星の花が見る夢は   作:赤いUFO

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5輪目:絵本と少女の過去

  はずむの部屋に集まった一同。

  皆がジャン・プウの膝に上に座っている星花を見ていた。

  星花自身はこれだけ歳上に囲まれても臆するどころか自然体でジャン・プウに体を委ねている。

  その姿はいっそ本当に人形のようだった。

  成すがままになっている星花にはずむが話しかけた。

 

「星花は今日はどうしてたの?」

 

  はずむの質問に星花は思い出すようにうーんと天井に視線を移す。

 

「おかあさんとお外に出て大きなお家にいったの」

 

  おかあさんというのはもちろん星花の、ではなくはずむの母のことだ。

 

「お家?」

 

「うん。たくさん人がいてね。おかあさんがそのお家の人とずっと話してたの」

 

「ああ」

 

  言われて今日星花に関する届け出を出すと言っていたから大きな家というのは役所のことだろう。

 

「他にはなにかあった?」

 

「うん。たくさんあった。いろんなものがおいてあるお、店?とか。スゴく長い車が走っててビックリした!」

 

  長い車というのはおそらく電車かバスのことだろう。

  それを身ぶり羽振り表現して今日見たものを伝えようとする星花にはずむたちは微笑ましく聞いている。

  表情の喜怒哀楽を表現するのは苦手のようだが雰囲気的に未知のものを見て興奮しているのがわかる。

 

「お家に帰ってからジャン・プウおねえちゃんがご本を読んでくれたの」

 

「そうなの?」

 

「ぷう~!ジャン・プウは星花のために絵本を読んであげてました〜!」

 

  そして取り出したのははずむも見覚えのある絵本だった。

  それは昔、はずむが両親に買ってもらった日本昔話の絵本である。

  読んだタイトルは花さかじいさんらしい。

  桃太郎や浦島太郎に鶴の恩返し程ではないもの有名な話だ。

  優しいおじいさんに飼われていた犬は山でここを掘るようにおじいさんを吠え、言うとおりに掘ってみるとそこには大量の小判が埋まっていた。

  それを見た、となりに住む欲張りなおじいさんが同じように犬を連れていき、小判を探すも出てきたのは蛇や動物の死骸などのおぞましいものばかり。

  それに怒った欲張りなおじいさんは犬を殺してしまい、悲しんだ優しいおじいさんは犬を裏山に埋めて木のお墓を建てる。

  すると木は急激に成長して大きくなり、自分を臼にするように優しいおじいさんに言う。

  それを聞いた優しいおじいさんは木を切って臼に変えて餅をつくとそれが小判に変わった。

  欲張りなおじいさんも同じように餅をつくも餅は泥団子に変わり、欲張りなおじいさんの顔を真っ黒にする。

  それに怒った欲張りなおじいさんは臼を壊して焼き、灰に変えてしまう。

  それを悲しんだ優しいおじいさんはせめてその灰を畑の肥料にしようとかき集めるも突如吹いた風に灰が飛ばされてしまう。

  そしてそこで信じられないことに灰を被った木々が突如光だして桜の花を咲かせていった。

  喜んだ優しいおじいさんは他の木にも灰を巻いて満開の桜を咲かせる。

  それを見た殿様が感激して優しいおじいさんにたくさんの褒美を取らせた。

  そして欲張りなおじいさんもその真似をするも灰が殿様に被ってしまい、怒らせて牢屋に入れられてしまったという話だ

  本によって細かな違いはあるだろうがだいたいそんなお話だ。

 

「そっか。おもしろかった?」

 

「うん。このおじいさんがね。はずむおねえちゃんみたいに優しくて好き」

 

「へ?ぼ、僕に!?」

 

  星花の感想にはずむは戸惑いの声をあげて後ろにいた友人たちは納得したように、笑った。

 

「たしかにはずむ君みたいだよね」

 

「そ、そうかなぁ……?」

 

「実際そうだろ。じゃなかったら女の子を拾ってきたりしないだろ」

 

  戸惑うはずむにとまりが断言する。

  それて星花が少しだけ難しい顔をしてでもと続ける。

 

「この犬は、幸せだったのかな……?」

 

  どこか遠いところを見るように顔をあげて疑問を口にした。

  欲張りなおじいさんに殺されてしまった犬は本当に幸せだったのかな。それを深く考えている星花にはずむは自分なりの解答を口にする。

 

「……幸せだったんじゃないかな、きっと」

 

「おぅ?」

 

「おじいさんに可愛がられて、たくさんの幸せをもらったから死んじゃったあともおじいさんのために餅を小判に変えたり、桜の花を咲かせたんじゃないかな。おじいさんが笑顔でいられるようにって」

 

  子供の時は理不尽に殺された犬を思って涙を流しただけだったが大きくなって物語を振り返ってみると違う発見がある。

  きっと犬は幸せだったからその恩返しにおじいさんに沢山の幸をもたらしたのだ。

  精一杯の感謝を込めて。

  はずむの解答を星花は少しだけ目を閉じる。

  そして瞼を開けると同時に笑顔を見せた。

  幸せだった犬を思って安心したように喜び。

 

「そっか……よかった」

 

  それは僅かだったが確かに微笑んでいた。

  その笑顔にとまりと明日太は驚きの顔をし、やす菜がかわいいと呟く。

  はずむは星花の頭を撫でて、ジャン・プウがぷう~と後ろから抱きしめる力を強める。

  唯一あゆきはなにかを考えるような仕草をしていたが周りに気づかれる前に止めて笑顔を作った。

 

「ねえ星花ちゃん。貴女のことを教えてくれないかしら?」

 

「お、おいあゆき……」

 

  突如の話題転換にとまりが止めに入ろうとするが手で制されてしまう。

 

「わたしのこと?」

 

「ええ。覚えているだけでいいわ。私達、貴女のことが知りたいの」

 

  言われて、星花は思い出すようにう~んと頭を使う。

 

「広いお部屋……」

 

  ボソッと呟く。

 

「お部屋?それはどんな?」

 

「ここより広くておトイレやお風呂があった」

 

  それを聞いてあゆきはホテルのような場所かしらと思考する。

 

「それで、そこには誰かいた?」

 

  あゆきの質問に星花はこくりと首を動かす。

 

「おシワだらけの男の人と女の人」

 

  一つ一つ思い出すように星花は言葉を口にのせる。

  そして続いた内容に皆が顔をひきつらせた。

 

「たたかれた」

 

「へ?」

 

「髪をひっぱられた。床にたおされた。蹴られた。首をぎゅっとされた」

 

  語られる内容にはずむたちは言葉を失う。なにより不自然なのが本人が体験したであろう暴力の数々を話す星花の口調があまりにも淡々としていたことだ。

  まるでそんなこともあったなと思い出して話している。そんな表情だった。

  そして締め括るように恐ろしい言葉を発する。

 

「おまえなんて産まれなければよかったのに……」

 

「せいかんっ!!」

 

「おぅ?」

 

  聞いていられなくなったジャン・プウが星花の体を強く抱きしめた。

 

「ダメです!産まれなければよかったなんて言っちゃダメですぅ〜」

 

  ぷう~!と涙声で言うジャン・プウに星花はただ頭の上に?をつけている。

 

「そうだね。僕は星花と会えてよかったって思ってる。だから産まれてこなければなんて思っちゃダメだよ」

 

  もちろんさっきの言葉が星花のものでなく、誰かが星花に言ったことだということははずむも理解していた。

  だが、あまりにも淡々と口にする星花に不安になり、手を握って諭す。

 

「おぅ?ごめんなさい?」

 

  星花はそのことを理解せずともなにか自分がいけないことを言ったのだと思い、謝るがはずむは星花が悪いんじゃないよと返す。

  心の内でそんな暴言を吐いた誰かに強い怒りを覚えながら。

  どんな理由があったとしてもこんな子供に暴力を振るって暴言を吐く誰かを許せなかった。

 

「場を悪くしちゃったわね。ごめんなさい。はずむ君、ちょっとおトイレ借りるわ」

 

  そう言って立ち上がり話してくれてありがとうねと星花の頭を撫でてはずむの部屋を出る。

  続いてとまりも追いかけるように部屋を出た。

 

「あゆき」

 

「ちょっと迂闊だったかしらね」

 

  とまりに話しかけられて珍しく若干の後悔を滲ませて瞳を閉じる。

  あゆきからすれば星花がなにか思い出していて、何かの手がかりになればと思っての質問だったが、予想以上の内容に情報が処理しきれなかった。

  朝も言ったようにその可能性は考えていたが、本人の口から語られることに予想以上のショックがあったようだ。

  あゆき自身そのことを意外に感じているが。

 

「とにかく、気になるところはあるけど、あの子がまともな環境にいなかったことは確実かしら」

 

  なら、この家にいるのはあの子にとって良いことだろう。

  少なくとも蔑ろにされることはないし、暴力を振るわれることもない。

 

「はずむのおばさんやおじさんなら必要以上に溺愛しそうだしな」

 

「そうね」

 

  少し落ち込んで見えたあゆきにたいしてとまりが冗談混じりで言う。

  きっと明日にははずむとジャン・プウも交えて着せ替え人形にされて、カメラの被写体になっているかもしれない。

 

「ほら、戻るぞ」

 

  とまりの指示にあゆきはええと答えてはずむの部屋に戻る。

 

 

 

 

  そのあとは、はずむたちの学校について話すのを星花は興味深く聞き入っていた。

  その途中、星花ははずむたちくらいの年上を全てお姉ちゃんと認識していたらしく、明日太のことを明日太おねえちゃんと呼んで周りを爆笑させたのは余談である。

 

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