今回は病室送りとはならなかった。ウィルフリッドはその事に1度は喜びを覚えていた。しかし今は違う。どちらかというと病室送りになりたい。
「良いですか?ウィルさん。貴方は強いと言っても一人の人間であることにはかわりないのです。今回は怪我もありませんでしたから良かったものの。
もうこれからはあんな無茶はしないでください。」
セリスティアが顔を真っ赤にして怒っていた。それをなんとかなだめると次はクルルシファーがやって来た。
「帰ってくるなら何でも良いけれど今日は1日離さないからね。」
と言って腕から離れない。いや、それどころかクルルシファーのないと言っても過言ではない例のあれを無理に押し付けようとしているせいで骨が当たって痛いなんて口が割けても言えない。
それを言ってしまえば確実に今クルルシファーが抱えている腕は一生使い物にならないだろう。
「はぁ、セリスティア嬢もそんなとこで見てるなら此方に来いよ。」
木の影に隠れているセリスティアに呆れながら呼び掛ける。寂しいなら来ればいいのにという少々ずれた考えをしつつも両側にいる少女に目をやる。そして思った。
「(俺のタイプは大人の女の人なんだがなぁ。)」
はぁ、と小さく溜め息をつくと空を見上げる。昨日、ヘイズの攻撃から一晩。今日は練習も休みとなり各々が好きなところへと出掛けている。
ちなみにルクスはリーズシャルテとフィルフィーに連れ去られている。ルクスが生きて帰ってくることを心の片隅で祈る。
「それにしても、昨日はいったいなんだったんでしょうか?ウィルフリッドさんの戦闘は見てないので何とも言えないのですが。」
「そうね、此方もルクス君が来なかったら危なかったし。」
クルルシファーとセリスティアに昨日のことを教えてもらうことに。
男の機竜使いたちと一生懸命戦い途中まではいい調子だったそうだが急に人数が増え押しきられそうになったところでルクスが現れたそうだ。
そのままルクスはバハムートで男の機竜使いたちを駆け抜けながら斬っていき、アイリが居ないことに気づくと何処かに走っていってしまったらしい。
「んで、俺のとこに来たわけだな。あんときはビックリするほど殺気だってたからルクスが来たのもすぐに分かったからなぁ。」
「それぐらいアイリさんのことを大事にしていると言うことですね。」
そうだろうなぁ。と呟くようにウィルフリッドが答える。あのときルクスが来なければどうしていただろうか?ウィルフリッドは自分の未熟さを思い、気づけば拳を強く握りしめていた。
「ウィルさん、きにする必要はないわ。」
「そうです。ウィルフリッドさんが気にしなくても良いのですよ。」
クルルシファーとセリスティアがそれぞれ腕をとる。長年付き合っている恋人のように寄り添う二人に苦笑する。結果的にウィルフリッドはアイリになにもしてやれなかったが救うことはできた。
怒りに任せて特攻してアイリを傷つけていたほうがきっと自分へのダメージは大きかっただろう。
しかしだ。クルルシファーはともかくセリスティアがここまで積極的なアピールをしてくるとは思ってもみなかった。
「(この学院生は本当にキャラが濃いなぁ。学院最強がこれだしな。)」
ははは、と乾いた笑みを浮かべるとクルルシファーとセリスティアが小首を傾げる。
そんな二人に笑いかけつつつかの間の休息を過ごしたのだった。
「ってことが此方では話してたんだがお前の方はどうだったんだ?なんか進展あったのか?」
話題をふった瞬間ルクスの顔が真っ青になっていた。
「ふふふ、この話を聞くと多分ウィルは今日生きていられるか分からないよ。」
「うん、なんか予想できるから聞くのやめとくわ。」
ルクスの乾いた笑みに心の中で合掌しつつ階段を下っていく。
今ウィルフリッドとルクスは蝋燭の灯りしか灯っていない階段を下っていた。理由は学院長であるレリィからの呼び出しだ。
「しっかしこの宿舎に地下があるなんて思ってもみなかったなぁ。」
そうだねぇと呟くルクス。
そうこの地下へと続いている階段は隠されていた。物置の奥にある隠し扉を開きそこでレリィに教えてもらったパスワードを入れると階段が現れると言う仕組みになっているそうだ。
どうやら学院生はリーズシャルテやセリスティアといったメンバーもこの地下のことは知らないようで口止めされている。
「あ、階段が終わってる。」
ルクスに続き階段を下り終えた先には扉があった。念には念を込めウィルフリッドとルクスは機攻殻剣を抜き、扉を開ける。
「兄さん、ウィルフリッドさん警戒しすぎです。」
一番始めに目にはいったのはアイリの姿だ。何時もの制服姿で軽く此方をジト目で見ている。ルクスとウィルフリッドはははは、と乾いた笑みを浮かべ返事するとはぁ、と疲れたように溜め息をついた。
「え~と、漫才はそろそろおしまいで良い?」
アイリのさらに後ろから声がする。声の方へと目を向けるとそこにはレリィの姿があった。
片手をあげてレリィに挨拶するとレリィがニッコリ笑う。
「さて、早速だけど本題に入るわね。まず何故今のタイミングでラグナレクが現れたかだけれど。ウィルフリッドさんは戦って何か感じなかったかしら。」
「いや、何も感じてねぇよ。ただ、ラグナレクは俺の言うことを聞くんだよ!って言ってる奴にはあったぞ。」
アイリとレリィが驚いたようで座っていたイスから落ちそうになっていた。ルクスだけには事前に伝えていたため驚きはない。
二人が静かに椅子に座り直すとレリィが口を開く。
「それは本当なの?」
「間違いねぇよ。あと前に回収した角笛な、あれは遺跡の鍵じゃなくてアビスを操るもんだ。さっき言った奴、名前は確かヘイズだったかな。アイツも同じもんもってたぞ。」
顎に手をやり考えるレリィを無視しアイリへと目を向ける。ヘイズに捕まっていたときにどうやら怪我もなくただ気を失っていただけだった。
その事に安堵する。ルクスが隣でニヤニヤしながら此方を見ているので腹パンを叩き込んでから耳元で告げる。
「あとで王女殿下やフィルフィー嬢にあることないこと言うからな。」
腹を押さえながらさらに悶絶するルクスを見下し優越感に浸る。
「本当にウィルフリッドさんと兄さんは馬鹿ですよね。」
自然に馬鹿にするアイリにジト目を向けるが無視される。女の強さに驚愕しながら溜め息をつく。
ウィルフリッドとルクスは本当に女に勝てない。物理的にはではなく精神的に。その事に少し肩を落とす。しかし今に始まったことではないので空しいという感情しか出てこない。
「ねぇ、ウィル。」
「なんだ、親友にして我が弟子よ。」
いつの間にか復帰していたルクスは呟いた。
「僕たちって何処で道を間違えたんだろうね。」
そうだなぁ。としみじみする。
「本題はこれではないから今はまぁ、良いわ。次が本題よ。明日リーズシャルテ様、セリスティアさん、クルルシファーさん、フィルフィー、『三和音』の三人を連れて遺跡探索に向かいます。」
嫌なことを感じ取ったようでルクスが背を向けて走り出す。しかしレリィは慌てずにルクスに向けて声をかける。
「そう言えば今日フィルフィーがルクス君と一緒に寝たいって言ってたなー。」
「で、何をすれば良いんですか?」
綺麗な回れ右をしてルクスが帰って来た。そんなにも自分の寝室にフィルフィーを送り込まれるのが嫌なのだろうか。胸でかいし嬉しいと思うけどなぁ。という考えを頭から投げ捨てる。
「なんだか妹が蔑ろにされている感じがするわね・・・。まぁ、良いわ。依頼は簡単よ。護衛をしてほしいの。」
その頃リーズシャルテ、クルルシファー、セリスティア、フィルフィー、シャリス、ノクト、ティルファーの7人は宿舎にある風呂に入っていた。ここの風呂は露天風呂のようで野外にある。
「露天風呂とは中々に落ち着けるのですね。」
湯に浸かりながらセリスティアが大きく息を吐きながら呟いた。
「あぁ、本当だなぁ。普通の風呂のはずなのにやけに落ち着くというかなんというか。」
リーズシャルテも満更でない顔をしている。クルルシファーやフィルフィーも同じように少しだらしない顔をしながら湯に浸かっている。
『三和音』の三人は先に体を洗っているようでここには居ない。
「皆さんはウィルさんやルクスの過去を知っていましたか?」
不意にセリスティアが重たい空気を作りながら呟いた。それに対してクルルシファーは涼しい顔で答える。
「知らなかったわ。でも話してくれて嬉しかったわ。ウィルさんのことをもっと知れたんですもの。過去に女がいたなんて今は関係ないですもの。」
胸を張るクルルシファーにリーズシャルテが少しげんなりした顔を見せるがふっ、と笑うとリーズシャルテも口を開いた。
「クルルシファーと意見は似たようなものだが私はあの馬鹿二人を助ける気だぞ?あいつらに比べて我々が力不足なのは分かっている。だけどな、」
「ルーちゃんも、ウィル君も、友達、だもんね。それに二人が、居なくなったら寂しい。」
リーズシャルテの言葉を引き継ぐようにフィルフィーが口を開いていた。
「あら?それだと私はまるで助ける気がないみたいな言い方ね。私はウィルさんだけは助けるわ。」
クルルシファーが皮肉も込めてリーズシャルテに向かって言った。
「そう、ですよね。私たちが彼らを支えなければなりませんよね。」
セリスティアの目にやる気が満ち溢れている。リーズシャルテがあーあ、と呟いた。
「明日からの特訓は量を増やして頑張りましょう。」
リーズシャルテが頭を抱え、フィルフィーとクルルシファーが無言で湯船から出ていった。
そのタイミングで『三和音』の三人、シャリス、ノクト、ティルファーの三人が湯船に浸かる。
「どうしたんだ?シャリス。クルルシファーとフィルフィーが足早に風呂を後にしたようだが。」
「Yes、何だか様子がおかしく見えましたが・・・。」
シャリス、ノクト、ティルファーに詰め寄られセリスティアは頭を抱えた。自分はなにかおかしなことを言ったのだろかと。
やはりセリスティアは天然の臭いがプンプンしますな。