決戦後ですな。ラノベで言うと4巻のエピローグ部分ですな
目を覚ますとそこに広がっていたのはここ数ヵ月で見慣れた天井だった。戻ってきていたことに少し驚きつつ再び目を閉じる。
「ふわぁ、よく寝たなぁ。」
そう言いながらウィルフリッドが体を持ち上げようとすると腕に重みがある。布団をめくろうにも両腕ががっちりと押さえられている感覚だ。
仕方がないので感触で確かめることに。まず右腕から確かめる。手のひらから二の腕にかけてとても柔らかいものに包まれている。特に二の腕はまるで胸に包まれている気分だ。
そして左手は対照的だった。手のひらから二の腕にかけて包まれているのは分かる。しかし二の腕部分は削られるような痛みを感じる。まるでない胸を押し付けた挙げ句に動かしているような感じだ。
「あぁ、これ大体分かったな。」
右腕の胸の感触を顔がにやけそうになるのをどうにか我慢しつつ堪能する。
「セリスティア嬢もクルルシファー嬢も無事だったってことは皇女殿下やフィルフィ嬢も無事ってこったな。」
胸を撫で下ろす。そしてあのときのことを思い出していた。
「フギル、何しに来やがった。」
ウィルフリッドは全身に走っている痛みを無理やり押さえ込みながらフギルを睨んでいた。この状況でフギルの登場は確実にヘイズの回収だろう。
「分かっているんだろ?俺はそこの皇女を助けに来ただけだ。」
「皇女、だと?」
不信な目をヘイズへと向ける。当のヘイズは先程までの恐怖が消えていないようで顔には恐怖が浮かんでいる。股の部分は濡れていることから漏らしていることが分かった。
ウィルフリッドはそんなヘイズから目を離すとフギルに対して体を戦闘体勢へと移行する。
「おおっと今お前と戦う気はないぞ。今のお前と戦っても勝負にはならんからな。それはお前自身も分かっていることだろ?」
だからどうしたと言わんばかりにウィルフリッドはフギルを睨み付ける。やれやれと言った様子でフギルが顔をしかめる。
ウィルフリッドではなく《クリカラ》が口を開く。
『久しぶりだな餓鬼。それなりに育ったようだな。あのときのお前は機竜も持っていないあまちゃんだったが今は違うんだなぁ。』
《クリカラ》が本当に懐かしそうにフギルへと話しかけていた。フギルはそれを聞いてニヤリと笑うと《クリカラ》に声をかける。
「ええ、それはねぇ俺も強くなる必要があったからな。もうお前やウィルフリッドにひけはとらない程度には強くなったと自負しているぞ。」
その言葉に反応したのはウィルフリッドだった。
「じゃあ、試してやるよ。死ね。」
傷だらけの体を一度叩き地面を蹴る。それは何時ものウィルフリッドにしては遅いと言える速度しか出ていない。だが普通の人から見れば目で終えないスピードだ。その勢いのままウィルフリッドが刀を横凪ぎに切り裂いていた。しかし、
「だから言っている今のお前では俺は倒せない。」
『抜かせ、餓鬼が。』
《クリカラ》が追撃を叩き込もうと刀を分裂させ投合する。それは完全にフギルも狙っているためフギルに回避という選択肢はなかった。
直撃し、砂煙が立ち上がる。ウィルフリッドはまだ警戒を辞めていない。
「あれだけやってしまえばもう跡形も残ってないんじゃないかしら。」
クルルシファーのその言葉は砂煙が晴れることで簡単に否定される。そこには傷ひとつないフギルと頭を押さえて丸くなっているヘイズがいた。その事にウィルフリッドとルクス以外の全員が驚愕していた。
ウィルフリッドが今手負いで全力を出せていないのは目に見えていた。とはいえ丸腰の相手を仕留められないウィルフリッドではないというのは分かっていた。
「てめぇ。」
ウィルフリッドのその呟きをフギルは笑って受け止める。
「分かっているんだろ?ウィルフリッド。俺とお前は同じなんだよ。道は全然違うけどな。」
フギルがヘイズを肩へと担ぐとウィルフリッドの方へ視線を向けながら言った。
「さて、それでは俺はこれで失礼するよ。俺はこんなんでも急がしい身でね。
あぁ、あと早く逃げた方がいいよ。ここの番人のユグドラシルが死んだんだ。この遺跡はどうなるかわからないからね。」
フギルは《エクス・ワイバーン》と接続しキャノンで道を作るとそのまま飛び立っていった。
この時リーズシャルテ達はフギルを撃とうと狙っていたが出来なかった。まるでウィルフリッドが本気を出したときの威圧感のようなものを彼女たちは感じていたのだった。
「って、まずいぞ!遺跡が崩れ出してきたぞ!」
リーズシャルテの一言で全員が我に返った。ノクトがアイリを背負い、ティルファーがレリィを乗せる。シャリスが安全を確保しつつフギルの開けた穴から出ていく。セリスティアがフィルフィを背負いながらそれに続きリーズシャルテがルクスのもとへクルルシファーが此方に向かって走ってくるのを見た所でウィルフリッドの意識が暗転した。
そして今に至る。最後の方はうる覚えなのであったているかどうかは不明だ。ただ、今はこれで良いだろう。そう結論付け、目を開き自分の攻殻機剣を確認する。
《ワイアーム》と《クリカラ》、2本の攻殻機剣が壁に立て掛けている。
『よう、起きたかウィルフリッド。』
「何のようだ《クリカラ》。つーかてめぇ接続している間しか喋れねぇのにどうやってんだ?」
ウィルフリッドは頭に響く《クリカラ》の声に首をかしげながら質問した。
『答えとしてはお前はリミッターを外しすぎた、ってことだ。おかげで俺はもうほとんどお前と一体化しているぜ。
一緒に寝ている嬢ちゃん方をほどいて鏡を見てみな。俺の言っていることが分かるぜ。』
不思議に思いつつも両腕にしがみついているクルルシファーとセリスティアを引き剥がし見てみる。
ウィルフリッドの特徴とも言える燃えるような赤髪は端になるほど灰色に染まっている。更に目は左目がウィルフリッドの色の琥珀色、右目が碧へと変色していた。
『これで俺はお前を乗っ取るのにあと1歩になったていうわけだ。』
《クリカラ》の声を聞きながら自分の変化を確認する。身体には何ら影響は無さそうだ。しかし、この髪と目はどうやっても隠しきれない。というか髪はバレていると考えた方が良い。
目は眼帯でも着ければ何とかなるだろうがそれでは何か中二病臭さが出て来て嫌になる。
「諦めるか。そうだ《クリカラ》お前俺と一体化してるってことは俺の感情もお前に流れてるんだよな。」
『まぁ、そう言うことだ。お前があのミーナとか言う嬢ちゃんを大事にしていたことを今初めて知った。』
だがなと《クリカラ》は一度言葉をきり、また話す。
『俺は謝りはしない。お前が俺をどれだけ恨もうとも俺の知ったことではない。それだけは覚えておけ。』
はぁ、とため息をつく。確かに恨んでいる。しかしあのときのことは仕方なかったと思えるほどにはウィルフリッドは大人になっている。
『ほうそれで良いのか?』
「良いか悪いかじゃねぇよ。間が悪かった。それだけだ。」
ウィルフリッドは言葉をきり一度クルルシファーとセリスティアの寝顔を見てから微笑み《クリカラ》にはっきりと言った。
「もし、お前がこの学院の生徒を殺すと言うなら俺はお前の精神なんかぶっ殺して俺も死んでやる。分かったな?」
『はっはっは!俺を殺して自分も死ぬときたか。流石頭のぶっとんだ馬鹿だな。』
はっ、と鼻で笑うとウィルフリッドはイタズラする前の少年のように悪い笑みを浮かべながら言った。
「その馬鹿の話にのっかれるお前も頭のぶっとんだ馬鹿ってことだな。」
二人揃って大声で笑う。そんな声でクルルシファーとセリスティアが目を擦りながら目覚めた。そしてウィルフリッドを確認すると二人とも固まってしまった。
不思議に思ったウィルフリッドが二人に寄っていくと同時に抱きつかれた。
『いつか、その時は来るぜ。それまでは楽しくやんな。』
《クリカラ》がボソッと呟いたと同時にクルルシファーとセリスティアの泣き声が周りの音をかき消していた。
「やっぱりそっちも同じ感じだったんだね。」
「お前のとこもか。」
夜、ウィルフリッドとルクスは学院の屋上にて寝転び星を眺めながら話し込んでいた。
星が輝くのを見て綺麗だなぁと思う。ここ最近は厄ネタや厄介ごと等でこうしてゆっくりと星を眺める機会が減っている。ルクスと二人で毎日仕事をこなしている間はほぼ毎日見ていた。
「で、ウィルフリッドは平気なの?髪も右目も完全に《クリカラ》の色になってるよね。」
ルクスの顔を見る。本当に心配しているようで真顔で此方を見ていた。そんなルクスに苦笑を向けつつ答える。
「あぁ、大丈夫だ。今は寝ているし、コイツはミーナを殺したけどそんなに悪い奴じゃねぇしな。」
「僕らと同じようなキチガイだしね。」
違いねぇ。そう二人でゲラゲラと笑う。そんな笑い声が夜に響く。学生達が眠っていることを考慮して声を出して笑うことを直ぐに辞め立ち上がる。
「俺はさ、ルクス。お前らやミーナと出会うまで生きる為に戦場で人を殺してきた。何人も何人も殺して金を稼いで生きてきた。親がいなかったからな。」
話始めたウィルフリッドをルクスは見つめていた。
「でさ、俺戦場で人の死骸とか食ってたんだぜ。生きる為に。そんな奴がさ人に何かを教えるなんて馬鹿馬鹿しいよな。
でも俺はこんな生活が、この学院の生徒がこの国が大好きだぜ。ミーナには悪いがきっとこんな世界が作れたのはミーナが自分の命をかけて俺の暴走を止めてくれたからだと思ってる。」
俯いてしまったルクスにウィルフリッドは笑いかけながら言葉を続ける。
「だから俺はこの国を守るぜ。何の為にじゃない。俺自身の為にな。そのせいで俺が殺されたって文句は言わねぇ。こんな悪人は平和な世界で生きている意味はないからな。」
「それじゃ僕も、だね。」
ルクスが立ち上がる。それをウィルフリッドは横目で眺める。ルクスは空を掴むかの如く手を天に向けてぐっと手を握る。
「僕も守るよこの国をリーシャ様を。あと、ウィルが死ぬときは僕もきっと死ぬだろうね。」
ニヤリと口の端を持ち上げるルクスを見て笑う。
「まぁ、それまでは俺ららしく馬鹿しながら生きていくか。」
そうだねとルクスが呟き笑った。
ヒャッハー族は死ぬまでヒャッハーし続けることを誓いました。
それとは別に次回からは例のお祭りを始める前に幕間を何話か挟みますのでご注意下さい。