オネェ料理長物語   作:椿リンカ

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異性でも同性でも 二人並べば 恋人に見えてしまう 人間の業


タツミはウェイブと再会する話

夕食の忙しい時間帯もあっという間に過ぎ去った。

タツミやラバックも約1週間を厨房で過ごしたからか、手際良く手伝いができたようである。

慣れてくるのも考え物ではあるが・・・拷問室送りにされたり捕虜にされるよりは多少はマシなはずだ。

 

 

ちなみにシュラは手際良くできたものの、厨房のオカマやオネェたちからの投げキッスやウィンクに辟易した模様。

 

 

さて、それはともかく

 

 

厨房の料理人たちが一息ついた頃に、厨房に来客がやってきた。

 

タツミに近付きたいエスデス将軍でもなければ、ナイトレイドを捕まえたいスズカやドロテアでもない。

 

特殊警察イェーガーズ所属、ウェイブである。

 

「すみません」

「あら、ウェイブちゃんじゃない」

 

「どうも。こんばんは。お仕事、お疲れ様です。」

「ありがとぉ~~、相変わらずウェイブちゃんの優しさに胸がトキメいちゃうわ~!」

 

「あはは・・・」

「ほんともう一夜だけのアバンチュールでいいから抱いて」

 

「すんません、さすがに無理です」

 

厨房の料理人の一人、マリエル明美(※本名不明のため源氏名でお送りします。あしからず)が厨房に入ろうとしたところ、ウェイブに声を掛けられた。

 

ウェイブは頻繁に通っているわけではないが、宮殿内の巡回で厨房の料理人たちとは少しばかり顔見知りである。

 

きっかけは厨房のオカマやオネェたちが、《田舎から出てきた純朴で真面目な青年》であるウェイブにラブコールをしたことなのは割愛する。

 

「何々、何か用事かしら?クロメちゃんへのお菓子の注文とか?」

「あー、あのですね、ここにナイトレイドが逃げ込んだって聞いて来ました。」

 

「エスデス将軍に頼まれてきたの?」

「・・・じゃなくて、その。ナイトレイドのタツミってやつとは知り合いなんです。会わせてください」

 

 

 

そんなこんなでウェイブは厨房棟の一室を借りて、タツミと会話することとなった。

 

アン料理長やシュラ、ラバックは揃って耳を澄ませて扉の前にやってきている。もちろん、彼らの会話が気になるからだ。

 

「・・・ウェイブの野郎とタツミが知り合いだぁ?あいつ、革命軍に通じてるのか?」

「ウェイブちゃんはそういう子じゃない・・・っていうか、ウェイブちゃんと知り合いなの?仲良しさんなわけ?」

 

「仲良し扱いすんじゃねぇよ!」

 

アンの言葉にシュラは忌々しそうに返答をする。見た目で分かるぐらいにイラついているようだ。

それに気が付いたラバックとアンの二人は顔を見合わせつつ、アンがシュラに尋ねた。

 

「・・・一体何があったのよ」

「あの野郎、俺を殴りやがったんだぞ。おまけに田舎者の癖に俺に勝ちやがって・・・まぐれだけどな!まぐれ!」

 

「は?あんたを殴った?素面で?っていうか、まぐれだか本気だか知らないけど・・・アンタに勝ったウェイブちゃんすごいわね」

 

アンがウェイブを褒める言葉を聞き、盛大に舌打ちをしながらもシュラは部屋の中の会話が聞こえるように聞き耳を立てようとしていた。

 

 

 

部屋の中ではタツミとウェイブが机を挟んでソファに座っていた。

 

「・・・お前が、ナイトレイドの一人で・・・おまけにインクルシオの保有者だったとはな」

「・・・エスデス将軍に拉致されたのは狙ってやってなかったけど、騙す形になってごめん」

 

 

タツミは以前、エスデスに拉致された時からすでにナイトレイドにいたことをウェイブに話して、そのことは謝罪した。

 

「気にするなって。スパイも何もなかったし、フェイクマウンテンでは俺のことを助けてくれたしな」

「・・・あぁ」

 

「・・・なぁ、タツミ。やっぱイェーガーズに入らないか?エスデス隊長も大臣に打診してるし、俺だってお前と敵対するのは・・・なんつーか、気分が良くないっていうか」

 

ウェイブの言葉にタツミは少しばかり沈黙するが、「ごめん」と小さく呟いた。

 

「俺はこの国を変えたいから、ナイトレイドに入ったんだ。裏切ることは絶対にできない」

「・・・そうか。やっぱ無理かぁ」

 

「今は宮殿の厨房にいるけど、またナイトレイドに戻れるなら・・・また敵同士になる。その時は俺だって全力で戦うからな」

「・・・こっちだって、帝国を中から変えるって遺志を受け継いだんだ。負けられないさ」

 

 

 

 

・・・と、まぁそんな会話をしていたわけだが。

 

部屋の外はこんな感じになっていた。

 

「んだよウェイブの野郎、ナイトレイドとなれ合いやがって・・・」

「・・・」

 

シュラの言葉に、アンはじっ・・・とシュラを見つめた。それに気が付いたようでシュラが怪訝そうな表情を浮かべた。

代わりにラバックが「どうしたんですか、料理長」と尋ねる。

 

「・・・うかつだったわ。今、私は気が付いたの」

 

何に気が付いたのかわからないラバックとシュラが、アンの次の言葉を待った。

 

 

 

「シュラ、あんたウェイブが好きなのね」

 

 

 

「違ぇぇぇよ!!なんでそうなるんだよ、お前の頭大丈夫か?!」

 

 

シュラは部屋の扉の前にいることも忘れて大声でツッコミを入れた。そらそうだ。

 

なお、ラバックは見事に噴き出して笑ってしまっている。

 

「ううん、いいのよ。隠さなくても。恋愛は素晴らしいんだから」

「違うっつってんだろバーーーカ!!」

 

「前々からあたしやスタイリッシュの変態野郎と仲良くしていたものね…はやく気が付いてあげるべきだったわ」

「だからなんでそうなるんだよ!!」

 

「だってさっきからウェイブちゃんのことばっかり気にしてるし」

「殺したいぐらい嫌いだからだよ馬鹿野郎!!!」

 

この場合はシュラの主張がひたすらに正しいのだが、残念ながらオネェ料理長は信じていない模様。

 

ラバックは笑いすぎて腹筋崩壊している状況だ。

 

「お前、男が二人いたら恋愛するとかおもってんのか?」

「あらぁ、人間が二人以上が集まれば恋愛なんて自然発生するでしょ」

 

「ねーよ、野郎同士で惚れたなんてなぁ、あるないだろ。男と女ならともかくよ」

「ほら~~~!!ノンケだって男女一組いたらすぐに恋だの愛だのって騒ぐじゃなーい!異性がありなら同性だって同じよ~~!!!」

 

 

 

まったくシリアスもくそもない会話を、タツミとウェイブも聞こえていたわけである。

 

 

 

「・・・あー、うん。ウェイブ、どんまい」

「・・・タツミ、お前もこの厨房で働くの大変だよな、どんまい」

 

 


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