ミツバ図書から歩くこと10分。
わたしとみなぎ、そして楠木は駅前のショッピングモールにたどり着いた。
「うお! やっぱ土曜だけあって人多いな!!!」
お店に入って早々に楠木が感想を口にする。
わたしの住んでいる町は娯楽施設が殆どないから必然的に友達や家族との買い物となるとこの大型ショッピングモールを利用する割合が高い。
「ここならきっと良いもの買えるよな!」
楠木はお店の見取り図の方へ行く。 どうやら妹へのプレゼントを買う場所を探しているようだ。
この隙を付いてわたしはみなぎへ話し掛ける。
「ねぇ、みなぎと楠木って仲良かったの?」
「ふぇ!? どどどどどどーゆー意味!?」
みなぎは急に大声を出す。
「ちょっとみなぎ、落ち着きなさい。 そのままの意味よ。 あなたが男子と会話しているのが珍しいから聞いたのよ」
そう、この徳山 みなぎと言う女、ブロンドのロングヘアーでモデル体型、オマケに美人と男子からの人気はとてつもなく高い。
しかしながらみなぎ本人が男子との会話が苦手な様で近づいてきた男子は会話が続かず退散していくのが日常である。
それなのにみなぎと楠木はミツバ図書とこのショッピングモールへ向かう道中と、普通に会話していた。
「あ、なんだそう言う意味か………。え~と、1年生の時から楠木君とは同じクラスだったからちょこちょこお話しする仲、かな?」
意外な新事実だった。
わたしは去年みなぎとはクラスが違ったけど、みなぎと楠木は一緒だったのね………。
そして男子が苦手なみなぎが楠木とはちょこちょこ話す仲ね………。
ん? 男子?
あ!
と、ここでわたしはある案件を思い出す。
「あれ? みなぎ、そう言えば今日は家族と買い物じゃなかったのかしら?」
そう、昨日みなぎは「家族と買い物」と言う理由で今日はわたしと遊べないと断ったのだ。
わたしはそれを『男とのデート』だと予想していた。
「今日はパパとママと買い物行く予定なんてないよ?」
「え? だってあなた昨日………」
「昨日???」
みなぎは「何言ってるの?」と言いたそうな顔でわたしを見ているが昨日の事を思い出したようだ。
「あ!!! ああ! そ、そうなんだよパパが急に仕事入っちゃって今日は買い物中止になったんだよ! だから私スッゴい暇になっちゃってミツバ図書に行ったんだよ! 本当だよ?」
暇になったからミツバ図書に行ったね~………。
わたしもミツバ図書に行ったけど、あくまでも気分転換だから服装なんて適当だし、メイクだってそこまでしていない。
だが対してみなぎはバッチリメイクをして服装も気合が入っている。
とても暇潰しに本屋へ行く格好ではない。
みなぎは目に見えて分かる位に冷や汗をかいている。
怪しい。 怪しすぎる。 やはりこの子は何かを隠している。
「楠木君場所分かる? 私が案内してあげるよ!」
あ! 逃げた!
みなぎは楠木の元へ行き、わたしから遠退いた。
まぁいいわ。 あの嘘が下手な子がいつまでわたしを誤魔化しきれるか楽しみだわ。
「青柳ー! 2階に行ってみよーぜ!」
「………ええ」
その楽しみの為にさっさとこんな下らない買い物を終わらせましょう。
※※※※※
2階へ上がるエスカレーターに乗った時だ。
スマホの着信音らしきモノが鳴った。
誰のかしら? わたしがそう思っていると前に居るみなぎが鞄からスマホを取り出す。
そしてそれを耳に当てている。
何だ、みなぎだったのね。 誰からの電話かしら?
「もしもしママ? どうしたの?」
どうやらみなぎの母親からみたい。
「今? と、友達と駅前のモールだよ?」
「え!? ママ待ってよ!」
エスカレーターを上り、みなぎは急ぎ足でわたし達から少し遠ざかる。
まぁ、気持ちは分かる。 わたしも家族との会話を友達とかに聞かれたくないから。
わたしと楠木はエスカレーターを利用する人の邪魔にならない位置に立ち止まりみなぎの通話が終わるのを待つ。
その間楠木はきょろきょろと辺りを見回したり、「青柳って良くここに来るのー?」とわたしに話し掛けたりする。
当然わたしは楠木からの質問は「ええ」か「そう」くらいの2文字で返答する。
早い話がわたしはコイツと会話する気などないのだ。
と、通話を終えたみなぎがこちらに寄ってくる。
「ごめん! 楠木君、皐月」
みなぎはペコリと頭を下げる。
「どうしたの?」
「どしたん?」
楠木と声がかぶった。
少しばかりイラッとしたが今は楠木なんてどうでもいい。
みなぎは頭を上げて、口を開く。
「その………ママがね、早く帰ってこいだって………」
「え!? 何で!?」
わたしはみなぎへ詰め寄る。
「ママの高い香水使ったのバレちゃったみたい」
「香水?」
「あ~。 確かに今日の徳山、スッゲー良い匂いするもんな! 俺、めっちゃ好きやね、その匂い」
「そそそそそ、そう?」
みなぎの顔が一気に赤くする。
女子の香りを嗅ぐとかこの男、本当に最低ね。
みなぎを見て分からないの? 怒ってるから顔を赤くしてるのよ。
「それで、香水がバレたからどうしたの?」
バカのせいで話が逸れたのでわたしは軌道修正する。
「そうだった! 黙って使ったからママがかんかんに怒っちゃって今日は外出禁止だって!」
わ~ん! と今にも泣き出しそうにみなぎがわたしにすがる。
………いや、それは流石に人の物を勝手に使ったみなぎが悪いでしょ。
「みなぎ、取り敢えず今日はもう帰ってお母さんに謝った方が良いと思うわよ?」
これ以上のペナルティを課せられかねないし。
「うん………。 そーする。 ごめんね、楠木君」
ず~ん。と、言う効果音が聞こえてくる程みなぎは落ち込んでる。
「気にすんなよ徳山。 妹へのプレゼントは青柳と探すし」
――――――は!? ちょっと待ちなさいよ!?
今からコイツと買い物!?
冗談じゃないわよ!
わたしもこのどさくさに紛れて帰るとしましょう。
今までみなぎが居たから何とかコイツと一緒に居る事が出来たが2人きりとなると無理だ。
わたしが楠木へ声を描けようと思った時だった。
「皐月!」
みなぎはガシッとわたしの両手を握る。
「私は戦線離脱だけど楠木君の妹ちゃんのプレゼントをちゃんと選んであげてね!」
「えっと………あの………」
わたしは返事に困っているがみなぎの目が見たこともないほどに燃えていた。
今日のみなぎはいつもより、なんと言うか気迫が違う。
「…………尽力するわ」
「流石! 私の親友!」
みなぎはそう言うと、わたしと楠木に手を降りながら階段を駆け降りていく。
みなぎの後ろ姿をわたしは呆然と見てるた。
「よっしゃ! 青柳、行こーぜ!」
隣の楠木はそう言うと、歩き出す。
わたしは思う。
夢なら早く覚めてくれ、と。
※※※※※
わたしは楠木の1、2歩後ろを着いて歩く。
コイツと肩を並べて歩きたくない。
男女が肩を並べてショッピングなんて、廻りからカップルと思われてしまう。
そんな風評被害たくさんだ。
「お! ここだ、ここだ」
楠木が足を止める。
そこは女性が扱うアクセサリーや小物が売っているお店だ。
「青柳、まずはここから探してみようぜ!」
楠木はお店に入っていく。
は? 「まずはここから」って事は色々見て廻るつもりかしら?
貴重な休日をこれ以上この男と潰したくない。
…………そーよ。 よくよく考えたらなんでわたしはこの男の買い物に付き合っているの?
先程、みなぎから頼まれたがはっきり言えば不本意だ。
それに嫌いな男との買い物なんて体育の授業のマラソンより嫌な行事だ。
―――早く、終わらせましょう。
わたしに名案が浮かんだ。
※※※※※
「わっかんね~………。 どんなのがいいんだろうな?」
楠木は商品を手に取っては頭を悩ませている。
「青柳はどれが良いと思う?」
そう言われるのを待っていた。
わたしは1つの商品を手に取る。
「これが良いと思うわよ」
そう言いながら楠木に手渡した。
「これ?」
楠木がその商品をまじまじと見る。
わたしが渡したのはピンク色のスカーフだ。
選んだ理由は特にない。
そうこれがわたし作戦だ。
適当な物を選んで早く帰る。
こんな簡単な事でコイツから解放されるのだから。
「ええ、今の女子中学生の間ではそれが流行っているらしいわよ」
これも適当な方便だ。
楠木が何か言ってきたら更にもっともらしい事を言って納得させてやろう。
わたしがそう思っていると、
「そっかー! これか!」
意外にも楠木は納得したようだ。
良かった、この男がアホで。
わたしは心の中で嘲笑う。
「ありがう、青柳! 選んでくれて! 俺、これ買ってくるよ!」
楠木は屈託のない笑顔でそう言った。
―――ズキリ。
わたしは心が軋むような痛みを感じた………。
※※※※※
「ありがとう青柳! やっぱり女の事は女に聞くに限るよな!」
楠木は先程から何度もわたしへの感謝の言葉を口にする。
彼の手にはラッピングされたピンクのスカーフがあり、大事そうに抱えている。
わたしと楠木はショッピングモールの出口へと向かっている。
「これで少しはアイツが喜んでくれると嬉しいな」
わたしは相変わらず楠木の1、2歩後ろを歩いているのでアイツが今、どんな顔をしているか分からない。
でも容易に想像付く。
きっとニコニコしながら妹の喜ぶ姿を想像しているのだろう………。
その笑顔を想像する度にわたしの心が鈍く痛む―――
そしてショッピングモールの外に出た。
わたしの思惑通りに買い物はものの5分で終わった。
楠木は隣町に住んでる、と言っていたのでおそらく駅の方へと足を向けるのだろう。
わたしの家とは反対方向だ。
これで解散だ。
帰れる。
帰れる……………。
「青柳!」
前を歩く楠木がクルリと後ろを振り替える。
「今日はマジでありがうな! せっかくの土曜日なのに付き合ってもらってホント、ありがとう!」
わたしは楠木の笑顔を見る事が出来ない。
ズキリ、ズキリ。
「じゃあな! また月曜日!」
楠木はそう言うと駅の方へ歩いて行く。
―――わたし、青柳 皐月は楠木 京弥が嫌いだ。
彼は五月蝿いし、子供だし、スケベだし。
そんな彼が嫌いだ。
しかし、わたしが今した事は何だ?
彼はわたしが適当に選んだ商品を何の疑いも持たずに買った。
そして「ありがう」と何度もお礼を言った。
わたしは彼を騙したのだ。
彼は彼のお金を使ったのに。
お礼を言われる資格なんてわたしにはない。
わたしは彼が嫌いだ。
だが、だからと言って彼を騙していい理由にはならない。
それに………。
彼の笑顔が頭に浮かぶ。
本当に嬉しそうに無邪気で子供のような笑顔。
わたしの事を信じて、感謝する笑顔。
妹の喜ぶ姿を想像する笑顔。
「―――楠木君!」
わたしは、初めて、わたしから彼に声を掛けた。
「ん? どーしたん?」
駅へ向かう足を止めて楠木が振り向く。
わたしは楠木に近づいてこう言った。
「やっぱりそのプレゼントは違うわ。 もう一度最初から選びましょう」
そして本当のプレゼント選びが始まった。
毎回、こんな駄文に付き合って頂き、ありがとうございますm(__)m
本当はこの買い物回は3部構成でしたが、私の拙い文章力のせいで4部構成になりそうです。(泣)
最近少しは仕事が落ち着いて(慣れて)きたので少しは執筆のペースが上がるとは思います。
ではでは~