「これは相当イレギュラーな形になります。引き分けは負けになりますよ。」
「分かってるさ。それに負けることはねぇよ。」
赤毛を尻尾のようになるように結んでいる男、ウィルフリッド・スタンジフォールが学院長室のソファーに四肢を投げ出しながら呟いていた。
今、この部屋にはウィルフリッドとレリィの他にルクス、アイリ、セリスティアがいる。
「私にも依存は足りません。ウィルフリッドさんを越えることを私は目標にしてきました。戦えるのであれば何だって構いません。」
セリスティアの強気な態度にウィルフリッドがニヤリと笑う。ルクスもやる気を見せておりこの場はとても殺気だっている。
パンパンと手を叩くレリィへと全員が注目する。
「わかってると思うけどこれは殺しあいじゃないのだけは忘れないでね。」
レリィの注意に苦笑しつつセリスティアを見つめる。ルクスのことを見てはなにか言いたそうにしている。しかしウィルフリッドと目が合うとやる気に満ちた目に変わる。
心配しすぎかと心のなかで呟きながら部屋を出た。
「ウィルフリッドさんは馬鹿なんですか?学生と戦うだけで喜んじゃうなんて。」
「いやさ、俺もルクスや王女殿下、クルルシファー嬢、フィルフィーちゃんたちの副担任だしな。ちょっとは格好いいウィルフリッド様を見せとくのも良いだろ。」
「学院生の半分は貴方のファンですけどね。」
最後の一言が聞こえなかったがウィルフリッドはアイリと共に学院の中庭にあるベンチに座っている。ルクスはセリスティアに勝つためとリーズシャルテとフィルフィーに引きづられながら工房へと向かっていった。
そのときのルクスの絶望の表情は何度思い出しても笑える。
「ウィルフリッドさん、また悪い笑いかたしてますよ。」
アイリに注意されて真顔に戻る。明日の夏合宿のあとにセリスティアとの試合だ。2年生の『騎士団』への所属権もかかっているためなおさら負けられない。
「大丈夫なんですか?」
「当たり前だっての。初めから《クリカラ》でいくしさ。」
呆然とするアイリを横目にウィルフリッドは夜空を見上げながらタバコをくわえた。
数年ぶりに出会った少女が強くなっていた。自分の弟子が自分の力でここまで強くなったことに心が踊った。弟子の力が知りたい。そのために戦える状況を作った。
「俺も戦闘狂何だろうなぁ。」
「そうですねぇ。」
否定もなにもなくただウィルフリッドは元々そうだと言わんばかりの適当な返事だった。その事をウィルフリッドは何も言わずに口を開く。
「俺さぁ、セリスティア嬢が自分の弟子だって分かったとき目を疑ったよ。んでもさ神装を発動するタイミングも体の動かしかたも俺とまったく同じなんだよ。
そのとき思ったんだ。俺の弟子が俺を越えようとしてる。敵として目の前に立とうとしてるってな。そう思うと体がうずいた。テンションが上がった。心から戦いたいと思った。」
「それがウィルフリッドさん、なんですよね。」
あぁ、とタバコを握りつぶしながらつぶやいた。立ち上がるとアイリへと手を差し出す。
「まぁ、まだ弟子が師匠を越えるなんて早いってことを体に叩き込んでやるさ。」
「なんかその言い方エロいですね。」
馬鹿なことを言うアイリにジト目を向けつつ寮へと帰っていった。
海、砂浜。男ならば女をひっかけるために一度は訪れる場所であろう。普段なら他の客が大勢押し寄せるであろう海岸に水着姿のウィルフリッドとルクスが腰に手をあて立っていた。
「なぁ、ルクスよ。」
「うん、僕も同じ事を考えてるよ。」
二人揃って頭を抱える。他に女の子がいないからだ。この海に来た理由は『騎士団』メンバーの特訓である。しかしほぼ部外者のルクスと名目上だけの顧問のウィルフリッドはすることがない。
「いや、ウィルは訓練手伝わないといけないんじゃないの?」
「いやいや、その辺はセリスティア嬢に一任してるからな。それに俺が教えても彼女たちはなんか喜んじゃうし。」
あれ、めっちゃ怖いんだよ。ブルブル震えながら言うウィルフリッドの肩に手をおくルクス。そんな馬鹿なやり取りをしていると後ろからウィルフリッドの腕に抱きつく影があった。
「ウィルフリッドさん、私の水着はどうかしら?」
淡い青色の長い髪をはためかせてクルルシファー・エインフォルクがウィルフリッドへと上目使いで聞いていた。ウィルフリッドはその姿を一目見ると言った。
「クルルシファー嬢のその慎ましい胸じゃ俺を虜にはできなぁぁぁぁぁ!」
腕に関節技を決められる。クルルシファーはまだ笑顔のまま再度ウィルフリッドに尋ねた。
「私の水着はどうかしら?」
ニッコリ笑顔のままウィルフリッドの顔を見つめる。その姿に恐怖を覚えながらウィルフリッドが答える。
「ものすごく可愛いです。もうものすんごく!」
その答えにクルルシファーは少し頬を赤く染めながら腕を開放する。
ウィルフリッドのとなりでルクスが爆笑しているのでとりあえず腹パンを決めて沈める。沈んでいるルクスを横目に今度は小指を引っ張られる。引っ張っていたのはシャリス・バルトシフトだ。
「ウィ、ウィルフリッドさん。私の水着はどうだろうか。」
クルルシファーと違い本当に恥ずかしそうに聞くシャリス。その反応に普通はこうだよなぁと思いつつもサムズアップを浮かべつつ答える。
「似合ってるぜ。一瞬別人かと思ったぐらいだ。」
そ、そうかと安堵の笑みを浮かべながらシャリスは呟いた。どれだけ戦っていようと彼女たちはただの少女なのだ。その事を思うと今日の海の自由時間は正解だと思う。
「ルーちゃん、ルーちゃん。」
未だに腹パンで沈んでいるルクスに水着姿のフィルフィーが木の枝でツンツンしていた。若干ルクスを哀れに思いながら今の姿を脳内保存するために凝視する。あとでこれをネタに弄ろう。心に誓う。
「おい、天然娘!ルクスは起きたか?」
リーズシャルテが胸を張りながら堂々とこの場に入ってきた。彼女も水着を来ておりやはりルクスに見せるためにここに来たことが見てとれる。
「ルクス、許すまじ。」
「何馬鹿なことを言ってるんですか?ウィルフリッドさん。」
その場に現れたのはアイリだった。彼女の場合は訓練のためでなくルクスが逃げないためについてきている。彼女の後ろにはティルファーとノクトもついてきている。
「アイリ、ウィルフリッドさんがエロい目でこっちを見ていますよ。」
「あながち間違ってないけど貧乳見ても興奮はしねぇよあああああ!」
隣にいたクルルシファーにまたも関節技を決められる。解放されたと同時にティルファーに飛び蹴りを叩き込まれノクトには腹パンを叩き込まれる。そしてアイリはただただ笑顔でこちらを見つめている。否、にらんでいる。
「何を遊んでいるんですか?『騎士団』メンバーは特訓のために来たのですよ。」
水着姿のセリスティアと従者のサニアが姿を現す。何故水着姿なのか、その質問をすれば腰に下げている《リンドヴルム》を抜かれる気がするウィルフリッドは言葉をぐっ、と飲み込んでいた。
「セリスティア先輩は何で水着姿なんですか?特訓なんですよね。」
いつの間にか復活していたルクスが思いっきり地雷を踏み抜いた。あーあ、と額に手を当てる。
「べ、べつに楽しみにしていたわけじゃありませんから。そこのところは履き違えないで下さい!」
顔を真っ赤にして叫ぶように言うセリスティアを見ながら微笑む。やはりこの子が一番女の子っぽいと。
横にいるクルルシファーが気づいたようで怖い笑みを向けてくるが無視しながらセリスティアへと話しかける。
「ま、ちょっとくらい自由にしてもいいんじゃないか?ずっと気を張ってても仕方ないしな。」
セリスティアは少し考えると納得したように頷き自由時間になった。
「行くぞルクス!」
リーズシャルテがルクスを引っ張って海へと入っていった。それを追いかけるようにフィルフィー、ティルファー、ノクト、アイリがそのあとを追っていった。
そしてルクスが彼女たちに迫られて嬉しそうにしながらもげんなりした顔を見てウィルフリッドは海岸から笑っていた。
「彼は本当にいろんな人に愛されているのですね。」
不意に隣にやって来たセリスティアが腰を下ろした。ウィルフリッドの記憶の彼女はまだ十代にもなっていかった。
「本当によく成長したよな。色んな所が。」
下ネタ混じりで言った言葉を嬉しそうにセリスティアは噛み締める。
「はい、この強さを手に入れるために並々ならぬ努力をしたつもりです。貴方の隣に立ちたくて、貴方を越えたくて。
この夢はそう簡単に実現できるとは思っていません。だって貴方は世界最強と言っても過言ではない。でも、だからこそ貴方に勝ちたい。」
下ネタを言ったつもりのウィルフリッドは呆気にとられていた。何せこんな真面目な雰囲気にするのではなくアットホームな感じの雰囲気を作りたかったのだ。
「そ、そうだな。俺を越えられればセリスティア嬢は強くなったと言えるよ。
泣き虫のセリスティア嬢がここまで育ってお兄さんは嬉しいよ。」
泣き虫は余計です。と言いながら微笑む彼女を見つめる。早く戦いたい。弟子の成長を見たい。
「ウィルフリッドさん、組み手しませんか?」
セリスティアが立ち上がりつつ言った。
「機竜を使えば私もそれなりに強くなったと自負しています。しかしこの身一つでどこまで戦えるか。それが知りたいんです。」
弟子の格好いい一言を受けウィルフリッドは嬉しそうに笑う。
「あぁ、もちろんいいぜセリスティア嬢。お前が目指した男の強さを見せてやるよ。」
立ち上がる。
足首まで海に浸かる位置に移動しセリスティア嬢が構える。それを見てウィルフリッドは笑みを浮かべながら挑発する。
「さぁ、かかってきなセリスティア嬢。全身全霊を込めてな。」
行きます!という言葉と共にセリスティアが地面を蹴る。海水に浸かっているためか少し速度は落ちているがそれでも中々のスピードで接近してくる。それに対してウィルフリッドはただその場で構える。そしてセリスティアの拳がウィルフリッドの腹へと突き刺さる。
野次馬たちが興奮する。セリスティアの得意気な顔を浮かべるのを見ながらウィルフリッドが呟く。
「良い、拳だ。よくここまで頑張ったな。・・・、だがこれじゃまだ俺には届かないぞ。」
言うや否やウィルフリッドはセリスティアの腕をつかみ地面に、正しくは海水へと叩きつける。地面にぶつかる前に彼女を持ち上げ空中に投げ出すと拳をにぎりセリスティアへと振り抜く。
それをセリスティアは合気道の要領で受け流しつつ体勢を立て直しウィルフリッドから距離をとる。
「やはりウィルフリッドさんは凄いですね。本気の一撃だったんですが。」
「セリスティア嬢も上手いこと受け身もとったし受け流しも出来るようになったなぁ。」
感慨深くなっているウィルフリッドを尻目にセリスティアが肉薄する。連続で繰り出す拳を片手で受け止めつつ足払いを入れる。それを回避したのを見て頭を掴み投げる。
「はい、今ので地面に叩きつけられて終了!だったな。」
そうですねと息をはきながらセリスティアが悔しがりながら呟いた。ウィルフリッドがセリスティアへと近づき笑いながら手を差し出す。
「よく頑張ったな、セリスティア・ラルグリス。これでお前は一人前だ。
達人と呼ばれるには程遠いがこれからも頑張れば俺をも越えられるさ。」
その言葉に少し驚きながらもセリスティアは手を握り嬉しそうに笑った。
話の進みかたは基本的にはアニメベース。
ラノベ版でも良かったけど個人的にはアニメの進みかたの方が好きだったりする。