不運な提督がいた
彼は自身の不運に嘆くことなく艦娘たちと共に戦い続けていた
しかし大本営は彼に提督解任を告げる
彼の人生は狂い、そして終わりを迎えた

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不運提督の心理防衛

楽しかった日々の光景が脳裏に浮かぶ

 

食堂で山城が夕飯の支度をしている

 

横で時雨と満潮が懸命に野菜の皮むきをしている

 

これは走馬燈というやつだろうか

 

 

 

 

 

 

 

私は受話器を置くと窓越しに空を見上げため息をついた

 

ついにこの時がやってきた

 

たまらず手が震え出す

 

あと三ヶ月で結果を残せなければ鎮守府司令官の職を解任される

 

思えばこの鎮守府に配属されてから2年、とことん運に恵まれなかった

 

建造を行えば生まれてくるのは駆逐艦ばかり

 

決して彼女たちに非があるわけではないことを理解している

 

そして自分の不運さを嘆くことなく全力を尽くしてきた

 

運の無さには慣れていたつもりだが、それでもいざ解任の知らせが耳に入ると動揺せずにはいられない

 

艦娘たちには知らせるべきだろうか

 

いや、・・やめよう

 

きっと彼女たちは自身を責めるに違いない

 

自分たちの無力が故に提督を窮地に追いやってしまったと

 

机から視線を上げると隣に立つ山城がいつも通り自嘲気味に微笑んでいる

 

「不幸ですね」

 

私は彼女が好きだった

 

いつか彼女の本当の笑顔を見たい、それが提督を続けている理由だった

 

今日も演習で全敗し、山城の表情には若干疲れの色が見える

 

この鎮守府の戦力は隣に佇む山城と残りは全て駆逐艦

 

空母はおらず唯一の航空戦力は瑞雲のみ

 

制空権という文字にはまるっきり縁が無い

 

それでも負け戦の中で練度を上げ続け駆逐艦たちは改二改装を終え、クリティカルを出せば戦艦でも一撃で葬れることもあった

 

勝ち目のない戦闘を通して驚異の回避技術を身に付けていき、体力の限界を迎えるまで延々と攻撃をかわし続ける

 

駆逐艦同士で演習を行えば敗北することもないだろう

 

しかし相手の大型艦の放つ強力な攻撃がかすりでもすれば大破は免れることはできない

 

毎日のように演習へ、そして難関海域へ戦艦1隻と駆逐艦5隻で出撃する

 

 

 

 

 

 

 

あと2カ月

 

いつしか私は迷信を信じるようになった

 

因果応報、この言葉が正しいとするならば私の犯した間違いとは何であろうか

 

艦娘を轟沈させたことはないし、十分な補給と休憩時間を常日頃から心掛けている

 

世間では捨て艦戦法というものがあるらしいが

 

私はそれに吐き気を感じずにはいられない

 

けれども指揮官として鬼になれぬことがこの結果を招いているのかもしれない

 

それでも私は捨て艦戦法などという悪逆非道を看過することはできない

 

そして全力を尽くしてきたという自負があるからこそ私は迷信に傾倒していったのだろう

 

最初は些細なことからだった

 

テレビ番組の星座占いに従って今日のラッキーカラーの小物を身に着けるようになった

 

続いて本屋でふと目に入った風水の本に従って提督室の間取りを決めていった

 

出撃前には祈祷師を呼び、根拠の乏しいツボやネックレスなどを購入するようになった

 

それでも戦果は上がらない

 

今考えれば当然の結果だが私はもはや引き返すことができなくなっていた

 

戦艦や空母も建造されない

 

乱数の支配する世界に不満を述べても返答はない

 

限られた戦力の中で考え得る最高の戦術の導き出し天明を待つ

 

『非理法権天』

 

しかしこれほど無責任な言葉があるだろうか

 

「そんなに僕たちの力が信じられないのかい?」

 

ますます迷信にはまり込む私の姿を見て、ふと時雨にそう問いかけられた

 

私は思わず返答を飲み込んでしまった

 

時雨は俯き悲しそうな表情を垣間見せたがすぐに笑顔に変わる

 

 

 

 

 

 

 

あと1ヶ月

 

食事は喉を通らず体はみるみるうちに細くなっていった

 

固形物を口に入れるとそれだけで気分が悪くなる

 

せめてものコーヒーに大量の砂糖を入れてサプリメントと共に流し込む

 

そんな私の姿を見ていつもは気の強い満潮が心配そうにしている

 

満潮もこんな表情をするのだなと思いつつもそれが笑顔ではないことに心が痛む

 

席を立ち満潮とすれ違おうとすると呼び止められた

 

「提督、負けないで。・・・私たちがいるから」

 

 

 

 

 

 

あと2週間

 

ついに私の心は崩壊の一歩手前にあった

 

貸したお金は戻ってこない、そう思っていれば裏切られたときの心理的ダメージは少ない

 

もはや私は自身の不運こそを心の拠り所としていた

 

最初から海域攻略が失敗すると確信していれば、駆逐艦しか建造されないと信じていれば裏切られることはない

 

もしこのとき大和や大鳳などの希少な艦がこの鎮守府に着任していたら私の心は完全に壊れてしまっただろう

 

今までどんなに苦労を重ねてきたことか、それなのに望まずとも大和がうちの鎮守府にやってきたとしたら

 

苦汁を舐め駆逐艦たちに辛いを思いをさせてきたのは一体何だったのか?

 

そう思うに違いない

 

幸いなことに最期まで大和も大鳳も現れることはなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

あと1日

 

鎮守府に空襲警報が鳴り響く

 

深海棲艦が鎮守府を標的として攻め込んできた

 

このようなことは前例がない

 

よりにもよって私の鎮守府が歴史上初めて深海棲艦の襲撃を受けることになった

 

黄金のオーラを身に纏う敵の群れはとても対抗できるようなものではなかった

 

それでも市民が避難する時間を稼ぐために艦娘たちは出撃していった

 

私が命じたのではない

 

私は艦娘たちに一刻も早く逃げるよう指示した

 

けれども彼女たちは私の指示を無視し敵部隊へと向かった

 

こちらの航空戦力は山城の瑞雲のみ、それもつい先ほど全機撃墜された

 

もはや私にできるのは通信指令室に座り彼女たちの最期を見守ること

 

無線を通して彼女たちの私に向けた別れの言葉が聞こえてくる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ああ

 

ここはどこだ?

 

雲一つない青空が視界一杯に広がる

 

頭を横に向けると深海棲艦の爆撃を受けすっかり変わり果てた鎮守府の姿が目に入る

 

続いて下を見ると瓦礫が足を押しつぶしている

 

内臓が損傷し鮮血が淀みなく口へと向かっている

 

痛みはないが生命の危機を脳が確信している

 

ここが最期か

 

目をつぶる

 

ああ、ついていない

 

提督になんかなるんじゃなかった

 

父さんや母さんの言う通り家業を継いでおくんだった

 

そうすればこんなに苦しい思いをしなくてすんだ

 

他の者が私の代わりをしていれば艦娘たちもこんな結末を迎えずに済んだはずだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「不幸ですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふと愛する者の声が聞こえ

 

 

 

私は心の安らぎを感じ眠りについた

 

 

 

 

 




お読み頂きありがとうございました

参考までに
非理法権天(ひりほうけんてん)
戦艦大和、そして艦娘である大和改に掲げられた言葉です

無理(非)は道理(理)に劣り、道理は法に劣り、法は権威(権)に劣り、権は天道(天)に劣位する

天は全てに超越する(ただし天は天皇を示してはいません)

提督は不運だけれども不幸ではなかった

頑張ります!

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