隣の男子はよく分からない男子だ   作:刹那的

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♯12 一言で地にまみれる。

 

わたしは自分の部屋の椅子に座り、とある用紙とにらめっこしている。

 

【進路調査】

 

A4用紙にはそう書かれてある。

 

 

突然だが、わたし、青柳 皐月には将来の夢なんて何もない。

 

 

なりたい職業もなければ、未来への正確なビジョンなんて決まっていない。

 

わたしの通う高校は一般的な普通高校だ。

 

大抵の人達は大学や短大への進学を選んでいる。

 

だけど、それは何かしらの目標や夢を持って進学していると思う。

 

絵を描くのが趣味なら美大に行くし、音楽が好きなら音大に行く。

 

専門大学じゃなくても、大学へ進学するなら学部を当然選ぶ必要があるが―――――。

 

しかし、特技も何もなければ夢もないわたしはどの大学のどの学部を選べばいいのかが分からない。

 

でも……………それでも、時間は過ぎて行く。

 

わたしが悩んでいても確実に過ぎて行く。

 

わたしも大人へとなるのだ。

 

みなぎは「子供が好きだから保育士になりたい」と言っていたので福士系の短大に行くそうだ。

他の友達も「デザイナーになりたい」とか「美容師になりたい」とか皆それぞれ夢を持ち、目標を持って、未来へと向かっている。

 

―――――わたしだけが取り残された気分だ。

 

………まぁ、悩んでもしかたがない。

分からないモノは分からないのだ。

 

わたしは机の上の紙の第一候補欄に「大学へ進学」と取り敢えずの回答を書いてシャーペンを置いた。

 

パチン、と部屋の電気を消した。

カーテンを開け、窓の外を眺める。

 

夏の大三角形が煌めく夏の夜空。

 

 

「アイツは………楠木は進路、どーするんだろ?」

 

 

綺麗な夜空を眺めながら、わたしはそう呟いた。

 

 

※※※※※

 

 

お父さんとお母さんに「取り敢えず大学に行きたい」と曖昧な進路を伝えた。

 

なりたい夢も職業も見つからないし、将来が分からないわたしにはまだ「大学生」と言う時間が必要だった。

 

「皐月の人生だ。 人様の迷惑にならない程度に自由に生きなさい。 お前の為ならどんなフォローもしてやる」

 

普段ちゃらんぽらんなお父さんは真剣な眼差しでわたしに向かい、そう言った。

 

お母さんは、

 

「お父さんの言う通りよ。 アナタの思うように生きなさい」

 

そこで一旦言葉を切り、

 

「ただし、大学を出たら絶対に就職だけはしてもらうからね? これだけは約束よ」

 

お母さんも真剣な眼差し。

 

「分かったわ。 お父さん、お母さん、ありがとう」

 

わたしは大学進学を決意した。

 

本当に、曖昧な進路だった。

 

※※※※※

 

 

そして高校2年の夏休みがやって来た。

 

 

おそらく、自由に遊べる、高校最後の夏休み。

来年の今頃、高校3年生の夏休みは勉強漬けの毎日となるだろう。

 

だから、今年の夏休みは思いっきり遊んでやろう。

そうわたしは意気込んだ。

 

 

※※※※※

 

 

わたしの意気込み通りに夏休みは色々と予定を入れた。

 

勿論、夏期講習や近場の大学見学等、来年の受験に向けての準備にも努めたが、とにかく遊んだ。

 

みなぎとは毎日のように遊んだ。

 

中学時代の友達とも軽い同窓会で盛り上がった。

 

高校の友達とは人数合わせの合コンへ人生初めて行ってみたが、全然面白くなかった。

断固として相手の男子達とは連絡先を交換しなかった。

 

水着になるのは嫌だし、肌を焼きたくないので海やプールには行かなかった。

 

花火大会にもみなぎを含めた高校の友達と浴衣を着て見に行った。

 

お盆には北海道のおばあちゃんの家に遊びに行った。

北海道観光を家族と楽しんだ。

 

楽しい、楽しい夏休み。

 

友達とも、家族とも、思い出を作った夏休み。

 

――――けれども、

 

「本当に充実したのか? 満足したのか?」

 

その自問に自答するならば、答えは、

 

「ノー」である。

 

楽しかったけど、決定的に楽しくない夏休み。

 

何かが欠けた夏休み。

 

分かってる。

理由なんて明確だ。

 

早い話が、わたしは、夏休みに入って、楠木 京弥と一度も会っていなかった―――。

 

 

 

 

※※※※※

 

 

8月 31日。

 

早いもので夏休みも最終日だ。

 

今日は何も予定を入れていない。

 

朝起きて、夏休みの課題が全て終わっている事をもう一度確認する。

 

昼からはメイクを完璧に整えて、ミツバ図書と駅前のショッピングモールをぶらりと歩いた。

 

けれども、アイツとは出会わなかった。

 

夕方、晩御飯を食べている時に家のインターホンが鳴った。

 

以前、アイツはわたしを家まで送ってくれたのでわたしの家を知っている。

 

「もしかして………」わたしがそう期待したが、近所さんからのお裾分けだった。

 

 

※※※※※

 

 

午後 8時過ぎ。

 

食後のアイスが食べたくなったわたしはコンビニへと向かった。

 

夏休みに遊んだ代償として財布の中は200円程しかなかった。

 

またバイトでも入れましょうか。

木曜日以外の日にちで。

 

100円(税抜き)のアイスを買ってわたしがコンビニを出ると1台の車がコンビニの駐車場へと駐車している最中だった。

 

そのままわたしはその車の横を通り過ぎると、

 

 

「すぐトイレ済ませるから!」

 

 

そんな声がわたしの背後から聞こえた。

 

このわたしが聞き間違えるはずはない。

 

中肉中背で、無造作ヘヤーの男の子が車から飛び降りて、コンビニに向かう所だった。

 

 

「楠木君!」

 

 

わたしは彼の名前を呼んだ。

 

「へ?」

 

間抜けな声を出しながら楠木が振り替える。

 

「あ!!! 青柳じゃん!!!」

 

楠木は目をまんまるに見開いて驚いていた。

 

「あ、あの………わたし………」

 

彼を呼んだは良いが、何を話せば良いのか分からない。

と、いうかこんな所で楠木と会えるとは思っていなかったので頭が若干パニックだ。

 

おろおろするわたしに楠木はいつものように大きな声で、

 

「青柳! ちょっと待ってて! トイレ終わらせるから! 待ってて!」

 

本当に、ムードも何もあったものじゃなかった。

 

 

ま、アイツらしいけどね。

 

 

※※※※※

 

 

「めちゃくちゃ奇遇だな、青柳!」

 

用事を済ませた楠木が、コンビニから出てきた。

 

「ええ、そうね。 わたしもビックリしたわ」

 

「だよな! にしても久しぶりだな! 元気だった?」

 

「ええ、元気よ。 楠木は………聞くまでもないわね」

 

わたしはくすくすと笑ってみせた。

 

「え? ………あ~、まぁ元気だな」

 

楠木は曖昧な返事したが直ぐにニカッと笑った。

 

少し違和感を覚えた。

 

 

楠木の笑顔が【作られた笑顔】に見えたから。

 

 

 

「ところで青柳何してんの?」

 

わたしの疑問を余所に、楠木が質問を投げてきた。

 

………やはりいつもの楠木だ。

わたしの気のせいだろう。

 

彼が元気じゃない、訳がないのだから。

 

「わたしはコンビニへ買い物よ。 楠木君は?」

 

「俺はさ、家族と外食した帰りなんだー」

 

楠木は車を指差す。

 

成る程、あの中に楠木ファミリーが居るのね。

 

楠木は小走りで車の方へ向かい、

 

「父さん、俺、この女の子を家まで送るから先に帰っててよ! 俺は電車で帰るからさ!」

 

「そうか、余り遅くなるなよ」

 

楠木のお父さん(?)の声が聞こえる。

 

やがて楠木家の車はコンビニを後にした。

 

ぶんぶんと車に向かい手を振る楠木の横で、わたしはぺこりとお辞儀をした。

 

「あの………青柳を家まで送るって勝手に言ったけど迷惑だった?」

 

楠木がおずおずと聞いてきた。

 

「いえ、迷惑じゃないわよ」

 

わたしは素直にそう言った。

 

「そっか! 青柳を送るの2回目だな!」

 

「そうね、久しぶりよね」

 

「………あ、青柳と話すのも久しぶりだよな」

 

「そ、そうね」

 

「俺さ、実は夏休みに青柳と遊びたかったんだ………」

 

わたしの顔色をチラチラと伺いながら楠木はそう言った。

 

「でも、LINEとか知らねぇし、青柳の家に直接行って気持ち悪いとか思われたり―――――」

 

「き、気持ち悪いとか思わないわよ!」

 

わたしは不意に楠木の言葉を遮ってしまう。

 

 

わたしを迎えに来たアナタを気持ち悪く思う訳ないじゃない。

 

 

楠木にそんな誤解をしてほしくなかった。

 

「ご、ごめんなさい。 大声出して」

 

冷静になって自分が恥ずかしい事をしたと思い、わたしは彼に謝った。

 

「や、その、大丈夫だよ! 俺、怒ってないし!」

 

楠木はぶんぶんと首を横に振る。

 

「じゃあさ、青柳。 遊びに誘っても大丈夫だった?」

 

「……………ええ、まあ……」

 

わたしの言葉を聞いて楠木が大きくため息を吐いた。

 

「なんだよ~! 俺、どんだけ意気地無しなんだよ!」

 

………わたしを遊びに誘う予定だっのね。

 

遊べはしなかったけど彼のその想いだけでわたしは嬉しくなる。

 

「ちくしょう! 海に誘って青柳の水着姿見たかったのに!」

 

くそ! くそ! と、尚も楠木は悔しがっている。

 

…………前言撤回するわ。 このエロ男子め。

 

ひとしきり、子供のように地団駄を踏んだ楠木は、

 

「なあ、青柳、今からでもLINE交換しね?」

 

そう言いながらポケットからスマホを取り出した。

 

「………ええ、いいわよ」

 

わたしもスマホを取り出す。

 

楠木の電話番号、メールアドレス、LINEをわたしは登録した。

 

わたしのアドレス帳に【楠木 京弥】の文字が新しく並んだ。

 

「それでさ、青柳。 ………こんな時間だけどさ、せっかく青柳と会えたからさ、その…………夏休みだしさ、花火でもしね? コンビニがそこにあるし」

 

楠木と、夏休みに花火………。

 

わたしは楠木と2人だけで色とりどり、色んな種類の花火で遊ぶ様を想像していまう。

 

「勿論、俺が奢るからさ!」

 

楠木は自分の胸元をどん!と叩いた。

 

「ま、まぁそこまで言うなら仕方がないわね。 付き合ってあげるわよ」

 

跳び跳ねる気持ちを何とか抑え付け、わたしは普段通り、クールな青柳 皐月を演じた。

 

と、そこで、

 

「あー!!!」

 

楠木は大声をあげた。

 

「ビックリさせないでよ。 どうしたの?」

 

「………………俺の財布、車の中だ」

 

「…………はあ~。 あきれた楠木君、奢るとか言ってなかったかしら?」

 

「ご、ごめん青柳! あの、後でお金返すからさ、青柳が花火買ってよ!」

 

か、カッコ悪い………。

女の子にお金をせがむなんて………。

 

「俺、青柳と夏休みの思い出を作りたいだ!!!」

 

このとーり! と、楠木は頭を下げる。

 

まあ、本当に楠木らしいわね。

素直な男の子だとわたしは思う。

 

それに―――――。

 

 

わたしだって楠木と夏休みの思い出作りたいもの。

 

 

「仕方ないわね。 いい、楠木君? 利子付けて返してよ?」

 

わたしは腕を組んでジロリと彼を見た。

 

「うん! 恩に着る!」

 

ぱちん、と楠木は両手を合わせた。

 

まったくも~…。 と、わたしは言いながら財布をひっくり返し、手のひらに小銭を出した。

 

その金額、合計《113円》。

 

偉そうな事を言ったわたしの全財産だった。

 

これでは花火を買えない。

 

手のひらの上の小銭を眺め、わたし達は声を出して笑い合った。

 

楠木も笑っている。

 

ああ………、何気ない会話をしているだけなのに、とても心が満たされていく。

 

彼が笑っている。

ただそれだけの事でわたしも幸せで仕方がなかった。

 

 

※※※※※

 

 

満天の星空の下、楠木と家路に向かって歩く。

 

明日から2学期が始まる。

 

2学期はイベントが盛り沢山だ。

 

体育祭、文化祭、修学旅行。

 

今年はどれも楽しいイベントになること間違いない。

 

楠木は学級委員ではないが、クラス内では『突撃隊長』的な存在だ。

彼が一声掛ければクラス全員が行動を共にしてイベントを盛り上げる。

 

そんな彼が居るのだから2学期はとても楽しくなりそうだ。

 

夏休みは全然遊べなかったけど、冬休みはきっと遊べるだろう。

 

冬休みは………ク、クリスマスとかあるし、初詣とかも行ければいいな。

 

わたしは明日からの、様々なイベントを想像しながらワクワクとしている。

 

 

楠木が居るだけで楽しくなりそうだ。

 

 

わたしがそう思っていると、楠木が不意に口を開いた。

 

「なぁ、青柳」

 

「なに?」

 

「………………」

 

「楠木君?」

 

気が付けば楠木はとても、とても暗い顔をしていた。

 

―――そして、

 

 

 

「俺さ、………俺、引っ越すんだ」

 

 

 

 

「――――――え?」

 

頭が真っ白になった。

 

 




こんにちわ!
刹那的です。

公私で忙しく、1ヶ月ぶりの投稿となります。
年内に出来て良かったです 

いよいよ物語も終盤です。
わたしの文章力で、これから1話、4500文字位になるかもです。
読み難い文章となり、本当に申し訳ありません。

毎度このような駄文を読んで頂き、本当にありがとうですm(__)m

次は年明けの投稿でしょうね。

でわでわ~❗
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