八幡が卒業した2年後の話しになります。
社会人となった八幡。
教師と生徒ではなくなった八幡と先生の物語です。
台本形式となりますので苦手な方はすみません。
桜の花を見るとまた新しい1年が始まるのだと痛感する。生徒の顔も入れ替わり、慌ただしい生活がまた訪れる。
平塚「ふぅ。いつまでたってもこの季節は慣れんな。」
彼らが卒業してから2年の月日が流れた。あの時期はとても楽しかった。今では彼や彼女たちのような生徒はこの学校にはいない。手がかかる生徒達だったが今では愛おしく感じる。
平塚「もう2年か。元気にしてるだろうか。」
ようやく仕事も一息つき、昔の元生徒を思い溜息をつく。
平塚「さて…。帰るか。」
同じようなことの繰り返しの毎日。いつぞやみたいな刺激のない生活。仕事の手は抜いてはいないが少し物足りない。私は帰りにふらっと昔よく行っていたラーメン屋に立ち寄る。他にもおいしいラーメン屋はたくさん知っているがたまにふらっと立ち寄ってしまう。
なんだか彼が居るような気がして…。
別に彼に恋愛感情を抱いているからではない。おそらく寂しさからくるものだろう。寂しさを埋める為に居るはずもない姿を追い求めているのだ。
平塚「ま、居るはずないか。」
ラーメンを食べ終わり店を後にする。私はタバコに火をつけ一息つく。いい歳して元生徒を追い求めている自分がなんだか情けない。
平塚「さ、帰るか。」
火を消し、車に戻ろうとした私に声をかける人物。
??「先生?」
久しぶりに聞くこの声。振り向かずとも誰だか分かる。こんな覇気がない声の知り合いなんて1人しか居ない。
平塚「相変わらず腐ってるみたいだな君は。」クスッ
八幡「いや…。久々に会う生徒への第一声がそれですか…。」
平塚「元生徒だ。実に久しぶりだな。元気にしていたかね?」
八幡「腐ってると感じたのなら元気ではないですね。」
平塚「ふふっ。相変わらずだ。懐かしい。」
あの頃に戻ったかのような不思議な感覚。不覚にも笑みがこぼれてしまう。
平塚「ラーメンを食べにきたのかね?」
八幡「そうっすね。遅くなったんで帰っても晩飯ないでしょうし。」
平塚「ふむ…。比企谷。君はもう二十歳にはなったはずだな?」
八幡「ええ、まぁ。」
平塚「酒は飲めるのかね?」
八幡「酒ですか?会社で付き合い程度ですけど…。」
平塚「よし。では飲みに行こう。私の奢りだから安心したまえ。」
八幡「…それって拒否権あるんすか?」
平塚「私の誘いを断るとどうなるか昔散々その体に刻み込んだはずだが?」ニコッ
八幡「…お供します。」ブルッ
* * * * *
平塚「さぁ好きなだけ飲んで食べてくれ。遠慮はしなくていい。」
八幡「うす。」
ふむ。しばらく見ない間にずいぶんと社会人らしくなってるじゃないか。スーツ姿も悪くない。だが相変わらず目つきが悪いな。
平塚「君は今は営業をしているんだったか?」
八幡「そうっすね。毎日辞めたくてしょうがないですよ。」
平塚「昔言ったが君は人の心理を読むことは長けているからな。案外営業は適任かもしれん。」
八幡「そうとは思えませんけどね。まぁ、頭を下げるのは得意ですからなんとかやれてます。」
平塚「相変わらず捻くれてるな君は。」クスッ
八幡「数年くらいじゃ変わりませんよ。」
平塚「さて、とりあえず乾杯しようか。」
八幡「うす。」
平塚「久々の再会を祝って乾杯っ。」
八幡「…乾杯。」
まさかこんななんてことない日に比企谷と出会うとは。まったく人生というのはわからんものだな。
平塚「まさか比企谷と酒を飲む日が来るとはな。」
八幡「わからんもんすね。」
平塚「今でも雪ノ下や由比ヶ浜と会ってるのかね?」
八幡「ごくたまにっすね。由比ヶ浜が招集かける感じで。」
平塚「ふふっ。君も雪ノ下も声を掛けるのがヘタクソだからな。」
八幡「余計なお世話です。」
平塚「二人は元気にしているか?」
八幡「ぼちぼちじゃないですか?わからんけど。」
平塚「君はどちらかと付き合っているんではないのかね?」
八幡「…そんな訳ないじゃないですか。」
平塚「てっきりどちらかと結婚するものだとばかり思っていたのだが…。」
八幡「それはないです。」
平塚「君はそうでも向こうはどう思っているかわからんぞ?」
八幡「俺のことはもういいですって。それより先生こそどうなんすか?」
平塚「…そういう痛いところを突いてくるのも相変わらずだ。」
八幡「まだ指輪とかしてないってことは…」
平塚「ま、そういうことだな。」
八幡「え?でも先生たしか、さんじゅう…ぐはぁっっ!!」ボコッ
平塚「私の教育が足りなかったようだな。」ニコッ
比企谷の言う通りだ。
この歳になってもいい人に巡り合うこともない。
平塚「私はもういいんだ。半ば諦めているからね。」
八幡「昔はあんなに目をギラギラさせてたじゃないっすか。」
平塚「君は変わってないと先程言ったが私は変わったんだよ。」
平塚「いや、変わらなければならなかったのか。」
八幡「先生?」
平塚「正直に言うと君たち奉仕部があった頃が一番充実していた。」
平塚「今では君たちのように手のかかる生徒がいなくてね。どこかぽっかりと穴が開いている気分だ。」
平塚「やはり楽しみがないというのは辛いものだな。毎日が色付いて見えない。」
平塚「まるで灰色に染まった中で生きているみたいなものだよ。」
八幡「…だから変わったんですか?」
平塚「別に君たちのせいではないよ。ただ何事にも意欲が無くなった…みたいなものかな。」
八幡「それってきつそうですよね。」
平塚「君も社会人だ。私の言うこと。働くことの大変さも分かるだろう。」
平塚「私からの助言だ。自分の大切なもの。好きなものは絶対に捨てるな。」
平塚「心の寄り処となるようなものは大切にしなさい。」
平塚「それはきっと君を守ってくれる。心のお守りだと思えばいい。」
八幡「…先生は相変わらず言いこと言いますね。」
平塚「一応教師だからな。」クスッ
八幡「でも未だに自分のことは理解していないんじゃないっすか?」
平塚「何?」
八幡「先生は実際いい先生だと思いますよ。でもそれは人に対してだけだ。」
八幡「先生は人の心配ばかりで自分の事は全然見ていない。」
平塚「そんなことは…。」
八幡「ないといいきれますか?自分の為に何かすることがあるんすか?」
平塚「…。」
八幡「先生はいつも人のことばかり心配してる。そりゃいい先生な訳だ。」
平塚「その言い回しも変わらんな…。」
八幡「覚えてますか?”誰かを助けるということは、君自身が傷付いていい理由にはならないよ”って。」
八幡「俺は忘れてない。今このセリフを先生にお返ししますよ。」
八幡「もうちょっと自分の幸せの為に何かしてもいいんじゃないっすか?」
平塚「ふふっ。あははははっ!」
八幡「せ、先生?」
平塚「いやー!まいった!まいったよ比企谷!まさか君に諭されるとは!」
八幡「先生があまりにも不憫に見えたので。」
平塚「いつもなら殴る所だが勘弁しよう。君の言う通りだ。私は私を理解していなかったな。」
八幡「わかれば先生ならすぐになんとかできますよ。先生はそういう人でしょ。」
平塚「そうだな。私も自分の為に何か考えてみるよ。」クスッ
八幡「…先生は奉仕部が。あの頃にもし戻れたら昔の先生に戻れますか?」
平塚「…そうだな。もし戻れるのならば少しは気分が晴れるのかもしれんな。」
平塚「というか比企谷のくせに私に説教とか10年早いわ!もっと飲め!」
八幡「も、もう無理ですって!ちょ、ちょっと家に遅くなるって連絡してきます!」
平塚「あ!こら!逃げるな!」
平塚「まったく…。子供だとばかり思っていたが…。成長するものだな…。」
平塚「そりゃ私も歳とるわけだ…。」クスッ
あんなふざけた作文を書くようなやつが今では私にお説教か。嬉しさもあり寂しさもあり益々年齢を自覚してしまうな。
しかし比企谷を奉仕部に入れて正解だった。雪ノ下や由比ヶ浜。一色もそうだな。もちろん私も。比企谷が居たからこそ乗り越えられた、解決できたことがある。
君は本当に周りにいい影響を与えてくれたよ。
八幡「お待たせしました…。」
平塚「遅い!もっと飲め比企谷!」
八幡「ゆ、ゆっくり飲ませて下さいって!」
* * * * *
平塚「それであのハゲがむかつくのなんのって!」
八幡「は、はぁ…。」
八幡(延々と愚痴ばっかだ。よっぽど溜まってたんだな…。)
???「あ!いたいた!ヒッキー!」
八幡「お、来たか。」
平塚「ゆ、由比ヶ浜!?」
???「まったく。店の名前だけじゃなく住所で教えてもらえないかしら。」
八幡「お前方向音痴だもんな。」
平塚「ゆ、雪ノ下まで!?」
由比ヶ浜「先生!久しぶりっ!」
雪ノ下「ご無沙汰してます平塚先生。」
平塚「な、なんで…。」
雪ノ下「先生が居るから来て欲しいって連絡があったんです。」
由比ヶ浜「ちょー珍しくヒッキーから連絡来たから何事かと思っちゃった!」
あ…。家に連絡って言っていた時か。
八幡「昔…みたいにとはいかないですけど少しは灰色が色付くんじゃないっすかね?」
平塚「比企谷…。お前というやつは…。」グスッ
八幡「涙は自分の結婚式にでもとっといてくださいよ。」
平塚「う、うるさい!」ドゴッ
八幡「ぐはぁっ!!」
由比ヶ浜「ひ、ヒッキー!?」
雪ノ下「何にも変わってないわね。」クスッ
平塚「あははははっ!」
* * * * *
平塚「二人とも今日はありがとう。久しぶりに若返った気分だ。気を付けて帰りなさい。」
由比ヶ浜「じゃ先生また連絡するね!」
雪ノ下「ではまた。」
八幡「じゃ、俺も…。」
平塚「比企谷。君は残りなさい。」ガシッ
八幡「あの…。」
平塚「拒否権は無いと説明したぞ?」
八幡「くっ…。」
平塚「まったく君には毎回のことながら驚かされるよ。」
平塚「君が自らあの二人に連絡をするなど昔ではありえんかったからな。」
八幡「た、たまたまっすよ。」
平塚「変わってないことなんてない。君は変わったよ。とてもいい方向に。」
八幡「…そうだといいんですけどね。」
平塚「まるで今日の出来事は奉仕部みたいだったな。」
八幡「はい?」
平塚「君が私を救ってくれた。」ニコッ
八幡「救ったつもりなんてないですよ。」
平塚「そういう謙遜するところは変わってないな。」クスッ
八幡「なんか先生って子供みたいですよね。」
平塚「ん?なぜだ?」
八幡「いや、だって凄い子供っぽく笑うなって思って…。」
平塚「子供でいいさ!今日はとても楽しかった。比企谷ありがとう。」ニコッ
八幡「元気出たみたいで良かったです。」
平塚「私が後10歳若ければ君に心底惚れていたのかもしれないな。」
八幡「奇遇っすね。俺も10年早く生まれてたら心底惚れてたんだろなって思ったことありますよ。」
平塚「…そうか。それは惜しいことしたな。」クスッ
八幡「もし俺を養ってくれるなら先生をもらってあげますよ。」
平塚「”平塚さん”だ。もしくは静さんでもいい。」
八幡「はい?」
平塚「もう私は君の先生じゃない。お互い大人だからいつまでも先生というのはおかしいだろう?」
八幡「そういうもんですか?まぁまた機会があればご飯でも行きましょう平塚さん。」
平塚「ふふっ。そこは静さんって呼ぶところだろう。まだまだ女の扱いがいまいちだな。」
平塚「まぁ、君の貰い手がなければ私が君を養ってやらんこともない。」クスッ
八幡「俺が貰われないこと祈っといて下さい。」
平塚「そうするよ。では比企谷気を付けて帰れ。また会うのを楽しみにしてるぞ。」
八幡「うす。せんせ…平塚さんこそ気を付けて帰って下さい。」
平塚「うむ。そうだ何だったら今度ウチに遊びに来るといい。」
八幡「男に飢えてるからって襲わないでくださいよ?」
平塚「それは約束できんな。」クスッ
八幡「ではまた。」
平塚「ああ。元気でな。」
いい歳した教師が10歳以上違うものにこうも救われるとは。しかし今日はとてもいい日だ。比企谷の言う通り灰色だった景気が違って見える。奉仕部での活動は無駄ではなかったな。君は十分に魅力溢れる男性へと変わった。由比ヶ浜も雪ノ下も非常にいい顔をしていた。
教師としてこれほど嬉しいことはないな。
なぁ比企谷。もしかしたら私は君に少しばかりの恋愛感情があったのかもしれん。でも君にはもっとこれから先いろいろな出会いがあるだろう。
君の元先生として君の幸せを心から願うよ。
ありがとう。比企谷。
* * * * *
後日
八幡「うす。」
平塚「……。」
八幡「な、なんすか?そのリアクションは。」
平塚「はぁ…。比企谷。ウチに遊びに来てもいいとは言ったが本当に来るやつがあるか。」
八幡「いや。そもそも飲んでる時からずっとウチ来いって言ったの平塚さんじゃないですか!?」
平塚「え?私そんなこと言ってたのか?」
八幡「来なかったら拳が出るぞって脅してきたし、丁寧に自宅の住所まで渡してきたし…。」
平塚「…。」
平塚(まったく記憶にない…。男に飢えてるってのは間違いじゃなさそうだな…。恥ずかしい…。)
平塚「君も酒の席なんだから無視すれば良かったんだ。私のウチに来ても楽しくないだろうに。」
八幡「いや、まぁ。別に嫌ではなかったっすけど…。」
平塚「……。ふぅ。まったく君は。上がりなさい。平塚流のおもてなしをしてあげよう。」クスッ
八幡「なんか怖いんすけど…って汚っ!?」
平塚「し、仕方ないだろ!?急に君が来るのが悪い!」
八幡「だから誰にも貰われな…げふっ!?」ドスッ
平塚「うるさーーい!!!」
まったく。本当に私が君を好きになったらどうするつもりだ…。
まぁ…それも案外悪くないかもしれないな。
見ろ君のせいで今日の景色は虹色に見えるよ。
おわり
次回は三浦優美子のお話しにします。
短編で本話の続きを書いてありますが
R-18版となりますので興味ある方だけ覗いてみて下さい。