ウィルフリッドは刀を、セリスティアはその手に持つ大型の槍を振るっていた。
ウィルフリッドは刀の腹に滑らすように大型の槍を受け流し腰に下げている刀を居合斬りの要領で抜き放つ。しかしセリスティアはそれを読んでいたように大きく後ろへと跳躍する。それをウィルフリッドは逃さず追撃する。セリスティアは慌てずに肩についているキャノンで攻撃する。
「腕を挙げたなセリスティア嬢。」
「これでもこの学院の最強ですから!」
セリスティアが叫びながらウィルフリッドへと肉薄する。大型の槍を高速で突く。それをウィルフリッドは嬉しそうに笑いながら受け流す。
「むぅ、あれを受け流すのか。やはりあのヤクザはやるな。」
リーズシャルテが納得したように頷いていた。しかしルクスにはとても腑に落ちなかった。
「なんかウィルの動きがおかしいんだよなぁ。」
「どういうことかしら?何時もと大差ないと思うけれど。」
クルルシファーの疑問にそこにいたメンバー、リーズシャルテ、クルルシファー、フィルフィー、アイリ、ノクト、シャリス、ティルファーが揃って頷いていた。
何時ものように相手の全てを引き出すような戦い方。それは何度もウィルフリッドと共に戦ってきた彼女たちが感じたことだった。
「あー、それはまだ本気じゃないんだ。ウィルはさっきセリス先輩をライバルと認めたんだと思う。そのウィルが手を抜くとは思えないんだよな。」
ウィルフリッドがセリスティアと肉薄しながらもすべての攻撃をいなしながらなにかを探しているようにも見えた。しかしルクス以外にそれに気づいた者はいなかった。
そしてルクスは回りを見渡す。そして気づいた。
「そう言うことか。ティルファー、ノクト。一緒に着いてきて!リーシャ様たちはすぐに動けるようにお願いします。」
ポカンとするリーズシャルテ達を横目にルクスは駆け出した。
うし、気づいたな。ルクスがフィールドを出ていったのを確認しウィルフリッドは息をはいていた。多分、セリスティア嬢は気づいていない。しかしそれで良いとも思う。
汚れ仕事は全て自分のもとに来れば良い。ウィルフリッドはそう考えている。
「はぁぁぁ!」
セリスティアの気合いの籠った一撃を刀で受け流す。しかし彼女は攻撃をやめない。ウィルフリッドの教えを受けているだけあって攻撃をやめない。防御を捨て攻撃する隙を与えない。
自分よりも強い敵と戦うときの基本である。自分よりも強いということは防御を抜かれる可能性が高くなる。ならば攻撃させない。それがウィルフリッドの教えである。
「本当に嬉しいぜ、セリスティア嬢。今までここまで対等に戦えるのは今のところルクスだけだからな。」
黙り込みそれでも目だけは戦う意思を残し立つセリスティア嬢にウィルフリッドはため息をつく。
「はぁ、俺を助けたいって言うならまず自分の戒めをどうにかしてからだろ?
そんなことも分からないセリスティア嬢じゃないだろ?」
「もう謝ってきましたよ。」
セリスティアの消えそうな声を聞く。
「昨日、ウィルフリッドさんの話を聞いてただ遠ざけるのではなく分かり合うことが大切だと思いました。
あのあとすぐにルクスの部屋に行って本当のことを言いました。ルクスは許してくれたんです。『貴女のせいじゃない。祖父は自分が正しいと思ったことを実行しただけです。』と。」
そうか、と呟き、ウィルフリッドは笑った。自分の弟子達の成長を見て。そしてウィルフリッドは地面を蹴りセリスティアへと肉薄する。
「それができたならセリスティア嬢ももう高みへ上れる一人だ。一人で抱え込むな!回りを頼れ!」
そう言いながら刀を叩きつける。それを寸前でガードするセリスティアの脇腹を蹴り飛ばす。
「そうやって人は強くなっていくさ。」
刀での追撃をセリスティアは回避するとウィルフリッドの腹へと拳を叩き込む。しかしウィルフリッドは嬉しそうに笑うだけで堪えたような顔を見せず刀を投げ捨て拳をセリスティアへと叩きつける。
そしてお互いに笑った。戦いを楽しむように。
ガチャ、という扉の鍵が外れた音が辺りに木霊した。鍵を開けた少女は得意げに笑うとその扉へと足を向ける。
「そこまでです。」
不意に聞こえた男の声に少女は振り返った。そこにたっていたのは白い髪が特徴のルクス・アーカディア。さらには『三和音』のノクト・リーフレットとティルファー・リルミットだ。
「おとなしくしてくださいねサニア先輩。いえ、ヘイブルグ王国スパイのサニア・レミストさん。」
サニアと呼ばれた少女の動きが止まる。此方に振り返るとおどけた様子を見せる。
「はぁ、頭が切れる子は好きよ。でもルクス・アーカディア以外は邪魔ね。」
そう言うと不意にサニアが機竜《ワイバーン》と接続する。遅れてルクス、ノクト、ティルファーも各々の機竜と接続する。
そして、笛の音が鳴り響いた。その音はとても不快で思わず耳を塞いでいた。
「お前たちでは絶対に逆らえない力を見せてやるよ。」
そう言ったサニアの《ワイバーン》の形が変化していた。それも一つの生き物のように蠢き出した。
「これは、不味い!」
ルクスがノクトとティルファーの前に盾になるように動く。そしてサニアの目にも止まらない斬撃を受け止めていた。しかし出力が違いすぎるのかルクスの《ワイバーン》片膝をついている。
しかも《ワイバーン》の腕の関節からは煙が上がっている。
「ノクト、ティルファー!リーシャ様達を呼んできてください!この人はここで止めないといけない!」
ノクトとティルファーは無言で頷くと全力で来た道を引き返した。
「一人で勝てると思っているのか?没落王子!」
ルクスは必死にサニアと力比べをしながら歯軋りした。初めから《バハムート》を使えば勝てたかも知れない。だがそれでは自分の訓練にならない。それにこの程度の逆境ならばいくらでも乗り越えてきている。
そしてこの少女をウィルフリッドに近づけてはならない。そんな予感がしていた。彼女とウィルフリッドが戦うことになればまず間違いなく彼女は殺されウィルフリッドはまた背負わなくてもよかった罪を背負うことになる。
「僕は貴女を止める。こんな無駄な戦いは終わらせる!」
「無駄かどうかはお前が決めるんじゃない。私が決めるんだ!」
サニアの咆哮にも似た叫び声を聞きながらルクスは思いっきり地面を蹴った。
近づきつつブレードを投げる。それをサニアはその手に持つブレードで弾く。
「そうしてくれると思いました。」
ルクスはウィルフリッドから教わったミスディレクションで姿を消しサニアも懐へと潜り込み拳を叩き込む。一撃では終わらせず右左交互に拳を撃ち込んでいく。止めに回し蹴りを叩き込みサニアの体を吹き飛ばした。
「やっぱり《ワイバーン》じゃ出力不足か。」
ダメージを全く感じさせないほど立ち上がるサニアにルクスは少し苛立ちを感じていた。ウィルなら機竜無しでもダメージを通せるんだろうなぁ。と考えながらもルクスは動きを止めない。
立ち上がった瞬間を狙い拳を叩き込む。しかしその拳は片手で受け止められていた。
「ふん、やはり《ワイバーン》ではその程度だ。」
サニアは得意げに笑いつつルクスを地面に叩きつけようと腕を動かすがルクスは《ワイバーン》の腕をパージし回避する。腕を失ったことに舌打ちをしつつ辺りを見渡す。
「残念ながらこの辺りに投擲出来るようなものは転がっていないぞ没落王子。さぁ、抜けよ《バハムート》を。」
サニアの挑発を受け流しつつ現在の《ワイバーン》の状態で出来ることを探る。
と言ってもやはり出来ることは時間稼ぎだけである。
「どうせ、時間稼ぎが狙いだろうがそれは無駄だぞ没落王子。」
向こうにはお前らが束になっても敵わない化け物がいるからな。サニアがそう言いきると同時にルクスは《ワイバーン》との接続を解除し《バハムート》を呼び出す。サニアが知覚できるよりも早く動き出す。
「暴食!」
《バハムート》の神装を惜しみ無く使いサニアを吹き飛ばす。しかしルクスはサニアに一別も暮れずにウィルフリッドのもとへと走り出していた。
「もし、ラグナレクが出てきているとしたらウィルは最後の鍵を開けかねない!」
ウィルフリッドは《クリカラ》の固有武装の刀を全て解除し身一つの状態になっていた。自らの本気を出すために。彼女、セリスティアにはその価値があると思っている。
《クリカラ》の完全解放は行わず3割ほど彼の《クリカラ》本人を目覚めさせる。
「やるぞ、《クリカラ》力を貸せ。」
《クリカラ》が薄く発光し、ウィルフリッドの脳に情報が流れ込む。その情報を読み取り最短コースを少ない歩数で進む。
「ま、さか!」
セリスティアは驚きつつも大型の槍でガードするように前へ突き出すが気がつけばウィルフリッドはそこにはいない。横からの強い衝撃を浴びながらセリスティアは体勢を建て直しウィルフリッドを見る。
今確実にガードしたはずだった。それを見失った。ならば、とセリスティアが神装《支配者の神域》を発動しウィルフリッドの裏へと回り込み《電光穿槍》を叩き込む。
それに対してウィルフリッドがとった行動は至極単純なものだった。《電光穿槍》を思いっきり殴り付けた。雷を体に浴びながらも動きを止めず腕を振り抜きセリスティアを吹き飛ばした。
「何を、したんですか?」
セリスティアの驚きと少し絶望の混ざった声がウィルフリッドへと届く。
「うん?気を読んで大体の位置を把握してから《クリカラ》の《ナイトロシステム》で全方位を警戒しながら思いっきり打撃しただけだ。」
セリスティアは唖然としたがふっ、と笑った。まだまだこの人は越えられない。私じゃこの人の生き方は変えられないと。
その時爆発が起こった。フィールドの一角が崩落しその場所から巨大なイカのような生き物が現れた。そしてウィルフリッドがボソッ、と言った。
「ラグナレク、だと?この辺りに遺跡があるのか?」
しかしそんなことは誰も聞いていない。ラグナレクの出現と同時に男の機竜使いが『騎士団』の女子生徒を襲い始めたからだ。
ちっ、と舌打ちしながらウィルフリッドはラグナレクへと向き直り、先程棄てた刀を2本拾いながらセリスティアへと話しかける。
「セリスティア嬢は生徒の救出を頼む。王女殿下やクルルシファー嬢はもう戦っているはずだ。頼むぞ。俺はあのデカブツをぶっ殺す。」
ウィルフリッドはセリスティアにそう言い放つとラグナレクへと向かって駆け出した。
格好いいだけではウィルフリッドには勝てない。圧倒的な実力差には覚醒っぽいイベントで勝てるほど柔なものではないと言うことだな。