厨房ではすでに夕食の準備が始まっており、料理人たちが忙しく厨房を行き来していた。今日の夕食のメニューを確認し、宮殿で働く者たちへの食事の準備も始める。
繊細なコースメニューと同時並行で、大鍋を使って大量に作られる料理もあるのだ。
・・・厨房の料理人たちも毎日のこととはいえ、かなり忙しそうに働いている。
あの後、シュラはこれ以上恥を晒されたくなかったのか、厨房を通ってすぐに出て行った。
・・・アン料理長の勧めもあり、ラバックとタツミはすぐさま手紙を作成することとなったというわけだ。
「まさかこんなことになるなんてな・・・ナジェンダさんに心配かけないようにしないと」
「帝具を使っても脱出できない可能性が高いのはさすがにリスクも高いしな。でも、生きてるだけマシさ」
「まぁ、俺も本気の大将軍と帝国最強を相手に脱出するのはなぁ。よっぽど作戦立てないと難しそうだ。つっても、向こうだって油断してねぇだろうし・・・」
「・・・エスデスもきっと、他のイェーガーズに声を掛けてそうだ。そうなるとクロメやウェイブまで相手ってなると・・・」
こんな会話をしながら手紙を書いている二人をアンはほほえましく見ている。
いや、実際は
「(本当に可愛らしい男の子二人じゃない。見れば見るほど逸材だし、可愛さの中に精悍さもあって本当にたまらないわ。年下好みじゃなかったけれど、めちゃくちゃにかわいがりたいって気持ちになるわね・・・。それに厨房の賄いだって毒物混入を疑わずに食べてくれる素直さもいいし、何よりご飯をおいしそうに食べてくれるのが一番乙女心にきちゃったわ!あぁもう!本当にかわいいわね!食べちゃいたいぐらい!)」
・・・微笑ましい表情の裏でオネェ心全開で萌えていた。
地位と立場に任せてセクハラしないだけは幾分かはマシなのだろう、きっと。多分。
「よし、とりあえずこれでできたぜ」
「俺も出来た」
「はいはい、それじゃあ回収するわよ」
ラバックとタツミから手紙を預かると、それをマーグファルコンの足に括り付ける。
その様子を見ていたタツミはアンにこう尋ねた。
「手紙の検閲とかしないのかよ」
「・・・?あら、なんで?」
「だってこういうのって、暗殺者を手引きしたりするのに使われたりもするのにさ。あんたは手紙の内容とかは全く見ないだろ?よっぽど宮殿の警護に安心してるのかなって」
「タツミちゃんは素直ねぇ・・・そういうこと思っても、普通は本人には聞かないわよ?」
アンの言葉にラバックも同意するように頷いてタツミに視線を送った。
どうやら彼もタツミと同じようなことを思ったらしい。
「タツミちゃんもラバックちゃんも、根は素直で良い子でしょ。だから信用してるのよ。ぶっちゃけ暗殺者なら、本当になんでもしてくるものよ?私も今まで何度も殺されかけたもの~、寝てるときとか料理してるとき、そうそう大人しくしてるふりしてステゴロ仕掛けられるとかね~」
アンは笑いながら彼らに語るが、タツミとラバックは笑える余裕がないようだ。
・・・その経験の上で生きているなら、目の前の料理長も手練れであるという証拠なのだ。
「それに二人とも、うちの料理を美味しいって言って食べてくれてるもの。食事に感謝できる子に悪い子はいないわよ。・・・あぁ、うちのところのオネスト大臣は除くけど。あれは例外よ例外」
「そう、ですか・・・あの。そういう命の危険とかにもあなたの帝具って使えるんですね」
「使ってないわよ、あんまり」
タツミの言葉にアンは否定する。
「帝具はあくまで料理を作るためのものだから、戦闘や奇襲にはあんまり使わないのよ。使えなくもないけど」
「じゃあ、どうやって暗殺者の奇襲とか・・・」
「素手」
「えっ」
「素手よ」
その言葉にタツミとラバックは顔を見合わせた。
アンはそのまま言葉を続ける。
「筋力はあって困るものでもないもの。麺類の麺やパンだってなるべくは厨房で作るようにしてるしね」
「あぁ、料理のためなのか・・・」
「いやでも、それでも素手で戦えるのか・・・」
「それよりも、お手紙届けなきゃ。さっさと仕事に入ってもらうわよ」
それから数時間経過し、すっかり夜も更けた
帝都郊外からさらに離れた場所にあるナイトレイドの本部ではラバックとタツミが書いた手紙が持ち帰られていた。
「なるほど、ワイルドハントの罠に掛かったのか・・・」
「それでも生きてるって知ったのは良かったよ」
ナジェンダは事の詳細を知ったことで多少安堵したようだ。レオーネも手紙を出せる環境にいることに安心したらしい。
「タツミ・・・」
「・・・」
その反対でマインとアカメの二人は彼らのことを心配していた。
それもそうだろう。無事とはいえ、彼らがいるのは敵の本陣ともいえる帝都の宮殿内。しかもエスデスやブドー大将軍にも居場所は知られている。
「マインもアカメもそんな顔をするな。戦闘にはしばらく参加できないが命の保証はできている。厨房の自治権については少し知っているからな・・・」
ただそこに「貞操の保証ができないかもしれないし、厨房色に染まるかもしれない」とは付け足さなかったナジェンダであった・・・
ステゴロ料理長の得意技は寝技かもしれない(適当)