その手を   作:アイリスさん

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短編です。

更新は月1で行けたらいいなぁ‥‥‥
拙い文章ではございますが、最後までお付き合いいただけたら幸いです。


sentence1 轟沈

嵐で荒れ狂う洋上。滑るように、とは行かずに鈍い速度で走る影が6つあった。前方に3人。大破状態で意識もなく、あちこちから血を流している旗艦、空母の赤城。その轟沈寸前の赤城を両サイドから支える、重巡洋艦の青葉と駆逐艦の雷。青葉も大破しているし、艤装もボロボロ。雷は辛うじて中破に留まっているが、背中の艤装は半壊して使い物にならない‥‥‥いや、辛うじて使える魚雷を1発残すのみか。青葉も20.3㎝連装砲が生きてはいるものの、次に敵に出会っても直ぐに使えなくなる程度の残弾数だ。赤城の状態は、ハッキリ言ってかなり危険。焦る気持ちとは裏腹に、速度は一向に上がる気配を見せない。

 

少し‥‥‥いや、三人からかなり後方。金剛型の二番艦、大破状態で走るのも辛い状態の比叡が、水上に立っているのがやっとの姉、ボロボロの金剛を支えて走行。その直ぐ後ろに、秘書艦でもある電が周りを警戒しながら付いてきている(電も大破に限りなく近い中破)。

 

「sorry、比叡‥‥‥帰ったら間宮のアイス奢ってあげマース‥‥‥」

 

「そんな事どうでもいいですから!身体に障りますから喋らないでください、お姉さま!」

 

赤城ほどではないにしろ、金剛ももう限界に近い。6隻の練度は、高いとは言えないものの、決して低い訳ではない。現に、秘書艦の電に至っては、初期艦という事もあってもうベテランの域。それでも、今回は多勢に無勢だった。

 

何時ものような周辺哨戒で終われれば良かった。ここ最近、遠洋の事とは言え深海棲艦の艦隊が多数出現しており、小規模である鎮守府の彼女達の提督も主力クラスを警戒に当たらさざるを得なかった。

その遠洋からの友軍からの救援要請を受け、提督の承認の元向かった6人。だが、目にしたものは絶望的な状況だった。

海を埋め尽くす程の圧倒的な数。その半数以上は駆逐級。チ級やリ級の姿も多数見える。遠目からだが、統率しているのは鬼級‥‥‥青白い不気味な肌に漆黒の装束を纏う。真っ白な髪と、それと対照的な真っ赤に光る瞳。二つの巨大な砲塔の付いた異形の頭の上に腰掛ける悪魔。空母水鬼だろうか?

 

救援要請をしてきた 味方艦娘の姿は‥‥‥轟沈寸前の大破状態の駆逐艦、卯月と長月が息も絶え絶えでその艦隊に囲まれ睨まれていた。他の艦娘の姿は見えない。つまりは‥‥‥。

 

『二人を‥‥‥助けるのです!』

 

奥底から込み上げてくる恐怖を抑え込むかのように叫んだ電の声で、睦月型の二人への道を切り開こうと進む6人。

止まる事なく最大船速で、単縦陣で一点突破。どうにか二人の元へと辿り着き、囮になりながらその隙に二人を逃がした。

 

そうして現在。嵐に紛れ、なんとか追手を振り切り撤退中の、満身創痍の6人。既に電探も役にたたず、無線すら不可能ではあったが、どうにか全員で帰艦できそうだ。

 

「金剛さん、もうすぐ‥‥‥もうすぐなのです」

 

不安そうに声をかけてくる電に心配をかけまいとして、「大丈夫ヨ‥‥‥」と振り向き笑顔を見せる金剛。だが、その目が一瞬で曇る。

 

(Shit!)

 

間に合わない。周りは誰一人気付けていない。見付けたのは荒れる海面に紛れた魚雷が6発。このままなら確実に、金剛も比叡も、電も轟沈してしまう。

 

(テートク‥‥‥せめて、もう一度会いたかったネ‥‥‥)

 

 

 

 

 

 

金剛の何処にそんな余力が残っていたのか。気付いた時、比叡は宙を舞っていた。勢いの余り電にぶつかり、そのまま二人で遥か後方へと滑り転がっていく。

金剛に放り投げられた。訳か分からず「えっ?えっ?」と声を洩らし混乱。もしかしたら金剛の身体の痛みの走る部分を押さえてしまい、その激痛で思わず投げ飛ばされたのかと思い、謝ろうと顔をあげる。

 

「お姉さ‥‥‥え‥‥‥」

 

瞬間。比叡が目にしたものは、巨大な爆発。それと、鼓膜が破れるかと思う程の轟音。

脳が、受け入れられない事態に何が起こっているのかを理解する事を拒んでいる。

‥‥‥暫しの、間。

だが、比叡と絡み合って倒れていた電が震える声で発した「金剛さんっ!!」という一言が、比叡の思考停止を溶かしていく。

 

爆発したであろう位置には、確かに金剛が立っていた筈‥‥‥筈だった。しかし、幾ら見回してみてもその姿は何処にもない。

 

「お姉さま‥‥‥?嘘、ですよね?」

 

立ち竦む比叡。爆音に気付いた青葉が、赤城を雷に任せて戻ってくる。

青葉は「今の爆音は!?」と驚き警戒しながら辺りをキョロキョロと見渡し、一人足りない事に気付いた。

 

「‥‥‥二人とも、金剛さんは?‥‥‥金剛さんっ!!」

 

慌てて辺りを探す青葉が、やがて海面のある場所で何かを見付けたらしく、止まる。その表情は青褪め、絶望に染まっていた。

 

青葉の足元に何かが浮いているのに気付いて、比叡は恐る恐る近付く。あったのは残骸。見覚えのある、間違いなく金剛の艤装の破片と、カチューシャの一部。それから‥‥‥紅く染まった『何か』。

 

「比叡さん、駄目です!比叡さん!」

 

青葉が止めるのも聞かず、比叡はその『何か』を手に取り、固まる。それは、人の左手。手首あたりから切断された掌。その人差指には、数日前に比叡がプレゼントしたシルバーの指環が確かに嵌まっている。‥‥‥紛れもなく、金剛の左手だった。

 

「嫌‥‥‥イヤア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!」

 

その場で膝から崩れ落ち、泣き叫ぶ。冷静な判断など出来る訳がない。金剛‥‥‥比叡にとって唯一無二の、愛すべき姉。その姉が、自身を犠牲にして比叡達を助けたなど‥‥‥。

 

そんな、冷静さの欠片もない比叡を後ろ横目に、電はある一点を見据えていた。

二つの瞳に確かに映っていたもの‥‥‥ショートヘアで青白い肌とは正反対の漆黒のビキニを着け、両腕に異形の頭の形をした砲門を持つ艤装のリ級が1体。その身体はうっすらと金色に光っている‥‥‥悪い事に、改flagshipだ。それから、真っ黒なミニのワンピースを纏い、その両太股にはマウントされた副砲、背中には配管のような何かから生えた双頭の大きな主砲、長い白髪をサイドテールに結い、顔の右半分が甲殻らしきもので覆われているネ級が2体。‥‥‥ネ級の身体は2体とも仄かに紅く揺らめく‥‥‥eliteだ。こんな所で会っていい相手ではない。最悪、である。

 

「青葉さん、みんなを連れて‥‥‥逃げてください。ここは電が‥‥‥止めるのです」

 

見てそれと分かるくらい震えていて、しかし決意の籠った瞳を向ける電。今の艦隊の状態で挑んでも、恐らく全滅。きっと助からない。電は他の4人を逃がすために一人犠牲になるつもりだった。‥‥‥轟沈は覚悟の上だった。後ろ髪を引かれる思いで、動こうとしない比叡を抱えた青葉は、涙を湛えて前を向く。

 

「轟沈したら許しませんからね‥‥‥絶対に」

 

「任せてください‥‥‥電の本気を見るのです」

 

泣き喚き抵抗する比叡を無理矢理引っ張り、青葉は振り返らずに走り始める。電が一人、リ級達と向き合う。

 

「ここからは‥‥‥行かせないのです!」

 

青葉達が離れていくのを気配で感じながら、電は10㎝連装高角砲を構える。魚雷の残弾は無い。勝機も無い。心残りはあるが、これも‥‥‥。電は敵を見据えながら、遠く離れた司令官を想う。これが、きっと最後だから。

 

(司令か‥‥‥ううん、山本さん‥‥‥電は、電は‥‥‥貴方に‥‥‥)

 

その時だった。上空からリ級への爆撃。それに烈風改の大編隊。上手く撤退させた卯月達が呼んだ友軍艦達の救援だった。

 

 

******

 

近隣の鎮守府が協力し、急遽大規模な連合艦隊を編成。その活躍でどうにか事なきを得た。あのまま電達が救援要請に気が付かなかったら‥‥‥卯月達を逃がせなかったら‥‥‥金剛が自らを犠牲にして比叡達を助けなかったら‥‥‥今頃どうなっていた事か。

 

 

それから数時間後。今は落ち着いて見える海上を走るのは、電達とは別の鎮守府の、重雷装巡洋艦に改装された北上と大井。それと、潜水艦の伊58。普段と変わらないポーカーフェイスの北上。その後ろを、気味が悪い程の満面の笑みで着いていく大井。時々後ろを振り向き、伊58を見て睨み付けてくる。『どうしてお前も居るんだ』『折角の二人の時間を邪魔するな』と、大井の視線が雄弁に語っている。

 

「大井っちさあ~、3人で哨戒してるんだし、もう少し仲良くやろうよ~」

 

少し間の抜けたような、しかし絶妙なタイミングで声を掛けた北上。大井は「勿論です!」とキラキラとした笑みを北上に向けた後、後ろを向いて再び睨んできた。伊58は内心(だから嫌だったのに‥‥‥文字通り罰ゲームでち)と思いながらも、これ以上面倒にならないように黙って着いていく。因みに、伊58は彼女らの鎮守府内で行われた厳正なるジャンケンの結果最後まで負け、今の任務に着いている。(主に大井のせいで)本当に罰ゲームになっている訳だ。

 

「‥‥‥あれ?」

 

一応の哨戒任務中であった北上が、何かを見付ける。洋上に人が浮いている‥‥‥否、水面に浮いているので艦娘か。

 

「昼寝でもしてるんじゃないですか?」

 

大井はそんな寝惚けた事を言っているが、そんな訳は無い。現在、海上はまだ要警戒中。哨戒艇以外は居ない筈だ。もしかしたらさっきの戦闘で傷つき動けなくなった艦娘かも知れない。浮いている、という事は少なくとも轟沈していないという事だが、油断は出来ない。

 

「‥‥‥あ、あれ‥‥‥金剛でち」

 

倒れていた艦娘に先に近付いた伊58が、思わず声を洩らした。彼女は演習時に、何度か金剛と顔を会わせた事がある。見間違いではないだろう。

 

「あぁ、あの帰国子女っていう金剛さん‥‥‥って!」

 

ノホホン、としていた大井が、焦りの表情に変わる。金剛であろう目の前の人物はボロボロの血塗れ。左腕に至っては肘から先が無くなっていて、傷口が焼けている。

 

「息は‥‥あるよね!大井っち!」

 

呼吸と脈拍を確認した北上。辺りを警戒しつつ、司令部へ救援を求めた。

 

二人とは別に、海へ潜り警戒を始めた伊58。彼女は疑うような光景を目の当たりにした。その海の中は、深海棲艦の艦積機が今まさに沈み行く最中だった。しかも、その数は10や20どころの話ではない。3桁に届こうかという数だ。

 

(何これ‥‥‥ここで何があったんでち‥‥‥?)

 

******

 

一方。

執務室。窓の方を眺めたまま微動だにしない、海軍の真っ白な制服に身を包んだ青年。この鎮守府の提督。名を山本という。歳はまだ二十そこそこの若輩で甘い所はあるが、確りと戦果は挙げてきた。

 

「あの‥‥‥司令官さん」

 

その様子を切なそうに見ていた秘書艦の電が我慢できずに声を掛けた。山本はゆっくりと振り向き、作り笑いをしてみせる。

 

「ごめんなさいなのです‥‥‥電のせいで‥‥‥電のせいで金剛さんは‥‥‥」

 

今にも泣きそうな電の頭を、山本は静かに、優しく撫でる。努めて優しく、親が子に諭すように電に話す。

 

「電のせいじゃないよ。電が責任を感じる事なんて、無いんだ」

 

「でも‥‥‥でも、司令官さん」

 

金剛は轟沈。比叡もショックで部屋に籠ったまま。赤城はまだ全回復には至っていない。もう限界で、抱き着いて泣き出したかった電。山本にその顔が触れる、という直前で、邪魔が入った。執務室のドアが勢いよく開け放たれ、青葉が興奮した様子で駆け込んで来たのだ。

 

「たっ、大変です司令官!金剛さんが‥‥‥金剛さんが見つかったって!」

 

 

 

鎮守府内の医務室に運ばれてきた彼女の元へと走る山本、電、青葉の3人。入渠済みの今は完全に治っているが、発見当時、彼女の左腕は欠損していたらしい。間違い無いだろう。

 

「金剛さんが‥‥‥金剛さんが生きてたのです‥‥‥!」

 

嬉しくて部屋に入る前に泣き始めてしまった電をあやしながら、山本は扉を開けた。ベッドには、確かに金剛が横になっていた。‥‥‥しかし、何というか、少し様子がおかしい。まるで、山本達が分からないかのような表情。

 

「大丈夫か?みんな心配していたんだぞ?」

 

山本の不安は的中だった。答えた金剛の言葉は「あの‥‥‥初めまして」だったのだ。

 

「‥‥‥金剛?『金剛』、なんだよな?」

 

改めて問う山本。彼女は少し驚いた様子をみせたあと、困った様子で答えた。

 

「はい。『こんごう』です」

 




登場人物

山本:小さな鎮守府の提督。少佐。若いが懐の大きな人物。金剛のアピールをかわし続ける堅物‥‥‥ではなく、別に思う事があるようだ。某帝国海軍の英雄の末裔。

金剛:提督LOVE。アタックとアピールを日々只管繰り返しているが、暖簾に腕押し。1話で轟沈。退場となってしまった。レベル42(轟沈時)

比叡:金剛LOVE。空回りする所はあるものの、やるときはやる人。本作ヒロイン。レベル38。

赤城:頼れるお姉さん。山本の艦隊の旗艦。でも燃費が悪い。レベル48

青葉:本作では熱血漢。顔が広いようだ。レベル39

雷:最古参の電に影響され、最近メキメキと力をつけてきた駆逐艦のホープ。でもみんなには温かい目で見られている。「頼ってもいいのよ!」 レベル28

電:鎮守府最古参にして秘書艦。優しい上に涙脆い。山本に密かな淡い想いを抱いている。レベル91‥‥‥あっ(察し)

他の艦娘の皆さん:基本的にゲスト扱いです。

『こんごう』:本作主人公。詳しい事は次回に。レベル?

山本の鎮守府:某戦車道の娘達で有名になったとある港町にある鎮守府です。
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