オネェ料理長物語   作:椿リンカ

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説得してくれたらどんなに楽だったか


タツミは皇帝陛下に覚悟を問う話

 

出来上がったホットケーキに生クリームをのせて、厨房の一角でタツミとラバック、おまけでシュラが皇帝陛下と共に食べることになった。

・・・というよりも、タツミが誘ったのだ。

 

「こうして一緒に誰かと食べることはあるんですか?」

「オネスト大臣だけだ。他のものと食事は無いな・・・こうして机を囲むように食べることは無い」

 

「・・・そうですか」

「それにしても余にもホットケーキが作れるのだな!こういうのは初めてだったぞ!」

 

皇帝陛下の無邪気さに対して、タツミは少し憂いているようだ。

ラバックとシュラの二人はその様子をとりあえず黙って眺めているだけだ。いや、本当は何かしら直談判やらなにやらあるのだが、お互いに牽制しあっている状況である。

 

皇帝陛下の前、しかも厨房でまた喧嘩をすれば、今度こそ厨房のオネェとオカマたちにあらん限りの屈辱的な女装をさせられることとなるだろう。

それだけは絶対に避けたかったのだ。

 

「・・・その、陛下」

「ん?どうした?」

 

「・・・この国のことを、どう考えてますか?」

「どういう意味だ?もちろん、この国を治めるために余も努力するつもりだ」

 

タツミの言葉に素直に返答する皇帝。しかし、タツミは言い淀みながら、彼へとこう切り返した。

 

「陛下は、この国のことをどれぐらい知ってますか?」

「・・・?それは国の歴史のことか?」

 

「その、宮殿の外に出て、民衆がどういう暮らしをしているのか、なんて・・・」

「大臣から聞いてるが、皆幸せに暮らしているそうだが・・・違うのか?」

 

その言葉にタツミは少し黙ってしまう。だが、皇帝は少し焦るように「た、確かに余は外に出たことは無い」と弁明の言葉を伝える。

どうやら彼は「外の様子も知らない」という言葉として受け取ったらしい。

 

「宮殿の外は危ないと聞いているし、そもそも国を治める余が外に出る必要は無いだろう。その代わりに、エスデス将軍たちや大臣たちが余の手伝いをしてくれているのだ」

 

その言葉にタツミは静かに皇帝を見ていた。

 

「・・・ど、どうしたのだ?」

「・・・知りたいと、思いませんか?」

 

その言葉にシュラが立ち上がりかけたのをラバックが勢いよく足を踏みつける。

 

「~~~~~~ッッ!!!ってめぇ・・・!」

「いいから。あ、こっちは気にするな。」

 

「・・・おう。それで、その、陛下は外のことを自分自身の目で見たいと思ったことは無いんですか?」

「・・・余は皇帝だ。国の要人が安全な場所から外に出るべきじゃないと、大臣が・・・」

 

「陛下は、それでいいんですか?」

 

少し畳みかけるように、タツミは皇帝へと尋ねる。

タツミの質問に皇帝は小さく返答をした。

 

 

「・・・大臣の言うことはいつも正しい。余はまだ未熟だ・・・外に出たいなんて、そんな我儘は許されない。余は、皇帝なんだから」

 

 

その言葉を聞いたタツミは、彼へと語り掛ける。

 

「陛下、ホットケーキを作るの、楽しかったんですよね?」

「・・・!あぁ、いつも大臣と遊んでいるのと同じぐらい面白かったぞ。またやってみたいな」

 

「じゃあ、大臣が”皇帝はホットケーキを作るものじゃありません。皇帝にふさわしい行動じゃないです”って言われたら、やらないんですか?」

「・・・それは・・・・・・大臣は、いつも余が分からないことを教えてくれて、だから、そういわれたら・・・それが正しいんだろう・・・・・・」

 

皇帝の言葉にタツミは「それは違うと、俺は思うんです」と答えた。

 

 

「・・・危ないからとか、ふさわしくないとか。そういう理由で何もやらないよりも、いろんなことを経験したほうがいいんじゃないかなって、俺は思いますよ」

「!」

 

「今の陛下・・・皇帝の権限とは別に、陛下自身は、何ができますか?」

「・・・」

 

皇帝は少し面食らったようだ。いや、これに関してはシュラも拍子抜けしたようだ。

もっとストレートに「この国はおかしい!」と直談判すると踏んでいたようだが、それに対してタツミが皇帝に語った言葉は種類が違うものであった。

 

「・・・ホットケーキが冷めちゃいますから、食べましょうか」

 

 

 

 

「いやー、何を話すかと思ったらタツミらしくねぇことだったな」

 

皇帝陛下をシュラに送らせて、厨房に残って後片付けをしているラバックはタツミへと話しかける。

 

「ん?あー・・・本当は俺もさ、直談判したかったんだけど」

「したかった・・・けど?」

 

「直談判しても、オネスト大臣がすぐ傍にいれば否定されそうじゃんか。だったらさ、変化球で行けばいいかなって」

「・・・お前、変わったなぁ。最初の頃よか、よっぽど頭が回るぜ」

 

ラバックの褒め言葉にタツミは少し照れ臭そうに「それに、料理長と一緒に過ごして、俺もなんとなく感じてたからさ」と答えた。

 

「料理長?」

「・・・あの人は、自分自身ができることをやってるし、それに対しての責任もとろうって覚悟してるじゃんか」

 

「・・・ま、そうだな。それは俺たちもだろ?」

「・・・そうだな」

 

「・・・皇帝にあの言葉が響いてればいいよなぁ」

「響いてなければ、そりゃ敵対するまでだろ。その時は、戦えるさ」

 

 

 




皇帝陛下の心に種を撒いたタツミ君の思いは報われるのか

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