私は苺が嫌いだ。どうして嫌いなのかは自分でもよく分からない。周りの人には「人生損してる!」とよく言われたものだ。
私は現在高校三年生。進路も決まり、自由登校になったのでバイトを始めることにした。
バイト先は家に近い飲食店。雰囲気も良く、いい人ばかりだ。しかし、一人だけ何か周りの人とは違う空気を持つ男の人がいた。彼はその店の社員だそうで、第一印象は無愛想で厳しそうだった。
私は、ホールや別の仕事で忙しい彼に仕事を教えてもらうことは少なかったが、周りの人によるとやはり愛想はなく、厳しく指示をしてくるばかりだそうだ。しかし私はなんとなく彼が気になり、日が経つにつれ気が付くと何故か彼に好意を持っていた。
仕事が終わると彼は少しだけ口元を緩めて「おつかれ」と言ってくれる。その一言が大好きだった。
そんなある日のことだ。休憩が彼と一緒になり、休憩室に2人になった。真剣に休憩室のパソコンを見つめる彼に、何か喋ろうか?世間話でもしてみようか?と考えていたとき、「仕事、慣れた?」と彼がパソコンを見つめたまま聞いてきた。「はい!皆さんいい方ばかりでいつも救われてます!」と私は答えた。すると彼は、「そっか、頑張ってね。俺はもうすぐ他県に移動だから、厳しく言われるのは後少しの辛抱だよ。」と、彼は少し鼻で笑って言った。
その言葉を聞いて私は涙が出そうになった。そんなこと知らなかった。その時の私には「そうなんですね…。」と彼の背中に言うのが精一杯だった。
いつもと同じように、あっという間に時間が過ぎていく。彼と一緒に仕事をするのも後少し、後少し、後2日、明日で最後、今日が最後。時間というのはそんなものだ。幸せな時間ほど短いものは無い。
彼は今日もいつもと変わらない。無愛想で、厳しい。その日の仕事は今までで一番短く感じた。
仕事から上がり休憩室に戻って帰る準備をしていると、休憩室の机の上に、「今までお世話になりました。一人一つずつ貰って帰って下さい。〇〇」と書かれた彼からのお菓子が置いてあった。私はそれを一つだけポケットに入れ、休憩室を後にした。店を出る時に、ホールに出ている彼と遭遇した。「短い間でしたけど、本当にありがとうございました!」と私が言うと、彼はにっこりと微笑んで「おつかれ」と言ってくれた。私の大好きな一言。
店から出て少し歩いたときに、ふと彼からのお菓子をポケットから出した。お菓子は苺味のマドレーヌだった。口に入れると、苺味はやっぱり不味くて涙が止まらなかった。
この話は私が体験した出来事です。私の思いを少しでも残しておきたくて小説にさせて頂きました。読んで下さった方々に感謝申し上げます。