撃沈王の土産話   作:vs どんぐり

8 / 18
姉妹艦の悩み事

「今日もまたカレー、になるのよねどうしても。ピザ食べたいピザ食べたいピザ食べたい」

 

 喫茶店ハングド・キャットにわざわざ通っておきながら駄々をこねる大和の様は、世間の『撃沈王』のイメージからかけ離れていた。どうせ姉妹艦しか見ていないと大和は思っているが、店の常連客やアルバイトの艦娘は、最強の戦艦が「ピ~ザ~」などと駄々をいう様子をちらちらとうかがい見逃さなかった。

 

「オリーブ抜きのピザにストロベリーサンデー。喫茶店の常識じゃあないの」

「知らん」と武蔵はそっけない。

「新メニューが思いつかないって言ってたのは武蔵でしょ。姉妹艦のアドバイスにどうして耳を貸そうとしないの。オリーブ抜きのピザにストロベリーサンデー」

「まったく興味も無いが、なぜオリーブ抜きなんだ」

「あえての雰囲気作りよ。勿論、基本的にはオリーブを使ってて――」

「お前、ピザの作り方を知っているか」

「ん? オーブンで焼くんでしょ?」

「オーブンに入る固形物ならば何でもピザになるのか?」

「あらあらまあまあ、知らないの武蔵ったら。あちこちのお店で冷凍されたピザが売ってるのよ」

「店の冷凍庫に冷凍ピザを置いて、メニューに追加してやってもいい。ただし料理名は『撃沈王が世界最後の日に選ぶ食べ物』だ」

「姉妹艦にまで私は追い詰められる……最近ちょっと眠れなくなってきたのよ」

「分かった分かった。今日一日は休暇を取れているのだろう。夜まで待て。適当に酒でも買ってこい」

 

 

◆――――◆

 

 

 閉店後、アルバイトも引き上げたハングド・キャットの店内は猫たちが多少活発に動き回る時間でもある。とはいえこの季節、暖房を切った後は電気ストーブの前で猫塊を形成していた。

 武蔵もカウンターの客席に座り、大和が買ってきた酒の中から適当にビールの缶を取った。

 

「夜、眠れないのがいかに身体に害であるかは十分承知しているつもりだ」

(武蔵の病的事情については別話『叢雲の薬指 - 海花と海鳥 ①と②の間』https://syosetu.org/novel/27136/30.htmlをぜひご覧下さい。斑鳩というオススメ艦娘が海花と海鳥シリーズより登場するため、ぜひぜひ閲覧頂きたいのです)

「だからまあ、話くらいは聞いてやる」

「初月っていう駆逐艦のことは覚えてる? 期待の防空駆逐艦」

「修行のために天照大艦隊に預けようとするも失敗。その後はどこかの練習艦に預けた、だったか。顔は知らんがな」

 

 大和は話題のストロングゼロを開け、ささやかな後悔をした。

 

「その子がね。順調に力をつけてるのよ。もう私たちの部隊に混ざっても最低限、足手まといにはならない程度に。でもそこから先の一歩がなかなか遠いのを歯がゆく思ってるみたいで」

「どうにもならんな。艦娘ならば練度カンストまで誰もが挑み続ける壁だ」

「ええ。だから初月のことは大した問題じゃあないの」

「あん?」

「姉の照月がねえ……心配しすぎ。過保護。自分のことが二の次になってきたのよ。長い二本の三つ編みだった子が髪をほどきっぱなしにして、しかめっ面してるものだから新手の防空型の棲姫って感じになっちゃってるわけ。そんな子のプレッシャーが私に向くのよ、初月の力になれって。想像してみてよ、防空棲姫が精神的に小突いてくる感じ」

「悪いが私の想像力ではお前の苦労を推し量りかねる。まあ、あれだ。頑張れ」

「励まし方が雑! そうだ、武蔵から照月に何か言ってあげられない? 同じ大和型なわけだし照月も話を聞いてくれそうな気がするわ」

「嫌に決まっているだろう。私は洞観者の世話で手一杯だ。フツーの艦娘のフツーの悩みなぞ知らん」

「ちょっとでいいのよ」と何がいいのかも不明なまま大和はスマートフォンを取り出し電話帳を開いた。「安心させる一言でいいから」

「どれだけ難易度の高い一言だ――おい待て。本当に電話を掛けているのか?」

「もしもし――休んでたところにごめんなさいね。いま初月のことを私と姉妹艦の武蔵で話し合っていたところなの。それでね。武蔵から助言があるって――」

「ふざけるな貴様本当にやめろ」

「――ええ、そう。その武蔵。だから期待できるでしょ。いま代わるから」

 

 大和は「はい」と当然のようにスマートフォンを武蔵に差し出した。

 

「……お前、まだ全然酔っていないだろう。正気か?」

「苦労を分かち合える姉妹艦がいて私は幸せ者に違いないわ」

「……なるほど承知した。一言で解決すればいいのだろう」

 

 武蔵は大和からスマートフォンを引ったくるなり勢いにまかせて喋った。

 

「大和型戦艦二番艦の武蔵だ。君の妹、初月は明日より大本営直属の部隊に加わり、今後は大和が直々に面倒を見ることとなった」

「ちょっ……!」

「――ああそうだ。撃沈王と行動を共にすることが現状望ましいと話を聞いた中で判断した。――フッ。気が早いな。初月が期待以上に戦えるようになったらハングド・キャットにオリーブ抜きのピザとストロベリーサンデーを食べに来い。楽しみにしている。ではな――ああ、おやすみ」

 

 武蔵は通話を切った。

 

「聞いた通りだ。明日から面倒を見てやれ」

「……は、話、聞いてた? 初月はまだ足手まといにならない程度ってだけで、第一線に混じれば戦力の穴が――」

「お前と照月がフォローする。未確認の敵部隊や鬼姫クラスを探し歩き突破する恐怖を味わう経験は、間違いなく成長を加速させるだろうな」

「寿命も加速するのよ? 武蔵だって昔は助っ人として部隊に加わってたから分かるでしょ?」

「よく分かるとも。だから頑張れ」

「だから励まし方が雑!」

「ほら、明日からの死闘に乾杯だ」

「そんな暇あるもんですか、すぐに帰るわよ。もう絶対照月が暴走を始めてるでしょうから止めないと」

「はっはっは。照月は私のように姉妹艦想いの良い艦娘だ」

「覚えてなさいよ。後でホントにこう……覚えてなさいよ」

 




他の話へのリンクってできないんですかね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。