オネェ料理長物語   作:椿リンカ

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ヒノワが征く! みんな 読んでね!


タツミはシュラと会話する話

 

ラバックとアンの二人がパイの準備をしている間へと時間は巻き戻る。

タツミとシュラの二人は今晩の食事の下ごしらえや準備を手伝っていた。下拵えに準備が掛かることもざらにあるからだ。

 

「・・・」

「・・・」

 

タツミとシュラの間に会話はない。黙ったまま作業を延々と進めている。

 

「(こいつ、大臣の息子なんだよな。・・・なんつーか、ワイルドハントが解散っつー話は厨房にも連絡あったけど。なんでこいつと食事の準備してんだ俺・・・)」

 

「おい」

 

自問自答していたタツミに、不意にシュラが声を掛けた。

 

「っわ、なんだよ・・・いきなり」

「お前さ、エスデスのねーちゃんと一緒にいたことあんだろ」

 

「・・・あるけど」

 

そう、タツミとシュラは互いの正体を知らないまま出会った経緯がある。その時はエスデス将軍もいたが、そこは割愛しよう。

ともかく、シュラのせいでタツミにとってはエスデス将軍と無人島に飛ばされたのだ。

 

「なんか仲が良さそうにしてたけどよ、お前ナイトレイドだろ?帝国のスパイか何かかよ」

「違う!あれはその・・・エスデスに勝手に好かれただけだ。」

 

「その割にはエスデスのねーちゃんが厨房の近くにうろついたりしてるだろ。あいつ、お前のことに関しても親父に打診してたぞ」

「えっ」

 

厨房の近くにうろついているはともかく、後者は聞き逃せない。

 

「打診って何をだよ」

「エスデスのねーちゃん、西の異民族を抑えた褒美にお前が欲しいんだと」

 

とんでもないことをエスデス将軍はオネスト大臣に頼んでいたらしい。タツミも顔を青ざめている。

 

「つっても、お前の身柄が厨房にあるってんで親父も【約束はできませんよ】って言ってたみたいだけどよ」

「良かった・・・ここに逃げて本当に良かった・・・」

 

タツミは心底、自分が厨房に逃げ込んで良かったと安堵した。

敵対していても自分のものにしようとしてくるエスデス将軍に対して恐怖と嫌悪感しかない。

確かに相手は美人だし、身内には良い部分があることも少しは知っている。

 

・・・ただ、エスデス将軍は根っこの部分から人間としての倫理観がズレてしまっている。

 

どんなに部下に優しくあろうとも、カリスマ性があっても、そこが相いれないなら仕方ないのだ。

 

「お前、なんでエスデスのねーちゃんに好かれてるんだよ。今まで一切そんな素振り無かったってのによ」

「し、知るわけないだろ!俺だっていきなり首輪付けられたりして拉致されたりしただけで・・・」

 

「お前、ほんとどういう出会い方したらそうなるんだよ」

 

A.本人主催の武術大会に出たらそうなった。

 

これしか説明しようがないのだから仕方ない。

 

タツミ自身もなぜエスデスが自分を好いたのかが実はよくわかっていない。気が付いたら好かれていて、めちゃくちゃアピールされているだけである。

 

「それはエスデスが主催した武術大会に参加してたらいきなりあっちから勝手に好かれただけだ」

「勝手に好かれたって、お前結構なこと言ってるのわかってんのか」

 

「それしか言えないんだから仕方ないだろ!・・・それより、俺も聞きたいことがある」

「なんだよ」

 

「・・・Drスタイリッシュが作ったあの新種の危険種、お前が放したのか」

 

タツミのその質問に、シュラは数秒沈黙してから「俺がやった」と素直に答えた。

 

「分かっててやったのか」

「当たり前だろ。俺は退屈ってやつが大嫌いでな。あいつらには結構楽しませてもらったぜ」

 

その言葉を聞いて、タツミは思わず殴りかかりたくなった。

しかし、昨日の女装の刑を即座に思い出してなんとか拳を握るだけで終わらせた。

 

「(そうだ、俺は綺麗な体でマインたちのところに戻らなくちゃいけない・・・女装はまだしも下着まで付けられたらマインに合わせる顔が無い)」

 

男のプライドと恋人への想いで彼は耐えた。

 

・・・もちろん、厨房で騒ぎを起こした場合、他の料理人に迷惑をかけてしまうということも理解している。

 

「・・・・・・本当にクズだな」

「どーも。んなの言われなれてるからな」

 

タツミが罵倒するものの、シュラは本当に慣れているのか飄々としている。

 

「というか、お前も厨房では大人しくしてるんだな」

「アニエ・・・あ”-、アンの奴がうるせぇから仕方ねぇだろ」

 

名前を言いなおしつつ、シュラが忌々しそうに舌打ちをした。

 

「そういや料理長とお前、幼馴染なんだっけか。弱みも握られてるみたいだけど」

「うるせぇ、この間のそのことは忘れろ」

 

「年上好きだっけか?」

「てめぇ思い出すな、そんなわけないだろ!いい加減にしろ!」

 

「でも、あの時アン料理長が言ってたの聞いてたから。・・・少なくとも年上好きなんだろ?」

「違うわ!別に年上とか年下とか好みなんざねぇよ。女なんて玩具なんだからよ」

 

「・・・間違えてた。人妻好きだったな、ごめんごめん」

「・・・お前絶対に忘れろよ、絶対に違うからな!!」

 

シュラに釘を刺されるタツミだったが「絶対に忘れないしナイトレイドに無事戻ったら言いふらす」と心に決めた。


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