わたしがカフェオレを飲み終わると同時に楠木もカレーを食べ終えた。
「あ~満足満足!」
楠木は背もたれに体重を預けた後に、
「青柳、俺ちょっとトイレ行ってくるね」
そう言うと勢い良く立ち上がり『WC』と書かれてある扉の中に入っていく。
はぁ………。
女の子と食事しているのよ? 『トイレ』じゃなくてせめて『お手洗い』って言えないのかしら?
全く、この男は―――――
「彼、デリカシーがないよね」
カウンター席でコーヒーを飲んで、くつろいでいるお姉さんがわたしの気持ちを代弁した。
「そうなんですよ。 楠木………彼は学校でもあんな感じだし、声は大きいし、いやらし話も平気でするし。 隣の席のわたしには良い迷惑ですよ」
やれやれ、とわたしはため息を吐いた。
お姉さんはクスクスと笑いながら、
「一月くらい前だったかな。 彼がお店に来てね、『このお店はお客少ないですか?』って突然言ってきたの」
「あ~………楠木らしいですね」
本当にデリカシーがない男子だ。
初対面の店員さんにそんな事聞くとか何を考えているのよ。
「そして彼ね、『物静かな女の子連れてきたいんですが大丈夫ですかね? 喜んでくれますかね?』って聞いてきたの」
「……………………」
「彼、確かにデリカシーとかないけど、―――真っ直ぐで良い子だと私は思うな」
「…………ええ、まぁ」
「さて、彼が言ってた『連れてきたい物静かな女の子』って誰の事なのかしらね?」
お姉さんはわたしを見ながらクスクスと笑う。
「………………さ、さぁ? 誰なんですかね?」
わたしは余りの恥ずかしさからプイっ、とお姉さんから顔を背けた。
楠木の言う『物静かな女の子』。
それは、わたしの事なのだろうか?
―――――そうであったら嬉しいな。
と思うわたしが、いた。
※※※※※
互いの会計を済ませた。
楠木は「奢るよ!」と言ってきたがそれは断った。
わたしは自分の料金分はきっちりと払った。
ファッション雑誌に書いてあった。
男性との【デート】で食事をしたら女性もお金を払うと好印象がもらえる、と……………。
「ありがとうございました。 また来てね」
お姉さんは笑顔でそう言った。
「はい! また来ます」
と、楠木。
わたしもペコリとお辞儀をした。
カラン、コロン。
古びたトビラを開けて喫茶店の外に出た。
時刻は午後7時を過ぎていた。
いつの間にか雨は止んでいた。
「お! ラッキー! 雨やんでるじゃん!」
楠木は両手を広げて雨が降っていないことを確認する。
「本当ね」
わたしはそう言って、
「はい、楠木君。 傘、ありがとう」
借りていた傘を楠木へ差し出した。
「ん~………」
楠木は空を眺めながら、
「青柳が帰るまでまた雨が振りだすかもしれないから、まだ持ってた方がいーんじゃね?」
わたしも空を眺める。
確かにまた雨が落ちてきてもおかしくない空模様だった。
「………それもそうね。 今日1日は借りておくわ。 傘は明日学校で返すわ」
「……………」
何故か楠木から返事が返ってこない。
「楠木君? どうかしたの?」
「や、それなんだけどさ………女の子を1人で帰らすのも危ないからさ、俺………青柳を家まで送るよ」
「………え?」
家まで送る? それってつまり………。
「いやさ、そーすれば傘も回収できるし、一石二鳥じゃん? …勿論青柳が良ければだけど……………」
「…………………」
「ダメ………かな? その、7時過ぎてるし危ないと思うんだ………」
彼はそう言いながらわたしの顔を覗き混んでくる。
今日の放課後、楠木から食事に誘われた時と同じ様なやり取り。
ただあの時と違うのは、わたしが顔を隠そうにも傘が閉じているので、隠れる所がない。
楠木と目が合う。
「………ま、まあ楠木君がそうしたければ、それで良いと思うわよ?」
同じ様にわたしは強がった台詞をはいた。
自分でも分かる位に顔が熱くなりながら。
「うん! そーする! 青柳を送るよ!」
もう少しだけ、2人だけの時間を過ごす事になった。
※※※※※※
「太陽が出てる時間も結構長くなったよな~」
楠木がそう言い出した。
今日は曇りで若干薄暗いが、6月も下旬ということもあり、午後7時なのにこの明るさだ。
もうセミの鳴き声もチラホラと聞こえてくる。
「もう夏だよな~。 俺は夏と冬では夏が好きだな!」
「確かに、楠木君は『夏』って感じの男子よね」
「青柳はどっちが好きなの?」
「わたしは………どちらかと言えば冬かしらね」
それを聞いた楠木は無表情になると、「ゴホン」と、咳払いをして、
「確かに、青柳さんは『冬』って感じの女子よね」
わたしのモノマネをしながらそう言った。
全く似ていないモノマネ。
でもお互い、自然に「ぷっ」と笑い出す。
何でもない、くだらない会話なのに何故かとても楽しくて、面白くて、わたし達は笑ってしまう。
「わたし、北海道出身なの」
「へ? そーなの?」
「と言っても産まれて直ぐに山口県のこの街に引っ越したらしいので覚えてないけど。 でも、だからかしら? わたしが冬を好きなのは」
「ふ~ん、そっか~」
それからもわたしと楠木はたわいもない世間話をしながら家路を歩く。
そしてわたしの家の前まで来たところで、
「傘、ありがとね」
楠木に傘を返す。
「おう! んじゃ青柳、また明日な!」
「ええ、また明日ね」
お互い手を降り合ってから別れた。
※※※※※
その日の夜。
ベッドで横になってわたしは考える。
今日、楠木は喫茶店でわたしの下着を見た後にこう言った。
「青柳に嫌われたらどーしよっかと思った」と。
わたしに嫌われたくないという意味と捉えて間違いないだろう。
わたしと友好的な関係でいたい。
そういう事だろう。
青柳 皐月は楠木 京弥を嫌っていた。
これは間違いない。
本当に彼を気持ち悪いと毛嫌いしていた。
しかし、
いつからだろうか?
彼との会話が楽しくなってきたのは。
いつからだろうか?
彼が隣に居ると心が落ち着くのは。
いつからだろうか?
彼の笑顔をずっと見ていたいと思うようになったのは。
いつからだろうか?
木曜日の放課後を楽しみになったのは。
――――わたしは彼とどうなりたいのだろうか?
………………。
本当は薄々と分かっているクセに。
この気持ちの正体に勘づいているクセに。
わたしは恥ずかしさから気が付かないフリをし、布団をかぶって目を閉じた。
目を閉じて、まぶたの裏側に映るのは、
とある男子の、太陽のような笑顔。
とても暖かい気持ちでわたしは眠りに付いた。
こんにちは刹那的です。
今回は少し短めの文だったので自己、最速投稿となりました。
この駄文も何気に中盤から終盤に向かっています。
一応は後、4話くらいの構想ですが、私の文章力でどうなることやら………。
毎回このような粗末な駄文を読んでもらい、本当にありがとうございます!
でわでわ~。