三話を間違えて投稿してしまいました!
あの後みほちゃんは閉店時間ぎりぎりまであの状態だった。
さすがに家に帰した。というかまた何かにぶつかったりしたり事故を起こされたりしたら目覚めが悪いので家まで送って帰った。
翌日いつもどおり店を開けて、ランチが終わり、夜の時間に備えて準備をしていた。すると電話が鳴った。ケイタイに映る文字は見慣れた、それでいてあまりいい感じはしなかった。
「も、もしもし?」
『私よ!!』
大声だった、耳が痛いほどの。
一瞬耳から電話を離し、もう一度耳に持ってくる。
「なんだこんな時間に。俺は今仕事中なんだが?」
『そういえばそうだったわね。おめでとう。いつになるかはわからないけど、行きたいわね』
「来てくれたら歓迎するよ」
食器を全て片付け終えると、次はテーブルをぬらした布巾で掃除を始める。
「ぜひそっちの隊長さんと来てくれよ」
『そうね。隊長も喜ぶわよ「店長と会える」ってね』
「あの仏頂面隊長が?」
『ええ。隊長、コウさんがいなくなってからすこし寂しがってたのよ?』
そうなのか。一応事前に学園艦を去る日は伝えていたのだが。まぁ別れを惜しまれるのは初めてではない。しかしなにより嬉しいのが素直に見送ってくれたことだ。また来てくださいね、お店ができたら絶対に行きます。これどほ嬉しい言葉は無い。
「じゃもう切るぞ」
『え?あぁそう。そうね、あなたお店があるものね、もうすぐ開店時間ね』
「ああそうだよ。それじゃあな。みんなによろしく」
『ええ、じゃあね』
スマホの赤い受話器のマークを押す。久しぶりにあいつの声を聞いた。よく考えたらあの学園艦では初めての友人だったな。みんな元気だと良いな。
さぁ時間だ。店を開けよう。
扉を押し外に出る。外の掃除をしてから、メニューを書いた黒板を外に出す。それからcloseの標識をひっくり返す。さぁお仕事の時間だ。
「いらっしゃいm、帰ってください」
「何よー君と私の仲じゃないの」
足音がしたので振り向けば。
そこには軍服じみたコートにOLがはいていそうなスカートを着た人が立っていた。
「お店始めたんでしょ?ほらいまOPENに変えたじゃない」
不意にもう一度ひっくり返し元の状態に戻したくなったが、そんなことしたら後でこの人に何を言われたかたまったものではない。
とびらを開けどうぞ、と一言だけ言うと満足気に中に入った。
数秒前の自分を恨みたい。
意外な来客はカウンター席に座る。くそ、そうせならテーブル席に行ってくれよ。
「それで戦車道連盟の一員である蝶野さんが大洗で何をしてるんですか?」
「いやね、それが大洗学園がもう一度戦車道を復活させるって言うから使用車両の確認と生徒の指導よ」
「……仕事してるんですね」
「なによそれ」
ため口で離しているが蝶野さんは立派な大人だし俺より年上だ(どれほど上かはあえて言わないでおこう)。こうやって喋っているのは蝶野さんが許してくれたからだ。その方が接しやすい上に楽だとか。俺は若干だがこの人が苦手なのだ。いや悪い人ではないのだ。俺を助けてくれた人の一人でもあるし、定期的に遊びに来てくれるし、何より優しい。
「いやそれがねー。大洗の戦車ってすごいのよ。なんというか個性があるっていうかね。しかも生徒の中にね――――」
こうやって喋り続けるし、なによりテンションが高い。
やはり以前と変わりないな。
それからどれほど話したか。お客さんの出入りもかなりあった。しかし蝶野さんはその度に話すのを止め、俺が戻ってくるのを待ってくれた。
「とうとうコウくんもお店を出したか~。お姉さん嬉しいよ」
「勝手に俺の姉にならないでください。妹だけで手一杯です」
「お母様には会ってる?」
「いえ偶にですね」
「会ってあげなよ?親って子が帰ってきたら嬉しいもんらしいよ?」
実は実家に帰ったとき孫の顔が見たいとか言われた、など世間会話をした。会話と言うよりはずっと蝶野さんが話し俺が相槌をうつだけのだが。俺なんかと会話して楽しいのだろうか。コーヒーとケーキを出すときにちらりと顔を見るがいつもと変わらずにこにこしていた。逆に蝶野さんの泣き顔とか見たことない、いやそれ以前に女性の泣き顔とか見たことないな。と考え終える前にみほちゃんのあの顔が出て来た。
「みほちゃん大丈夫ですか?」
「え?なになに。コウくん知り合いなの?」
「……まぁ、よく来てくれるんで」
「へぇ~そうなんだ」
なるほど私わかちゃったよみたいな顔しないでください。全然わかってないですから。
「西住師範の娘さんはうまくやってるわよ。あの感じだと隊長ね」
「蝶野さん。みほちゃんの事情知らないわけではないでしょ」
「でも大洗が彼女を必要としているのよ」
コーヒーを口に含む。おしいわねと一言。
「彼女ならうまくやってくれるわ」
「…………」
蝶野さんのこういった勘は当たる。悔しいほど当たる。何も考えていなそうなのに、こういった他人に関する事だけは頭が回る。いつだったか、俺がちょっと学園艦に入る前、色々ともめ事があったのだが蝶野さんが駆けつけて助けてくれたのだ。なんでわかったのか、勘よ、と。それが初めてではないのが驚きだ。
「あら噂をすればよ」
窓の方をみると手を振るみほちゃんが立っていた。俺と蝶野さんは手を振り返すと店内に入ってくる。そしてなにより驚きだったのはみほちゃん一人ではなかったことだ。後ろに四人程、しかもその内の二人は見覚えがあった。
「いらっしゃいみほちゃん」
「こんにちはマスターさん、教官」
俺は手で窓際のテーブル席に座るように示す。メニューとフォークなどが入った小さなかごを持ちテーブルに置きおしぼりと水の準備をする。
「教官も先程ぶりですね」
「そうね。それじゃあ私は行こうかしら?」
俺はカウンター横レジに立つ。注文した品を打ち込み金額を言う。
すると余分にお金を置いた。
「えーっと、おつりは」
「いやいいわ。彼女たちの分もね?」
小声で俺だけに聞こえるトーンで喋る。
わかりましたと、ちいさく答える。
「それじゃあ皆、戦車道の練習がんばってね!」
そう言い残して足早に去ろうとしていた。
「蝶野さん!―――――またのおこしをお待ちしております」
「ふふ。そうねまた来るわ!」