その手を   作:アイリスさん

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あ、10話だ。今回でやっとラスボスの影が。

悩むこんごう。比叡の心が少しずつ変わっていく‥‥‥次回あたりから加速していきそうです。

そんな訳で、本編です



sentence10 脅威

 

「‥‥‥もしやキミがあのユウダチか!?是非会ってみたかったんだ!」

 

執務室へと続く廊下の真ん中。グラーフに捕まっているのは春雨だ。どうやら春雨を夕立と勘違いしているらしい。確かに実の姉妹だけあって似ているし、着ている制服も同じ。グラーフは夕立の顔まではハッキリとは覚えてこなかったようだ。

 

「あ、いえ‥‥‥私は春雨って言います。私の姉さんが夕立なんです」

 

「そうか‥‥‥」と残念そうなグラーフだが、春雨に悪いと思ったのだろう。直ぐに元の表情へと戻り「暫くの間、宜しく頼む」と握手をしている。

 

そんな姿を少しだけ離れ見る、比叡と電。

グラーフには気付かれていないだろうが、二人とも非常に悩ましい、困った顔をしている。

 

「無理ですよぅ、お姉さまのイギリス時代のエピソードなんて殆んど分かりませんし‥‥‥」

 

「グラーフさんには‥‥‥本当の事教えてあげたいのです」

 

比叡も電も、本当は真実を教えてあげたい。霧島や榛名の時もそうだったし、今回だって。グラーフは金剛の親友だ。親友の死を‥‥‥それも妹や仲間を救う為に犠牲になったという誇りある死を‥‥‥。

ただ、呉のメンバーの時と同じように黙っていてくれる、とは限らない。もしもグラーフが周りに話してしまったら。それが大本営の耳に入ったら。日本はおろか全世界を見ても二つと無い特殊な艤装を備えたこんごうがどういう扱いを受けるか‥‥‥。

 

春雨と談笑していたグラーフが戻ってきた。比叡と電は会話を止めて、執務室へと再び歩きだす。

 

コンコンとノックをして「失礼致します、司令官」と執務室の扉を開くと、山本は書類を捌いている最中だった。

 

「Deutschland海軍所属、空母のグラーフ・ツェッペリンだ。Admiral、二ヶ月間宜しく頼む」

 

敬礼したグラーフに手を一時止めていた山本も「この鎮守府の提督、山本十三だ。此方こそ宜しく頼むよ」とそれに笑顔で答えた。

 

「先ずは荷物を置いて落ち着くといい。君の部屋は‥‥‥」

 

「ナツ‥‥‥金剛と同室、では駄目だろうか?金剛とは昔からの友なんだ」

 

グラーフの発言が、山本が言葉を言い切るよりも早い。これは困った。こんごう達の部屋は一応四人部屋。そこに比叡とこんごうの二人が生活している。グラーフは金剛の親友な訳だし、断る理由が無い。

 

「‥‥‥あの部屋に大人の女性三人、というのは少々狭いかも知れない。折角だし赤城と同室というのはどうだろうか?」

 

赤城の部屋は現在、赤城一人で使用している。理由は‥‥‥乙女の事情(同室だと赤城に釣られて食べ過ぎて肥るから)。最初はそれが理由で別の部屋に、と思っていた所だが。青葉、那珂の二人の部屋を進めるよりは筋が通っている。

 

「それも悪くない。アカギには色々聞いておきたい事も有るしな」

 

どうやら納得してくれたようだ。態度には出せないが山本、電、比叡の三人とも心の中でホッと一息ついている。

 

「で?Admiralよ、金剛は何処に居るのだ?」

 

問題は全く解決していなかった。こんごうは今入渠中。と言っても只のお風呂中。だからまだグラーフの事を話せていない。もし何の準備もなくこのまま会わせてしまったら、全てが水の泡だ。

 

「『金剛』は今入渠中だ。あがって落ち着いたら会うように言っておく」

 

‥‥‥そういう時に限って、事故は起こるものだ。コンコン、とノック音がして「失礼します、提督」という声の後、扉が開いてしまう。

 

「提督、漁師さんにお魚を戴いたので、食堂の冷蔵庫に‥‥‥」

 

入って来たのは勿論こんごうだ。お風呂あがりでほんのり火照った紅い肌に、何時もより少ししっとりとした髪をストレートに下ろしている。格好は浴衣‥‥‥という訳にはいかないが、ロングTシャツに膝丈のスカートとラフな格好だ。

 

「あ‥‥‥こんごうさん‥‥‥なのです‥‥‥」

 

 

 

 

このコントのような状況に辛うじて反応出来たのは電だけ。山本も比叡も『あ、絶対やらかした』という表情で固まっている。

 

そんな三人を察したらしいこんごうは、新たに加わっている人物に目をやる。「金剛!久しぶりだな!元気そうだな!」と親しげに近寄ってくるドイツ人女性。

 

「‥‥‥Oh!グラーフ!久し振りデース!」

 

グラーフと抱擁。勿論、比叡も電も驚きを隠せていない。何せ‥‥‥グラーフの事はこんごうには伝わっていないからだ。伝えたのは『ドイツ艦が鎮守府に滞在するからなるべくバレないように』という事だけだ。グラーフの名前も、金剛との繋がりも知っている筈が無いのだ。

ただ、山本は然程驚いてはいない様子。寧ろ(やはりか)と納得している様子だ。

 

「イギリスからニホンへキミを送った時の護衛任務以来だな!」

 

「懐かしいネ!」

 

心からの笑顔らしいグラーフと、何処かぎこちなさのある笑顔のこんごう。手探りらしいこんごうの、見ていてハラハラするやり取りが続く。

 

「ニホンゴは私の方が上手くなったようだな。キミのニホンゴはアクセントが少しおかしいぞ」

 

「そんな事ありまセーン!ワタシだって普通の日本語ネ!」

 

******

 

談笑の後、グラーフは赤城の部屋へ。自室に戻り「ふぅ」と息を吐いて椅子に座った比叡の視界に、疲れきってベッドに倒れ込むこんごうの姿が入る。

 

「疲れました‥‥‥折角入渠したのに‥‥‥」

 

「こんごうさん、さっきの‥‥‥」

 

気になって仕方ない。何故、こんごうがグラーフを知っていたのか。やはりもしかしたら、こんごうは金剛と何か関連があるのではないか。比叡の中で少しずつ大きくなる。

 

「今朝の夢に出てきたんです」

 

比叡は絶句した。こんごうに宿る艦の記憶が普通ではない事に。こんごうが話すには、見えるのは何時も、とある人物の視点。その記憶の中にグラーフが居たらしい。姿も声も記憶の中と同じだった。何よりも先程グラーフがこんごうに『久し振り』と言った為、金剛の知り合いなのだと判断してグラーフの名前を呼んだ、と。

 

「それで、記憶の中のグラーフさんは何時も此方の事を『ナツミ』って呼んでたんです。だから、きっとそのナツミさんもグラーフさんの友達‥‥‥」

 

「‥‥‥え」

 

ナツミ‥‥‥夏美。金剛の、人としての本名だ。それを知っているのはこの場では恐らく比叡とグラーフだけの筈。それを、こんごうが‥‥‥何故‥‥‥どうして‥‥‥。比叡の頭の中を、その事だけがグルグルと廻る。

 

「比叡‥‥‥さん?」

 

「‥‥‥へっ?あ、えっと」

 

結局、こんごうに聞く事は出来なかった。聞くのが、怖かったのだ。聞いてしまったら、こんごうが消えて居なくなってしまいそうだったから。

 

******

 

場所は変わり。太平洋沖。出撃命令を受けた横須賀鎮守府の第一艦隊。

戦艦・陸奥、旗艦の装甲空母・大鳳、重巡・愛宕、軽巡・川内、駆逐・陽炎、それと戦艦・武蔵。第三艦隊との連合艦隊での出撃だった。

しかしながら、現在洋上に姿が見えるのは、既に意識の無い大破状態の大鳳、意識は有るが同じく大破状態の武蔵。それと、二人を支え走る中破の川内のみ。

 

「済まない‥‥‥私の力が足りないばかりに」

 

肩で息をしながら話す武蔵。武蔵の右腕は吹き飛ばされていて既に無い。「喋らないで!今は少しでも力を残して!」と、川内が叫ぶ。

 

「無茶だよ、あんなの‥‥‥今は戻って提督に知らせなきゃ‥‥‥大鳳だって早く入渠させないと」

 

川内は焦る。敵は追ってきている。この状態ではとてもではないが太刀打ちできない。何せ‥‥‥三人以外は全員が轟沈。それも、たった一隻の深海棲艦相手に、だ。

‥‥‥戦艦水鬼。筋骨隆々の四肢の、異形の双頭の黒い魔獣のような艤装を使う深海棲艦。ただ、後方から迫るそれは明らかにイレギュラーだ。まるで高速戦艦のようなスピード。備えた20inch連装砲二門の他、左手の代わりに生えている白い触手の先の三連装副砲。その躰の下半身には足は無く、代わりにレ級の尻尾のような真っ白な大きな触手が生えており、その先にはイ級のような異形の口のついた顔。上半身に着ている、巫女服を思わせる真っ黒な服。戦艦水鬼の突然変異‥‥‥だろうか?

 

「ひゃっ!」

 

両サイドを掠めるように、敵の砲撃。川内とて百戦錬磨の猛者、の筈なのだが、今は逃げるしかない。

 

‥‥‥と、武蔵に投げ飛ばされる。大鳳を抱えたまま水上を転がる川内。武蔵も辛うじて砲撃を避けたらしく、反対方向に転がっている。

 

「‥‥‥此処は、私が引き受ける。川内‥‥‥お前は大鳳を連れて鎮守府まで逃げ切れ。大鳳に万が一があっては提督に顔向けできん」

 

立ち上がった武蔵が後方を睨む。大破状態では勝ち目は無いのは明白だ。

 

「武蔵さんっ!」

 

戻ろうとした川内に「早く行けっ!!お前の姉妹を悲しませたいのかっ!!」と怒鳴る武蔵。涙を溢しながら前を向き、川内は走り出す。

 

「武蔵さんっ!ごめんなさい、ごめんなさい武蔵さんっ!」

 

******

 

場所は再び、山本の鎮守府。こんごうの歓迎会‥‥‥の予定が、そのままグラーフの歓迎会に変更。グラーフには他の者が次から次へと相手をして、こんごうには殆んど近付けさせていない。見事なまでの連携だった。

グラーフももう酔ってしまって酩酊状態。こうなればもう逃げ切ったも同然だ。

 

「良かったんでしょうか‥‥‥」

 

こんごうにはグラーフの事が不敏に思えて仕方ない。出来る事なら、真実を伝えたいのはこんごうもだった。

 

「仕方ない‥‥‥とは言いませんけど‥‥‥貴女の為でもあるんですよ、こんごうさん」

 

比叡はそうは言っているが、こんごうは悩む。山本も、電も、勿論比叡も。みんなこんごうの事を想ってくれているのは分かる。けれど、それに甘えているだけでいいのか。

 

「どこへ?」

 

一人食堂の出口へと向かおうとしたこんごう。当然ながら比叡に引き留められた。「‥‥‥御手洗い、です」と嘘をついて誤魔化し、一人外へと出た。

 

海岸へと出て、砂浜に座り夜の浜風に当たる。記憶が戻らないせいもあるのかも知れないが、こんごうはボーッと水平線を眺めながら悩む。

 

(私は‥‥‥誰なの?他の人を騙して、みんなに守ってもらって‥‥‥そうまでして守るものって何なの?‥‥‥私は‥‥‥何の為に‥‥‥此処に)

 

突然後ろから「此処に居たのか」と声を掛けられ、驚いて振り向く。そこには酩酊している筈のグラーフが立っていた。

 

「グラーフ‥‥‥?」

 

「ああ、酔っていたと思っていたのか?あんな程度で酩酊するほど柔じゃないさ」

 

フッ、と不敵に笑うグラーフ。慌てて金剛の真似をしようとしたこんごうを制止するように話し出す。

 

「無理はしなくていい。キミは‥‥‥金剛では無いのだろう?」

 

「‥‥‥分かるのですね」

 

「分かるさ」と答えたグラーフは怒ってはいない。金剛に何が起きたかは何となく察しているのだろう。その表情には憂いが混ざって見える。

 

「私は‥‥‥金剛の親友だったからね。それに、彼女が艦娘になると聞いた時から覚悟もしていた。‥‥‥話して、もらえないか?」

 

******

 

場所は更に変わり、夜の呉鎮守府、執務室。

 

(今日の雑務はこれで終わりですね)

 

書類を終わらせた大和が執務室から出ようとすると、電話が鳴る。こんな時間にかけてくる者など一人しかいない。3コール目で受話器を取る。

 

『大和よ』

 

「はい、提督。こんな時間にどうなされましたか?」

 

何となく嫌な予感はする。大本営に寄ると聞いていたので、そこでの用事が芳しくなかったのか、それとも何か不味い事でもあったのか。

 

『秘書艦代理は別のヤツに任せろ。夕立が戻り次第、お前と夕立二人で山本少佐の所へ行け。これは命令だ』

 

「どういう事でしょうか?」

 

大和と夕立。ここ呉の要の二人に出ろ、というのは穏やかではない。嫌な予感がする。

 

『‥‥‥横須賀の第三艦隊が壊滅。第一艦隊も派手にやられた。大鳳と川内以外は轟沈、らしい』

 

「!!」

 

大和の瞳孔が大きく開く。事は重大。何せあの横須賀の第一艦隊がやられている。第一艦隊と言えば武蔵や陸奥も居た筈。それほどの深海棲艦の大艦隊が現れた、という事だろう。大和にも緊張が走る。

 

『相手は、たったの一隻だったそうだ』

 

「一隻?‥‥‥たった一隻に連合艦隊が壊滅させられたのですか!?」

 

驚きを隠せない。あの横須賀の艦隊を相手にして壊滅させる程の深海棲艦。しかも艦隊ではなく一隻‥‥‥。それがどれ程の脅威を意味する事か。そんな深海棲艦が本格的に艦隊を率いて攻めて来たりしたら‥‥‥。

 

『そうだ。戦艦水鬼のイレギュラーだそうだ。望遠での写真だが見せて貰った。アレは‥‥‥アイツは恐らく‥‥‥』

 

 

 

 

 




横須賀鎮守府第一艦隊

陸奥:レベル95(轟沈時)
武蔵:レベル99(轟沈時)
大鳳:レベル140(大破)
川内:レベル93(中破)
陽炎:レベル99(轟沈時)
愛宕:レベル98(轟沈時)

‥‥‥全く、ここの提督どもはどいつもこいつも‥‥‥

因みに。何故ドイツとの交流メンバーに長門が選ばれたのかと言えば

電「矯正なのです」
夕立「矯正っぽい」
春雨「‥‥‥『離せ~!愛する駆逐艦達と離れるくらいなら轟沈した方がマシだ~!』って言ってたそうです」
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