女子風呂。それは男のロマンであり夢であり果てなき探求の先にあるものだ。
そんな女子風呂にいる男達が二人いた。赤毛の髪を首もとで尻尾みたいになるように結んだ男。ヤクザ顔のせいで彼女が出来ないことが悩みのウィルフリッド・スタンジフォールだ。
もう1人はウィルフリッドとは違い少し長めの白髪の少年。近くで見ても遠くから見ても女顔なのが少し気になっているルクス・アーカディアだ。
何故男が女子風呂にいるのか。それは前の脱走の罰とウィルフリッドとルクスへの依頼によるものだった。
「勝ち組だな。」
はぁ、と溜め息をつくルクス。そう先ほどからウィルフリッドはうきうきした様子で掃除をしている。こういうテンションの時のウィルフリッドはめんどくさい。相当めんどくさい。
無言で掃除を続けるルクスのもとへとウィルフリッドは歩みより顔を覗くとにやー、と笑いまた掃除へ戻る。なんだか煽られている気がするルクスはウィルフリッドに噛みつくように質問する。
「さっきから鬱陶しいんだけど。何してるんだよ。」
そう言うとウィルフリッドは笑いながら肩を組んでくる。
「風呂の掃除中ってさ外に看板かけるだろ?」
それが?と言ってルクスが先を促すとウィルフリッドが胸を張りどや顔をしながら言う。
「もう、終わったことにしといたぜ!」
数秒の沈黙が流れる。そしてルクスは悟る。これは相当ヤバイことになっていると。
この学院の風呂はこの場所以外にないということは学院長であるレリィ・アイングラムから聞いていた。つまり風呂の掃除が終わると知るや否や女の子達がここに押し寄せてくるということも聞いていた。
「何してンだよ!ヤバイよ!今度こそミンチだよ!」
ルクスが今までに見たこともないほど慌てている。神装機竜を使っていたリーズシャルテにも恐れずアビスにも恐れなかったルクスは恐怖のあまりか体を震わしている。
「大丈夫だ、親友。こっちこい。」
そう言って女子風呂の更衣室とルクスとウィルフリッドのために建てられた仮設の男子更衣室の近くにある岩場に隠れる。
「見たか親友。これなら声出さない限りばれないぜ。」
サムズアップをして歯を見せながら笑うウィルフリッドを殴りたい衝動に駆られるのを我慢しルクスは身を隠した。
その時勢いよく扉が開いた。そう女子がやって来たのだ。それもタオルを一枚巻いただけの生まれたときの姿で。
そしてそれはルクス・アーカディアとウィルフリッド・スタンジフォールの地獄か天国かの死線を分ける戦いとなる。
その頃女子風呂に入ってきた女の子達は少し興奮状態にありルクス・アーカディアの妹であるアイリ・アーカディアは目頭と頭を押さえていた。それは目の前の同級生と先輩達が原因だ。
「コレがルクス君の洗ったお風呂・・・。ハァハァ。」
「ウィルフリッドさんが触れたお風呂、えへへへへ。」
それ以外に沢山の生徒達がこれに近いか酷い症状になっていた。
はぁ、と溜め息をつくアイリにノクトが声をかける。
「お兄さんとウィルフリッドさんはみんなからとても好かれていますね。」
ノクトの善意100%の台詞に呆れることも出来ずアイリはまたも深い溜め息をつく。
そう嫌われてはいない。一部の生徒はあまりよく思っていないという情報は仕入れている。それは予想の範囲内というか思ったよりも少ないとアイリ自身思っている。
そんなことを考えながら体を洗っているとドアがバーン!という擬音語がピッタリなほどに勢いよくドアが開かれた。
「ふむ、ルクスの洗った風呂か。」
リーズシャルテだった。それに此方も今まで風呂に入っていた生徒達と同じような目をしている。具体的には変態の目をしている。
しかし、王女としてのプライドがあるのかすぐにそんな目をやめ湯を体にかけ風呂に浸かる。
「リーズシャルテ様もルクス君にはタジタジのようだ。」
そうやって声をかけてきたのはノクトと同じ『三和音』の1人、シャリス・バルトシフトだ。
「あまり嬉しくはないんですけどね。」
そうだろうねぇと笑うシャリスに思わずジト目を向けるアイリ。しかし、それも笑ってかわそうとするシャリスに言う。
「そう言うシャリスさんはウィルフリッドさんのことが好きですもんね。」
少し怒気がこもったことに心の中で首を捻りながら言い放つ。
少し驚きながら体をモジモジさせるシャリス。どうやら当たりを引いたようだ。それにしてもあのヤクザ顔の何処が良いのだろうか。
確かに優しいし、強いし、面白いし、ヤクザ顔だけどカッコいいと言えばカッコいいし・・・。
「なんでぇぇぇぇぇ!」
急に叫んだアイリに黙る風呂場の生徒達。そして回りの事態に気づいたアイリはノクトを連れて風呂場をあとにしたのだった。
そして一部始終を見ていたルクスとウィルフリッドは顔を見合わせて小声で会話を始める。
「おい、ルクス。お前なんかハァハァ言われてるぞ。」
「それをいうならウィルの方はえへへへへ。何て感じで笑われてるよ。」
お互い辛いなと肩を叩き会う二人。そして女の子達が居なくなるまで風呂場に身を隠すのだった。
次の日は休日だった。まぁ、国から雑用を引き受けている身としては休日という概念は存在しない。しかし、それなりに休まないと倒れてしまうのも事実なので今日はルクスとは分かれ1人で仕事することになっていた。
町に繰り出し色々と回る。今日行う仕事は基本的に全て簡単な仕事を選んでいた。何故簡単な仕事なのかというと夜には明日の『騎士団』達との会合などがあるので忙しいのである。
「あら?ウィルフリッド教官?」
ベンチで休んでいるとふと声をかけられた。首だけを向けてそちらを見ると水色に近いような綺麗な青い髪の少女がいた。
「確か、ユミルからの留学生の・・・。」
「はい、クルルシファー・エインフォルクです。」
そうだったそうだったと笑うウィルフリッドの横に腰かけるクルルシファー。そして覗きこむようにウィルフリッドの顔を見て一言。」
「昨日、風呂場にいましたよね。」
「うん。」
あっさり認めたウィルフリッドに驚くクルルシファー。そして数秒見つめあい、クルルシファーが笑う。
「貴方、おかしな人ね。普通そんなことは認めないと思うのだけど。」
「ばれてるんだったら隠しても意味ねぇしな。良いもん見れたからありがとうございました!って礼を言うくらいには頭のネジが飛んでるってことは自覚してるよ。」
笑うクルルシファーを見ながらもウィルフリッドはベンチの上で四肢を投げ出すのはやめず首だけを向けて話す。
「んで、クルルシファー嬢はそんなこと言いにこんなとこまで来たのかい?」
「さぁ?どうだと思う?」
クルルシファーの問題に両手をあげ降参の意を示す。それを見てまたも笑うクルルシファーが口を開く。
「私は探しているの。」
「何を?」
「黒き英雄。もしくは公にはされていない存在竜殺し。そのどちらかに会いたいのよ。」
へぇ、と表情を変えずに答えるウィルフリッド。そんなウィルフリッドを見てクルルシファーは良いことを思い付いたかのごとく飛びっきりの笑顔を浮かべつつ言った。
「ねぇ、教官。依頼受けてくれないかしら?」
どんな?と言い先を促すとクルルシファーはにやっ、と意地悪く笑いながら言った。
「黒き英雄と竜殺しを見つけて。報酬は破格の価格を払うから。」
「黒き英雄と竜殺し、ねぇ・・・。」
溜め息をつきつつ空を見上げる。困ったことがあると空を見上げる癖は治らないなぁと思いつつ胸ポケットから煙草を取り出し火をつける。ふー、と吐いた息を目で追いながら考える。
「目の前にいるって言ったら面倒なことになるだろうなぁ。」
そんなことを考えながら煙草を吸う。うん、やっぱり美味しい。自分の至福の時間を過ごす。
「また、煙草ですかウィルフリッドさん。体に悪いですよ。」
やって来てのはアイリだった。珍しく、いや新王国の人質のはずのアイリが1人でいるのはおかしい。しかし、そんなこともお見通しなのかアイリはウィルフリッドの隣へと腰掛けながら尋ねる。
「1人でいるのは何故だろうか。ってとこですか考えてることは。」
「何でこの子は人の思考読めるんでしょうね。」
ふふふ、と笑うアイリ。そんな他愛もないことで話せることが少し嬉しかった。
「兄さんと私とウィルフリッドさんの3人で過ごせる日々は当分ないと思っていたので今このときがとても嬉しくて夢のようなんですよねぇ。」
恥ずかしげもなくそう言いきるアイリを見ながらそうだなぁ、とうなずく。
ルクスに戦い方を教え、自らを強めるためにルクスと共に山籠りもした。そんなウィルフリッドとルクスのために何時も何時もアイリは我慢してくれていた。ルクスとアイリの母が死んで周りから疎まれて、それを変えるために強くなろうとしたルクスが何処へ行くときも笑顔で送り出していた。
「アイリは強いなぁ。俺やルクスとは違って本当の強さを持ってるよな。」
自分の手に持つ煙草を握りつぶしながら呟くように言った。少し手のひらに熱さを感じる。その熱さもアイリを見ていると何も感じなかった。
「私は、・・。」
アイリの消えそうな声が静かな公園の中に響いた。
「兄さんやウィルフリッドさんに憧れていたんです。国を変えるだけの力を持つ二人に。
でも、私じゃ兄さんやウィルフリッドさんみたいに強くなれない。なら私は帰ってくる所を作ろうと思ったんです。兄さんとウィルフリッドさんと私と、3人でまた笑って過ごせる時を取り戻すためにも、私は今の私であり続ける必要があると思っているんです。」
ウィルフリッドの頬が緩む。力ではなく自らの出来ることをやるだけだと言いきった少女がとても大人に見えた。
自分の方が年上なのに彼女の方が年上に見えて少し悔しかったり嬉しかったり。そんな彼女のためにも早く借金は払わなければならない。
「でもよアイリ。」
突然声をかけられたアイリが小首を傾げる。ちょっと可愛いなと思ったことに首を振り意地悪く笑いながら言った。
「3人で過ごすのは無理かもよ。ルクスがそれまで女の子達に食われないとも限らないしな。
一番ヤバそうなのは王女殿下だけどな。」
そうなんですよねぇ。と呟くアイリにそろそろ帰る意を伝え、二人で学院までの道を歩いて帰ったのであった。
原作でもそうなんだけどアイリってこういうことを常に考えていそう。だからこそお兄さんをあんなにも大切にできるんじゃないのかな。
まぁ、これは僕の意見なんで本当のことは分からないけどさ
追記
この作品ではアイリがヒロインなのでルクスという時間よりオリ主であるウィルフリッドといる時間の方が長い設定です。