僕らがこの文月学園に入学してから二度目の春が訪れた。
校舎に続く坂道の両脇には新入生を迎えるための桜が咲き誇っている。別に花が愛でるほど雅な人間ではないけれど、その眺めには一瞬目を奪われる。
でも今の僕らの頭にあるのは、今年一年を共に戦い抜いていく戦友と教室。
つまり新しいクラスのことで一杯になっていた。
「吉井、蛇松、遅刻だぞ」
玄関の前でドスのきいた声に呼び止められる。声のした方を見ると、そこには浅黒い肌をした短髪のいかにもスポーツマン然とした男が立っていた。
「あ、鉄じ――じゃなくて、西村先生。おはようございます」
「鉄人おはよう!!」
軽く頭を下げて挨拶をする。何せ相手は生活指導の鬼、西村教諭だ。目をつけられるとろくな目に遭わない。
「蛇松、普通に鉄人と呼ぶな」
「気のせいじゃないですか?」
「いや、はっきり鉄人って聞こえたぞ。」
因みに鉄人というのは生徒の間での西村先生の渾名で、その由来は先生の趣味であるトライアスロンだ。
「それにしても、普通に『おはようございます』じゃないだろうが」
「あ、すいません。えーっと……今日も肌が黒いですね」
「違うだろ明久。『今日も暑苦しい存在ですね』だろ」
「……お前らは、いくら罰を与えても全然懲りないな」
溜め息混じりに先生が呟く。
「まぁ、とりあえず受けとれ」
鉄人が箱から封筒を取り出し、僕に差し出してくる。宛名の欄には『吉井 明久』と、書かれている。
隣にいる仁も同じように、『蛇松 仁』と書かれている封筒を受け取っていた。その瞬間、仁は校舎に向かって歩き出した。
「仁、どこいくの?」
「教室だよ。封筒を見なくても結果知ってるしな」
そう言って仁は行ってしまった。
僕らの通う文月学園はクラスがAからFまであり、二年生以上はAから順に振り分け試験の成績順でクラスが決まっていく。
頭の良い人はAクラス、悪い人がFクラス、といった具合だ。
つまり所属しているクラスだけで頭の良し悪しがわかってしまう。
男のプライドにかけて、Fクラスだけは避けたい。
「吉井、今だから言うがな」
「はい、なんでしょうか?」
結構頑丈にのりづけされていて、封筒がうまく開かない。
「俺はお前を去年一年見て、『もしかすると、吉井はバカなんじゃないか?』何て疑いを抱いていたんだ」
「それは天地がひっくり返って天国と地獄が入れ替わる位の間違いですね。そんな誤解をしているようじゃ、更に『節穴』なんて渾名つけられてしまいますよ?」
自分で言うのもなんだけど、一年の最後にやった振り分け試験では、あまり勉強しなかったのに良いできだった。テストの結果を見て、きっとバカの疑いどころか、逆に僕のことを間直したに違いない。
「ああ。振り分け試験の結果をみて、先生は自分の間違いに気がついたよ」
「そう言ってもらえると嬉しいです」
やっぱりうまく開かないな。仕方ない。上の部分を破くか。
ビッと軽い音を立てて封を切る。
中を覗くと、そこには一枚の紙が入っていた。
さて、僕はどこの所属だろう。Dクラスだろうか。それともCクラス?
「喜べ吉井。お前の疑いはなくなった」
折り畳まれた紙を開き、書いているクラスを確認する。
「吉井明久……Fクラス」
「お前はバカだ」
こうして僕の最低クラス生活が幕を開けた。