黒き英雄と竜殺し   作:souやがみん

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ちょっと間が開きましたね。
楽しみにしてくれている方々、すいません


14話

春の風としては少し肌寒い風の中、一組の男女が並んでいた。しかしカップルではない。それは二人が会話をしていないことから一目瞭然である。

男の方は肩まで伸ばした金髪がまるで女のように艶やかなのが特徴だ。顔は整っており一般的にはイケメンに分類されるだろうがいやらしく笑うその顔が品格を下げていた。

もう片方の女性は対照的に黒い髪をショートカットにしておりタキシードのような服を着ている。顔は整っており綺麗だ。

 

「アルテリーゼ殿、我が未来の妻とあの汚ならしいヤクザはまだかな?」

 

「流石にそんなことを聞かれましても・・・。」

 

本当に申し訳なさそうに呟くアルテリーゼを横目に神装機竜《アジ・ダハーカ》の主、バルゼリット・クロイツァーは夜空を見上げて笑う。

この手で《竜殺し》を越える。それが少年だった時の彼の目標だった。《竜殺し》という名は五年前の戦争で真相を知るものだけが知る名だった。《黒き英雄》が旧帝国を壊滅させたのだとしたら《竜殺し》は帝国の要人を全て殺した人間だった。

バルゼリットにとってその人物こそが自らの目指す人物だと心酔した。そして《竜殺し》の本性を知った今。

 

「ウィルフリッド・スタンジフォール。貴様だけは殺す。俺が心酔した男が貴様のような馬鹿な男だとは信じない。」

 

歯ぎしりをするほど強く力を込める。そして機攻殻剣を腰から抜く。

 

「来たな。」

 

月に剣を向けながら呟いた。

 

 

「待たせたわね。」

 

一機の白銀の機竜が月を背にバルゼリットとアルテリーゼの前に降り立った。その機竜は《ファフニール》。クルルシファー・エインフォルクだ。しかし一人で来ていた。

 

「我が未来の妻よ。あのヤクザ顔はどうした?俺はあの男と戦うためにここに来たのだ。悪いが自分の妻を傷つけたくないのでな。」

 

クルルシファーは目を閉じその言葉を聞くとバルゼリットを睨むように見つめる。

 

「ウィルフリッドさんは来ないわ。貴方なんて私で充分だから。」

 

バルゼリットの額に青い筋が浮かぶ。しかし彼は1度大きく息を吸うとその嫌らしい笑みをクルルシファーへと向ける。

 

「ほう、では変わりに我が妻が俺の相手をしてくれるのか。」

 

このときバルゼリットは喜んでいた。わざわざ遠回りに恐怖を叩き込み自分の人形に仕立てあげるよりも戦いの方が確実に恐怖を、無力さを教え込むことができる。しかもこれは正式な決闘だ。そしてクルルシファーはプライドが高い。直ぐにギブアップすることもないしアルテリーゼにも止める権利は存在しない。

バルゼリットは自分の手に持つ、《アジ・ダハーカ》と接続し、得意気に笑う。

 

「さぁ、来い!我が未来の妻よ。格の違いと恐怖を教えてやろう。」

 

クルルシファーは何も言わずに飛び上がると神装《財禍の叡智》を発動する。未来を読む能力を持つクルルシファーがバルゼリットへと砲撃を開始する。しかしバルゼリットは回避するでなくその手に持つハルバートで凪ぎ払っていく。

 

「はははは!我が未来の妻よこんなものか?ならば此方からいくぞ!」

 

バルゼリットが地面を蹴るとクルルシファーへと肉薄するクルルシファーは《財禍の叡智》で回避するがなかなか距離をとれない。腕、足と的確にクルルシファーが動けなくするのが目的だと思われる場所を攻撃し続ける。それが分かっている上で《財禍の叡智》を使っていても回避がギリギリで行われている。

 

「捕まえたぞ!」

 

《ファフニール》の腕が《アジ・ダハーカ》に捕まれる。クルルシファーが苦し紛れに拳を叩き込むが簡単に受け止められてしまう。

バルゼリットは得意気に笑いながらクルルシファーを地面へと叩きつける。2度3度と叩きつけ近くにある岩へと投げ捨てる。吐血しながらもクルルシファーが立ち上がる。

 

「もうやめておけ、勝てないのは分かっただろう?」

 

バルゼリットの余裕の発言を無視しながらクルルシファーは《財禍の叡智》を発動する。が、発動しなかった。

 

「?!」

 

慌てるクルルシファーを見下すように笑いバルゼリットは飛び蹴りの要領でクルルシファーを吹き飛ばす。

何度か地面を跳ねてから岩へと激突しその場に倒れる。わざわざ歩いてクルルシファーのもとへとバルゼリットは近づいていき髪を掴み顔を無理矢理持ち上げる。

 

「どうだ?地面の味は。そして、分かっただろう?お前では俺には勝てない。」

 

動かない体に鞭を打とうと動かない。クルルシファーの体は完全に動かない。そして、《ファフニール》にも大破しておりもうここにはない。

 

「機竜も大破。君にはもう味方もいない。さぁ、私の手を取れ。それだけで君は幸せになれるのだから。」

 

バルゼリットに無理矢理手を掴まれる。そしてバルゼリットが得意気に高笑いを始めようとしたときだった。バルゼリットの機竜に1つの通信が入った。

 

『お久し振りですね、バルゼリット卿。アイリ・アーカディアです。』

 

それは旧帝国の皇女だった。バルゼリットはクルルシファーから手を離し機嫌が悪そうに答える。

 

「没落王子の妹様が私に何のようかな?」

 

『忠告しようかと思いまして。』

 

不思議そうな顔をするバルゼリット。それを見越しているのか見ているのかそれは分からないがアイリはクスッと笑いながら言った。

 

『今そちらに災厄が向かいましてので頑張ってくださいね。』

 

背中に恐怖を感じながらバルゼリットは《アジ・ダハーカ》で、《ファフニール》から奪った神装《財禍の叡智》を発動する。そして後ろへと大きく跳躍する。

バルゼリットがもといた場所には一本の刀が突き刺さっていた。

 

「ちっ、《財禍の叡智》を奪ってやがるか。」

 

悪態をつきながら現れたのは灰色の機竜だった。赤毛を首もとで尻尾のように結んでおり顔には無数の傷がある。服装は何時も通りの赤いアロハシャツに黒いパンツ。

ウィルフリッド・スタンジフォールがその場に現れた。何時ものウィルフリッドと違いすでに《クリカラ》と接続しているので言葉がきつめだが彼はクルルシファーのそばに降り立つとちらっ、とクルルシファーを見つめる。クルルシファーの悲しそうな目を見て、ウィルフリッドはクルルシファーの顔を思いっきりはたいた。

びっくりした顔をするクルルシファーにウィルフリッドは言葉を投げ掛ける。

 

「なにやってんだ?お前は。」

 

『ナイトロシステム』の影響で何時もの優しい言葉ではなく見放したような声がクルルシファーの耳に届く。

 

「俺はあの遺跡でお前に言ったよな?お前には俺という恋人がいてルクスや王女殿下、アイリや『三和音』の3人、クラスメイト。みんなお前の味方だってな。

それを無視して一人で戦うからこうなるんだ。反省してんならそこで寝てろ。」

 

クルルシファーの目に涙が溢れる。もちろん恐怖ではない。単純に嬉しかったのだ。みんなが道具ではなく自分を一人の人間として見てくれていたことが。

何より今目の前に立つ灰色の機竜を纏ったウィルフリッド・スタンジフォールが助けに来てくれたことが。

 

「おい、そこのキモい笑い方の金髪野郎。決闘は約束通り俺が今から受けてやる。さっさとかかってきな。」

 

侮辱されたことに怒りを抱きながらもバルゼリットは笑みを浮かべていた。目の前に《竜殺し》がいてそれを今越えることができる。本当に出来るかどうかは分からないが自分の力を試させることが嬉しかったのだ。

バルゼリットが一歩踏み出しつつ、《財禍の叡智》を発動し、ウィルフリッドをその手にもつハルバートで殴り付ける。必中のタイミングでバルゼリットは笑う。

 

「おい、なにいきがってんだ?未来が見える程度で俺に勝てると思ってんのか?」

 

直ぐ後ろでウィルフリッドの声が聞こえる。とっさにバルゼリットが前方へと大きく跳躍する。しかしその程度では距離は開かない。

着地と同時に振り返るとそこにはウィルフリッドの顔が間近にあった。

 

「だからよ、なにいきがってんだ?って。人の話は最後まで聞けって親に教わってねぇのか!」

 

叫ぶと同時にバルゼリットの顔面へと拳を叩き込む。吹き飛ぶバルゼリットに肉薄しさらに連打する。拳を止めずに顔、腹と止めどなく拳を叩き込む。

真上へとウィルフリッドがバルゼリットを蹴りあげると両手を地面に付ける。

 

「《創造剣》」

 

両手をゆっくりと持ち上げるとそこには二振りの刀が握られていた。ウィルフリッドはその二振りの刀をバルゼリットの機竜、《アジ・ダハーカ》へと投合する。両腕を貫く。

ウィルフリッドは動きを止めずさらに二振り作り出すと今度は両足を貫く。最後に一振りの刀を作り上げると誰の目にも見えない斬撃を繰り出し両腕、両足を切り飛ばした。地面に倒れ、動かないバルゼリットの首に刀を突き付けウィルフリッドが見下ろす。

 

「おい、地面の味はどうだ?」

 

それはバルゼリットがクルルシファーに言った言葉と同じだった。恐怖にバルゼリットの顔が青ざめていた。何故ならば《財禍の叡智》により未来の行動は見えていた。ウィルフリッドの動きも見えていた。だが、反応できなかった。未来を見てから動いているのにウィルフリッドはそれをも見ているかのような動きを見せていた。

 

「おまえは、お前はなんなんだよぉ!」

 

ヤケクソで叫びながらバルゼリットが《アジ・ダハーカ》を捨て、その手にもつ機攻殻剣を振りかぶる。ウィルフリッドは剣を振り下ろす前にバルゼリットの腕を《クリカラ》の腕で全力で握る。

 

「ぐ、ああああああ!」

 

バルゼリットの悲鳴が響く。咆哮のような叫びが夜の空に響くが誰もそれに答えるものはいない。

クルルシファーは倒れ、声も出せないほど衰弱しておりアルテリーゼは目をそらし何も見ていないことを主張している。

 

「おい、何でその程度で音をあげてんだ?クルルシファーはもっと苦しんでんだよ。」

 

《創造剣》で刀を産み出し腕を抉る。バルゼリットの悲鳴が上がるがウィルフリッドは嬉しそうに、楽しそうに笑う。

 

「は、ははは、いい声で泣くなぁ。もっと泣いてくれよさぁ!」

 

ウィルフリッドは腕に刀を突き刺しもう一振りの刀を作り出し足へと突き刺す。バルゼリットが痛みで気を失う。血が足りていないというのもあるだろう。

気を失ったことでウィルフリッドの笑顔は曇る。

 

「なんだ、この程度かよ。これなら・・・ぐっ、くそがぁ、てめぇはまだ出てくんじゃねぇ。こいつ殺すことがおめぇの望み・・・だろう、が。」

 

《クリカラ》との接続を外した、ウィルフリッドが地面へと倒れる。

 

「はぁはぁ、お前はやりすぎなんだ。そうやって人を殺すからお前は・・・。」

 

言葉をぐっ、と飲み込みクルルシファーのもとへと歩みより抱き上げる。

アルテリーゼが此方へと寄ってくるのを確認しながらアルテリーゼへと口を開く。

 

「このまま、クルルシファー嬢は学院に連れ帰る。異存はあるか?」

 

首を横に振るアルテリーゼを見て、安堵の表情を浮かべつつウィルフリッドは学院へと足を向ける。しかしアルテリーゼがウィルフリッドの腕を掴んでいた。

目を泳がせながら彼女は少しおどおどした態度でウィルフリッドへと質問する。

 

「あの機竜はいったいなんなんですか?神装機竜とは違うように思いましたが。」

 

「美人の質問には答えたいんだが今はクルルシファー嬢が先だ。悪いがその話はまた今度だ。」

 

そう言い捨てウィルフリッドはクルルシファーを背負って学院へと歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱりウィルは凄いな。」

 

ルクスのボソッ、と呟いた言葉にリーズシャルテが首をかしげた。二人とも機竜と接続しており両手には大の男を何人も掴んでいた。バルゼリットの雇った傭兵たちだ。

 

「しかし、あのやくざ顔は強いが何が凄いんだ?私から見れば機竜に飲まれているようにしか見えなかったが。」

 

リーズシャルテの疑問にルクスは笑みを見せる。そして月を見ながら呟く。

 

「それはウィルフリッド本人から聞かないといけないですよリーシャ様。それだけあの機竜は特別なんです。僕の《バハムート》のように。」

 

暗い顔をするルクスを月は明るく照らしていた。




《クリカラ》の秘密、ウィルフリッドとルクスの過去はそのうちゆっくりと書きますので妄想しながらお待ち下さい。
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