「今日は軍の機竜使いが特別指導のために来ていただいております。では、よろしくお願いいたします。」
ライグリィ教官の紹介で正規軍のマントを羽織った男が3人演習場へと入ってきた。男は全員戦士と呼べるような体つきをしている。
「ウィルの方が体つきは良いね。」
「当たり前だ。あんな魅せ筋野郎共と一緒にすんな。」
ルクスに軽口をつきながら男達を見る。3人とも少し笑っているところを見ると何となくだがマトモな指導をする気がないように見える。
「ねぇ、あの3人どう思う?」
「うーん?大したことないわね。なんたってウィルフリッド様とルクス君がうちにはいるしね。」
「それもそうね。」
生徒達が大声で笑う。この学院の生徒達の性格をいまいち掴めないなぁと笑いながらウィルフリッドは言う。
あのライグリィ教官でさえ、笑っているなかで正規軍の男たちは苛立たしげにしながら手に持っていた機攻殻剣を地面に叩きつけると叫んだ。
「貴様ら!戦場でそんなことを言えるのか?まったく、新王国の国柄か女子に甘い考えがこの学院には充満していて胸糞が悪い。」
今まで笑っていた生徒たちは少し俯きながら黙ってしまった。
そして訓練と言う名の拷問が始まった。まず機竜の動作確認から始まり障壁の展開、飛翔、加速などの基本動作の後に射撃、近接格闘戦へと訓練は移っていった。しかし、この時点で何時もとは違っていた。
「どうした?もうへばったか?そんなんだから俺らに文句を言われるんだ。」
「開始して10分ほどだぞ気合いをいれろ!」
「そんなんじゃ、撃墜してほしい的にしかならんぞ!」
まだ、2年である生徒達には明らかについていけるペースではない。それ以前に彼女達の大半は校外戦にも出場したことのない子達である。
それを見ているウィルフリッドがため息をつきながら煙草を吸う。授業中は普段吸わないが今日は胸くそ悪かったのだ。
「あれはどういう訓練なのかしら?ウィルフリッド教官?」
ふと顔をあげるとそこにいたのはクルルシファーだった。彼女はルクスと同じく今は休憩組なのでここにいる。わざわざ正規軍の男達に聞こえるように大声でウィルフリッドは言った。
「あんなもんくその役にもたたねぇよ。あんなことするんだったらみんなで昼寝してる方が意味あるわ。」
男達のこめかみがぴくぴく動いていることを無視しながらウィルフリッドは煙草を握りつぶした。ルクスだけが近くにいるなら吸っても問題ないがルクス以外の人の前で吸うのは失礼だ。
それに気づいてかルクスがジト目を向けてくるが無視をする。
「それで、クルルシファーさんはどうしてここに?」
「あら、恋人とずっと一緒に居たいと思うのは当然のことだと思うのだけれど。」
あぁ、とルクスが相槌を打つ。ほぼ全校生徒がウィルフリッドとクルルシファーが付き合っているという情報が回っており一部の生徒が倒れて保健室に運ばれたという話は耳に新しい。
ウィルフリッド本人は頭が痛そうに項垂れていたが。
「ま、ウィルの恋沙汰には興味ないけど意味がないってのは同感だね。あれじゃ経験にしかならない。」
「おい、弟子風情が分かった口を利くんじゃねっての。ま、正解なんだけどさ。」
そう、正規軍のあの教育で生まれるのは経験だけだった。こんなことがありました。程度のことしか彼女たちは学べない。
「人に教えるときに大事なのは教える奴のレベルを見間違えないことだ。その人その人で何をどう教えるかは変わる。
だから俺の授業では基本的にペアも俺が決めてるだろ?」
「・・・、そういえばそうね。」
「つまりはそういうことさ。全員で同じ事をやっても意味はない。それどころか無駄になることが多い。まぁ、俺がレリィから頼まれていることは生徒が戦場で死なない方法を教えてほしいってだけなんだけどな。」
そう言ってウィルフリッドはまたも胸ポケットから煙草を取り出すと火をつけ、立ち上がる。ふー、と息を吐く姿を見たルクスがやれやれといったポーズを取る。
「本当にウィルは損な性格してるね。」
「良心的と言え、親友。」
はは、そうだね親友。というルクスとクルルシファーに背を向け歩き出す。不思議そうにしているクルルシファーを横目にルクスが腰をあげる。
「クルルシファーさんはそこで待っていてください。面白いものが見られると思いますよ。」
「ええ、楽しみにしているわ。」
笑みを確認するとルクスもクルルシファーに背を向けて歩き出した。
「どうした?お前らはこんなもんなのか?」
《ワイバーン》と接続した正規軍の男が同じく《ワイバーン》を装備した少女にブレードを叩きつけるように斬りつける。それを少女はブレードで防御するが体格差があるため地面へと叩きつけられる。
「ふん、だから女なぞに。」
そして男は追撃のために少女へとブレードを叩きつける。
「おっさん、カッコ悪いぞ。」
ブレードを受け止める機竜の姿が男と少女の間にはいた。それは《ワイアーム》と接続したウィルフリッドだった。
ブレードをはなし、少女を抱き起こすと少女の顔が赤く紅潮させているがひとまず大丈夫なのを確認すると男へと向き直る。
「貴様はなんだ?ここの生徒ではなかろう。じゃまするな。死にたいのか?」
「ははは、面白い冗談だなおっさん。あんたらじゃあ、俺に傷ひとつつけられねぇよ。四人がかりでもな。」
男達の顔つきが変わる。誰が見ても完全にきれている。遠くでルクスが笑っているのを見たウィルフリッドはあとで腹パンを叩き込むことを心に決めながら男たちに向き直る。
ふー、と煙草の煙を吐くと握りつぶし機竜の腰についてあるブレードを抜く。
「まてまて、俺たちは教導をしてて疲れているんだ。ハンデはもらうぞ。」
「は、自信がないのか。さらにカッコ悪いな。まぁ良いけどさ。」
ウィルフリッドの煽りに完全に怒っているがウィルフリッドは涼しい顔で流す。
そしてハンデがつけられる。
「そんなの機竜が動かないじゃない。卑怯よ!」
少女の一人が叫ぶ。そう、今ウィルフリッドの《ワイアーム》には機竜が耐えうる重量のギリギリの重りがつけられている。元々計量にしているウィルフリッドの《ワイアーム》。そのためか変な形をしている。
「俺のために言ってくれてありがとな。でも、大丈夫だから心配すんな。」
その言葉に頭を押さえながら少女が倒れる。ウィルフリッドが少しあきれ顔になる。
「もう、いいか?」
得意気に笑う男たちにウィルフリッドは肩をすくめながら挑発する。
「何時でも良いぜ。ってかさっき攻撃しても良かったのによ。」
男の一人が地面を蹴る。流石に戦場で戦ってきた男だ。この学院の生徒たちではついていけないであろうスピードでウィルフリッドに接近し横凪ぎに振るう。ウィルフリッドは慌てずそのブレードにブレードを当てる。拮抗するのは一瞬。男が一歩離れると男の後ろから弾丸が飛来する。それを叩き斬るとまた、ブレードが迫ってくる。
「生ぬるいなぁ。」
慢心でも傲慢でもなく事実。それを決定付けるようにブレードを機竜の腕で掴む。剣の腹を指だけで挟む。そのまま、男を持ち上げ地面に叩きつける。
相手が血を吐くが動きを止めない。何度か地面に叩きつけたのちライフルを持ちながら呆然とする男に投げる。互いの機竜が衝突し壁に激突する。これで一対一。あとは残りの一人を叩きのめし伸びている二人が復帰してから叩きのめすだけである。
正規軍の男が一歩後ろへと下がる。しかし、男のプライドか正規軍としてのプライドか逃げずに立ち向かうため構える。それに対しウィルフリッドは逃げも隠れもせずまっすぐとその男の元へと歩み寄る。
「貴様それだけの実力を持ちながら何故こんなところでくすぶっている。その実力があれば確実に四大貴族と同格の貴族になれるものを。」
「あっはっは、貴族には興味ねぇよ。それにこのチョーカーがあるしな。」
納得したように男が頷く。この新王国の人間ならば誰でも知っていることである。黒いチョーカーを着けているもので、ウィルフリッド・スタンジフォールとルクス・アーカディアは戦犯としての借金を背負っているということを。
「ま、俺のことは今はいいさ。さっさとやろーぜ。」
ブレードを体の正面で両手で握る。それに対して正規軍の男はライフルとブレードを持ち徐々に距離を取る。ウィルフリッドの武装はこのブレードだけなので距離を取れば勝てると悟ったのだろう。
「でも、そうはいかないんだよね。」
客席でルクスが言った言葉を皮切りにウィルフリッドが地面を蹴る。重りで遅くなっていると思っている正規軍の男はライフルを撃とうと構える。が、目の前に居なかった。
正規軍の男が焦ったように探すと下から声が聞こえてきた。
「重りを着けたぐらいじゃ俺のことは捕らえられないよ。おっさん。」
ブレードでライフルを真っ二つに斬りバックステップで逃げる正規軍の男にブレードを投げつける。それを弾くとまたしてもウィルフリッドが男の視界から消える。
背中からの衝撃で壁に衝突する。フラフラと立ち上がる男にウィルフリッドが言葉を投げ掛ける。
「もう、敗けを認めてくれねぇかな。万が一にも勝ち目はねぇよ。」
突き放すような冷たい声ではなくどちらかというと優しい声音で諭すように言う。しかし、男は立ち上がる。先ほど倒した男二人も加わりまたしても三対一の状況になる。
そして無造作にライフルを持ち上げると観客席へと撃ち込んだ。運良く狙われた場所はウィルフリッドの近くだったため迎撃に成功した。
「おい!俺とお前らの試合だろうが。何してんだ!」
しかし、男たちはただ笑うだけでライフルの乱射を開始する。ウィルフリッドでも迎撃できない場所に撃ち込まれた弾丸はその場にいた少女にあたると思われた。しかし、その少女はそこには居なかった。
「やっぱり念には念をだね。」
ルクスがその少女を抱き笑いかけながら呟いた。そして様々なところで同じような光景が見られた。リーズシャルテがティルファーがクルルシファーがライグリィ教官が生徒を助けていた。
「さて、あんたらの策はもうつきたかな?じゃあ、止めといきますか。」
ウィルフリッドが地面を蹴ると目線だけで男達の視界から消える。一番先頭にいたブレード使いの胸ぐらをつかみ拳を叩き込む。頭突きをいれ顎にかすらすように肘を打ち付ける。男は脳震盪を起こし倒れる。
ウィルフリッドはそこで動きを止めない。今度は先ほど倒した男のブレードを使いまたも視界から消えると次はライフルの男の銃身を叩き砕き、腹に膝を叩き込む。
「ば、馬鹿な。我等正規軍が戦犯ごときに負けるわけがない!」
「ところがどっこい、コレが現実だ。」
ライフルの弾丸を掴み、投げ返す。その間にまたしても視界から消えると背後に回り込み頭をつかみ地面に叩きつけた。そして男たちは誰も動かなくなった。
「安心しな、死んではいない。ただ、死ぬほど痛かったろうけどな。」
生徒達の歓声を受けウィルフリッドは手を挙げて答えた。