星に手を伸ばす。
その行動事態に意味はない。
手を伸ばしても地上から人の手で星を掴むことなどそもそも不可能だ。
それでも手を伸ばさずにいられないのはそれだけ空に瞬く星々が綺麗に見えるからだろう。
あの輝きを自分のモノに出来たらと。
星花の目覚めは大佛家の中で比較的早い。
以前、学校で倒れてからとまりに体力不足を指摘されて早朝、軽くでいいからランニングを進められ、10日ほど続いている。
星花は寝るとき大体、大佛夫妻と同じベッドで寝ていた。
はずむやジャン・プウと同じベッドで寝るときもあるが、はずむのベッドでは子供が一人いるとはいえ、三人では狭いからだ。
何日か前に星花を真ん中に挟んではずむ、ジャン・プウと共に寝たところ、体の小さい星花をジャン・プウが押し潰してしまったことがあったためでもある。
そんなわけで、星花は朝食を用意するはずむの母の次に起きるのが早く、ベッドから下りると動きやすい半ズボンと半袖のシャツに着替えて、着ていたパジャマをたたむ。
ちなみに星花の服は子供の時にはずむが着ていたもので、当然男物だ。(何故か女物も置いてあるが)
「おはよう、おかあさん」
「うん。おはような、星花。毎日朝から走りに行って偉いなぁ」
「お?楽しいからだよ」
「そか。でも、わかってる思うけどあんま遠くに行きすぎたらダメやからな?朝御飯までには帰ってき」
「うん!いってきます!!」
そう言って家を出ていく星花にはずむの母は嬉しそうに手を振る。
この家に来たとき、どこか無機質だった星花の表情は熱を帯びて、大分感情が現れることが多くなった。
良い意味であの少女は周りから数々のものを学んでいる。
「かわええなぁ。このまま本当にウチの子にな……」
はずむの母はつい先日貰ってきた書類を眺めた。
星花の走る速度も走れるようになった距離も以前とそう変化していない。
しかし、星花は走るのが好きだった。
景色に自分が切り取られて少しだけ周りが変化して見えることが。
走り終わった後にシャワーで汗を流すのも好き。その時、はずむやジャン・プウなども一緒に入って髪を洗い、乾かしてくれるのも。
星花が角を走りながら曲がろうとした時、なにかがぶつかる。
「おぅ?」
「っと!」
倒れそうになった星花を誰かが腕を掴んで止めてくれた。
「あゆき、お姉ちゃん?」
星花とぶつかったのははずむの友人の一人であるあゆきだった。
「大丈夫、星花ちゃん」
平淡なしかし心配する声に他意はないとわかる雰囲気で話しかける。
「だいじょうぶ〜」
えへへと笑って返事する星花にあゆきは目を瞬きさせた。
以前会ったときは好奇心は強いがあまり表情を変えない子だと思っていたが、今自然と笑っていた。
「なにしていたの、星花ちゃん?」
「走ってた!」
簡潔に解りやすく答える。
以前とまりから星花が学校で倒れてその時、ジョギングを進めたと聞いたので。
なるほどと呟き、偉いわねと星花の頭を撫でる
星花はなぜ誉められているのかわからないのか不思議そうにしているが目を細めて気持ち良さそうにしている。
その姿を純粋に可愛いと思えた。
そこであゆきは程朝刊で読んだ記事を思い出した。
今は夏休みだし何とかなるだろうと思った。
目の前の少女はきっと目を輝かせて喜んでくれるだろうと思いながら。
その日の午後にはずむの携帯がなった。
相手はあゆきだった。
「はい。あゆきちゃん?どうしたの?」
少々驚きながら電話に出るはずむ。
あゆきから電話はあまりないからだ。
精々、遊ぶ約束をした時に遅れる場合や急な用事が出来て来れなくなったなどの最低限の時だけだ。
『はずむくん。今日の夜時間空いてるかしら?』
「え?空いてるけど……どうしたの?」
『実は……』
あゆきから話を聞いて、はずむは表情を輝かせる。
「それいいね!!星花も喜ぶよ!!」
弾んだ声ではずむは話に乗った。
『それじゃあ、みんなにも連絡お願いできる?私から誘うよりはずむくんから話したほうがスムーズに進むだろうし』
その代わり他の準備はこっちで進めて置くからと言うあゆきにはずむはわかったと頷いた。
携帯の電源を切ると同時に部屋のドアが開く。
「電話ですか?オネニイサマ?」
「うん。あゆきちゃんからね」
「あゆきおねえちゃん?」
「今日の夜に集まらないかって?」
「夜?お昼じゃダメなんですぅ?」
ジャン・プウの質問にはずむは頷く。
「今日の夜はスゴいものが観れるんだ。きっと星花も驚く」
「お?」
「だから今日は少し夜更かししないとね」
そうしてはずむは星花の頭を撫でた。
「お。来たな、はずむ!」
零時半を回ろうとしていた頃にはずむとジャン・プウ。宇宙仁と星花が現れた。
既に他のメンツであるあゆき、やす菜、とまり、明日太は集まっていた。
「遅かったな?時間ギリギリじゃねぇか」
明日太が質問するとはずむがアハハと苦笑いする。
そして星花を指差した。
するとジャン・プウと手を繋ぎながらも眠そうな星花がいた。
ウトウトと目を泳がせている。
「眠そうだね、星花ちゃん」
「う……ん……ねむい……」
星花は大きなあくびをする。
「この時間はいつも寝てるもんね」
星花は九時過ぎにはいつも就寝する。
それは誰かがそう促しているわけではなく、九時に入ると自然と星花が眠くなってしまうのだ。
たまにスイッチが切れたかのように眠ることもある。
「星花ちゃん、紅茶飲む?少しは眠気が取れるよ?」
「う…ん……ありが、とう……」
星花はやす菜から貰った紅茶を飲む。
するととろんとしていた少しだけ眼が覚める。
「いっぱい人がいるね。これから、なにするの?」
星花が周りを見渡すと自分たち以外にも人が集まっていることに気づく。
それにはずむはクスリと笑って頭を撫でた。
「今日はこれから流星群が観られるんだ。それもここ数年で一番スゴいのが」
「りゅーせーぐん?」
意味を理解しておらず、首をかしげる星花とジャン・プウ。
それに後ろにいた宇宙仁が眼鏡をかけ直して解説に入る。
「流星群とは天球上の一点から広がるように流れる一群の流星のことだ。
流星現象を引き起こす原因となる物質を流星物質といい、軌道計算から流星物質は主に彗星から放出されているとーーー」
「たくさんの流れ星が観れるんだよ」
長々と説明する宇宙仁の話を遮ってはずむが簡潔にまとめた。
星花はそれに眠たそうに目を擦りながら夜空を見上げている。
それから一時間程経った頃だろうか。
パラパラと星屑が流れ出した。
目蓋を上下していた星花の眼が次第に大きく開かれる。
「わぁ!キレイですぅ~!?」
ジャン・プウが皆の気持ちを代弁した。
星花は固まったかのようにその場を動かない。
「お空に、光がながれて……それが、スゴくって。こんなにドキドキするのがあったんだって思ったら、目がジワッてなったの。こんなに」
「星花ちゃん?」
気になってあゆきが話しかけるとそこには呆然とした表情で涙を流す星花がいた。
それに気づいたはずむたちも星花に近づく。
「なんてーーー」
「どうしたの?」
あゆきが聞くと星花は辿々しい口調で言葉を紡ぐ。
「お空に、光がたくさんながれて……こんなにステキなものが、あったんだって思ったら、目がジワッてなったの。胸がギュってなるくらいキレイで。あの場所じゃみれなかったから」
星花の説明は要領を得なかったが、夜空の景色を心から感動しているのがわかった。
それと同時に以前のこの少女はこのような景色も見ることができなかったのだと理解した。
そして星花は目の前の光景を焼き付けるように夜空から目を離さなかった。
「まさかその場で寝ちゃうなんて……」
あらかた流星群を見終わると星花は糸が切れたかのようにその場で倒れ、眠ってしまった。
今ははずむに背負われて家路に着いている。
あの場で眠っているだけだとわかった瞬間、安堵したと同時に笑ってしまった。
「そうしてると本当の姉妹みたいよ」
「そ、そうかな?でもいつも一緒にいるから違和感ないかも」
「ジャン・プウもせいかんのおねえちゃんですぅ!」
「そうね」
はずむからすればつい最近まで一人っ子だったのに妹が二人に増えて恥ずかしいのと嬉しいのと気持ちが混じっている。簡単に言えば照れていた。
「さっき、星花が泣いてたのを見てさ、これから星花に色んなものを見せてあげたいって思った。前の星花がどんな生活をしてたのかわからないけど、今日みたいな光景はまだまだあるんだって教えれあげたい。時間をかけて」
「そう……」
はずむの言葉をあゆきは特に否定しなかった。する意味はないし、あゆき自身どこかでそう思ったからかもしれない。
「だからありがとうね、あゆきちゃん。流星群のこと教えてくれて」
「どういたしまして。私も教えてよかったって思えるわ」
そうして眠っている星花の頭を撫でてそれじゃあと別々の帰路に着いた。
そうして別れたあとあゆきはふと思う。
突然現れた星花という少女。ならあの少女との別れも突然に訪れるのではないか、と。
理屈もなにもない悪い予感を頭から振り払ってあゆきはもう見えなくなったはずむの方を見る。
どうかあの姉妹の笑顔がずっと続きますようにと願って。
あゆき編なのにあゆきと星花の絡みが少ない気がします。
次はやす菜編です。予定通りに進めばあと5話以内に完結予定です。