楠木との買い物、つまり土曜日から週が開けた月曜日。
わたしが『ある事に』気が付いたのは1限目の授業が終わった休憩時間のことだ。
休憩時間と言うことで2年四組はいつも通りに賑わいを始めていた。
6月に入り、今日から衣替えをしたわたしは半袖のブラウスから伸びた腕を組んで考える。
―――おかしいわね………。
今日も相変わらずの日常のはずだ。
朝起きて、メイクと髪を整えて、学校へ行く。
これは普段通りだ。
そして現在進行形で隣の男子が相変わらず元気に大声で休憩時間を過ごしている。
これも変わらない日常。
ただ違うのは――――――。
わたしは楠木に対して全くイライラしていない。
隣の男子が騒がしくても何も感じない。
わたし、青柳 皐月は楠木 京弥が嫌いなはずだ。
今までだったら楠木の声に耐えきれずにみなぎの元へ行くか教室から出てくところなのに………。
あの買い物の時からだ。
あれからわたしは楠木と一緒に居ても悪い気分がしくなった。
何なのだこれは?
とうとうわたしは彼からのストレスで頭が壊れたのだろうか?
わたしが1人で悶々と考えている時だった。
「お! そー言えば野村さー!」
楠木は1人の女子、野村さんに話し掛ける。
基本的に彼は女子にもよく話し掛けている。
楠木と野村さんは楽しそうに会話し、笑い合っている。
野村さんと話す楠木の笑顔。
あの笑顔はわたしと買い物した時にも見せていた笑顔だ。
……………わたしの気のせいだったようだ。
彼が気にいらない気分となっていく。
うん、正常だ。
わたしはおかしくない。
やっぱり楠木がムカつく。
「もうやだ、楠木!」
野村さんはそう言いながら楠木の肩をポンポンと軽く叩いている。
……………………。
何デレデレしてるのよ、あの男。
楠木のスケベ面を横目で見て、わたしは更にザワザワした気持ちになった。
※※※※※
昼休み、トイレから教室へ戻ろうと廊下を歩いている時だった。
「お、いたいた! 青柳~!」
楠木が手を振りながらこちらに駆け寄ってきた。
ドキリっ。
心臓が大きく弾んだ。
…………今のは何だ?
楠木に声を掛けられて驚いたのかしら?
「……………何か用かしら?」
「おう! この間の妹の件!」
あぁ、誕生日プレゼントの事ね。
「あれ、本当にありがとうな! キョーコのヤツもプレゼントには喜んでたよ! 『お兄ちゃんにしてはセンスがあるね』って言われたけどな」
たはは、と楠木は首裏を擦る。
「別に大した事はしていないわよ」
「いや、それでもありがとうだよ!」
楠木はニカっと笑う。
楠木の笑顔を見ていると、わたしの心の奥が暖かくなる。
何だこれは?
やっぱりわたしは病気なのかしら?
「く、楠木君が喜んでくれたのなら良かったわ」
何故かわたしは彼の笑顔から目を反らして答えた。
………今日は何だか暑いわね。
「ところでさ、青柳って小説とか読んだりする?」
「は?」
唐突な話題変更にわたしは困惑する。
「や、だから小説とかマンガでもいいけど読む?」
「小説もマンガも読まないわよ」
小学生時代はマンガも読んでいたが子供っぽいと思い、中学でマンガは卒業した。
「ふ~ん、そっかそっか…………」
楠木は少し考え込み、
「うん! 分かった分かった!」
1人で勝手に納得したようだ。
「青柳、ホンマにプレゼントはありがとうな!」
彼はもう一度わたしにお礼を言うと2年四組の教室の方へ走って行った。
…………何なのよ、いったい。
楠木に対してもそうだが、それはわたしに対してもだ。
本当にわたしはどうしたのだ? 何なのだ?
ただ1つ分かる事は、わたしの心をかき乱すのはいつもあの男子だ。
高校2年が始まった時からの元凶。 諸悪の根元。
わたしは遠退いていく1人の男子の背中を見ながらそう思った。
※※※※※
そんなこんなで日はまた過ぎて行く。
今日は木曜日だ。
木曜日の放課後は図書委員。
ホームルームが終了と同時に、
「んじゃ青柳、図書室でな~!」
と、楠木は教室を飛び出していく。
彼は図書委員の日はいつも走って図書室へ向かう。
そんなにも図書室が好きなのかしら?
そう思いながらわたしはみなぎやその他の友達と少しお喋りをした後に教室を後にする。
図書室にたどり着いて扉を開ける。
いつものように楠木はカウンターの『返却係』席に座って小説を読んでいる。
「よっ!」
楠木は右手を挙げてわたしに挨拶する。
わたしは軽く会釈して『貸出し係』の席に座る。
いつものように受け付けに人が来るまでは自由に過ごす。
わたしは今日も用事のないスマホを操作していると、
「なぁなぁ青柳」
楠木から声を掛けられた。
「どうかしたの?」
楠木はごそごそと鞄を漁った後に、
「これ、あげるよ!」
差し渡されたのは1冊の小説だった。
「え?」
何よ? 急に?
わたしは困惑する。
「妹の件のお礼だよ。 青柳、いっつも図書委員の時さ暇そうにしてんじゃん」
確かにわたしは毎回、図書委員の時は暇でしょうがなかった。
忙しい訳でもないし、やる事も殆どない。
それに…………楠木が嫌いだし。
そう、わたしは彼が嫌いだ。
嫌いな、はずだ………………。
「これでも読んで時間を潰してみてよ、超面白いよ!」
楠木は笑顔でわたしに小説を渡してくる。
わたしは小説なんて興味がない。
この前楠木にもそう言ったのに、何故小説をお礼に選んだのかしら?
嫌がらせ?
でも楠木の、あの笑顔はわたしに嫌がらせをしようとか考えていないだろう。
お礼がしたい、その真っ直ぐな気持ちが何故か伝わってくる。
「ええ、ありがとう。 読んでみるわ」
「おう! その小説、今度映画化するみたいだから内容は保証するよー」
ふむ、映画化する言うことは少なくとも評価は高そうね。
まぁどうせカウンターに誰か来るまで暇だし。
わたしは暇つぶしにその小説を読んでみる事にした。
※※※※※
お風呂を上がったわたしはベッドで横になりながら楠木から貰った小説の続きを読み始めた。
正直に言うわ。
とても面白い。 先が気になって仕方ない。
図書委員の時間なんてあっという間に終わったし、帰りの電車の中でも勿論読んだ。
面白い。
わたしはわくわくとドキドキが混じり合った気持ちで小説を読んでいく。
わたしが小説を読み終わったのは夜の10時に差し掛かる所だった。
ふ~………。
わたしは大きく息を吐いた。
ため息ではなく、一仕事終えたような達成感から出るモノだった。
心がとても暖かくなる話しだった。
端的に言えば楠木から貰った小説は恋愛小説だった。
男子高校生と女子高生のお話し。
ただのドタバタラブコメか。
わたしは最初そう思ったがその後がまた怒涛の展開。
もう口では説明し難いがとにかくハラハラドキドキの連続。
離れ離れになった2人だったが、大人になり再開したところでハッピーエンドを向かえた。
凄いな………、こんな運命的な出会いをしてお互いを思い続ける恋。
わたしもこんな恋愛がしてみたいな………。
早い話がわたしだって女子高生なのだ。
ふぅ~…。
―――もう寝る時間だ。
小説を本棚に納める。
スマホを充電器に差し込み、目覚ましのセットをしてから部屋の明かりを消した。
ベッドに入り布団にくるまる。
何とも言えない満足感がわたしを包む。
今日は気分良く眠れそうだ。
目を閉じながらもう一度小説のストーリーを思い描く。
そう言えば小説の中で男の子が偶然女の子の胸を触るシーンがあった。
男の子ってそんなにも胸が好きなのかしら?
教室内でも隣の男子が「おっぱいは宝物だ!」とかセクハラトークで盛り上がってたのを思い出す。
わたしもぎりぎりだが一応Cはある。
…………アイツはどの位の大きさが好きなのだろ?
―――――――!?!?!?!?
わたしは今何を思った!?
変態じゃない!? はしたない!
アイツの好みとかどうでもいいじゃない!
布団をかぶり悶々としながら眠りに着いた。
※※※※※
わたしと楠木は教室では挨拶程度しか言葉を交わさない。
そもそも席が隣とは言え、わたしと楠木はクラス内で所属しているグループが違う。
つまり会話する機会が殆どない。
楠木から小説を貰って1週間過ぎた。
今日は木曜日。
いつものように授業を受ける。
いつものように休憩時間はみなぎと過ごす。
いつものように放課後は図書室へ向かう。
いつものように楠木は先に図書室に着いている。
いつものように楠木は「よっ」と挨拶をする。
いつものようにわたしはお辞儀を返す。
いつものようにわたしは楠木の隣に座る。
いつも通りの日常。
ただいつもと違うのは、
「なぁなぁ青柳、小説読んだ?」
「………ええ、読んだわよ」
「なぁなぁどーだった? 面白かった?」
「ま、まぁまぁだったわね」
わたしは楠木と世間話をしていた。
こんにわ! 刹那的です!
今回も駄文を読んで頂きありがとうです。
今回は皐月ちゃんが変化に気が付くお話しなのでラブコメ要素は皆無です。
次回からは楠木君の反撃が始まります(笑)
ほんの少しでも楽しいラブコメが描ければなと思います。
でわでわ~