オネェ料理長物語   作:椿リンカ

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おはラッキー! オネェチャンネルの時間だよ~


タツミとラバックは料理長を説得する話

 

ウェイブもイェーガーズの本部宿舎に帰り、厨房もすっかり片付けが終わった。

明日の下拵えや下準備も終わった後、すぐにシュラは料理長の部屋に戻ろうとしているようだ。

 

「あら珍しい。大人しく戻るのね」

「当たり前だクソが。こんだけ働かされてもう寝たいんだよ」

 

「ふぅん・・・ご自慢のパパに言いつけたりしないのね。えらいえらい」

「うるせぇな!頭を撫でるな、って尻も撫でるんじゃねぇよ!」

 

アンとシュラのやり取りを見ながら、ラバックはタツミに耳打ちする。

 

「なぁ、タツミ。ちょっといいか」

「なんだよラバック」

 

「・・・今夜さ、料理長を説得しないか?」

「・・・説得って」

 

タツミの言葉にラバックは真面目な表情で返した。

 

「あの人はこのまま革命されたら、自分も処刑されるつもりだ」

「?!」

 

驚くタツミに対して、ラバックは更に耳打ちを続ける。

 

「二人で料理してる時にちょっと雑談して聞いたんだよ」

「聞いたって・・・自分も処刑されるつもりってなんでだよ。確かに大臣と手を組んでるけど、それはあくまで厨房を守るためで、それで・・・」

 

「・・・あの人、元皇族だろ。だからだよ」

「・・・皇族だったから?」

 

タツミは田舎の出身である。革命をされた後の皇族の処遇などに考えが及ばないのは仕方がないだろう。

彼はあくまでも民のために戦っているのだから。

 

「皇帝が処刑されても、皇族がいれば復権どうこうって揉める原因になるんだよ」

「・・・・・・帝位を棄てたのにか?」

 

「継承権を棄てたとしても、皇族には違いないだろ。持ち上げる貴族連中だって出てくる。だからあの人は・・・」

 

ラバックの言葉にタツミは拳を握りしめる。

 

「・・・まー、俺も深追いはしないぜ。ただ、一応助けてもらった恩があるんだ。一回ぐらいしっかり説得したいだけだ」

「・・・それなら俺も一緒に説得する。エスデスと違って、アン料理長は説得できそうな気がするから」

 

 

 

 

さて、シュラが寝たのを確認して、タツミとラバックはレシピをまとめているアンに声を掛けた。

 

「あら、まだ起きてたの?早く寝たほうがいいわよ」

 

「あのよ・・・アンタに話があるんだ」

「アンさん、俺たちの仲間になってくれないか!」

 

タツミの言葉に、アンは数秒呆気にとられたが、すぐに笑い始めた。

 

「あはははっ・・・はぁ、タツミちゃんったらねぇ、ただの料理人を革命軍にスカウトしてどうするのよー」

 

「ただの料理人じゃない、立派に帝具使いだろう?それにアンさんはこの宮殿にいる中でも随分とまともな人間じゃないか」

 

タツミに言われるも、アンは「そんなことないわよぉ」と返答する。

 

「元皇族だとしても、革命軍に話を通せばいけるはずだ。革命軍の中には帝国から離反した奴もいるんだ。ナイトレイドにだって・・・だから・・・」

 

ラバックもアンへと声を掛ける。しかしアンは未だに首を縦に振らない。

 

「駄目よ~?それは戦が得意な将軍たちや高潔な志のある兵士たち・・・それに、優秀な帝具の使い手とかの話。アタシみたいなただの料理人は必要じゃないわ」

 

「ただの料理人じゃない!数日間だけでも分かる・・・あんたは凄腕の料理人だし、人をまとめるのも上手い。朝早くから働いて、夜だってこうして遅くまで仕事して・・・」

 

タツミの言葉にアンは何も返さない。ラバックがタツミを援護するようにさらに喋り始めた。

 

「アン料理長、アンタの帝具は兵士の士気をあげることもできる。とても応用が利く帝具なんだ。あんたの人柄もそうだが、後方支援としての戦力にだってなるんだ」

 

タツミのように人柄や人望で褒めるのとは別に、戦力になるということをラバックは彼に伝えた。

アンはようやく、彼らに返答した。

 

 

「・・・褒めてくれるのはありがたいけど、それでもやっぱりそっちにはいけないわ」

 

 

アンは彼らにそう答えて、更に続けた。

 

「先帝と皇后様が亡くなられた時点で、もう皇帝陛下と一緒に処刑台に行くことは決めてるの。ごめんなさいね」

 

その言葉にラバックは一息吐いて「だめか~」と苦笑いをする。

だが、タツミは未だに諦めきれないらしい。

 

「なんでっ、なんでそこまで・・・」

 

「そりゃあ・・・そうね。大事な幼馴染たちの忘れ形見だもの、あの子」

 

その言葉に、タツミは黙ってしまった。ラバックもタツミの気持ちが分かるせいか、何も言わないままだ。

アンは苦笑いしつつ、タツミに話しかける。

 

「ねぇ、タツミちゃん。死ぬのは、悲しいことだけしかないのかしら?」

 

「そりゃあっ・・・悲しい、だろ。」

 

「・・・確かに死は痛くて悲しいけど、それだけじゃないわ。死んだあとでも、誰かの中に何かしら繋いでいくのが人生じゃないかしら?」

 

その言葉に、タツミもラバックも何も返さない。

 

「アタシはもうここの厨房の子たちにも料理のコツは教えてるもの。それだけで十分よ」

 

アンはそう言って、ラバックとタツミに「早く寝なさいよ。ほら、厨房でホットミルクでも作って飲んできなさい!」と彼らを退出させた。

 

 

 

「・・・盗み聞きは良くないわよー」

「チッ、バレたか」

 

どうやらシュラは起きていたらしい。

 

「あんたが起きてる時の仕草は分かるもの」

「・・・革命軍に寝返ってたら、すぐにでも親父にバラしたのによ」

 

「残念でした、アタシは最初から厨房で生きて死ぬって決めてるんだから」

「・・・・・・はっ、最初から死ぬつもりで生きてるのかよ」

 

シュラの言葉にアンは少し沈黙する。しかし、すぐに「あらぁ~、心配してくれてるの?」とニヤニヤしながら彼に話しかけた。

 

「馬鹿かお前。心配するわけないだろ」

「もー、恥ずかしがっちゃって~」

 

「本当にお前うざいな・・・あ”-、もう寝るから話しかけんな!」

「はいはい」

 


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