「親父ぃ!もっと酒をくれ、ヒック。」
ウィルフリッドたちが飲んだり食べたりしている店のカウンターにベロベロに酔っている若い男がオーナーに絡んでいた。
「おい、お前若いみたいだが本当に酒を飲める年齢何だろうな?」
「おいおい親父、俺はこれでも男の機竜使いだぜぇ。こんなもんに負けるわけねぇだろ?おぇぇぇ。」
言わんこちゃない。と言いながらカウンターに座る若い男にバケツを手渡す。その中に物凄い勢いで吐いている。
その若い男は金髪でかなりの見栄っ張りか目立ちたがりのような気がする。服装もチャラチャラとしたもので祭りに出てくる女性をナンパでもしに来た田舎者の臭いがする。しかし腰には異色を放つ銀色の攻殻機剣をさげている。
「なぁ、ルクスよ。あの金髪面白そうだな。」
「うん、その気持ちはよく分かる。よし絡むか。」
リーズシャルテたちの静止を無視しながら未だにバケツに向かって吐き続けている金髪の男の両隣に座る。
「親父、一番キツイアルコールの酒をちょうだい。」
「面倒ごと起こすんじゃねぇぞ。」
そう言いながら親父は少し楽しそうにニヤリと笑うと店の奥へと消えていった。あの親父も同類か、なんてことを考えつつ横を見るとルクスが金髪の少年を介抱していた。
しかしウィルフリッドは見た。ルクスが悪い笑みを浮かべていることを。もう少し隠せよと思いつつ親父が消えた店の奥へと目を向けるとちょうど親父が帰ってきていた。
「さぁ、飲みな。アルコール度数95%つー、タダのアルコールの塊だ。これ飲める奴は絶対人間じゃないぜ。」
そんなことを言っているが親父は今からするであろうことに心を踊らせているのだろう。目が輝いている上にニンマリとした笑みを浮かべていた。
酒の瓶を受けとると何も言わずに水の入っていたコップの中に注ぐ。これで準備は完了だ。
「おい、少年大丈夫か?ほら水だ。飲みな。」
「おお、見ず知らずの人よ助かるぜ。」
そう言うと少し苦しそうな顔のままコップを受け取り一気に全てを飲み干した。
「うわぁ、やっちゃったよ。」
そんな客の声がしたと同時に金髪の少年がひっくり返った。そのまま目を回し床に倒れている。
見ていた客全員とハイタッチを決めてから親父と握手する。
「サンキュー親父。面白いもんが見れたぜ。」
「俺もだ。今度から飲んだくれにはこれして遊ぶようにするぜ。」
ルクスはそれを見ながら床で目を回している金髪の少年を蹴って遊んでいる。見ず知らずの少年を蹴っているルクスに驚愕しつつ何事もなかったかのようにクルルシファーとセリスティアの間の席に戻っていた。
「外道ね。」
「外道ですね。」
「最高の誉め言葉ですわ。」
照れながら頭をかくウィルフリッドにクルルシファーとセリスティアがあきれてため息をついていた。
コップに注いでいるビールを飲み干すと瓶からまたビールを注ぐ。本当に美味しい。
「でさ、ウィルはさっきひっくり返した少年のこと知ってるの?」
死体蹴りを終えたルクスがスルッとリーズシャルテとフィルフィの間に座る。リーズシャルテはクルルシファーたちと同じような顔になっているがフィルフィは食べることに夢中である。
「知ってるわけねぇだろ?俺は最初セリスティア嬢のことも覚えてなかったんだぜ。餓鬼の頃の記憶なんてほとんどねぇよ。」
そうだよねぇと言いながら飯を平らげる。もう美味しいから何でもいいやと思っているとセリスティアが俯いていた。あとがめんどくさいなぁと思いながら今度はビールを飲む。はー、美味しい。
ウィルフリッドたちが飯を平らげ終わる頃になってもあの金髪の少年は目を覚ましていなかった。フィルフィが食べ終わってからずっとツンツン突っついているが起きる気配はない。
「親父、バケツいっぱいに水をくれねぇか?」
「さっさと起こして連れて帰ってくれ。めんどくさいから。」
すでに用意していたのか親父はその場から動かずバケツを此方に差し出してきた。そんな親父にジト目を向けるが軽くあしらわれる。
特に前座もなくウィルフリッドは金髪の少年の顔をめがけて水をかけた。
「うわぁ!俺はまだ死なねぇぞぉぉぉ!」
叫びながら立ち上がろうとする少年にデコピンを放つために構えるが少年はそれを関知してか体を僅かにずらすことでデコピンを回避していた。
「おい、少年。お前この店に迷惑かけたのは分かってるよな。分かってるならとりあえず金を払え。」
「あ?王都はこんなのばっかりか?このチンピラやろう。」
「そのケンカ買ったわ。表に出ろ白目のクソザコがぁ!」
互いにガンを飛ばしあう。ルクスは大爆笑しており床に転げ回っている。リーズシャルテたち常識人組は全員揃って呆れている。
ただそんななかでフィルフィだけはいつの間にか注文していたステーキにかぶりついている。
表に出るとそこには簡単な広場がありそこは運動が許されている公園だった。体を鍛えたりウォーキングを楽しんでいる人がいるなかウィルフリッドと金髪の少年は睨みあっていた。
「グライファーだ。」
グライファーと名乗った少年はファイティングポーズをとっていた。つまり機竜を使う気はないとのことだろう。
「ウィルフリッドだ。俺をチンピラ扱いしたこと後悔させてやるよ。」
「小さい男だなぁ。」
リーズシャルテの呟きを無視しながらグライファーを見る。全体的に力を抜いた自然体の構えをしている。タイプ的にはルクスに近いスピード型だろう。
グライファーがぶれる。いや走り出していた。真っ直ぐに向かってくるグライファーに拳を向けるがグライファーはそれを走りながら首を軽く傾けることで回避するとそのダッシュの勢いのまま拳を振り抜いた。
それを体で受け止めその腕を掴む。
「なぁ?俺の一撃で倒れないだと!?」
驚愕しているグライファーを見て笑いながら地面へとその体を叩きつける。叩きつける直前に体を捻りグライファーがウィルフリッドから脱出して距離を開くためにバックステップを踏む。しかし意味はなかった。
「はっはー!遅いぜぇグライファー君!」
1歩でそのバックステップをなかったことにした。その事で驚愕を隠せないグライファーの腹へと必殺の一撃を叩き込む。
「くらいやがれ!《対ルクス用高速腹パン》!」
つまりタダの腹パン、と言いたいところだがタダの腹パンではない。
ルクスのウィルフリッドと同じように鍛えた腹筋には無意味だったりする。そのためウィルフリッドが行う《対ルクス用高速腹パン》とは鎧通しの技術を使って内蔵へとダメージを通す技だったりする。
そんなものをグライファーの腹へと叩き込んだ。ぎゃあ!とふざけた声を出しながらグライファーが崩れ去った。
それを見てウィルフリッドはかいてもいない汗を手の甲で拭うそぶりを見せる。やはりルクスは大爆笑しておりリーズシャルテたちは呆れている。
「おーい!グライファー!どこにいるんだぁ!」
遠くからここで崩れ落ちているグライファーを呼ぶ声が聞こえる。崩れ落ちているグライファーの首根っこを持ち上げながらグライファーを呼ぶ少年に声をかける。
「おーい!少年が探してるのはこいつだろ?」
「あ!そうです。ってグライファー?!どうしたんだ?」
白目を向いているグライファーを見て少年がアワアワし始める。それを見てグライファーを手放しルクスとハイタッチするとグライファーが地面へと落ちる前にまた首根っこを掴む。
「はっはっは、このグライファー君は本当に弄りやすいなぁ。」
「え、えっとグライファーのお知り合いですか?」
「いや、今日初めてあったよ。」
少年が驚愕する。その姿を見てウィルフリッドとルクスが少年に向かってサムズアップを浮かべる。
その少年はとても中性的な顔立ちをしておりルクスと同じように女顔と言われても不思議ではない。
「身内の恥が多分失礼なことをしたと思いますので謝罪させていただきます。旧帝国の王子様。」
「あ、僕のこと知ってたんだ。あと謝らなくて良いよ。グライファー君がこうなってるのは8割が僕らのせいだから。」
ルクスのネタバレを他人事のように見つつ伸びているグライファーを地面に叩きつける。
「おおい、さっさと起きやがれ。それでも機竜使いかっての。」
無理難題をグライファーへと突きつけながら少年の方を見ると此方のことを無視している。つまりこの行動は正当化されたということだ。あの少年はグライファーに恨みでもあるのだろうか。
「僕の名前はコーラルです。此方の馬鹿は名乗ったようですがグライファーです。全竜祭に出るためにヴァンハイム公国から参りました。」
コーラルと名乗った少年はグライファーをチラッと見て無視する。なるほどもっとやって良いのか。
「僕はルクス、であっちのまだグライファー君で遊んでるのがウィルフリッドだよ。で、あっちの女の子たちが、」
「リーズシャルテ・アティスマータ、クルルシファー・エインフォルク、セリスティア・ラルグリス、フィルフィ・アイングラムさんですよね。全員が全竜祭の選抜メンバー。しかしウィルフリッドさんとは聞かない名前ですね。」
コーラルがウィルフリッドの方へと目を向けるとウィルフリッドはグライファーのズボンを脱がしておりそのズボンを近くの木に結ぶというド外道を行っていた。
「ん?俺の話か?俺はそいつらの先生だよ。得意なことは人を煽ることと、人に外道行為をすることだな。」
「なるほど、タダの外道と言うことですね。」
理解が早いコーラルと握手する。きっとコーラルもウィルフリッドやルクスと同じものを持っているのだろう。
コーラルは終始笑顔のまま握手を交わし手を離す。
何故かクルルシファーとセリスティアが殺気を放っているが今は無視する。
「申し訳ありませんが我々はそろそろ帰ります。それでは次は公式戦の場で会えることを期待していますね。」
「ふん、お前らなんぞ直ぐに倒してやるわ。」
リーズシャルテの高圧的な態度に一度頭を下げ未だに伸びたままのグライファーの足をもって引きづりながら姿を消した。
「ヴァンハイム公国のグライファーって確か《七竜騎聖》の候補の一人じゃなかったかしら。」
「・・・七竜騎聖?」
ルクスが首をかしげると待ってましたと言わんばかりにリーズシャルテが胸を張りながら答えていた。
「《七竜騎聖》ってのはアビスに対抗するためにお偉い方が決めた単身でラグナロクと戦える機竜使いのことだ。」
「ほーん、あんな雑魚がねぇ。」
ジト目を向けてくる女性陣を無視しながらウィルフリッドがルクスに話しかける。
「なぁ、ルクス。今度コーラルにあったら《強制女装大会》しねぇ?」
「いいねそれ、乗った!」
リーズシャルテ達が呆れた顔でウィルフリッドとルクスを見ていたのは言うまでもないだろう。
すげぇ、グライファー君とコーラル君を弄っただけで1話が終わっちまった。