刺激の少ない物からじっくり育てたい私「タツミ君はいい熱血」
珍しく同志が増えそうでテンパる私「ええっと、アカメちゃんにエスデス様に、チェルシーちゃんは人気だし」
崖から突き落として生き残った奴を選別する私「オネスト大臣」
自分がまだ幼い子供で、宮殿や帝都の眺めしか知らなかった頃の夢を見た。
別にその時代が幸福だとか心残りがあるとか、そういうこともなく、ただただ、終わってしまった過去のことでしかない。
昔は昔だし、今は今だ。後悔も何もしていない。
・・・親父のやったことぐらいは知っているし、別にそれが悪いとは思っていない。
暗殺されると思っていなかった先帝と王妃も・・・人間を信用し過ぎたのだ。
あの時代にしては、あの二人は他人を信じ過ぎるところがあった。そこに付け込んだ親父は中々のやり手だろう。
その点に関しては、さすがだと思っている。
・・・やはり親父を追い越すのは難しいのだろう。
思い出した記憶は、随分前のものだ。
まだ、先帝と王妃が10代で、俺とアニエルがそれより少し下で・・・あんまり宮殿内で遊んでるガキなんて、俺たちぐらいしかいなかっただろう。
他の役人のガキなんざ、宮殿で遊ぶようなことは無かったし、親が来させなかった。
そりゃそうだろう・・・あの頃から、宮殿は役人たちが水面下で争っていたのだ。そんなところで好き好んでガキを連れてくる奴はほとんどいない。
だから必然的に、よく同じ面子で集まることが多かった。
一緒に遊んでいたわけではなく、俺とアニエルが幼馴染で、アニエルが先帝と王妃と親族だったからだ。
・・・だから、別に、仲が良かったわけではない。
アニエルはそんなガキの頃から、宮殿の厨房で手伝っていた。
「ちょっとシュラ、これ味見してよ」
「また作ったのかよ・・・お前飽きないなー。何がいいんだよ」
「だって料理が好きなんですもの!何がいいっていうか・・・全部かしら?」
「そーかよ・・・っつーか・・・女みたいな言葉で喋るなよな」
「もう!いいじゃないの別に!」
「いってぇな!どつくんじゃねぇよ!」
・・・アニエルの両親は、ガキの頃にはとっくにくたばっていた。
権力争いによって暗殺されたのか、純粋に事故や病死なのかは知らない。そもそもそんなことに興味が無かったし、「死んだ」という事実だけで説明は事足りる。
その両親と交友があったのが、宮殿の厨房で勤務していた先代の料理長である。
そいつはアニエルを引き取り、料理を教えた。
・・・・・・ただの暇つぶしか、気分転換として教えただけだったんだろう。
アニエルは皇族だったしな。
だが、アニエルが料理を好きになり、すぐに皇族であることを棄てたのには驚いた。
「お前さぁ、なんで皇族やめたんだよ。帝国の皇帝になったらなんでもできるんだぞ?」
「なんでもできなくていいの!・・・それに、皇帝になっちゃったら、料理できないもの・・・」
「そんなに面白いもんか?食ってるほうが楽しいだろ」
「あら、作るのも楽しいのよ。料理が好きなのよ」
「・・・ふーん。そうか」
あいつは昔から、「料理が好きだ」と言っていた。
「皇子、×××、新しい料理にチャレンジしたの!試食してくれるかしら?」
先帝と王妃と仲良くするアニエルを少し遠くから眺めることが多かった・・・が、大体は・・・
「あら、シュラもこちらにいらっしゃい」
「そうだよ、一緒に食べよう」
・・・王妃と先帝が、アニエルと共に俺を誘って、なんだかんだで4人でアニエルの作った料理を食べることが多かった。
「アニエルは料理上手だなぁ。私も作ってみたいよ」
「私も作ってみたいけれど・・・お母さまが許してくれるかしら?」
「できれば皇子や×××と一緒に作りたいわね!みんなで作れたら楽しいもの」
「無理なんじゃねぇの?皇族の皇子や貴族の女が厨房に立てるわけないだろ」
俺が正論を言うと、大体アニエルの奴が「夢が無いわねー!」と怒っていた。
・・・先帝と王妃は、苦笑いしていた気もする。
「でも、いつかは身分とか気にせずに・・・みんなで料理して、美味しいものを食べれたらいいわね」
・・・王妃の言葉は、明らかにできないことを想定していた。
それを分かっていた先帝も苦笑いしていたし、俺は俺で何も答えなかった。
・・・アニエルも内心分かってはいたんだろう。
だが、あいつは「そうねぇ、そういう風になればいいわね」とあえて前向きに答えていた。
・・・結果的には、先帝も王妃も死んで、残ったのはあの二人が残した子供・・・今の皇帝、料理長になったアニエルに、あとは俺だけになった。
アニエルの奴は、あの二人が死んでから腹を括ったらしい。
帝国が存続しても滅んでも、今の皇帝と共に生きて死ぬつもりのようだ。
・・・本当にバカらしい。あいつは自分の好きなように生きているつもりで、結局死んだ奴らのために生きている。
死んだ奴らのために、死ぬつもりでもいる。
そのくせ、今の皇帝はそんなことも知らずに親父の傀儡になっているんだ。
本当に笑える話だよな。
寝る前にナイトレイドの奴らに誘われたくせによ。親父を殺したいぐらい憎んでるくせに、いまだに宮殿で親父の飯を作ってやがるし。
・・・ったく、気分が悪ィな
・・・・・・しばらくはナイトレイドを見張っておくか。