隣の男子はよく分からない男子だ   作:刹那的

14 / 14
♯13 恋は七転び八起き。

 

 

夏休みが明けた。

 

9月1日。

 

わたしが学校へ登校し、久しぶりの2年四組の教室に入った時には教室は賑わっていた。

 

 

――――楠木 京弥が転校する。

 

 

その話題で持ちきりだった。

 

楠木はすでに登校しており、彼を中心に大きな輪が出来上がっていた。

そして男女問わずに質問攻めにあっている。

 

「おい、楠木! 何処に引っ越すんだよ?」

「千葉だよ! 千葉! 山口から結構遠いんだよな~」

 

「楠木、いつ引っ越すの?」

「10月の中旬には千葉行かないといけないからそのくらいで学校もおさらばやね」

 

楠木は1人1人の質問に答えていた。

 

わたしはある程度は昨日聞いていたが………このクラスメイトの反応を見るに、皆楠木の転校を知らなかったようだ。

 

 

―――わたしが1番最初に教えてもらったのかしら?

 

 

そんな事を考えつつ、わたしは自分の席へ腰かけた。

すると直ぐにみなぎがやって来た。

 

「おはよ、皐月。 ねぇ、皐月は知ってたの?」

 

何が? とはわたしは聞かない。

 

「おはよう、みなぎ。 楠木の事でしょ?」

 

うん。 と、軽くみなぎが返事をする。

 

「ええ、昨日たまたま楠木と出会ってね。 そこで聞いたわ」

 

「ふ~ん。 そっか………。 皐月は知ってたんだ」

 

みなぎはそう言うと寂しそうに下をうつ向いた。

みなぎは楠木と仲が良かったので、やはり彼の転校には思う所があるのかしら?

 

「まぁこれで少しだけ納得かな」

 

うつ向いたみなぎはそう言いながら楠木の方へ視線を向けて、

 

「楠木君、7月くらいから元気なかったもんね」

 

そう言った。

 

「――――え?」

 

わたしは反射的に口から声が漏れた。

 

「だって楠木君、7月位からたまに遠い目をしたり、男の子達と野球やエッチなお話ししている時も上の空だったりさ」

 

「………あの、楠木が?」

野球とエロを何よりも大好きなあの男が上の空?

 

「うん。もしかしたら7月辺りから楠木君、転校を親から聞かされてたのかもね」

 

そこでみなぎは一旦言葉を区切り、

 

 

「楠木君と仲の良い人達も様子がおかしいって心配してたもんね」

 

 

みなぎは、まるでわたしも夏休みに入る前には【楠木の元気がない事を知っている】、かのようにそう言った。

 

 

キーンコーンカーン

 

予鈴がなった。

 

「あ、またね、皐月」

 

みなぎはそう言うと自分の席へと戻って行った。

 

そして入れ替わりに、左隣の席に楠木が腰かける。

 

「青柳! おはよう!」

 

楠木は【いつも通りにしか見えない笑顔】でわたしに挨拶をした。

 

「ええ、おはよう」

 

わたしは混乱する頭でそう返した。

 

しばらくすると担任の新井がやって来て、朝のホームルームを開始した。

 

しかし新井の言葉は何1つわたしの頭には入って来なかった。

 

理由なんて簡単だ。

 

わたし、青柳 皐月は楠木 京弥の変化に気が付いていなかったのだ。

 

 

 

【仲が良い人達】は気が付いていた。

その事実がわたしの胸を締め付けていった。

 

 

 

※※※※※

 

 

「きりーつ、礼」

「「失礼しまーす」」

 

放課後のホームルームが終了した。

 

今日が始業式だけで良かった。

こんな頭がぐちゃぐちゃの状態では授業なんてとてもじゃないがまともに受ける事が出来ない。

 

「楠木! 帰ろうぜ!」

 

クラスの男子が楠木に声を掛ける。

 

「わりー! 俺、今から少し職員室に用事あるんだ」

 

「転校の話し?」

 

「あぁ。 たっく面倒臭いったらありゃしねぇ」

 

楠木はそう言うと「じゃあな~」と、言いながら教室を後にする。

 

わたしはただただ、その一連の流れを目で追うことしか出来なかった。

 

「皐月? どうしたの? 帰ろ?」

 

みなぎが話し掛ける。

 

わたしがみなぎの方へ顔を向けると、

 

「さ、皐月? 大丈夫? 酷い顔よ?」

 

みなぎが心配の声を上げる。

 

あ~、やっぱり酷い顔してるんだ、わたし。

それもそうか。

こんな心の状態じゃ顔にも出るわね。

 

「ええ、大丈夫よ」

 

わたしはみなぎに心配を掛けたくないのでそう強がった。

 

「大丈夫じゃないよ。 ちょっとこっち来て」

 

みなぎはわたしの手を引っ張りながら教室を後にした。

 

 

 

※※※※※

 

 

 

連れて来られたのは学校内の中庭だ。

芝生や木々が生えた緑豊かな中庭で天井は吹き通しとなっており、正に絵に描いた様な中庭だ。

 

そんな中庭なので人気なスポットでもあり、帰宅する生徒や談笑する生徒がちらほら居る。

 

「あ、良かった。 空いてるベンチがあって」

 

中庭の一番隅のベンチまで連れて来られたのはわたしは強制的に座らされた。

当然みなぎもわたしの隣へ腰を降ろした。

 

「どうしたのよ? 突然」

 

わたしはみなぎに話し掛ける。

 

「さ、話して」

 

みなぎは短くそう言う。

 

「え? 何が――――」

 

「皐月」

 

わたしの誤魔化しをみなぎは遮る。

 

「…………」

 

無言でわたしを見つめるみなぎ。

 

 

わたしは下をうつ向き、とても重い口を開いた。

 

「わたし、分からないの」

 

「何が分からないの?」

 

みなぎはそう返答する。

 

「わたしのこの想いってなんだろうなって」

 

か細く、わたしは言葉を出した。

 

「どーゆーこと?」

 

「だって、アイツの顔がタイプとかじゃない。共通の趣味があるわけでもない。何かきっかけがあった訳じゃない。気が付いたら………」

 

わたしは次第に声を小さくする。

 

「成る程ね。 気が付いたら、好きになってたのね?」

 

みなぎの問にわたしはコクンと頷いた。

 

 

しかし、わたしには本当に分からない。

楠木の何に惹かれたのか。

 

 

そもそもわたしは彼の事を知らな過ぎる。

 

少し童顔が入った顔で。

野球部でもないのにプロ野球の某球団のファンで。

声が大きくて。

ゲームが好きで。

いつも子供みたいな話題で盛り上がって。

イヤらしい話しも平気で教室内で言っている。

わたしと同じ図書委員所属で。

勉強は社会以外の成績は優秀で。

意外と筋肉質で。

妹想いな男の子。

 

以上、わたしが知ってる楠木の情報だ。

 

この程度しかわたしは知らない。

 

好きな食べ物は?

休日の過ごし方は?

将来の夢は?

家族構成は?

誕生日は?

 

詳しい事をわたしは何も知らない。

わてしが知っている楠木 京弥の情報なんて【クラスメイトなら誰でも知ってそう】な情報だけだ。

 

クラスメイトの何人かは楠木の【異変】に気が付いていた。

しかしわたしはそんな些細な変化にも気が付かず、平然と楠木と過ごしていた。

 

つまり、わたしはその、クラスメイトより、楠木の事を見ていない、仲良くない、という事になる。

 

本当にわたしは彼の事を――――――

 

 

わたしは次第に目の奥が熱くなってきた。

 

 

 

「わたしの………この想いは、勘違いだったのかな」

 

 

 

そう、声を絞り出した途端に目元からわたしの気持ちが涙となり溢れ出した。

 

 

「何言ってるの、皐月?」

 

 

そんなわたしに親友はそう言った。そして続けて、

 

「何で好きになったか分からない? それがどーしたの?」

 

「え、あの、だって―――」

 

「だってじゃありません!」

 

みなぎは大きな声を出した。

 

ビックリして、わたしは思わず目をパチクリ見開いてしまう。

 

あの、優しい徳山 みなぎが真剣に怒っているからだ。

 

「いい? 皐月」

 

そしてみなぎは穏やかな声でこう言った。

 

 

「好き、に理由は要らないんだよ」

 

 

さー、っと中庭内に風が靡いた。

 

「私もさ、好きな人居るんだ」

 

「え!?」

 

み、みなぎに好きな人!?

 

みなぎはベンチから立ち上がると空を見上げる。

 

そして、歌うように語り出した。

 

 

 

今年の初詣の帰りの電車でたまたまクラスの男の子と鉢合わせたの。

よく喋る男の子で正直苦手なタイプだった。

 

電車の中でずーっとその男の子話し掛けてくるから正直嫌だなぁって思ってた。

そんな時に電車が急ブレーキが掛かってね、男の子がバランスを崩して私の胸を触ったの。

私、胸を触られたの初めてで、ビックリして泣いちゃった。

 

男の子は慌てて謝ってたけど聞く耳なんて私は持たずに直ぐに電車を降りて走って逃げちゃった。

 

そして冬休みが明けて三学期の始業式の日。

 

嫌だったな~。

その男の子と顔を合わせるの。

 

エッチな会話とか平気でする男の子だから絶対教室内で面白おかしく私の胸を触った事を言いふらしてると思ったからね。

 

そして恐る恐る教室に入ると、

 

「徳山さん、ごめんなさい!」

 

その男の子、クラスの皆が見ている前で私に頭を下げたの。

 

ビックリした。

皆の視線が痛かったな(笑)

 

それでもその男の子は頭を上げなかったの。

 

何に対して謝っているかは分かったし、恥ずかしかったから私、思わず「良いよ、気にしてないよ」って言っちゃった。

 

そしたらその男の子ね、「わざとじゃなかったけど、徳山に真剣に謝りたかった」って真顔を言ったの。

 

この人、普段はおちゃらけてるけど、根は真面目なんだな、とても真っ直ぐで誠実なんだなって思った。

 

 

 

「私が好きになったのはそこから」

 

みなぎはそう口にする。

 

「………え? それだけ? 胸触られて、謝られて好きになったの?」

 

「そんなもんだよ。 人を好きになるきっかけなんて」

 

みなぎはそこで一端言葉を区切り、

 

「何で好きになったのか、何てどうでも良いんだよ。 大切なのは【今、その人をどれだけ好きか】だよ」

 

 

その言葉に私の心の曇り空が一気に晴れ渡る。

 

わたしはベンチから立ち上がる。

 

ふぅ~、少しだけ息を吐いた。

 

さっきまでの重たい身体と心が嘘の様だった。

とても軽い。

 

 

今なら何だって出来る。

怖いものなんて何もない。

わたしは、今、人生で1番輝いている。

 

 

「みなぎ、ありがとう」

 

「うん」

 

「わたし、寄る所あるから。 先に帰ってて」

 

「うん!」

 

親友にそう告げるとわたしは走り出した。

 

学校内は走ってはいけない。

そんなの関係ない。

アイツはまだ学校に居るはずだ。

 

この想いをあのエロ男子に思いっきりぶつけてやる!

 

早い話、

わたし、青柳 皐月は楠木 京弥が――――――、

 

 

 

 

好きだ。

 

 

 

 

 

 




こんにちは!
お久しぶりです。
刹那的です!

仕事が忙しく、約1年ぶりの投稿となりました。
遅くなってすみませんでした。

毎度こんな誤字脱字が多い駄文を読んで頂き本当にありがとうございますm(__)m

次回は一応ながら最終回となります。

でわでわ~
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。