「なんで、ルクスではないんだ?」
機嫌の悪いリーズシャルテを宥めつつ、自分の運の悪さに肩を落とすウィルフリッド。
「そりゃ、アイツは『騎士団』に入ってないからでしょ。」
ルクスはリーズシャルテに連れられて(ひきづられて)『騎士団』に入れられた。だが、そんなことでへこたれるルクスではない。いきなり始まった入隊テストでわざと全弾被弾し敗北。
リーズシャルテに文句を言われる前に逃走したのだ。我が弟子ながら恐ろしいととてつもなくどうでも良いことを考えているとリーズシャルテとは逆の方にいる青い髪の少女に裾を引っ張られる。シャリス・バルトシフトだ。
「どうした?トイレがしたいんならその辺の草むらで隠れてしかないぞ?」
リーズシャルテの拳を頬で受け止めがら言う。その姿に苦笑を浮かべるシャリス。
「いや、ちょっと緊張しているんですよ。」
そうか、と一息おく。『騎士団』とはいえ元を正せばただの少女である。本来こんな危険なところに来なくても良いのだ。それでも此処へ来たということは守りたい何かが、あるのだろうと判断する。
「緊張すんのは当たり前だ。でも、緊張してても良いことないだろ?だからさ笑おうぜ。みんなでよ。学院に帰るまでな。」
その言葉にシャリス、ノクト、ティルファー達、『三和音』が揃って手を高らかにあげる。それを見てリーズシャルテ以外の生徒達がやる気をみなぎらせる。
それを見て後ろを歩く新王国の兵士達が嬉しそうに微笑むのが見えた。
しばらく歩くと平原に出た。そして見つける。人間の敵、アビスを。
「全員、撃ち方始め!」
機竜と接続されたウィルフリッド以外の『騎士団』が攻撃を開始する。王国軍はまだなにもしていないがこの戦いは『騎士団』だけで決着が付きそうである。
なぜならリーズシャルテの指揮の元アビスを包囲し遠距離からの砲撃で相手に隙を与えず攻撃しているからだ。
「へぇ、集団戦闘は様になってンなぁ。」
素直にそう呟く。それを聞いたのかリーズシャルテが首だけを此方に向けて得意気に笑う。
「今は3年のセレスティアもいないしな。戦力的には少し落ちているが基本的にはこんなものだ。」
へぇ、と返事する。
正直以外だったとウィルフリッドは思った。何故なら近接格闘を行う者が1人もいなかったからだ。まだ少ししかこの学院にはきていないがイケイケの子が多いため、近接格闘を行う者が1人ぐらいいてもおかしくはなかった。
そうこうしているうちにアビスが弾丸の餌食になり蒸発した。
「ふん、見たか。軍の奴らめ。」
シャリスの徴発じみた言葉に何故か引っ掛かりを覚えつつ軍の方を見ると突然、軍の部隊全員が『騎士団』に向けて砲撃を開始した。
『騎士団』のメンバーは血相を変えて回避をするが不意を突かれたのもあってか回避できず地面に転がっていく。
「きさまら、何をしているのか分かっているのか。」
「わかっているさ、帝国の所有物が。」
そう言い前に出てきたのは《ワイバーン》の改造機でさらに機動力が上がった機体《エクス・ワイバーン》だった。それに乗っている男を見てウィルフリッドが唸るように低い声で言う。
「なんでお前がここにいる?ベルベット・バルト。」
その声に男、ベルベットは得意気ににやっ、と笑うとまるで貴族のように頭を下げる。
「これはこれはウィルフリッド・スタンジフォール戦技技官どの。あの頃はお世話になりました。」
ぺっ、と痰を吐くような素振りを見せ嫌がっていることを見せるとこれは残念。と言いながらリーズシャルテへと向き直る。
「王国警備隊長殿は何をしているだ?ん?」
リーズシャルテの徴発にもにた言葉をぶつけるとベルベットは自重気味に笑い、リーズシャルテを見下すように言う。
「何をいっている?お姫さま紛いの女が。俺の名前は帝国近衛騎士長、ベルベット・バルトだぞ?」
未だにあの日は終わっていない。そうウィルフリッドは思った。なにも変わっていない。ルクスとアイリが求めた誰もが幸せに暮らせる世界。それはアティスマータ王国になってからかなり改善されより良い国になった。
「はぁ、本当に運悪いは俺。」
そう言いながら《ワイアーム》を起動する。接続すると隣にいたリーズシャルテは《キラメティック・ワイバーン》から《ティアマト》へと接続していた。
なにも言わずにリーズシャルテがライフルをベルベットへと向けるがベルベットは何をするでもなくアビスの死体へと近づく。
「普通に戦っても面白くないからな。これはほんの余興だ。」
そう言ってベルベットは懐から黄金の笛を取り出し吹く。するとそのアビスの死体から黒い卵のようなものが現れ卵からかえる。出てきたのはもちろん、アビスだった。
しかも生まれてくるアビスは一体ではない。何個も何個も卵は現れ生まれてくる。そして空はアビスで覆われていた。
「ふふふ、どうする?帝国の人形が。」
「撤退しろ!ノクトは撤退戦に参加せずに真っ直ぐに帰りこの事を報告してこい。」
ノクトは首だけで返事すると背を向けて一直線に学院へと向かう。しかし、アビスはそんな彼女を攻撃するがウィルフリッドの《ワイアーム》が防御する。装甲の一部がもう使い物にならないことに苛立ちを覚えつつベルベットへと向き直る。
「ちっ、逃げられたか。」
そう言うベルベットにリーズシャルテがライフルで砲撃するがアビスによって阻まれベルベットのもへとは届かない。
「おい、王女殿下さっさと撤退しろ!」
いうことを聞かずに特効を仕掛けようとしているリーズシャルテをティルファーとシャリスが二人がかりで止めて引き釣りながら撤退する。
「あら、あなた様が残られるのですね。」
ベルベットの得意気の顔がウィルフリッドを捕らえる。それを合図にアビスが襲いかかってくる。しかし、ウィルフリッドは慌てずに敵を引き付け足を少しずらして素通りさせると後ろから襲いかかっていたアビスと衝突し隙が生まれる。
「どっせい!」
両手で2体のアビスを地面に叩きつける。どちらも致命傷にはならないためその場から跳躍し離れる。
「どうしました?そんなもんですか?そんなものならカノジョタチガ危ないですよ。」
振り向くとシャリス、ティルファーが襲われている。ちっ、と舌打ちしながら飛び出すがアビスによって道を阻まれる。しかし、ウィルフリッドは足を止めずにアビスに突っ込みそのうちの一体の顔をつかみ振り回す。《ワイアーム》の間接が悲鳴をあげ煙をあげるが無視して彼女達のもとへとたどり着き、アビスを蹴り飛ばす。
しかし、その蹴り飛ばした衝撃か《ワイアーム》の足にも悲鳴が上がる。
「お止めください、スタンジフォール殿。貴方は帝国の味方のはずですが。」
そう言いつつもこちらへと攻撃を緩める気はないらしくアビスではなく他の警備軍の機竜がジリジリと近づいてきていた。
「良く言うぜ、消しかける気しかないだろ?」
「いえいえ、スタンジフォール殿が協力すると約束するならばあの王女紛いの女以外は全員傷つけないと約束いたしましょう。」
そう言っている間にもアビスが『騎士団』をリーズシャルテを攻撃する。
本当に嫌になる。何故自分からめんどくさい道を行くのだろうか。そう思いながらも今自分の背にいる少女二人を守るように立っている。
「俺もルクスに負けず劣らずのお節介だなぁ。」
そう言いながら《ワイアーム》との接続を解除し右腰に吊るしている灰色の機攻殻剣を抜く。誰が見ても美しいと思える剣だった。そしてそれを抜き放った男、ウィルフリッド・スタンジフォールは叫ぶ。
「竜を殺し、幻を斬る我が僕よ。その力で全てを圧倒せしめん。来たれ!《クリカラ》!」
そして彼を光が包んだ。
ルクス・アーカディアはその光を見た時には走り出していた。そう、いましがたウィルフリッド・スタンジフォールが自分の本当の機竜、神装機竜である《クリカラ》と接続した合図だ。
腰の後ろ部分に下げていた黒い機攻殻剣を抜き叫ぼうとして止まる。
「兄さん、何をしようとしているんですか?」
ルクスの前に立ちはだかるようにアイリが道を塞いでいた。そのアイリをルクスは労るような悲しい目を向けていた。
「退いてくれアイリ。ウィルフリッドが待ってるんだ。」
その言葉に一瞬たじろぐアイリ。しかしそれでも彼女は折れない。例えウィルフリッドを犠牲にしてでも兄を助ける。そんな決意を胸に秘めていた。それがどんなに悲しくてもウィルフリッドが有名になり戦争に駆り出されても二人を同時に失いたくなかった。
「大丈夫だよ、アイリ。」
涙ぐむアイリにルクスは優しく声をかけた。
「僕もウィルももう絶対にアイリを1人にはしない。アイリが悲しむ世界は作らない。それが僕とウィルが作り上げようとしている世界なんだから。」
そう言って駆け出した。
「顕現せよ、神々の血肉を喰らいし暴竜。黒雲の天を断て《バハムート》」
今、黒き英雄がその姿を現した。
「貴様、その機竜はもしや。」
「そう、俺があの『竜殺し』だよ。どうだい?師匠が帝国滅ぼした1人ってのは。」
ウィルフリッドの背に隠れているシャリスとティルファーが目を丸くしているのは見なくてもわかる。全身が灰色の機竜は背中に2本、両腰に1本ずつ剣をぶら下げている。
左腰にある剣と背中の左側にある剣を抜き放つ。その刀身から滲み出る力に警備軍の機竜使い達はジリッ、と一歩後ろへと下がる。
「馬鹿が。」
そうウィルフリッドが呟く頃にはウィルフリッドは機竜使い達の後方に立っており剣を納刀している。そして全ての機体の四肢を切り落とされ人間の心臓を貫いていた。
その光景にシャリスとティルファーがぎゅつと目をつむるのを横目で確認する。怖がられるだろうなぁと今はどうでも良いことを考えながらベルベットへと向き直る。
恐怖からか機体の制御を失いかけていたベルベットは頭を振って我に帰りウィルフリッドを睨む。
「ふん、コイツらを殺した所で変わらん。此方にはコイツらがいる。しかもお前はあのガキどもを助けようにもそうはできない!」
勝ち誇る笑みを浮かべるベルベットを見てウィルフリッドは笑った。そしてベルベットがひきつった笑みになるのを見た瞬間に言った。
「あっちには黒き英雄が居てるから心配してねぇよ。」
爆発が起きる。ベルベットが驚きでそちらに目を向けると一機の機竜がアビスの群れの真ん中に陣取り凪ぎ払っていた。その黒い機竜を見てベルベットは焦りと混乱で叫んでいた。
「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だぁ!俺の作戦は完璧だったんだ。お前のお前達のせいだぁ!」
そう言いながらブレードを振り上げウィルフリッドめがけて振り下ろす。しかしウィルフリッドは片足を下げることで簡単に回避し腹に膝を叩き込む。
血を吐くベルベットにさらに拳を叩き込み壁に叩きつける。
「どうした?帝国の騎士団長殿?こんなもんか?あ?」
完全にヤクザそのものだがそれは仕方ないことだった。剣を首に突きつける。
「もう手出しはやめる!だから命だけは!」
目から涙をこぼし懇願するベルベットを見下ろすウィルフリッドの目は笑っていた。心から楽しむように首の皮膚に剣の先を当てる。少し血が出る。それを見てさらに楽しそうにウィルフリッドは笑う。
「なんだぁ?そっちは殺しにかかってるのに自分になると命乞いか?そんなの通じると思ってンのか?」
そして剣を真横に凪ぎ払っていた。ベルベットの首が宙を舞う。それを見てシャリスとティルファーは驚きの余り立ち上がる。ウィルフリッドはただ嬉しそうに笑った。
「はははははははははははははははははは!」
大きな声で笑いウィルフリッド・スタンジフォールは機竜との接続を解除されその場に倒れた。
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