星の花が見る夢は   作:赤いUFO

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これにて本作品は終了です。


終輪目:おかえりなさい

  それは暗い。とても暗い場所にいた。

  意識さえ朧気でむしろ思考さえしていないのかもしれない。

  恐ろしいとは感じない。まだ生存本能さえ身に付いていないのかもしれない。

  ただ、この中は暖かいとその言葉すら知らずに感じていた。

  どれだけその中のいたのか。

  それはその中にいたそれにはわからなかった。

  でも、なにかとても大切なものがあったような、と。まだ形作られていない心でそれを感じていた。

  そしてある日、その場所に光が差し込む。

  少しずつ、少しずつ、その光へと近づく。

 

 

  その光の先に見たものはーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいはずむ!」

 

  名を呼ばれてはずむはハッと声の方に振り返る。

  そこには恋人である来栖とまりだった。

 

「まったく。何回も呼んだのに全然反応がないから焦っただろ」

 

「あ。そうなの?ごめん」

 

  どうやら、かなり呆けていたらしい。

  理由は本人が解っており、バツが悪そうに頬を掻く。

  ほらいくぞ、とはずむをベンチから立たせてその手を引いた。

 

 

 

 

  大佛星花が消えて数年の月日が流れた。

  その間に高校を卒業し、大学へ通い、卒業して今では新社会人としてそれぞれ就職し、新しい生活を始めている。

  はずむは趣味だった植物の世話が高じて実家から三駅ほど離れた植物園に就職した。また、高校時代に比べて少し髪を伸ばした。

 周りからは絶賛されたが元男としては微妙だった。

 

  とまりは今、小学校の新人教師として働いている。いまはまだ担任は持てないが、いずれ持ちたいと言っていた。

  またはずむとは反対に就職活動を機に髪をバッサリ切ってショートカットにまとめた。

 

  やす菜は高校卒業後に日本を離れてしばらくしたあとプロの音楽家としてあちこちの楽団と音楽を奏でている。

  また、彼女の男性を認識しづらい障害に対していままで黙っていた両親に打ち明け、その治療法を国外で探している。

  そして手紙やら写真など定期的に送られてきて元気な姿を見せてくれている。

 

  明日太は中小企業の営業として頑張っていた。高校時代に出来た彼女とも上手くいっているらしい。ただ、若干頭が上がらない様子だったが。

 

  あゆきは薬学を先行し薬の研究をしている。忙しいのか、あまり会う機会はないが、メールなどでやり取りはしており、何かの集まりがあれば顔を出している。

 

  宇宙仁とジャン・プゥは変わらず大佛家に居候している。

  以前とあることが原因で流刑罪として百年ほど地球に滞在。研究を続けるように言われているためはずむたちが生きている間はこの星を離れることができないらしい。

  また星花の件が原因で幽霊に対しても興味を持ち、休みを利用して調べている。もっとも進展は今のところないらしいが。

  ジャン・プゥもそれに付き合わされている。

 

 

 

  大佛星花が消えたあのあと、一番精神的にショックが大きかったのははずむだった。

  新学期になっても学校に行かず、食事を採ってベッドの中でなにも考えずにその日を過ごした。

  星花が消えたあの日以降、彼女の存在は消えていた。

  まず提出した筈の養子縁組の書類の件がなかったことになっていた。それどころか星花の身元捜査の件も同様に。

  また彼女の最後に立ち会った人間以外、星花の記憶がなかった。

  星花と話していた筈の近所も月並子やとまりの部活仲間も誰も星花を覚えていなかった。

  その事実がはずむのショックを大きくする原因にもなった。

  そしてあのとき見つかった星花の亡骸は警察に連絡して調べたが結局のところ彼女の身元が解ることはなかった。

  ただ遺骨の状態から死後30年以上経過していることだけ。判明したのはそれだけだった。

  そして部屋からろくに出ようとしないはずむを叱ったのはとまりとやす菜だ。

  特にやす菜は部屋に入るなりはずむの頬を張ったのにはとまりも驚いていた。

  それでも最初はろくに反応を示さなかったはずむにやす菜の一言で感情が爆発した。

 

「はずむくん。今の姿、星花ちゃんに見せられるの?」

 

  この言葉を聞いてはずむは弾けるように声を上げた。

  もういないと星花は居なくなったじゃないかと。

  癇癪を起こし、泣きながら怒鳴るはずむを二人は叱ることも目線も逸らさずにその嘆きを聞いていた。

  いくらかそれが続くと今度はポツリポツリと話した。

  もっと色々な場所に連れていってあげたかった。

  もっと色々なものを食べさせてあげたかった。

  もっと楽しいことやすごいものを見せてあげたかった。

  もっともっともっともっともっと。

 

「傍に、いてほしかったんだ……!」

 

  そう言って泣き崩れるはずむ。星花がいなくなったあの日に一生分泣いたと思ったが、あのとき以上に涙が流れた。

  話を聞いていたとまりややす菜も涙を流して床に踞っていたはずむを抱かしめて三人で泣いた。

  そしてそのあとに誓ったのだ。短い時間を精一杯生きた大佛星花という少女を決して忘れないと。

 

  そのあとに星花の遺骨を預けられたお寺でお墓参りに行き、花束を添えてきた。

 はずむが、学校で育てた花だ。

  次第にみんなが星花の話題を口にすることはなくなったが、きっと忘れないだろう。

  あのあまりに純粋無垢な少女のことを。

 

 

 

 

 

  とまりとはずむはお互いの仕事について愚痴を言ったり買い物をしながら町を歩いて日が沈み始めた。

 

「新しく出来たあの店、あんまり美味くなかったな」

 

  昼食を採ったパスタ店についてとまりが率直な感想を述べる。はずむはそれに苦笑いを浮かべるだけだったが、同じ意見だった。

 

  話題をコロコロと変えながら歩いていると小さな公園で自転車を漕いでいる子供がいた。

  恐らく自転車の練習だろう。補助輪を取った自転車で頭や間接にプロテクターを着けたその子は必死にバランスを取りながら危なげに運転している。

 

  そういえば、前に星花と自転車の乗り方を教える約束をしたなとそんなことを思い出してその子を見ていた。

  なんとなく二人でその子を見ていると、砂場の僅かな段差に車輪を引っ掻けて、そのまま投げ出されるようにその子供は砂場に顔からダイブした。

 

「え、ええ!?」

 

  あまりに鮮やかでダイナミックな失敗にはずむは声を上げた。

 

「お、おい!大丈夫か!?」

 

  それにとまりが真っ先に動いてその子を様子を見る。当然はずむもそれに続いた。近づいて倒れた子供に手を差し出すとーーー。

 

 

 

 

「おぅ?」

 

 

 

 

  ーーーそんな、懐かしい口癖を聞いた。

 

 

 

 

  頭に被っていたヘルメットが落ちてその顔を視ると二人は言葉を失った。

 

  その顔を覚えてる。

  あの山で光になって消えたその笑顔を。

  目の前にいる少女は、星花と瓜二つだった。

  どうして……?そう口にしようとするも、驚きが強くて動けないでいる。

  固まったままでいる二人を少女がどう解釈したのかとまりが差し出していた手を取って砂場から立ち上がった。

 

「ありがとう!」

 

  向けてくれた笑顔は、あのときのままで。

 

「う、あ……」

 

「おぅ?」

 

  声を聞いて、その仕草が目に入る度にはずむの中からなにかが、込み上げてきて、泣きそうになる。

  そんなはずむを少女は不思議そうに見上げていた。

 

「その、どうしたんだ?お父さんとお母さんは?」

 

  はずむの気持ちを察したとまりが少女の目線に合わせて膝を曲げた。

  少女は笑顔で自転車のハンドルを手に取る。

 

「自転車をね。乗れるようになってお父さんとお母さんを驚かせるの!」

 

  話を聞くと、つい最近両親に買って貰った自転の補助輪を外して運転できるようになって両親を驚かせたいらしい。

  それで、一人練習しているようだ。

 

  その話を聞いて、二人は昔した約束を思い出す。

  もう果たされることのない筈の約束を。

 

「それなら、アタシらが乗り方を教えてやるよ。さっきみたいなことになって怪我したら大変だしな」

 

「おぅ?」

 

「そう、だね。怪我したらお母さんとお父さんも悲しむだろうし」

 

「いいの?」

 

  上目使いに聞いてくる少女に二人は笑顔でもちろんと答えた。

  そして練習を再開する前にはずむは少女に質問する。

 

「それで、君の名前を教えてもらっていいかな?」

 

「おぅ?わたしはね、【星花】っていうのよ!」

 

  今度こそ、本当に心臓が止まるような気がした。

 

「お星さまにお花で星花って名前なの!」

 

「そ、そう。きれいな、名前だね」

 

「うん!」

 

  練習が始まると主にとまりが教えてはずむは見守る立ち位置で進んだ。

  教えていたのはおそらく三十分にも満たない時間だったろう。【星花】の母親がやって来たからだ。

  母親の姿を見るなり嬉しそうに駆け寄る。

  一緒にいたはずむととまりに最初は表情に警戒の色を見せていた母親も話しているうちに緊張が解けて娘の面倒を見てくれていた二人にお礼を述べた。

 

「この子ったら目を離すとすぐどこかに行ってしまって。本当に助かりました」

 

「いえ。僕たちも楽しかったですから」

 

  本心からそう思っていた。ずっと続いてほしいと思えるくらい。

  そうして帰路につく親子を見送る二人。少し離れたところから振り返って手を大きく振り、言葉にする筈のないことを口にした。

 

「ありがとう!はずむおねえちゃん!とまりおねえちゃん!」

 

「え?」

 

  そしてもう振り返ることもなく自分の家へと帰っていった。

  親子を見送るとはずむの目から自然と涙が流れていた。

 

「お、おい泣くなよ!」

 

「うん……ごめん、とまりちゃん……」

 

「まぁ、気持ち、わかるけどさ……」

 

  【星花】の姿を見てからはずむはずっと我慢していたのだ。

  嬉しくて、抱きしめて大声で泣き出してしまいたいほど。

  それをいまはずむは顔を両の手で隠して静かに泣いていた。

 

「アイツ、アタシらの名前、呼んだな」

 

「うん……」

 

  はずむたちは自分の名前を教えていない。それでも自然と二人の名を呼んだ。

 

「約束、ちゃんと守れたな」

 

「うん……っ!」

 

  それがただ嬉しい。

  とまりはぐしゃぐしゃになったはずむの頭を手を置いた。

 

 

 

  かつて散って。再びその花を咲かせた星の花。

  確かに短い時間を共に生きた自分を一番好きだと言ってくれた妹。

  帰ってきてくれた彼女に言いたいのはただ一言。

 

『おかえりなさい』

 

  届かずとも、伝わらずともその言葉に込められた想いは口にした本人だけが知っていればいい。

  新たに咲いた彼女がこれからの人生はどうか幸多いものでありますようにと願った。

 

 

  ーーー光の先に見たものは多くの笑顔。

  おめでとうございます!など歓喜の声。

  その言葉の意味を理解できずとも、抱き上げられた体温の温かさは本能が理解する。

 

  赤子は産まれ落ちた産声を大きく上げた。

 

 




転生END。ただし星花本人ははずむたちと過ごした記憶はありません。

名前を呼んだのは完全に無意識です。



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