撃沈王の土産話   作:vs どんぐり

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節分期間内にあった話ということで、ここはひとつ、お願いします。


あの子が欲しい

 語れば長くなるは必定。

 然らば短くすると、大和はわざわざ猫喫茶ハングド・キャットで節分用の豆をポリポリ食っていた。喫茶店で、それも猫がいる猫喫茶で豆を撒くわけにもいかず、ただ大和だけが豆を食っていた。

 

「ところで武蔵。コーヒー豆って節分に使えるの?」

「邪を追い払えるならコーヒー豆でもバックショットでも何でもいいだろうが――いや、やっぱり駄目だ」

「どうして」

「撒いたモノを撃沈王が拾い食いして腹壊したとかニュースになったらどうする。お前はトイレに籠もっているだけでいいだろうが、私と信濃は世間様にどうコメントしたらいい?」

「『コーヒー豆ではなく、はじめから正露丸を撒けばよかった』とか」

「ハハハ。いや、お前の胃袋に限って痛みはしないか」

「アハハ。……ふぁっきゅー」

 

 

◆――――◆

 

 

「さて、それじゃあ。やっと。話しましょうか。大和型戦艦ではないけれど私たちの姉妹艦――信濃のことを」

 

 

◆――――◆

 

 

 不味いコーヒーを1杯だけ注文して薄っぺらいパソコンを開いて、猫たちに「貴様のメールと我々のおやつ、どちらが優先されるべきか分かるだろう」と邪魔される客のひとりもいないハングド・キャット。店外から豆を持ち込んで食べ出す阿呆は……武蔵が注意してくれなければアルバイト(もちろん艦娘で洞観者)はどう接すればいいのか困らされる。

 

「いや、大和をお客様として気遣わないでくれ。撃沈王とか呼ばれていようが、カレーを何皿も平らげて店を潤そうが、まあアレだ、この店に不定期に現れるノンプレイヤーキャラクターだと思ってくれて構わない」

 

 そう言った武蔵は仕事をしつつ、大和はカレーを食べつつ、2人は盗み聞く価値もない雑談をしつつ――1枚や数枚からなるメモ用紙を回し合うことが度々ある。ハングド・キャットのアルバイトの誰一人としてメモの内容を読んだ者はいない。大和が店を出ると武蔵はすぐに、必ず、メモ用紙を店の裏で燃やしてしまう。

 だからきっと大和型の2人は世界戦略に影響するほどの情報の交換と分析を行っているに違いなかった。

 だから……逆に、店に他のお客様がいないからといって「信濃のこと」などと弁えずに喋っているのは……きっと暇潰しに遊んでいるゲームに出てくるキャラか何かに違いなかった。

 

 撃沈王が率いる部隊には空母に求められる役割を完璧に果たす空母がいる。

 

 洞観者の中にもあらゆる要求に応えられるマルチロール空母がいるにはいるものの、大和の仲間と並べてしまうと「器用貧乏とは言わないけれど……」と言葉を濁さざるをえない。超々長距離砲撃いやさ狙撃の撃沈王、その仲間に彼女有り。最強空母と陳腐に表現して間違いは無い。機密だらけの大本営直属部隊とはいえ大規模作戦に姿を見せる彼女は噂される。

 

――まるで大和型戦艦の別側面、空母に生まれ変わったようだ。

――彼女の艦名は『シナノ』だと誰かが聞いた、らしい。

 

 では、今、大和が節分用の豆を明らかに年齢の数百倍分ポリポリ食べながら「信濃のこと」を言っているのは偶然だろうか? 「大和型戦艦ではないけれど私たちの姉妹艦」とは何を意味するのか? やはり艦娘とは無関係の創作されたキャラなのか?

 

 

◆――――◆

 

 

「ずーっといたのよ。最初から、大本営直属部隊に。空母信濃は」

 

 今更のこととはいえ大和はアルバイトの子を幻滅させたことなど知らずペラペラと喋る。

 

「具体的にはオフィスの、私の席の右斜め前に座ってる。このお店でも1回か2回くらい名前を出さなかったかしら? ストーリーの中なら【ヤーナム島調査部隊】でレベル2の初月を鍛えていた時のメンバーの1人だったわ。旗艦を任せていた扶桑が航空戦艦だからって、じゃあ空母の出番ナシとはならないでしょう。そこのところ武蔵は理解してる?」

「知らんが。いや姉妹艦の存在を知らんはずもないが」

「もう本当に、ずーっとよ。ずーっと言いたかった。我が機動部隊に信濃有りって。そしてそれ以前に、私と武蔵には信濃っていう姉妹艦がいるって。一時期は『今も信濃は天国から私たちを見守ってくれている』みたいな幻にしようか迷ったけれども、信濃をそんな雑に死なせないで!」

「ふむ。ならばこんなのはどうだ。過去に轟沈した信濃は鬼姫クラスの深海棲艦となって、お前や私に倒される日を待ち続けている、と」

「なるほどそれも……じゃなくて。だから昨日も今日も、たぶん明日も普通に働いてるって言ってるでしょう」

「いやあ分からんぞ。そもそも『私たちの姉妹艦だから当然強い』とイメージばかりが先走ってしまっているからな。だが少なくとも運はイチかゼロかそれ以下だろう。滑って転んだ扶桑の頭に生えているアレが10日に1回くらいの頻度で刺さっていそうだ」

「えっ、どうして武蔵がそんなことまで知ってるの?」

「ん? どういう意味だ?」

「……なんでもないわ。なにも問題ないわ。幻の空母が、そう簡単に轟沈するほど弱いってことはないでしょう」

「幻のポケモン並に大雑把な強さだなあ。まあ、浪漫を捨てた空母信濃なんて誰も喜ばないだろうから心配はしていないが」

 

 

◆――――◆

 

 

「それにしても――あ、カレーを頂戴」

 

 撃沈王とは、豆だけで満足できるような戦艦ではない。

 

「はいよ」と武蔵もそれをよく分かっていて予め用意していた。「それにしても?」

「ただ実装予定だけがある艦娘って……思ってたより話すことが無いものね」

「それ本人の前で言……っても怒るのか? 悲しむのか? ノリツッコミという可能性もあるなあ」

「前回に倣ってフリー素材集いらすとやに頼って、グラフィックだけでも実装カッコカリしましょう。『護衛艦に乗る人のイラスト(女性)』の艦長で決定ね」

「白い制服と金色のやつがまぶしいな。この人が私らの姉妹艦か」

「ん?」

「姉妹艦。ちょっとばかり海戦が得意そうには見えないが、姉妹艦だからな。その姿を誇らしく思わないとだろう」

「あー……。そうね。誇らしいわね。でも大本営直属部隊はこの私、撃沈王が率いていることだけが知られる謎に包まれたものだから。もしカメラが信濃の姿をとらえてしまったら、人工知能が『護衛艦に乗る人のイラスト(女性)』の艦長で覆い隠す仕組みなんだと思うわ」

「お前の部隊の集合写真、ものすごくシュールなものになるんだろうな」

 




ところで全然関係のない話なのですが。
作者はC言語を勉強したことがありました。
必死こいて参考書を読み、どうにか「入力した数字が奇数か偶数かを出力する」みたいなヤツを記述することに成功、無事単位を取得しました。
向き不向きというより、作者の頭からはプログラミング言語を扱うに必要な回路が抜け落ちているのでしょう。
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