撃沈王の土産話   作:vs どんぐり

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2020/03/02:加筆修正
投稿した後になって仕上げをする悪癖をなんとかしたいものです。


いま明かされる武蔵の改二改造秘話

「正直な願望を言ってもいいかしら?」

 

 こんなことは姉妹艦としか話せないから、という意味である。

 今から大和は大切な話をするけれど、武蔵は聴覚以外の感覚を遮断して集中するレベルで聞くように、という意味でもある。

 カウンター席の定位置に大和は座っていて、武蔵も仕事上の定位置である大和の向かいにいる。二人のどちらかがコーヒーカップとソーサーが鳴らす音より小さい独り言をボソリと呟いてももう片方に聞こえてしまう近さにいて、それでも大和が「言ってもいいかしら?」と断りを入れるということは、話がよほど深刻かしょうもないかのどちらかだった。

 武蔵は大和をちらりと見た。

 この大和型1番艦はたまに、まったく唐突にヘビー級の相談を持ち掛けるという悪癖があるから油断ならない阿呆なのだ。……が、今の大和はポヤッとしていた。今回は、まあ案の定、しょうもない話をする阿呆であるらしい。

 大和は許可を求めておきながら、勝手に話し始めた。1番艦特権の乱用である。

 

「ボロボロで大ピンチな部隊を、逃げることすら許さない圧倒的な鬼姫クラスの深海棲艦が最後の一撃で終わらせようとしたその時――スーパーヒーロー着地で割って入る戦艦に、私はなりたい」

 

 武蔵は困った。とても困った。

 

「みんなあれをやるが……ヒザに悪い」

 

 ほぼそのままの返ししかできないほど武蔵は困った。

 世界に誇る撃沈王がTwitterに同じことを書き込みでもしたらプチ炎上するのは間違いない。

 大和が自身を撃沈王たらしめているのは他の追随を許さないレベルの超々遠距離砲撃の1撃目の精度であり、装甲は硬かろうと遠方の仲間をダッシュでかばいに行ける速度など期待されていない。防御を言うなら旗艦位置から「ナッパよけろーっ!」と叫ぶ重要な仕事がある。観測可能な脅威に対して砲撃も味方への警告もせずスーパーヒーロー着地をしに走るなど撃沈王の職務放棄、存在否定とまで言える。

 そして多くの日本人が知るとおり(或いは知らないとおり)、Twitterには不要な言葉を引き出させる魔力がある。

 普通、艦娘に対魔力が具わるか? 否。ならば撃沈王にはどうか? これも否。

 

「大和。スマホを出せ」

「どうして? 私がスマホを出すって分かったの?」

「いい子だ。そのお前には過ぎたデバイスをこっちに寄越せ」

「知らないけど後でね。私はTwitterで『ボロボロで大ピンチな部隊を、逃げることすら許さない圧倒的な鬼姫クラスの深海棲艦が最後の一撃で終わらせようとしたその時――スーパーヒーロー着地で割って入る戦艦に、私はなりたい』ってつぶやくのに忙しいから」

 

 武蔵はカウンターから手を伸ばして大和のスマートフォンを引っ手繰り、Twitterをアンインストールしてあげた。

 

「ほら返す。パスワードまで知っていたらアカウントごと削除してやれたのだが」

「話の続きだけどね」

「ヒザを壊した続きか」

「味方に背を向けたまま、艤装を最大展開してこう言うの。『これが本当の私――大和改二、推して参ります!』」

「あー、うん。懐かしいノリだ」

 

 武蔵には改二改造があるが大和にはないだろ、の喧嘩はもう済ませてあるため今更やらない。大和型はかしこいのだ。

 

「もう何年も前になるか……そんな感じの創作が流行ったなあ」

「あら、武蔵は言い切れるの? 創作が先か、史実が先か。どちらが本当の流行だったか」

「真相は知らんが聞いたことはある。戦場のド真ん中で卍解――じゃなくて改二。応急修理女神とカンムスソウルが起こした奇跡の改二、だったかな確か」

「カンムスソウルなるものは見たことも聞いたこともないけれど、その話、たぶん私が見た記録と同じものだわ。古い記録を研究してたら見つけたのよ。他にも、今になって見直すと、大本営発表にも負けない美化された記録をよくもまあ書けたものね、というのがドッサリと。書き直しを命令しなかった側も、まあ時代よね」

「正直、私も少しはそういう美化された改造を夢見ないでもなかったわけだが……現実をこの身で知ってしまうとな……。はぁ……」

「そこまでガッカリすることもないでしょう。武蔵あなた、改二改造にどれだけ期待してたのよ」

「実際期待したのは改造後のステータスいくらか上昇したらいいな、だけだ。だが問題は、改造のやり方が酷過ぎだ。後頭部に破城槌みたいなヤツをゴン! だぞ。妖精に殺されるかと思った――のは改造が成功して意識を取り戻した後になってだが」

「は? え、何ですって? 破城槌?」

 

 

◆――――◆

 

 

 次は武蔵が意味不明なことを言い出す番だった。

 

「寺で釣鐘を打つ……撞木だったか? アレの個人携帯型みたいなヤツだ」

「……ごめんなさい武蔵。ぜんぜん分からない」

「撃沈王ともあろう者が分からない? ご存知でない?」

「またスマホ貸すから、ちゃんとソレを検索して画像で見せてちょうだい」

「寺の鐘を鳴らすアレみたいなもの、で伝わらんか」

 

 武蔵がGoogle先生に質問している間、大和は大和型2番艦を(この子、疲れてるのかしら)と心配そうに見つめていた。

 

「――あったぞ画像。ほら。『バッテリングラム』というものらしい」

「……………………」

 

 大和が見せられた画像では、確かに寺の鐘を鳴らすアレみたいなモノを個人携帯サイズにしたようなヤツで、特殊部隊っぽい装備をまとった男性がソレを両手で持って扉に打ち付けようとしていた。

 

「な? ソレだろ?」

「……えっと……私たち、何の話をしてたのだっけ?」

「お前は毎度毎度、話を飛ばすのが好きだな。改二改造の現実は酷いものだ、という話で、その画像ひとつで具体的にどう酷いのかが分かるだろう」

「…………本当にごめんなさい武蔵。ぜんっぜん分からない。むしろこの画像のせいで余計に分からなくなったわ。武蔵の改二装備にこの黒くて太い棒が含まれてたの? 海に扉なんてないわよ?」

「違う、少しは話を思い出す努力をしろ。私の改二改造の時、このバッテリングラムで後頭部を殴られたんだ。妖精が、まるで私の頭を寺の鐘と勘違いしたようにだ。いや故意に気絶させにきたから勘違いではないな。未だに信じられん、まったく」

「信じられん、はこっちのセリフなんですけど」

 

 大和は大和型2番艦――形式上の妹のことが、わりと本気で心配になってきた。

 

「ね、ねえ。聞いていいかしら。武蔵が殴られたのって……えーと、今朝、だったりしない?」

「2年以上前のある日の朝だ。いや昼だったか? とにかく、改二に改造するからと工廠に呼び出されて、少々浮かれつつ工廠の中に入った直後だ。ちなみに改造が終わって目が覚めると夜になっていた。あれほど酷い目覚め方は他にない」

「本当に? 昨日今日の話でないと言い切れる? 何か証拠は?」

「2018年1月24日20時ジャストに【撃沈王の土産話 第11話『改二の目処が付いたんですってね』】という投稿がある」

「それが何の証拠になりますか。その場で回れ右しなさい武蔵。ほら髪を分けて、お姉さんに後頭部をちゃんと見せる!」

「2年以上前のたんこぶが残ると思うか? あと誰がお姉さんだ」

「うーん……確かに無傷」

「本当に今まで知らなかったのなら大和、いま聞いておけてよかったな。将来、恐らくあるだろう改二改造に向けて心の準備ができる。それと殴られた後のケアの準備もだ」

「殴られません。普通、殴られません」

 

 武蔵は、一度言い出したら聞く耳を持たない大和型1番艦のことをよく知っている。それでも忠告はしておいてやるのが2番艦の務めだと、放棄することは3回のうち1回くらいしかなかった。

 

「撃沈王ともなれば全身麻酔など穏便な手段になるかもしれん。だが用心はしておくに――」

「うちの扶桑の改二改造はそんなのじゃあなかった。トラブルが多過ぎて1ヶ月以上かかったけれど、気絶なんて1度もしなかった」

「当たり前だ。扶桑もお前と同じように唯一無二、大切に扱われるだろうから、丁寧な眠らされ方になるに決まっている」

「だーかーらー。改造するのに意識を奪われる、っていうのがまずおかしいと私は言ってるの。武蔵の言う改造理論だと、じゃあ臨機応変にコンバートできる子なんてどうするのよ。その度に後頭部どついてたら、そのうち工廠の中で永眠しちゃうじゃあないの」

「なるほどな……。言われてみれば、その通りだ」

「でしょ?」

「ああ。だから……コンバート可能な艦娘は幾度もその恐怖と戦いながら己を改造しているのだろうと……尊敬する」

 

 大和も、一度言い出したら聞く耳を持たない大和型2番艦のことをよく知っている。それでも忠告は――面倒臭くなってきたから、今回は思いついたことを適当に言っておくことにした。

 

「武蔵の場合はアレよ。ほら、ドーカンシャは妖精との関係が冷え切ってるのでしょう? だから大規模改造に意識と意見を持ち込まれるのが面倒で、まず殴り倒すことにしたのよ、妖精たちはきっと。それでもなければ改二改造前のみそぎの儀式。本当にお寺の鐘に例えて煩悩を払ったとか」

「私が洞観者だから? ……大和のくせに随分と有り得る可能性を言う」

「艦隊に戻ったら妖精に確認することね。気を失うほど強く後頭部を殴るなんて何考えてるんだって。殺す気かって。せめて先に言えって」

「先に言われたところでなあ」

 

 

◆――――◆

 

 

 後日。場所はいつもと同じハングド・キャットのカウンター席。

 

「妖精に確認した。大和、お前の言ったことが当たっていた」

「ふうん」

 

 ドーカンシャの問題ならば、ますます大和が興味を持つ理由がなくなる。バッテリングラムで後頭部を殴られはした姉妹艦はこれまでの2年間も、今も、問題なく動いている。ならば今はそんなことよりも、カレーが冷めてしまう前に食べなくてはならない。カレーこそが最優先事項である。

 

「だが当たっていたのは半分だけだった」

「ふうん?」

「『大規模改造に意識と意見を持ち込まれるのが面倒』というのは正解らしい。だがそれは私が洞観者だから、ではない。大和型だから、だそうだ」

「ふーん。…………なんですって?」

「大和型ほど面倒臭い艦娘は他にいないそうだ。改装設計図に記載された通りの仕事をするためには、正直なところ呼吸すら改造が終わるまで停止してもらいたかったらしい。妖精の仕事に全面的に協力すると言うのなら、手も足も目も口も肺も心臓も、一切動かさないで欲しいそうだ」

「……ええとつまり? 私に改二改造する時が来たら……1回死ねと?」

「心配するな。彼の有名な『ビッグ・ボス』や『巌窟王』、他にも多くの優れた者たちが仮死薬を上手く使っている」

「そんな得体の知れない薬で万が一、この撃沈王に事故があったらどうするのよ」

「薬が嫌ならバッテリングラムを使え。お前と同じ大和型の2番艦に有効だったという実績があるぞ」

「燃費が極悪になったという実績もあるものね。私は改二はしばらく遠慮します」

 

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