『ハングド・キャット』
THE HANGED CAT
洞観者の洞観者による世界のための秘密結社。伝書猫で情報交換を行い、指導者である武蔵の命令に従って活動している。
または秘密結社の本拠地であり財源でもある喫茶店。とても賢い猫たちを利用した猫喫茶のつもりで武蔵は店を開き、客は手伝いで働いている艦娘(洞観者)や本格カレーを目当てに来店する。武蔵が最も力を入れているコーヒーは「極めて不味い」と撃沈王のお墨付き。実際不味い。
◆――――◆
二皿目のカレーを出された大和は、「あ、そうそう」と話したかったことを思い出した。
「来月にね、ちょっと変わった公開演習があるのよ」
「ふうん」
「ふうん、て。なにその興味ありませんな反応」
「興味がないからそんな反応になったんだ。私は艦娘業の方ではもう演習に出ることもないだろうからな」
「そうなの? どうして」
「燃料弾薬がMOTTAINAIからだ。喫茶店でこうして働いているばかりでも、能力のおかげで腕がなまることもないしな」
「武蔵だけの話じゃあないでしょう。他の子たちの相手を大和型がしてあげる、って義務があるでしょうに」
「鋼材もMOTTAINAIから的にもなれん。ちなみに私は改二の艤装すらも温存してくれと提督に頭を下げられてしまってな」
「……武蔵あなた、艦娘である意味、ある?」
「正直なところ――ない。だがこの武蔵、それはそれで別にいいと割り切り済みだ」
「信濃が聞いたら何て言うかしら……。なら、そんな武蔵のためにMOTTAINAIを気にせず戦える機会を与えてあげましょう。私のチームに特別に加えてあげる」
「あん?」
◆――――◆
「バトルロイヤル?」
艦娘になって長い武蔵も聞いたことがない戦いだった。もちろん『バトルロイヤル』という単語をまったく耳にしたことがない、という意味ではない。戦争とバトルロイヤルが関連づいて語られたことがなかった。
「そう。バトルロイヤル形式の公開演習」
大和は三皿目のカレーの前に水休憩をはさんだ。
「敵は自分たち以外のチーム全員。たくさんのチームがたったひとつの勝利を奪い合う真剣勝負」
「そんな演習が? 開催されるのか?」
「そう。来月の下旬に」
「どうして」
「うん?」
「どうしてバトルロイヤルなんだ。やるにしたって普通はトーナメント形式とか、そんなんだろう」
「流行ってるから、ですって」
「流行ってはないだろう。どこの世界に全員が全員と敵対する海戦がある? 艦娘はいつから海賊になった?」
「知らないわよ。企画した人と、その企画を承認した人に聞いて頂戴」
「ふざけている、としか思えんな」
「一応、他にも理由があるにはあるのよ」
「もっとふざけた理由がか?」
「そもそものきっかけは一人の駆逐艦の子らしいのよ。ほら、よくある話じゃない。主力打撃部隊に護衛駆逐艦を組み込もうとする時、輸送任務が多い子たちから選抜するために演習をしてもらおうって」
「あー、駆逐艦を『勝てば主力だ』と煽るヤツな」
「そうそれ。まさにそれに怒ったらしいのよ。輸送部隊をナメるなって。同じ条件で同じ戦場に立てば、むしろ最後まで生き残るのは戦艦でも空母でもなく、駆逐艦の自分だ、って」
「うむ。なかなか根性のある駆逐艦だな」
「最後の最後になっても、味方の屍を盾にしてでも生き残ってみせる、って」
「……それは艦娘的にどうかと思うな」
「彼女の熱い思いが、じゃあ本当に最後まで立っていられるのは誰か、って話に繋がったとかどうとか――知らないけど。そんなわけでバトルロイヤル」
「つまり真の強者を決めたい――いや証明したいというわけか。結構なことだ。それで気が済むなら存分にやればいいさ」
「なにを他人事みたいに言ってるのかしら。さっき言ったでしょ、武蔵も戦うのよ。私のチームで」
◆――――◆
「ルールを説明するわね」
「しなくていい。私は知らん」
コーヒー豆をいじくり始めた武蔵に、大和は構わず話を続けた。
「1チーム2人以上6人まで。全部で何チームになるかはまだ分からないけど、各チームがそれぞれ10キロメートル以上離れた状態から、時間と同時に勝負開始よ。チーム編成には艦種も装備も練度も制限なし。シンプルでしょ」
「……空母と潜水艦が残ってグダグダになるんじゃあないか」
「それはないわね」
「どうして言い切れる?」
「だって私のチームには、この撃沈王がいるんですもの。どんな展開になっても終盤まで戦艦が残ることになるわ」
「はいはい強い強い」
「あのねえ武蔵。これは公開演習よ。公開されるのよ。チームの旗艦にはカメラを付ける義務があって、しょうもないやられ方をしたらそれが――」
「優勝したら何か貰えるのか?」
「え? ええっと、さあ? トロフィーとかじゃない?」
「誰がやる気出すんだそれ。参加者が集まらずにお前が優勝だな、おめでとう」
「まだ正式に告知されてないもの。豪華賞品があるわよきっと。アカシマートで使えるギフト券とか」
「だといいな」
「……私だって本当はちっとも乗り気じゃあないのよ? バトルロイヤルなんてどう考えてもお遊びだし、でも『最強を決める』のなら撃沈王が出ないわけにはいかないし……私にどうしろっていうのよ」
「とりあえず出場して適当に勝っとけ」
「それ以外に思い付かないから聞いてるの」
「面倒臭いヤツだなあ……。じゃあ、お前のチーム構成はどうするつもりだ? 6人の内訳は?」
「私と武蔵で戦艦2でしょ、あと空母2に駆逐艦2」
「つまらん。それはつまらんな。撃沈王なら最低人数の2人で戦ってみせたらどうだ?」
「――ほうほう」
「さっきの話の根性ある駆逐艦だって、恐らく駆逐艦6で参戦するだろう。そういう信条のぶつかり合いや、死闘の果てが漁夫の利を狙う者によって呆気なく掻っ攫われていくのがバトルロイヤルの醍醐味だ。無難と無難が無難に戦うところなぞ公開されてもつまらん。思いも寄らないドラマが生まれるからこそのバトルロイヤルだ」
「ふぅーむ」
「大和、お前が遊びだと思うのなら存分に遊べ。その上で掴み取る勝利なら、満足できるんじゃあないか」
「なるほど――それ、いいわね。ええ、それでいきましょう」
「まあ、早々と脱落しないように祈っとくんだな。この手の勝負は運に左右されやすい」
「それは気をつけるけど、いつまで他人事な態度を続ける気なのかしら、この二番艦さんは」
「……私は出ないぞ」
「分かってないわねえ。出る出ないじゃあなくて、私が出してあげるのよ。運動不足気味でしょう?」
「他にいくらでもいるだろうが。私は忙しい」
「やだ武蔵ったら、もしかして姉妹艦で並ぶのが恥ずかしいの?」
「お前という存在が恥ずかしい!」
「照れない照れない。じゃあチーム名はどうする? 適当でいいわよね。――分かってると思うけど、もしすっぽかしたりなんかしたら……この撃沈王、全力であなたを晒し者にします」
「このっ! き、貴様というヤツは……!」
「あ、忘れてたわ。マスター、カレーおかわり」
「帰れ! 出てけ!」
~つづかない~