目を開けるとまず目にはいったのはクルルシファーの顔だった。彼女はニッコリと笑いながらウィルフリッドの顔を覗き込んでいた。
「あら、目が覚めたのね。」
クルルシファーの何時も通りの声色に少しホッとしつつ辺りを見渡す。どこだかは分からないがアビスの気配はなかった。
そしてふとここで頭に柔らかいものが当たっていることに気づいた。そう、今ウィルフリッドはクルルシファーに膝枕をしてもらっているのだ。ルクスに見られてたら面倒だったなぁ。と割りとどうでもいいことを考えつつ口を開く。
「なぁ、クルルシファー嬢。これは白馬の王子さまへのお礼でやってんのか?」
「あら、貴方の場合は灰色の竜に乗ったヤクザではないかしら。」
その言葉にクルルシファーへとジト目をぶつけるウィルフリッド。しかしクルルシファーはそれをも笑ってごまかしていた。
それにしてもとウィルフリッドは考えていた。ディアボロスが破裂したときのクルルシファーはおかしかった。今はなんともなさそうだが。その事に妙に引っ掛かりを覚えた。ポンとクルルシファーの頭の上に手をのせる。その事にクルルシファーは恥ずかしそうに小さくなろうとするクルルシファーを見て立ち上がる。
「今は何がどうなってんのかわかんねぇけどとりあえずここが遺跡、だろうなぁ。」
クルルシファーに手を差し出し立ち上がらせ辺りを見渡す。遺跡の中は予想以上に、外のように明るかった、その事に少し疑問を感じながらも呟く。
「遺跡って来るの初めてなんだよなぁ。」
「そうなの?貴方ほどの人なら参加していたのだと思っていたのだけれど。」
「強いて言えば興味がなかったんだよなぁ。」
頭の上で手を組み本当に遺跡に興味がなさそうに呟く。
「だってよ。こんな群れて来てさ。何するんだよ。学者とかその護衛とかの少数精鋭で十分じゃねぇか。まぁ、今回に限っては俺の生徒だし安全のために来たけどさ。」
「言われてみれば確かにそうね。国単位のプロジェクトになるのは分かるけれど大人数を一気に動かすものではないわね。」
クルルシファーの言葉に軽く相槌を打つ。腹減ったなと緊張感のないことを考えているとグー、という腹が鳴る音が聞こえる。もちろんウィルフリッドではない。断食などは良く行っているので2、3日飯を抜く程度ではウィルフリッドは答えない。
「クルルシファー嬢、腹減ったか?」
「お腹減ったわ。」
予想と反し素直なクルルシファーに苦笑しつつ《クリカラ》を呼び出し積まれている非常食を取り出す。その非常食を開封しクルルシファーに差し出す。
「早く食えよ。ここにアビスが来ないっていう証拠はないからな。まぁ、クルルシファー嬢一人ぐらいなら余裕で守ってやるけどな。」
頼りにしてるわと言いながら非常食にかぶりつくクルルシファーを見ながら考えた。彼女は非常に機竜使いとして優秀だ。その上可愛い。そんな彼女があのゲスみたいな男、バルゼリットと結婚するのはなんだか許せない。というかバルゼリットの思い通りに事が進むのが気に入らない。
「自分の女じゃないのにものすごくムカついてきた。」
非常食を食べながら小首を傾げるクルルシファーに笑みを向け、今はバルゼリットのことは考えないようにする、まずは『騎士団』と合流するのが先だろうと結論付ける。
クルルシファーが非常食を食べ終わり綺麗に袋を畳むとこちらに差し出してくるのでジト目を向けつつも受けとる。きっとこんなだから尻に敷かれるのだろうと思いつつクルルシファーに尋ねる。
「まず、みんなと合流が先決だと思うけどどうだ?」
クルルシファーが少し考えるようなポーズをとりその後答える。
「作戦上、遺跡に入ったら中央を目指すことになってるわ。多分そこへ向かえば合流できると思うわ。」
クルルシファーの言葉に頷きつつ歩き始める。
しばらく歩いた。どれだけ歩いたかは分からないが相当の距離を歩いたように思える。ちらっ、とクルルシファーの方を見るととてもではないが大丈夫なように見えなかった。汗を大量にかいており、顔が赤い。そして足元がふらふらしている。
「クルルシファー嬢、大丈夫か?ヤバイなら外に出る道を探すぞ。《クリカラ》なら使えるしな。」
「いえ、大丈、夫よ。数少ないチャンスなのだから。」
クルルシファーの目に写る決意を見たウィルフリッドはなにも言えなかった。まるであの時の自分を見ているかの気分になった。
顔を叩き、暗い考えを追い出す。そしてクルルシファーの方へと寄り、お姫様抱っこの要領で持ち上げる。もちろん驚きと恥ずかしさでクルルシファーは顔を真っ赤にしているがウィルフリッドはそんなクルルシファーに真剣な顔で言った。
「クルルシファー嬢の気持ちは分かった。でも君らみたいな学生が無理しすぎも良くない。俺はいちよお前らの教官だ。こんなとこで無理している生徒を無視できない。だから大人しくしとけ。」
暴論ともとれるこの言葉にクルルシファーは俯いて嬉しそうに笑った。ウィルフリッドにはその笑みの真意は分からなかったがそれでも彼女が笑ったことに安堵を感じた。
(変態何て言われたら俺の人生終わってたからなぁ。)
決して顔には出さないが心で乾いた笑みを浮かべる。目の前のクルルシファーはまだ恥ずかしそうに顔を赤くしているが此方の顔を覗き込みながら満面の笑みで言った。
「よろしくね、ウィルフリッド教官。」
その言葉にむず痒さを覚えつつもウィルフリッドは笑顔で答えた。
そしてまたしばらく歩いていくとひとつの部屋へとたどり着いた。目の前に魔法陣のような模様の台座のような物が置かれているだけでそれ以外には特になにもない部屋だ。
「?ここが中央・・か?」
「そうよ。そして私が求めていた場所よ。」
クルルシファーがウィルフリッドの腕から飛び降りると台座の真ん中へと立った。
すると光が視界を覆う。地響きがおき機械音ではない人の声が聞こえる。
「鍵の認証を確認。制限の解除が可能です。」
「クルルシファー嬢?あんたはいったい?」
ウィルフリッドの問いにクルルシファーは聞く耳も持たずに辺りを探り始める。
「まだ、何かヒントが・・・。」
体がフラッと揺れたかと思うとクルルシファーが倒れた。さらに地震のような揺れが遺跡を襲う。その揺れのなかウィルフリッドはクルルシファーのもとへと辿り着くと何も言わずにクルルシファーをかつぎ上げ崩落が無さそうな部屋の端へと避難した。
目を伏せ気まずそうに俯くクルルシファーにウィルフリッドは声をかける。
「とりあえずはここを脱出しねぇとな。この部屋の周りがどうなってるか分からないしドアは使わない方が良いだろうな。トラップなんて古典的な何かがないとも限らんし。」
返事をせずぐっ、とウィルフリッドの服の裾を掴むクルルシファー。
「とりあえずは壁をぶっ壊すから離れてろ。」
ウィルフリッドが腰から《クリカラ》の機攻殻剣を引き抜く。しかしウィルフリッドは抜き放ったままの体制で止まる。
ウィルフリッドがふと視線を落とすと自分の服の裾を見た。まだクルルシファーが掴んでいるのだ。何も言わずクルルシファーが自分から話すことを信じてウィルフリッドはただ黙ってクルルシファーを見つめていた。
やがてクルルシファーが意を決したように頷くとウィルフリッドの顔をまっすぐに捉えていった。
「聞いてほしいことがあるの。」
「おう、言ってみな。そのために俺はこうして待ってんだからな。」
笑顔のウィルフリッドにクルルシファーも釣られて笑う。そして神妙な顔になり、言った。
「私は・・・遺跡の生き残りなの。」
「驚いたぞ。あんたがあの女を手に入れろと言うから躍起になってはいたが、あの女遺跡に守られているように見えたぞ。」
神装機竜《アジ・ダハーカ》の主、バルゼリット・クロイツァーがフードを被った人間と話していた。得意気に笑うバルゼリットとは対照的にフードの人間はにやっ、と笑う。
「当たり前だ。あの女は遺跡の生き残り。つまり奴が遺跡を開き大いなる力を手にいれるための鍵なのさ。」
「だからあの女を欲するのか。」
バルゼリットが納得したように頷く。フードの人間がその服のポケットへと手を入れひとつの小瓶を取り出し、バルゼリットに見せつけるように持つ。
「今なら友のよしみでこの心を操る薬をやるぞ。これで手っ取り早く手にいれろ。」
バルゼリットの右手に握らせようとしたがバルゼリットはそれを止める。
「悪いが遠慮しておく同胞よ。あの女は俺が屈服させる。俺の言うことしか聞かない人形にな。それにあの女なら夜の遊びも楽しめそうだ。」
「ずいぶんいい趣味だな親友。」
だろ?と言いながら得意気に笑うバルゼリット。四肢をソファへと投げ出し顔だけをフードの人間へと向ける。そういえば、とフードの人間が口を開く。
「《アジ・ダハーカ》の調子はどうだ?」
「あぁ、いい感じだ。まさに俺、『王国の覇者』にぴったりだ。今なら伝説の『黒き英雄』や『竜殺し』にも勝てそうだ。」
「そうか、ならこんなのはどうだ?」
そう言って1つのファイルを取り出した。それを覗き込むように見るバルゼリットにいう。
「『黒き英雄』と『竜殺し』の情報買わないか?」
ウィルフリッドはクルルシファーの言葉に驚きもせずただ、淡々と聞いていた。
「私はユミル教国の遺跡で発掘されたの。発掘したのは私の義父のエインフォルクの家長よ。」
どこかもの悲しげに語る少女の姿をまっすぐに捉えたまま、ウィルフリッドは話を聞く。
「私は多分期待されていたから養子として引き取ってもらえた。遺跡に関する何かを見つけ出すことができると思ったから。でも昔の記憶のない私には何も知らずにぬくぬくと育ったわ。
大きくなるにつれ私がこの家の人間でないことに気づいた。使用人や兄弟の態度がよそよそしいのが答えだったわ。」
少し涙声になりながらもクルルシファーは必死に言葉を繋げる。
「だから私は頑張った。家族のだれからも認められるような女になりたくて、みんなの輪のなかに入りたくて。
でもそれは叶わなかった。」
スッ、と目を伏せるクルルシファー。それでもウィルフリッドは動かずその話を聞き入っていた。
「機竜使いとして優秀になるたびに家族は私を敬遠した。きっと怖かったのね。
それに逃げるように私は家を出てこの学院に来た。まぁ、両親が結婚目的でここに在籍させるということは知っていたからショックではなかったわ。
そして、家を出る前のある日、父と兄の会話を聞いてしまったの。私が遺跡で発掘されたと。」
「だから遺跡探索に拘っていたのか。」
ウィルフリッドの問いに首を縦に振ることで肯定し、クルルシファーはさらに言葉を繋げる。
「そして、今日確信してしまった。私は遺跡の人間、誰でもないただの人間だった。」
ウィルフリッドは静かに目を閉じ立ち上がる。涙で目元が濡れ赤くなっているクルルシファーの頭を軽く小突く。それに驚き目をあげるクルルシファーにウィルフリッドは口を開く。
「お前の言いたいことは分かった。個人が自分のことをどう思おうがそれは勝手だ。でもな一つだけ言わせてもらうとお前は自分でどう思っていようと俺ら、いや俺の中ではクルルシファー・エインフォルクっていうのはお前なんだ。学院の優等生で留学生。俺が教えることあるのかマジであるのか悩むほど優秀な機竜使い。それがお前だ。
何度そう考えようが何度挫けようが俺がいる。ルクスがいる。王女殿下が、『三和音』の3人がいる。ほら見てみろお前はお前が思っている以上にみんなから大切にされてるんだよ。その証拠にほら来たぜ。」
「クルルシファー!無事か!」
突然、リーズシャルテの声が部屋に響いた。ドリルの音と共に《キメラティック・ワイバーン》を纏ったリーズシャルテが現れた。
「な?」
ウィルフリッドの笑顔にクルルシファーは胸を締め付けられるような気持ちを抱えながらリーズシャルテに抱きつかれた。
後半はルクスとも性格の違いが出たなぁというのが私の意見。
まぁ、こういうキャラが真面目なのってなんか似合わないよねww
あと、リーズシャルテは友達想いのステータスを追加