オネェ料理長物語   作:椿リンカ

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『恋をするとだれでも自分を欺くことから始まり、他人を欺くことで終わるのがつねである。これが世の、いわゆるロマンスである。』
モーリス・トンプソン


ドロテアは執着し、クロメは恋し、そしてウェイブは虎穴に入る

【sideドロテア】

 

 

他人に対して「欲しい」と思ったのはこれが初めてかもしれない。

甘くて濃厚でもっと飲みたくなって、すべてを味わいたいと思えるほどの熱量が自分に湧き出てくるなんて。

 

長く生きたい、美しく生きたい

 

それと同じほど、この身はあの男を渇望している。

理性で望む欲ではない、理性で制することのできる欲ではない。

 

「(あれでシコウテイザーは良しとしよう。帝都から脱出できるルートも確保した)」

 

大臣が望む改良ならぬ改悪・・・それとは違ったメンテナンスを施してきた。あれならば邪魔な人間が追ってくることもない。

革命軍でも帝国軍でも、邪魔はさせない。

 

「(あとはシュラには交渉しておこう。あの料理長と一番親しい人間じゃからな)」

 

利益より何より、またあの血を飲みたくて仕方がない。

 

厨房の近くまで行くと、シュラと料理長の二人が何かを話している。料理長は布の被ったカートを押しているようだが……少しばかり、嗅ぎ慣れた匂いがした。

 

人間の血液の匂いである。

 

「ブドーの親父が負けちまったからな。革命軍も援軍を含めて集まってきてんだ。お前も帝国の後方支援をやれよ」

「あらぁ、厨房は自治権があるのよ?戦だろうとも宮殿で食事をとる護衛も侍女もいるでしょう。」

 

「馬鹿か、いつまで屁理屈こねてんだよ!ナイトレイドの奴らもいつまでも庇ってんじゃねぇ」

「庇う?いやねぇ、あの子達は厨房の新入りなのよ。帝国が無くなるまではうちの新人なの。もちろんあんたもだけど」

 

そんな雑談をしているうちに、シュラが妾に気がついた。

 

「よぉ、ドロテア。どうしたんだよ」

「あらやだ、この間の痴女じゃない」

 

「失礼じゃなぁ・・・っぅ」

 

ああ、甘い香りがしてたまらなくなる。ニヤけないようにしながら、シュラたちに気が付いた。

 

「シュラに話があってな、借りても良いか?」

「おい、借りるって言い方すんなよ。俺はモノじゃねぇんだぞ」

 

「いいわよ、ちゃんと返してね」

「お前もモノ扱いか?!」

 

早くしないとまた飲みたくて襲ってしまいそうになる。我慢じゃ、我慢・・・好きなだけ飲むためには辛抱せねばならん。

 

「それよりこんな夜更けに料理とは・・・。大臣への夜食とみたが、人間の血の匂いがするのぅ」

「嗅ぎ慣れてるみたいね。・・・あの男はそういう趣味があるから。私だけが作るようにしてるけどね」

 

人間で料理、か。

帝国の闇は深いのぅ・・・まともそうな、この料理長でさえ人間を料理させられているのだから。

 

「親父も酔狂だよなぁ。美味いらしいけど」

「アンタはやめときなさい。それじゃ、そろそろいくわ」

「おう」

 

そのまま料理長は去っていく。すぐにシュラを人気のない場所まで連れてきた。

 

「シュラ、お主に話がある。大事な話じゃ」

「なんだよ、改まって」

 

「妾はな、あの料理長が欲しい」

「・・・はぁ?」

 

シュラが怪訝そうに妾を見てきた。まるで異国の言葉を聞いて理解できてないような表情である。

 

「お主も手伝え」

「・・・ドロテア、どうしたんだよ」

 

大臣の依頼はこなした振りはできたし、あとは戦争の混乱に乗じて逃げるだけだ。

だが、念には念を入れておく。最後の切り札だ。

 

「妾はあのアニエルという男がどうしても欲しい。じゃから、革命軍との決戦になったら・・・妾とアニエルだけでもシャンバラで移動させてほしい」

「なんでだよ。つーか、欲しいなら今からでもモノにしたらいいだろ。」

 

「それは駄目じゃ!あれは毎日飲みたい血の味で、昂ってくるような・・・とにかく妾だけのものにしたいんじゃ!」

「どうしたんだお前。まさか・・・あいつに惚れたのか?」

 

その言葉を聞いて、頭の中が停止する。

 

「・・・惚れた?」

「いや、なんでそんな不思議そうなんだよ」

 

「妾はまたあやつの血が飲みたくて・・・それで・・・」

「親父に言えばいいだろ。その気になりゃあなんでもできるだろ。なんで逃がすって発想なんだよ。確かに親父は邪魔者は殺すけど・・・」

 

そう言われたらそうだ。

大臣は邪魔者は殺すだろうが、無力化すれば手は出さない可能性もあった。

 

・・・それなのに、どうして即座に自分の手元におくために、生かして逃がそうとしたのだろうか。

 

 

 

【sideアン料理長】

 

シュラのところの吸血レディの様子のおかしさに、ようやく合点がいった。

多分、私が摂取している危険種の成分のせいだろう。

 

その危険種は他の大型危険種などに寄生して自分の身を守らせる性質がある。

 

毒殺されないように毒の耐性をつけるため

もうひとつは、とある目的のためにお酒に混ぜて飲んでいたけれど・・・

 

「摂取直後の血液を直飲みしたからかしら・・・あらやだ、怖いわね」

 

私に対して理由も分からずに保護したくなるとか、そんなところかしら。

 

・・・でもまぁ、いまのところはいいわ。

 

後は、革命軍との戦いの日までの辛抱だから

 

 

 

大臣にいつも通りに食事を出して、明日の仕込みをしていた子たちに支持を出そうと厨房に戻ろうとしたら大きな物音がした。何かが滑り込んで厨房の中に飛び込んだような・・・

 

「・・・いったい何かしら」

 

 

 

 

【sideクロメ】

 

ウェイブからお姉ちゃんの伝言を聞いた。

これが最後になるだろう・・・私が生き残ってお姉ちゃんを八房に加えるか、私が死ぬか。

 

「どうするつもりだ、クロメ」

「行くよ。行くに決まってる」

 

きっとお姉ちゃんは待っていてくれる。ちゃんと二人きりで、戦うために。

 

「駄目だ。罠かもしれない・・・せめて隊長に報告でも」

「嫌。お姉ちゃんはそんなことしないもん。私には分かる」

 

真面目なお姉ちゃんのことだから、約束は守ってくれるはずだ。

・・・私の体も、もう長くはない。

 

「私はお姉ちゃんを殺して一緒にいたいし、お姉ちゃんになら殺されたい」

「っ・・・!俺は嫌だ!大事な仲間を守りたいんだ!」

 

「大事な仲間、か・・・」

 

本当にウェイブは優しい。でも、仲間としての優しさというなら・・・このまま見送って欲しい。

そんな優しさは、いらない。

 

「私は行くから、行かなくちゃいけない。止めないでほしい、邪魔しないで欲しい。誰にも言わないで」

「クロメ・・・」

 

「暗殺部隊にいた私は、帝国のために・・・死んだ仲間のために生きて死にたい。それしかないし、許されないの」

「・・・」

 

「だって私は、帝国の暗殺機関の人間だから」

「・・・!・・・そうか、なら仕方ない。それなら俺にだって考えがある。」

 

ウェイブはそう言って私を引き寄せたかと思うとお姫様抱っこをしてきた。

突然の抱擁に驚くうちに、ウェイブはどこかへと走り始める。

 

「う、ウェイブ!?どこ行くの?!」

「後で隊長に謝らないとな・・・」

 

一体どこに行くつもりなのか、その前にウェイブと至近距離でドキドキしてしまう。

 

私はウェイブがどこに向かっているか理解したと同時に厨房に飛び込む形になった。ウェイブが私を庇ったのはいいのだが勢いよく飛び込んだせいか食材まみれになってしまった。

 

「いたたた、クロメ!?怪我は!?」

「ない、けど・・・ウェイブ、いったいどういうつもり・・・」

 

 

 

「あらぁ、厨房に飛び込んできたおバカさんたちはあなた達かしら?」

 

 

 

その場が凍るような声色が聞こえてきた。

 

おそるおそる振り返れば、そこには自称アン・シャーリーこと、アニエル総料理長が立っていた。

 




当初の初期案とルートが変更されました。・・・とだけ言っておきます
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