《クリカラ》と接続と同時に地面を蹴る。一足で五メートルを飛ぶ。その跳躍力に少し驚きつつも体を動かすように機竜を操作する。
対人に機竜を使う気はなかったが早さが重要になるこの作戦では致し方ない。死なないように加減しつつ科学者たちへと拳を叩き込む。全員が気を失い動かないことを確認するとフギルへと目で合図する。
「流石だな、ウィルフリッド。まぁ、相手に機竜使いが二桁はいないとただの蹂躙になってしまうだろうがな。」
まったくだと呟くウィルフリッドを横目にフギルはコンピューターを操作し画面に見覚えのない画面を表示させる。
目で説明を求めるとフギルは少し得意げに笑いながら説明をはじめた。
「これは《クリカラ》の性能を表している。これを見るからに《バハムート》よりも全体性能は劣る。だが一つ、他の機竜にないものがある。」
「それは?」
「《ナイトロシステム》と呼ばれるものだそうだ。機竜のカメラに捉えたものを視覚情報として送るのではなく直接脳に叩き込むものだ。
瞬時に周りの状況を理解できる。だが問題なのは脳や精神がもたないことだな。」
フギルは嬉しそうに笑うことをやめずに説明を続ける。まるで新しい玩具をもらった子供のように話を続ける。
「普段は視覚から景色を捉えているのを直接脳に叩き込む。脳への負担は大きいだろうな。
だからお前の女のミーナ・アントンはこの機竜に乗ることを良しとしなかったのだろうな。」
《クリカラ》との接続を切らずに話を聞いていた。《クリカラ》と接続してもう5分はとっくに過ぎている。大丈夫だとウィルフリッドは結論付けた。
「まぁ、何でも良いさ。それよりもさっさとお前らの親父の顔面を殴りに行こうぜ。」
それからまた城の長い廊下を歩いていた。何度か機竜使いと遭遇したが《クリカラ》の《ナイトロシステム》をフル活用し気づかれる前に裏へと回り込み首を落とすという作業を繰り返していた。
《クリカラ》の扱いにも慣れてきた頃とある大きな扉の前に来た。謁見の間だ。ここにきっと帝国の王であり、フギルとルクスの父、ディーズエルドがいるはずだ。
「行くぞウィルフリッド。これでこの帝国も終わりにする。」
その言葉を聞いた瞬間、ウィルフリッドが扉を蹴り飛ばす。ドアは数メートル吹き飛び国王ディーズエルドの前に止まる。
フギルが片手をあげながら部屋へと入ると両側から衛兵が襲いかかる。しかしフギルは脇目もふらずに歩いている。
「その程度では『帝国の凶刃』を汎用型で倒した男には届かんぞ。」
フギルの言葉と同時にウィルフリッドが衛兵の一人の顔を掴みもう片方の衛兵に叩きつける。倒れた二人の衛兵の顔面を掴み直し地面へと叩きつけ完全に動かないことを確認すると手を離しフギルの後ろを歩く。
「フギル、何をしにきた。謁見を求められた覚えはないが?」
「父上は面白いことをおっしゃる。この状況で貴方はまだ自分が王だとでも思っているのですか?
滑稽も滑稽。もう貴方に着いてくるものはそこにいる自分の利益しか求めないクズだけですよ。」
言葉と共にウィルフリッドが飛び出す。ディーズエルドの周りにいる貴族を風圧だけで吹き飛ばしディーズエルドの首もとに機攻殻剣を突きつける。
「降参してください父上。肉親を殺すのは忍びない。」
得意げに笑いながらフギルが自分の父を足踏みにしながら尋ねる。イライラしているのが目にとれるがディーズエルドは静かに笑いながら言った。
「いや、お前では勝てんよ。何せお前の従者は《クリカラ》を使っているのだからな。」
そう言うとディーズエルドが懐から取り出したボタンを押した。するとウィルフリッドの機竜、《クリカラ》に異変が起きた。
光を放ちながら形が変わり始めたのだ。騎士のようなフォルムが完全に崩れ去りアビスに近い本物の竜を想像させる姿へと変わっていた。そして
「・・・・くくく、はははは、やっとかやっと誰か殺せるのか?さぁ、誰を殺すために俺を起こしたんだ?」
ウィルフリッドとは似ても似つかない言葉が聞こえた。燃えるような赤髪が白髪に染まり琥珀色の目は綺麗な青へと変わっていた。
フギルが絶句しディーズエルドが、得意げに笑う。そしてディーズエルドが叫んだ!
「さぁ、やれ!《クリカラ》の意思よ!思うまま殺し尽くせ!」
叫んだディーズエルドの胸に剣、いや刀が突き刺さっていた。
「なん、だ?これは私、は死ぬ、のか?」
仰向けに倒れて息を引き取った。
「うるせぇぞ、俺は目が覚めたとこでちと機嫌が悪いんだ。それぐらい察しやがれ。・・・、でそっちの餓鬼はどうするんだ?」
ディーズエルドの死体から刀を抜き取りつつウィルフリッド、いや《クリカラ》はフギルへと尋ねる。言葉を間違えれば死ぬ。そんなことが容易に感じ取れるほどの圧力を感じながらもフギルは口を開く。
「俺は戦わないさ。それに俺はお前に良い殺しの場を用意することが出来る。どうだ?俺と共に来ないか?その体の主、ウィルフリッドと共に。」
少し《クリカラ》が悩むように顎に手を置く。そしてウィルフリッドのヤクザ顔でフギルを見る。フギルは気圧されしていたがぐっ、と堪えていた。自らの正義のためにこの男、いや《クリカラ》は必要だと判断したからだ。
「貴様の考えてることは見え透いているぞ。俺を利用したいのだろう?だがまぁ戦って殺せるならそれもありだろうな。
貴様の考えに乗る前に一つ条件を付けよう。」
「なんだ?」
「俺は寝起きで体がなまってやがる。誰か強いやつと戦わせな。体を起こしてぇんだ。」
あぁ、分かったとフギルが呟いた。今フギルの目的の一番の障害となるものそれはルクス・アーカディアの存在だ。しかもルクスは《バハムート》を使っているため並の機竜では太刀打ちできない。だがしかし。
「そいつの名はルクス・アーカディア。神装機竜《バハムート》を使っている男だ。いや、まだ少年だが。」
「はははは!愉快だな。今の世界は少年が強いのか。良いぞ、たぎらせてくれる。」
《クリカラ》が本当に愉快そうに笑う。
「ウィル!」
壊れた扉から顔をだし現れたのはピンク色の髪の女性、いやまだ幼さの残る顔立ちをしているため少女とも言えるミーナ・アントンだ。
汗だくで元々のプローモーションのよさもあり普段よりも魅力的に見える。しかしフギルにとって重要なのはそこではなかった。
「何故ここにいる。ミーナ・アントン!」
「もちろん、《クリカラ》の制御をウィルに返すためだよ。」
フギルにとってこの状況でまず始末しなければならない対象が切り替わった。ミーナは《クリカラ》の発掘者にしてこの国で一番機竜に対しての知識の持ち主だ。
さらに彼女はウィルフリッドと共にいたことで少しだが護身術も使える。
「さっきから話を聞いていれば・・・、女貴様は何者だ。」
「貴方が使っている体の彼女です。」
堂々と嘘をつく。だがここにそれに突っ込みを入れるものがいないためそのまま受理される。
ミーナは心で小さくガッツポーズをとりつつ《クリカラ》をウィルフリッドを見る。完全に取り込まれており大好きなウィルフリッドの赤い髪や琥珀色の目は変色している。
「(待っててねウィル。貴方がそうしてくれたように私も貴方を助けるから。)」
懐から小型の機械を取り出し走る。愛しいウィルフリッドのもとへ。しかしそう簡単には行かない。
ウィルフリッド、いや《クリカラ》は刀をミーナに向ける。そして真横に一閃する。それはミーナの頬を傷つけるだけだったがミーナは尻餅をついてしまう。
「ふむ、殺したつもりだったがまだこの男の意思が残っているのか。凄い男だな。」
《クリカラ》は本当に尊敬するように言いつつ刀を持つ手を換えながらミーナへとゆっくりと歩み寄る。そして
「死ね。」
ミーナの心臓を刀が貫いた。血を吐き苦しそうに息を吸うミーナにフギルはほっ、と息を吐いた。
しかしミーナは止まらない。その手に持つ機械を《クリカラ》へと取り付けた。
「き、貴様!何を!」
その瞬間《クリカラ》が苦しみウィルフリッドの体に異変が起きた。髪の半分が赤に戻り片目のみ琥珀色に戻っていた。
「ミーナ!ミーナ!」
叫ぶウィルフリッド。しかしその声にミーナはただ、笑顔で答えるだけだった。泣きそうなウィルフリッドの顔を血で濡れたその手で撫でながらミーナが呟いた。
「私ね、本当に、ウィルがあの、こ、ろから。大、好きだった、んだよ?」
「あぁ!俺もお前が大好きだ!異性として、一人の女として。お前は俺の俺の・・・。」
涙で顔がぐちゃぐちゃなウィルフリッドにミーナは笑いかける。そして言った。
「生きて、ウィル。きっ、とウィルにしか、救、えない人、た、ちがいるから。」
そしてミーナの手がウィルフリッドの顔から滑り落ち静かに目を閉じた。
咆哮が城の中の響いた。自らの罪を嘆くように。ミーナを抱きながら泣いた。
「ってことがあったんだ。まぁ、アイリにも全部は話してなかったな。」
海辺でウィルフリッドの話を聞いていたアイリ、クルルシファー、セリスティア、シャリス、ノクト、ティルファーの6人は黙り混んでしまっていた。それに苦笑を返しつつもウィルフリッドは再び口を開く。
「つまりだ。俺は何よりも自分のしたことが罪だと思っているし俺が生きてちゃいけないとも分かってる。
ただそれでも俺はフギルを殺す。アイツを殺して俺も死ぬ。それが俺の願いだ。」
「きっとウィルは自分が生きていてはいけないと思ってる。そして自分の願い、僕の兄さんのフギルを殺せば自分も死ぬ気なんだ。」
ルクスもリーズシャルテとフィルフィーに話をしたのち付け足していた。
「私はそんなの寂しいな。ウィル君も私の大切な友達だし。」
フィルフィーの呟きにルクスは笑いかけて頭を撫でながら口を開く。
「僕はそんなことはさせない。もうウィルに自分の意思で人を殺すようなことはさせない。死ぬこともさせない。
あのヤクザ顔は気づいてないだろうけどウィルのことを大切に思ってくれている人はいっぱいいるんだ。」
「もし、ウィルフリッドがその時を迎えようとしたらどうするんだ?」
リーズシャルテがルクスの胸に手を置き上目遣いで話しかける。その姿に少しどぎまぎしながら答える。
「ぶん殴ってでも連れ帰りますよ。」
そして次の日、ウィルフリッド対セリスティアの模擬戦が始まる時間となった。特殊な結界でフィールドを囲んでおり回りへの被害は最小限になるようになっている。
そのフィールドでウィルフリッドは腕を組みつつセリスティアが来るのを待っていた。何時も時間に正確な彼女がもう5分は遅れていた。
「セリス先輩どうしたんだろ?」
ルクスがボソッ、と言った瞬間結界の一部が開き、一人の少女が姿を表した。金色の長い髪を振りながらやって来た。セリスティア・ラルグリア。
「ウィルフリッドさん。」
セリスティアが控えめにそれでも確固たる意思を持って自分の師であるウィルフリッドの名を呼んだ。
「私は貴方のように強くなりたいと願いました。だから今までも誰よりも強くあることを自分の存在の意味だと思って来ました。」
ウィルフリッドはそれを笑顔で聞く。
「昨日の話を聞いて私は怒っています。昔、ウィルフリッドさんに教えてもらいました。『過去ではなく先を見ろ』と。
でもウィルフリッドさんは今を見ていない。と私は考えています。なので今日はウィルフリッドさんを倒して生きる目的そのものを私に勝つことに変えます。」
そう言うとセリスティアは自分の機竜、《リンドヴルム》と接続した。
「は、俺を倒すと来たか。まだまだ師匠の壁は高いことを教えてやろうじゃないか。」
ウィルフリッドは得意げに笑うと《クリカラ》と接続する。
そして開始の鐘が鳴ると同時に両者は飛び出した。
セリス先輩がヤクザに喧嘩を売りました。
そしてもちろん喧嘩を買うヤクザ。