。酒場の方は今は休業中だし、無駄に力があるので木材やら何やらを運ぶのに向いているしね。

 町の人に変に感謝されて、最初は手伝わせてもらえなかったけど、勝手に材木運びしたらいつの間にやら便利屋扱いに……感謝してたよね?

 

 そして今、港にあの海賊団を引き取りに連絡を受けた海軍船がやってきている。私もこの町とは今日でさよならだ。

 見送りにきたマスターや町の人たちに別れを告げて、私は船から降りてきた海軍のマントを羽織った——髭を生やしていた三十代後半くらいの人に近寄る。

 

「君が血骨のバーダインを捕まえた、霊烏路 空君かね? 話しは聞いているよ海軍に入りたいそうだね?」

 

 海賊の引き取りの連絡の際に、私の事も既に連絡してある。

 私は背筋を伸ばし声を張り上げてそれに答える。

 

「はい!」

「ふむ、いいだろう。今、海軍は人手不足だ。この大航海時代に優秀な人材はいくらいても足りない。海軍は君を歓迎しよう」

「ありがとうございます!」

 

 私は一礼した後、他の海兵達の方を向き、同じく声を張り上げる。

 

 

「霊烏路 うにゅほでひゅ! これからよろしゅくおねがひしましゅ!」

 

 

 

 

 

 

 

 めっちゃ噛んだ……。

 




実はここまでが当初の3話までの内容でした。
どれだけ長い3話なんだかw

妄想ではすぐ終わるはずだったし、文にする時に考えていた内容も随分変わったりして、考えてる物を小説にするのはやっぱり難しいと感じました。
ただ感想貰えると文が進むっていうのは実感できましたw 嬉しくてついつい書いてしまう。暇な時に書いていたのが、暇を見つけて書く様になりましたね。

前回の終わかたのせいで、覚醒フラグ? と思われたでしょうが、残念、覚醒なんて無いよw
能力的には使おうと思えば使えるので既に覚醒状態と言えば覚醒状態です。度胸と経験が付けば強くなります。

バーダイン相手に能力を使わなかったのは、それまで打撃だけで片付けてしまっていたので、頭にも浮かばなかったのと、あの状態で使ったら町が吹き飛ぶからですw

東方知らない人への設定
地霊殿:ウツホとお燐の飼い主、古明地さとりの館。
    灼熱地獄跡の蓋であり、中庭に灼熱地獄跡に続く入り口がある。

お燐:さとりのペット。詳しくは前回のあとがきへ。
   普段は猫の姿をしている。猫又ではなく、人の死体を持ち去る妖怪、火車である。

どうでも良い設定
血骨のバーダイン:骨のような材質でできた刀を持った剣士。刀が赤いのは過去に斬った者の血で染まっていたため。
本人は能力者ではないもの頭もよく、一歩でかなりの距離を近寄ったり、見切りができたりとかなりの使い手ではあった。
しかし、部下に恵まれず。手下は全て雑魚海賊。その事をかなり気にしていた。

十秒程度で考えた設定w

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