その咆哮は聞き覚えがあった。この機竜を装備している者なら一度は対峙したことがある化け物、アビスだ。見るものを圧倒していく破壊の象徴。一匹倒すだけでも機竜使い数人がかりで倒すのがセオリーと言われている。
そんなアビスに弾丸が打ち込まれる。ダメージは通っているが対して気にしていないそのアビスは一人の人間を見ていた。赤い機竜《ティアマト》と接続されているこの新王国の第一王女リーズシャルテである。少し苦い顔をしながらもライフルの掃射をやめない。アビスは空中でムーンサルトを繰り出すかの如く弾丸を避け、リーズシャルテへと近づいていく。
「リーズシャルテ様!」
寸前でルクスがアビスの牙を受け止めていた。しかし、それも長くは続かない。ブレードの半ばが砕け始めたからだ。それを見てルクスはブレードを手放しリーズシャルテを抱き抱えて距離をとった。
「何故助けたルクス・アーカディア!お前は自分の国を滅ぼした男の娘を恨まないのか?」
突然の大声を聞いてルクスはフリーズしていた。そして苦笑しつつリーズシャルテの目を見る。
「僕は貴女のことを恨んでなんかいない。貴女を恨む必要なんてないんだから。」
その言葉に首を捻るリーズシャルテに笑いかけアビスを睨む。
「王女殿下との感動の和解シーンはもう終わりか?」
「和解できれば苦労しないけどね。」
《ワイアーム》を装備しているウィルフリッドが悪い笑い方をしながら近づいてくるのをルクスは皮肉で返す。そして二人は腰を低く落としつつ構える。
《ワイバーン》そして《ワイアーム》の追加武装を外す。これで二人は防具はなく、武器はルクスがサブブレード一本。ウィルフリッドに至っては機体の拳のみとなっていた。
「さて、ここで問題だ。可愛い弟子よ。この場合どう戦うのがベストだ?」
ウィルフリッドがルクスを挑発するように質問する。自重ぎみにルクスは笑うと答えを口にする。
「僕ら二人で時間を稼いで大きいのを撃てる人に撃ってもらう。」
「大正解だ。ってことでルクスは王女殿下への説得宜しく!」
そう言うとウィルフリッドはアビスへと向かって地面を蹴る。元々陸戦型の近接戦闘機を更に軽くしているためスピードは《エクス・ワイバーン》などの改造機を大きく上回っている。さらにウィルフリッドは思いっきり石をアビスに向かって蹴り飛ばす。
その蹴り飛ばした石をアビスが受け止めた頃アビスの目の前にウィルフリッドはいなかった。そして拳が体に突き刺さる。
少し後ろによろよろと歩くがそこまでのダメージしかない。
「やっぱ、汎用機じゃ威力は低いなぁ。機竜が暴走する前にこれ、倒すのは無理だな。やっぱ王女殿下を頼るしかねぇな。」
その頃ルクスとリーズシャルテは少し離れた場所で身を隠しながら相談していた。《ティアマト》の大口のライフルを最大威力で一発撃てないかと。
「それは撃てるが撃つまでかなりの時間が必要になる。その時間はどうするのだ?」
もっともらしい質問をリーズシャルテはルクスへと向けていた。そしてルクスはその答えを自信もって答える。
「大丈夫ですリーズシャルテ様。僕もいますし、ヤクザ顔のせいで彼女のいない、ウィルフリッドもいますから。」
その言葉にリーズシャルテは頬を紅くしながら笑う。その笑顔にルクスも笑顔で返すと急にリーズシャルテが真顔に戻り質問する。
「お前たちは誰かをディスったり、煽ったりするのが好きなのか?」
「僕の趣味はウィルフリッドいじりです。そして彼の趣味は僕いじりと大人の雑誌の観賞っていうただの変態ですよ。
それじゃ、撃つタイミングはウィルフリッドが拳を3発叩き込んだ時です。」
そう言うとルクスはアビスと1人格闘戦を繰り広げるウィルフリッドの元へと飛び出していた。
リーズシャルテもフルチャージのため充電を開始し始めた。そして、ポロッ、と一言。
「大人の雑誌とはなんなんだ?」
ウィルフリッドが正面からアビスの攻撃を拳で受けとめ、ルクスが背後からブレードを叩き付ける。そんな感じに戦闘は続いていた。
「おい!ルクス!ちゃんと王女殿下に伝えたんだろうな。」
「もちろんだよ。あとウィルは本当はただの変態だってことも伝えておいたよ。」
「お前はあとで絶対にしばいてやる。」
ルクスが笑うことで返事を返すと同時に踏み出す。同じようにウィルフリッドが攻撃を相殺し、ルクスがダメージを与えていく。そして時は来る。
「没落王子!と変態!準備が出来たぞ!」
ウィルフリッドが戦いながら肩を落としている。かなり器用なことをしているなぁとルクスがぼやくが誰も聞いてはいない。
はぁ、と溜め息をつきながらも二人は戦うことをやめない。
「そろそろ、か。」
ルクスが思いっきり後ろへと飛び、ウィルフリッドが真上へと飛び上がる。そのウィルフリッドを追うようにアビスが飛び出すとウィルフリッドは《ワイアーム》の機能を一時カットし、垂直に落ちていきアビスの目の前に来ると拳を3発叩き込む。
そして叩き込んだ3発目のあとにアビスを蹴り、自分が吹き飛ばされるように距離をとる。
「お勤めごくろう!アビス君。」
距離をとったと同時にリーズシャルテの《ティアマト》の最大出力のライフルが放たれ、アビスは欠片も残さずに消え去った。
「また、駄目だったな。」
ウィルフリッドの低く唸るような声が部屋に響いた。そこは城の地下、食料貯蔵庫だった。ウィルフリッドは壁にもたれかかりルクスは麦の詰まった袋の上に座っている。
「なぁ、賢弟よ。もうお前の案ではこの国は動かないし貶され、無様だと笑われるしかない。」
「じゃあ、フギル兄さんは何か良い案でもあるの?」
ルクスの低く失望の色が濃い声が響く。ウィルフリッドは両目を閉じ何かを考えているようで口を挟まない。
「クーデター、だよ。」
なっ!とルクスが息を飲む。確かにアティスマータ伯が裏で動いておりそれを支持するという動きは知っていた。
「でも、僕たちが知っているようなことを父さん達が知らないわけないよ。」
「お前は優しいな愚弟よ。」
フギルは何時も被っているパーカーを脱ぎ両手を広げ天井を見る。そして両手を強く握り呟く。
「ああ、だがあの老いぼれたちは所詮なにもしない。いや、なにもしなくても機竜使いがいるから大丈夫だとうつつを抜かしてやがるんだよ。」
それで?とルクスが先を促す。
「だから俺たちが手を貸してやるんだよ。帝国の第一王子の俺と第七王子のお前がいればアティスマータ伯のクーデターは反乱にはならないからなぁ。
それに此方には帝国のヘボの機竜使いなら1人で狩れるイカれたほどに強い男が二人もいるしな。」
ウィルフリッドは喋らず、その言葉を聞いていた。そして首を縦に振ることで肯定の意思を伝える。それを見たフギルは笑みを浮かべながらルクスに向き直る。
「さぁ、あとはお前の意思だけだ。どうする?この帝国をこのまま放置するか。新しく作り直すか。選ぶのはお前だ。」
そう言って手を差し出すフギル。だが、ルクスはその手に恐怖を覚えていた。
何せフギルは自分の父を殺すことを厭わない。遠回しにそう言っているのだから。
「(アイリ、母さん。僕は・・・。)」
そしてルクスはその手をつかんだ。全てを破壊し作り替えるという確固たる意思を持ちながら。
目が醒め、一番始めに眼にはいったのは先ほどまで戦っていた少女、シャリス・バルトシフトとノクト・リーフレットの寝顔だった。そして思い出す。
「そういや、俺ぶっ倒れたんだっけ。鍛練が足りねぇなぁ。」
そう呟きながら体を起こすとパンツ以外は全て脱がされ包帯が巻かれていた。感謝しつつ恥ずかしさも感じながらベッドから立ち上がり先ほどまでかけていた毛布を肩を寄り添いながら寝ているシャリスとノクトにかける。
「体・・、動かすか。」
窓から飛び出し伸びをする。首をならし肩を回す。足も伸ばし体が問題なく動くことを確認すると腰を少し落とし拳を突き出す。ゆっくりとされど気を抜かず一発一発に全てをのせるように突き出す。
そこから流れるように技を繋ぐ。戦場では勝ったと思ったときでも気は抜かない。敵は何処にいるから分からない。だからこそ攻撃をやめない、動きを止めない。
「ふー、っ!らぁ!」
今度は連続で拳を打ち出し、ムーンサルトを決める。そして着地し動きを止める。少しかいた汗を手でぬぐい空を見上げる。
「大丈夫そうですね、ウィルフリッドさん。」
そこに現れたのはアイリ・アーカディアだった。旧帝国の時代の皇族という事で疎まれていたルクスとアイリ。この二人は今や大切な友人だ。
「まぁ、お兄さんの取り柄は頑丈なことと頭がおかしいことだけだからね。」
クスッ、とアイリが笑う。そんな彼女を見て笑う。こんな感じに笑うことも久しぶりのように感じる。普段は此方は仕事。アイリは学校と言う名の牢獄に囚われている。
「久しぶりにウィルフリッドさんの冗談を聞けてなんだか本当に話せてることを実感できました。」
そうだなぁと呟くように懐かしむように笑う。
「俺とルクスの次の仕事はここの学園長のレリィからの依頼だからさ、暫くはこの学校にいると思うよ。」
「本当ですか!」
アイリが少し興奮したようにウィルフリッドの胸に飛び込んでくるかのいきおいで近づいてくる。それに少しびびりながらもウィルフリッドは彼女を受けとめる。
「本当に、心配してたんですからね。」
「大丈夫さ。俺もルクスもそんなに柔じゃない。それにこんな可愛い妹を残して死ぬ兄なんていないさ。」
それを聞いて安心したのかアイリが身をはなしイタズラっぽく笑い歩いていった。
それを苦笑しつつ、眺めていた俺の耳に別の女の子の声が聞こえる。
「ウィルフリッド・スタンジフォール!良かった起きたんだな。」
「Yes、本当に良かったです。」
少し涙ぐむシャリスとノクトの頭を撫でつつそのヤクザ顔で意地悪く笑いながら言う。
「あんまり男の前で泣くもんじゃないぞ。俺が超肉食系男子だったら即効でベットに押し倒されていぞ?」
冗談めかしに言った言葉にシャリスとノクトが笑顔になる。それを見て思った。俺とルクスの選択はきっと間違いなんかじゃないってことに。
『三和音』の三人、シャリスとノクトとティルファーって学院の有名人ってことは強いはずなのにあんまり脚光浴びてないよね。