星の花が見る夢は   作:赤いUFO

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はずむ編です。
最初のほうの微鬱の部分は作者の妄想です。
でも急に男子が女子に換わったらこう思う人もいると思って書きました。


11輪目:キミのためにできること

『ねぇ見た?』

 

『うん。大佛くん、ホントに女の子になっちゃってた。制服も女子用だったし』

 

  これは、僕が女の子になってすぐのコトだ。

  この会話を聴いたのは偶然だった。

 

『前々から可愛い子だとは思ってたけど……ねぇ?』

 

  あぁ。これは夢だと自覚する。

  どこか悪意のある彼女たちの会話。思い出したくない。

 

『今日、授業で体育があったんだけどさ。大佛くん、私たちと一緒に着替えてたんだよ。いくら身体が女の子になったからってさぁ。男子に混じるのが可哀想だからって、別々にしてくれればいいのに……』

 

  僕の周りの友達は女の子の僕を受け入れてくれたけど、それが全てじゃないってことくらい判ってる。

  受け入れてくれない人達だっていることも。

 

『うわっ最悪!それって男子が着替えに混じってるようなもんじゃん!!』

 

『でしょ?月先生に抗議したら今の大佛くんはれっきとした女の子だからって。そういう問題じゃないっての!』

 

  僕だって好きで女の子になった訳じゃない!って言いたかったけど、彼女たちの不快感も理解できたし。僕自身、まだどこか女の子の自分を夢みたいな感覚で捉えてたから言えなかった。

  それにここで女の子の自分を否定したら余計惨めに思えて。

 

『いきなり女子になりましたって言われたってやっぱりさぁ……』

 

『うん……』

 

  あぁ、聞きたくない。

 

 

 

 

『気持ち悪いよねぇ』

 

 

 

 

「ーーーっ!?」

 

  目覚めは最悪だった。

  見たくもない夢を見たからだ。

  今でこそ収まっているが女の子になった直後は学校や近所から色々言われていた。

 

  気持ち悪い。

  元から女の子だったんじゃないの?

  宇宙人に改造されたならもう人間ですらじゃないんじゃない?

 

  等々。好奇心から悪意から不安から。

  そうした声を聞くたびにとまりちゃんを始めとする友達や両親がフォローしてくれていたけど、やっぱり僕のことを気味悪がる人達だって完全になくなる訳じゃない。

  だから、こういう夢を見ると憂鬱になる。

 

「おぅ?はずむおねえちゃん、どしたの?」

 

「あ、ごめん星花!起こしちゃったね」

 

  謝る僕の顔を少し眠そうな表情で見上げたまま頬に触れた。

 

「泣いてたの?」

 

  指摘されて僕は自分が泣いていたことに気付く。

 

「うん……。少し、イヤな夢を見ちゃって」

 

  誤魔化すべきだったのかもしれないと思いながらも正直に答えてしまった。

 

「ゆめ……」

 

  僕の答えになにを思ったのか。星花はじっとこちらを見上げてくる。

 

「私も見るよ。怖いゆめ」

 

「え?」

 

「気がついたらあの部屋にひとりでいるの。それで窓の外を見るとはずむおねえちゃんたちがいて、なんども呼ぶのに気づいてくれない。それで、どんどん見えなくなっていって、わたしを置いていく」

 

  そう語る星花は今にも泣きそうで。でもそれを必死に堪えているように見えた。

  その小さな身体を震わせていた。

  星花が僕の手を握った。

 

「はずむおねえちゃん。わたしはここにいるよ。はずむおねえちゃんもここにちゃんといる」

 

  気がつくと星花を抱きしめていた。

 

「うん。星花はここにいる。僕もここにいるんだよね」

 

「はずむおねえちゃん……だいすき……」

 

  星花といると救われる。

  この子は僕が男だったことを知らない。

  だからこの子のおねえちゃんは本当に他意がないから。

  今の僕を真っ直ぐに見てくれるから。

  どんなに気にしてない風に見えても、息子がいきなり娘になって両親が戸惑わなかった筈はない。

  一番一緒に過ごしたとまりちゃんだって最初はギクシャクした。

  男子で一番仲の良い明日太だって稀に戸惑ってるのを知ってる。

  もしかしたら星花が大きくなってこのことを知ったら戸惑うかもしれない。

  でもきっと今の関係は変わらないと思えた。

 

 

 

 

「二一が二。二二が四。二三が六。二四が八。二五……二五……」

 

「せいかん!ファイトですっ!!」

 

「二五……二五……きゅう?」

 

「ちょっと惜しいね」

 

  現在星花は掛け算九九の暗唱に挑戦していた。

 

  一の段はすんなり覚えたが二の段から躓くことも増えた。

  星花は落ち込まず、何度でもチャレンジする。

  真剣な表情で九九を紙に書いて暗唱を繰返し、何度でも挑戦する。

  ジャン・プウもはずむもそれを付き合っていた。

  夏休みは既に五日を切っていた。

  はずむは学校が始まれば星花にかまえる時間が減るため、今できる限り一緒に過ごしている。

  もちろん夏休みの宿題は終えていた。

  勉強も遊びも出来うる限り。

  なにか新しいものを見る度に目を輝かせている妹を見るたびに暖かな気持ちになるのだ。

  そんな時に、1通の電話がかかってきた。

 

『お~いはずむ~、花火しようぜ!』

 

「とまりちゃん?」

 

  電話の相手はとまりだった。

  なんでも夏休みが始まってすぐに買っておいた大量の花火を忘れていたらしく、どうせなら夏休みが終わる前に使い切ってしまおうと友人たちに連絡を入れているらしい。

 

「僕はいいよ。どうせやることもなかったし」

 

『そっか!わかってると思うけど星花やジャン・プウも連れてこいよ!たくさんいたほうが使い切れるからな!』

 

「うん。わかってるよ。場所は川辺の方?」

 

『ああ。時間ーーー』

 

  簡単な取り決めを終えるととまりはじゃあな!と慌てた様子で電話を切ってしまった。恐らく他の友達も誘うつもりなのだろう。

 

「とまりおねえちゃんから?」

 

「うん。今日の夜に花火やらないかって」

 

「花火って、あのテレビでやってたどか~んてキレイな?」

 

「あそこまですごいのじゃなくてね。個人でも楽しめる小さいやつだよ。派手さでは敵わないけど色々と種類があるんだ。」

 

  星花の花火のイメージは打ち上げ花火なのだろう。

  もちろん打ち上げ花火なんて個人、それも学生が扱えるわけないのだが。

  星花ははずむの説明にお~!と目を輝かせている。

 

「星花やジャン・プウちゃんも行こうね。とまりちゃんだけじゃなくて他にもみんな呼んでるから」

 

「うん!」

 

  こうして喜ぶ星花を見るたびにもっと色々なことを教えてあげたくなる。もっと色々なことをさせてあげたくなる。

  なにかができることが増えるたびにいっぱい誉めてあげたい。

  もっと色々なことを体験させてあげたい。

  そんなことを以前、とまりちゃんに話したら、すっかり姉馬鹿だな!と笑われた。

  ちょっと恥ずかしいけど、そうなのかもしれない。

  星花には笑っていてほしい。日々は楽しいことばかりじゃない。辛いことや泣きたくなるほど悲しいことだって訪れる。

  でも幸せは何度だってやってくる。

  その事を僕ができる全てで教えたい。星花のためにできることはきっとたくさんあるのだから。

 

 

 

 

「で、なんで先生たちまで?」

 

「いや、なんかついてきちゃって……」

 

「月先生まで……」

 

  川辺で集まったはずむたちだが何故か学校の教師である宇宙先生とクラス担任である月並子先生がいた。

  どうしてこうなったのか本人たちにしかわからないだろう。

 

  宇宙先生が花火をひとつ持ってポツリと呟いた。

 

「貧弱な火力だ。これでは惑星破壊には程遠いな」

 

  「しないから!惑星破壊なんてしないから!!」

 

  というか市販の花火でそんなこと出来てたまるか。

 

「む?兵器の試運転ではないのか?」

 

「違うよ!?」

 

  勘違いをしている宇宙仁にはずむは花火がなんなのか説明した。

 

「ま、とりあえずはこれやろうぜ!パラシュート!!」

 

「おぅ?」

 

「ぷぅ?」

 

  とまりが取り出したのは円形の大きめな筒だった。

  花火の種類をよく知らない星花とジャン・プウは同時に首をかしげた。

 

「火を着けて打ち上げると中から小さなパラシュートが出てくるんだ。それを誰が一番速く取れるか競争したりしてね」

 

「それじゃあ、キャッチした奴には景品でーーー」

 

「私をプレゼント!」

 

  泊まりの説明を遮って宇宙先生がそう宣言した。

  当然その場にいた殆どの人間がドン引きした。

  そうならなかったのは意味がわかってない星花とジャン・プウ。そして男性の認識が困難なやす菜。そしてーーー。

 

「だっしゃぁああああああっ!?」

 

  宇宙仁に行為を寄せる月並子だけだった。

  月並子はパラシュートが打ち上げられると雄叫びを上げて全力疾走を始めた。

  そして見事パラシュートを、そしてそれにつけられた宇宙仁の人形(手作り)を手に川へと突っ込んでいった。

  この教師、どういうわけかいろんな場所に落ちる運勢の持ち主である。

  本当にいろんな場所に落ちる。

 

「なんであんなこと言ったの?」

 

「お約束だろう」

 

「ラブコメの見すぎ」

 

  そのあと、ネズミやロケット。爆竹、手持ち噴射。

  ねずみ花火に追いかけられて星花がびっくりして明日太に抱きつき。

  ロケット花火で飛んでいった火玉にぱちぱちと手を鳴らして。

  だんだん花火に馴れてきた星花は爆竹花火の破裂音や手持ち噴射花火から出される火花をきれいと笑っていた。

 

「使った花火、持ってきたよ!」

 

「ありがとう、星花ちゃん。このバケツに入れちゃって」

 

  あゆきは星花が拾ってきた花火の残骸を水の入ったバケツに入れるように指示する。

  そろそろ花火も締めに近づいてきた。

 

「やっぱ、最後はこれだよな!」

 

  明日太が残っていた線香花火を取り出した。

 

「星花ちゃん。これは火をつける部分を下に向けてね」

 

  やす菜が星花に線香花火を手渡した。

 

「じゃ、火着けるぞ!」

 

  とまりが線香花火に火をつけるとそのまま火花が静かに落ちる。

 

「うわぁ!」

 

  その光に星花は目を見開いて声を出した。

 

「綺麗だよねぇ、線香花火!」

 

「うん。わたし、今日見た花火でこれが一番好きかも……」

 

  囁くように声を出し、星花は線香花火の光に魅せられていた。

 

 

 

 

  全ての花火が終わり、片付けを終えたはずむたちはそろそろお開きにしようということになった。

 

「星花?」

 

「終わっちゃったんだね……ちょっと、さびしいな。すごく楽しいことってあっという間に終わっちゃう」

 

  はずむが呼ぶと星花は小さく呟いた。

 

「花火なら来年だってできるよ。再来年だってね。それに夏が終わって秋になれば秋の楽しみがあるよ」

 

  はずむは妹の頭にてを置いた。

  紅葉狩りやハロウィン。それに梨や柿とか秋にしか食べられないものだってある。

  きっと横にいる妹は目を輝かせて喜んでくれるだろう。

  はずむ自身、その少し先の未来にいる妹を想像して頬が緩んだ。

 

「さ、帰ろ。星花」

 

「うん……」

 

  そうして差し出された取ろうと星花も手を伸ばす。

 

「おぅ?」

 

「え?」

 

  重なる筈だったはずむの手を星花の手がすり抜けていって、そのままバランスを崩して倒れた。

 

  それに少し遠くに離れていたとまりたちも駆け寄る。

 

「おいはずむ!?ちゃんと受け止めてやれよ!」

 

「星花ちゃん、大丈夫!?」

 

  やす菜が立ち上がらせようとして手を出すが星花の異変に気づいた。

 

「はぁ……はぁ……あぅ…あ……」

 

  顔色を見るとそこには顔色が悪く吹き出すように汗が流れ、呼吸を荒くしていた。

 

「星花……?」

 

  わからなかった。ついさっきまであんなに元気だったのに。どうしてこんなに苦しそうにしてるのか。

  そして誰もが気づいていなかった。

 

「星花っ!?」

 

 

 

 

  星の花は、既に枯れかけているということに。

 

 




次回で本編終了。そしてエピローグでこの話は完結します。
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