星の花が見る夢は   作:赤いUFO

12 / 13
今回で本編終了です。


12輪目:星の花が見た夢は

  わかってた。

  最初からわかってた。

  わたしがここにいられるのは奇跡なんだって。

  その奇跡は長く続かないって。

  でも、見ないようにしてた

  知らない振りをしていれば、それが本当になるかもって言い聞かせてた。

  だって楽しかった。

  手放したくないって思えるくらい幸せで。

  キラキラと輝いていた毎日。

 

 

 

 

  あの部屋で、わたしは毎日毎日同じ日々を過ごした。

  起きて、ご飯を食べて、ぼうっとして、寝る。

  本当にそれだけの毎日。

  それが終わったのはいきなりだった。

  とつぜん、シワだらけの男の人が息を荒くして入ってきた。その人はいつもご飯を届けてくれる二人のうちの一人だった。

  その人はとても怒った表情でわたしの首をしめた。

  首が取れちゃうんじゃないかなってくらい痛くて苦しかった。

  そして男の人は目から涙をながしてこう言った。

 

『お前が生まれてこなければ!!』

 

  そのまま壁にからだをたたきつけられて。そこからはなにも覚えてない。

  でもきっと、わたしはあのときにーーー。

 

 

  わたしは、最初からいなかったんだ。

 

 

 

 

  大佛家のベッドで寝かされている星花を皆が心配そうにしいる。

  花火をしていたメンバー全員が大佛家に来ていたが、部屋に全員は入れず、中にははずむとその母と宇宙仁だけが居た。

  月並子先生もはずむたちが家に戻るまでは同伴していたが、できるコトはなく、明日も仕事があるため帰宅した。

  ただ本人もできることがあるなら遠慮なく仰ってくださいと心の底から初めて会った女の子を心配していた。それは彼女の善良さ故だろう。

 

  いつものヘルメットだけでなく、身体に幾つもの管をつけて調べられていた。

  その姿を見ながら、はずむは唇を噛みしめて結果を待つ。その内心が後悔に染まりながら。

  どうして急に星花が苦しみだしたのか。どうしてこうなる前に気付いてあげられなかったのか。

  そんなことばかりが頭を過る。

 

  そうしてどれだけの時間が経ったのか。宇宙仁は動かしていた腕を止めた。

 

「やはり、か……」

 

「先生?」

 

  ポツリと呟いた宇宙仁にはずむは緊張した面持ちで呼ぶ。

 

  宇宙仁は眼鏡をかけ直しながら口を開いた。

 

「結論から言おう。大佛星花の身体に異常は認められない」

 

「え?」

 

  宇宙仁の結論にはずむと母は目を丸くした。

  ベッドの上に寝かされた星花は今も苦しそうにしている。

 

「異常はないって、今も星花は苦しそうなんだよ!」

 

  声を荒らげるはずむに宇宙仁は腕を組んで説明した。

 

「事実だ。いくら調べても大佛星花の体調に異常は認められない」

 

  いつも通り、感情を感じさせない声。

  だが、今はその声が僅かにはずむの心を荒れさせた。

 

「それはどういう……」

 

「私は大佛星花がこの家に滞在してから彼女の健康状態を常に計測していた。そしてわかったが、大佛星花の肉体は一切変化していない」

 

「え?なにを、言って……」

 

「言葉通りだ。早朝にジョギングを行うも筋肉に全く変動はなく、その他にも肉体の状態は常に一定のままなのだ。信じがたいことではあるが」

 

「でも、だって!星花は今、こんなに苦しそうで!」

 

「彼女の身体に触れてみるといい」

 

  話を遮られたが自分を真っ直ぐに見つめる宇宙仁にはずむは言われた通りに額に手を乗せた。

  そこではずむはアレ?っと疑問が浮かぶ。

 

「判ったか?彼女の体温が平熱だと。見た症状は風邪などに似ているが、発熱などの体温上昇もない。ついでに言えば、発汗しているように見えるが、大佛星花の体内にある水分減っている様子はない」

 

  宇宙仁の話を聞けば聞くほどに星花の異状が浮き彫りになっていく。

  はずむはそれでもなんとか反論しようとすると、今まで黙っていたはずむの母が話に割り込んできた。

 

「それで、先生。星花はどないすれば?」

 

「現時点ではなんとも言えん。だがこの星の医療機関に見せたところで私と結論は変わらないだろう。ならば、今は様子を見るしかあるまい」

 

  なにせ、どう診断しても体の異状が見つからないのだ。医者も匙を投げるだろう。

  しかしはずむは納得ができなかった。

 

「そんなことできるわけないでしょうっ!?」

 

  はずむは気がつけば、自分でも驚くほど声を上げていた。

  そしてその声を聞きつけたみんながはずむの部屋にやってくる。

 

「どうした!はずむ!」

 

  入ってきたとまりたちが見たのは涙目で肩を震わせているはずむといつも通り落ち着いた様子の宇宙仁だった。

  状況がわからないとまりたちに宇宙仁は先程と同じように大佛星花の現状を説明する。

 

「つまり、なにもわからないということですか?」

 

「身も蓋もない言い方をすればその通りだ」

 

  いつもと違い、やや声に棘を感じさせる口調になってしまっているあゆきだがそれは彼女が星花の容態を心配してのことだろう。

  続いて明日太も自信無さげに手を上げる。

 

「でも先生ははずむを女の子にしたり、この星よりすごく色んなこと知ってて出来るんですよね?その先生がわからないなんてことがあるんすか?」

 

「我々はあくまでこの星の文明より優れた技術を有しているだけだ。君たちで言う神のような万能な存在ではない。しかしここまでなにもわからんと、な」

 

  腕を組んで考える仕草をする宇宙仁。そしてその冷淡な態度に痺れを切らしたはずむが星花をベッドから抱き上げた。

 

「どうするつもりだ元少年」

 

「……病院に連れていく」

 

「私の話を聞いていたか?たとえこの星の医療機関に診せてもなにか解るとはーーー」

 

「じゃあどうしろって言うのさっ!?」

 

  はずむはさっきより大きな声とぐしゃぐしゃな表情で訴えた。

 

「見てよ!顔が真っ赤にして苦しそうで、意識だってないんだよ!これを見てなにもしないなんてできるわけないでしょう!」

 

「はずむくん、落ち着いて……!」

 

「オネニイサマァ~」

 

  冷静さに欠けているはずむをなんとか宥めようと左右にいたやす菜とジャン・プゥが体に触れる。

  なにかを言おうとする宇宙仁の前にはずむに抱かれている星花が身じろぎした。

 

「お…ぅ……?」

 

  突如星花が目を開く。

 

「星花っ!?」

 

  星花は意識が朦朧とした様子で自分を抱き上げていたはずむを見る。

 

「星花、いま病院に連れてーーー」

 

「おね、が…い。つれて、いって……あの、おやまに」

 

  はずむの服を握りながら星花は焦点の定まらない眼で小さくそう呟いた。

 

「なに言って……それより病院に!」

 

「もう、時間、ないの……だからそのまえに見つけてあげて」

 

  体調を崩した子供の戯言と切って捨てることは出来たがその表情はこれまでにないほどに必死だった。

 

「山というのは鹿縞山のことか?我々になにを見つけて欲しい?」

 

「わたしを……わたしをみつけてあげて……」

 

  星花の言葉に訳がわからず皆が困惑していたが、その中で最初に動いたのはジャン・プゥだった。

 

「ぷぅ~!ジャン・プゥが連れてってあげるですぅ!!ジャン・プゥならお山まで一瞬ですぅ!」

 

  ジャン・プゥの言葉に最初に反応したのは宇宙仁だった。

 

「まてジャン・プゥ。不用意に宇宙船を動かすのは条約にーーー」

 

「マスターがなんと言おうとジャン・プゥはいくですぅ!星花がこんなに必死にお願いしてるから‼ジャン・プゥはお姉ちゃんとしてあとでどんな罰を受けても聞いてあげたいですぅ!」

 

  最後のほうは涙声になって訴えるジャン・プゥに宇宙仁はむぅと唸りながらも諦めたように息を吐いた。

 

「ステルス機能は常に展開しておけ。船を見られればこの星に混乱を招く」

 

「マスター!?」

 

  パッと花が咲いたように笑顔になるジャン・プゥ。対してはずむは迷っていた。

  星花のお願いを聞いてあげたい気持ちはあるが病院に連れていかないとという気持ちがぶつかり合っている。

  そんなはずむにとまりが肩を叩いた。

 

「理由はわかんないけどさ、今は星花の言うとおりにしてやろう。こいつが意味もなくこんなこと言うわけないだろ?」

 

「私もそう思う。きっと理由があるんだよ。だから、ね」

 

  やす菜にも説得されてはずむは星花に目線を合わせる。

 

「星花……それは本当にいまじゃないといけないの?」

 

  はずむを問いに星花はうんと小さくしかしはっきりと首を縦に動かして答えた。

 

 

 

 

 

 

  大佛一家と以下数名は宇宙船に乗るという稀少な経験をしてものの数分で鹿縞山に降り立った。

  星花が示したのははずむが星花を見つけた場所だったのだが、記憶がうろ覚えなはずむだったが、星花がまるでその場所に引っ張られるように迷いなく案内する。

 

  そしてその場所にたどり着くと星花は一ヶ所を指差した。

 

「ここ……ここを掘って……」

 

  そこは星花が眠っていた場所だった。

 

「わかるの。ここにわたしがいる」

 

「ここを掘ればいいんだな?」

 

「うん……」

 

「それじゃあなにか掘るもんを……」

 

「問題ないスコップは常備している」

 

「なんで?」

 

  宇宙仁がスコップを3つどこからか取り出す。

  そして穴堀は男であるはずむの父と明日太。そして体力に自信のあるとまりが掘り始めた。

 

 

 

 

  シャリシャリと土を掘る音が夜の山に鳴る

  それを聞きながら星花は近くの木に背中を預けさせて左右の手を二人の姉が握っている。

  それを眺めながらあゆきが星花に質問した。

 

「ねえ。ここになにが埋められてるの?わたしを見つけてってどういう意味?」

 

「……わたしも、その時のことを覚えてる訳じゃないの。でも、わたしがここで起きたなら、きっとわたしはここにいる。それにわかるの。わたしがここにいるって」

 

  やはり意味がわからず聞いていたみんなが目を合わせていると、穴を掘っていた側から叫び声が上がった。

 

「どうしたの!?」

 

  はずむが聞くととまりがその場に座りこんで泣きそうな表情で掘った穴を指差している。

  近づいてみるとはずむたちも驚いて顔を歪めた。

 

  そこに在ったのは、人のものとおぼしき頭蓋骨だった。

  それを見て、星花は両の手で包み込むように、その頭蓋に触れる。

 

「ようやく、出してあげられた」

 

  それから全体を出そうとするように星花はその手で土を掘り返し始めるがすぐに気づいたはずむがとまりが落としたスコップで掘り返す。

  全体がで終わるとはずむは言葉を失った。

  その白骨死体が明らかに子供のものであることと。着ていた服には見覚えがあったからだ。その服は星花を見つけたときに彼女自身が着ていたワンピースだった。

  皆が困惑し、言葉を失っていると星花が白骨の頭に手を添えながら話始める。

 

「コレが、ほんとうのわたし……。わたしはね、とっくのむかしに死んじゃってたんだ」

 

  思い出すように言葉を言葉を紡ぐ。

 

「生きていたときは部屋に閉じこめられて出してもらえなかった。どうしてなのかは知らない。

  小さな部屋だけがわたしの世界のすべてで。ある日、いつもごはんを運んでくれていた人がすごく怒った顔で叩いてきたの。それで、投げられたときに頭に固いものがぶつかって。そこからないも覚えてない。でもきっとわたしはあのときに……。

  そのあとにたぶんここにうめられたんだとおもう」

 

「それじゃあ、君は」

 

「うん。きっと幽霊なんだね、わたし。でももうその時間もなくなっちゃったみたいなの」

 

  気づけば星花の体は少しずつ薄くなるように透明感が増していっている。

 

「わたしね、ずっと外が知りたかった。このまま部屋の向こうにはなにがあるんだろうって、いつも考えてた。夢、かなっちゃったの」

 

  その言葉にはずむは叫ぶように声を出す。

 

「まだ全然見てないでしょっ!?これからだってまだまだ見せたいものがたくさんあるんだよ!」

 

  白骨死体に触れていた星花ははずむたちに振り向いて、笑った。

 

「うん。まだいっぱい一緒にいたかったけど、もうダメみたいだから」

 

「ダメなんて言うなよ!きっとなにか方法が……!!」

 

  そう言うとまりに星花は小さく首を横に振るう。

 

「明日太おにいちゃん。肩車とかおんぶしてくれてありがとう。少し高くなって見るの好きだったよ。

  あゆきおねえちゃんもお星さまを見せてくれてありがとう。すごく綺麗だった。

  やす菜おねえちゃんもクッキーおしえてくれてありがとう。たのしかったよね

  とまりおねえちゃん、自転車の乗りかたを教えてもらう約束、守れなくてごめんなさい」

 

  一人一人思い出を振り返ってお礼を言う星花。しかし言われた方はあまりに唐突すぎてなにをかえせばいいのかわからない。

  その間にも星花の体は少しずつ存在が薄まっていく。

 

「せんせい。お勉強、おしえてくれてありがとう。わからないことがわかるって面白かった。

  ジャン・プゥおねえちゃんもたくさんご本を読んでくれてありがとう。読んでくれたお話を、いつもどきどきした。」

 

「せいかん……消えちゃ、ダメ、ですぅ」

 

  耐えきれず、ジャン・プゥは星花を抱き締めようとするが、その体は触れることができず、すり抜けてしまった。

 

「おとうさん、おかあさん。私を子供にしてくれてありがとう。ほんとうにほんとうにうれしかった」

 

  星花の言葉に大佛夫妻は涙を流して耐える。そして最後に星花ははずむに近づいて。

 

「わたしを見つけてくれてありがとう。見つけてくれたのがはずむおねえちゃんでよかった。」

 

「せい、か……嫌だよ。こんなの……」

 

  目線を合わせて両肩に触れようとするがもう触ることすらできない。

 

「一緒にお風呂に入って、ごはんを食べて、お買いものをして……たくさん幸せをくれてありがとう。はずむおねえちゃん」

 

  そしてもう、触れられない体を少しだけ伸ばして自分の唇をはずむの頬に当てた。

  はずむは驚いて感触が伝わらなかった頬に触れる。

 

「みんなだいすきだけど……はずむおねえちゃんがいちばんだいすーーー」

 

  プツンとまるでテレビの映像が切れるように、大佛星花はその姿を消した。

 

「星花……?」

 

  僅かに在った光を反射的に両手で包むが、次に開くと、その手の中にはなにもなく。

 

「う、あ……あ、あぁあああああああああっ!!?」

 

 

 

 

 

 

  その夏の夜。星の花は、散った。

 

 




後はエピローグで完結です。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。