なので、まったく別の勢力であるアズールレーンは非常に都合が良かったのです。
「お願いだからドーカンシャ達に自重というものを覚えさせて。誰の責任? 武蔵の責任でしょう。その自覚はあるのかしら」
「どうした。まあ落ち着け」武蔵は自分で淹れたコーヒーと缶コーヒーの飲み比べをしていた。「ほら缶コーヒーが余ったから奢ってやる。それで? また斑鳩が騒ぎを起こしたのか。天照大艦隊は落ち着かないな」
「違うわよ。先週ネオサイタマ鎮守府に用事があったの」
「……ああ。すまんな、本当にすまん。正直、私の手にも負えない」
◆――――◆
武蔵がハングド・キャットを立ち上げ洞観者たちを取りまとめ始めるより前、長月と出会い理の理解と整理を始めた後のことである。
洞観者たちの間に『古事記』を広めた二人の海外艦がいた。戦艦クイーン・エリザベスとウォースパイトである。
当時てんでんばらばらだった洞観者たちの間で、二人が授けたインストラクションは何故か大いにウケた。
「ドーモ、長月=サン。ウォースパイトです」
「へあっ? ……ど、ドーモ、ウォースパイト=サン。長月です」
この実際奥ゆかしくもコンマ数秒後に始まりかねないイクサに臨む儀式めいたアイサツは、恐ろしいことに深海棲艦側にまで伝わっている(あるいは深海棲艦側からクイーン・エリザベス達がインストラクションを授かったのか詳細は定かではない)。
「ドーモ、ハジメマシテ。戦艦レ級デス。――オ前ラハ俺ノクラスヲ『レ級』ッテ呼ンデルダロウ?」
「…………イヤーッ!」混乱した長月はスゴイ・シツレイなイクサを展開したことがあり、後に海外艦の二人に責められたこともあった。
アイサツは神聖不可侵の行為である。古事記にも書かれている。アイサツはされれば返さなければならない!
◆――――◆
「私は関係ないわよね?」大和は声を荒らげた。「アイサツ? ドーモ? オタッシャ重点? 知らないわよスゴイ・シツレイはあっちの方よ!」
「お前の気持ちは分かるから」
「ただでさえ魔境ネオサイタマ鎮守府だっていうのに、武蔵のお仲間が私のメンタルを削ってくる!」
「だから以前、頼んだだろう。少しだけでいい、付き合ってやって欲しいんだ。オジギをしてくる奴がいたら洞観者だから適当に合わせてやってくれと」
「覚えてないわよそんな話。私の考える会釈とドーカンシャのオジギにすっごい礼儀の差があるみたいなんですけど」
「まあな……。ところで海外艦の二人、クイーン・エリザベスとウォースパイトはそれから何と言っていた?」
「何も言ってないわ。鼻先でふんってされたけれどね。この撃沈王を鼻で笑うなんて、さぞかし大きな戦果を上げてるんでしょうね、ネオサイタマ鎮守府では」
「洞観者と仲良くなれとは言わないから、全員が全員そんな感じだとは偏見を持たないでくれよ。ネオサイタマ鎮守府という特殊な環境があいつらをそうさせているんだ。……たぶん」
「たぶんって何よ、ハングド・キャットの責任者がしっかりしてよ」
「ネオサイタマに行ったことがないから実際分からん。全世界の泊地を利用するお前と違って私はこの店から猫を遣いに出しているだけだからな。そうでなくとも足を踏み入れたいと思わない異文化の地だろう」
「文明レベルで違うわよ。人の姿が消えたヤーナム島も、元はあんな感じだったのかしら」
「まあ、なんだ。お前がスリケンを投げつけられたわけじゃあなくて良かったよ」
「良くないわよ。先に警告しなさいよ。何よスリケンって、いえ手裏剣のことだって分かるけども」
「洞観者の中にそうそう飛び抜けたカラテの持ち主はいないから安心しろ。最悪でもお前の素のカラテがあれば追い散らせるだろうから」
「だんだん姉妹艦とも意思の疎通が難しくなってきた……頭が痛い。今日はもう帰るわ」
「そうか気をつけろよ。オタッシャデー」
「私を馬鹿にしてることだけは伝わってくるからね」
◆――――◆
数日後、武蔵は大和からの声を珍しくSNSで受け取った。
《やってやったわ》
《撃沈王ナメんじゃあないわよ》
武蔵はネット上での会話をあまり好まないし、それは大和も同じであるはずだった。
無視しようかとも思ったが、武蔵は少しだけ付き合うことにした。
「どうした」
《ネオサイタマとの合同演習》
《例の海外艦の二人が仕掛けてきたわ》
《砲弾じゃあなくスリケン》
「合同演習で遊ぶな」
「お前が洞観者に付き合う必要は無い」
《駄目よ》
《撃沈王が勝負で》
《カラテ勝負でもね》
《負けるわけにはいかないじゃない》
「何をした? 具体的に」
《ウシミツ・アワーの遭遇戦めいた近接戦闘》
《真っ昼間から水平射撃に格闘戦》
《挑発してきた向こうを黙らせてやったわ》
「やめんか」
「洞観者の責任は私の責任だ」
「だが大和型が軽々と挑発に乗るな」
「私の格まで下がる」
《じゃあ武蔵がドーカンシャに教育することね》
《撃沈王の名は伊達ではない、って》
海外艦の二人を撃退した大和は調子に乗っているようだが、武蔵がパッと思いつくだけでも撃沈王に比類する、あるいはそれ以上の洞観者は確実に存在する。武蔵自身とて後れを取るつもりは全くなかった。
ここは鋭く言ってやりたいところではあったものの、それこそ大和の挑発に乗るようなものである。武蔵は敢えて適当に返事をした
「了解した」
「お前が一番ツヨイだ」
《また私を馬鹿にして逃げたわね》
「そんな事はない。じゃあな」
《待ちなさい!》
《私の話をちゃんと聞きなさい》
《ねえ!》
《ねえってば!》
「五月蝿い」と武蔵はスマートフォンの画面に直接言ってやった。
連続投稿、きっつい……。