その手を   作:アイリスさん

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11話。比叡とこんごうが急接近していく。
‥‥‥あー、どうして提督って奴はどいつもこいつもこんなのばっかりなのか。ね?東郷さん?

本編へ。




sentence11 戸惑い

「そうか‥‥‥彼女は‥‥‥ナツミは‥‥‥」

 

水平線の彼方を眺め、グラーフが無言になる。彼女の表情を見るに、過去の金剛との日々を思い返しているようだった。

 

「あの‥‥‥グラーフさん。ナツミって誰なんでしょうか?」

 

グラーフの洩らした『ナツミ』という名。艦娘としての、艦としての筈の記憶に頻繁に出てくる一人称視点の人物の名。それが誰かが分かればこの『こんごう型ミサイル護衛艦』の存在意義も分かるかも知れない。もしかしたら『こんごう』の艦長だったとか、特別な乗組員だったとか。

 

「グラーフ、で構わない。‥‥‥金剛の事だ。ナツミは、金剛が人間だった頃の名」

 

「金‥‥‥剛‥‥‥さんの?」

 

全く考えなかった訳ではない。『こんごう』は『金剛』の生き写しと言っていい。金剛と関連があるだろう事は、何となくでも頭にはあった。しかし、艦娘としてはそれだとおかしい。人の身に軍艦の魂を宿したのが艦娘。その艦娘の定義でいけば、こんごうに宿っているのは『こんごう型ミサイル護衛艦一番艦』の魂の筈。定義の通りならば、流れ込んでくる記憶もその護衛艦のものの筈なのだ。それが、艦娘金剛の記憶が流れ込んでくるとなれば‥‥‥やはり、自身が宿している魂は‥‥‥。

 

「‥‥‥グラーフ、聞いてもいいですか?」

 

「ああ」

 

‥‥‥恐る恐るだが、確かめなくては。

 

「『秋穂』ってもしかして‥‥‥比叡さんの名前ですか?『春奈』と『塔子』は、金剛さんの妹さん達の名ですか?」

 

「そうだが‥‥‥アキホから聞いたのか?」

 

やはりそうだ。この身に宿るのは、艦娘『金剛』。宿した力が『戦艦金剛』ではなく『護衛艦』というイレギュラーが起きている理由はイマイチ分からないが。そうしてまで金剛のしたかった事も。

 

(金剛さん‥‥‥貴女は、どうして)

 

「グラーフ、私‥‥‥」

 

言い掛けたこんごうだったが、突然グラーフに飛び付かれ、抱かれたまま大きく右へと投げ出され、転がる。急過ぎて頭が付いていかない。グラーフの表情は真剣そのもの。

 

「グラーフ、これは一体‥‥‥キャッ!?」

 

そのままグラーフに砂浜に押し倒された。もしかしてこの場でグラーフに襲われるのかと思った瞬間、先程まで居た場所が大きく爆発。砂浜が抉れた。

 

「不味いっ、艤装が無くては戦えない!」

 

グラーフの言葉に驚き顔をあげると、近海に深海棲艦の姿。その異形は駆逐艦等ではない。双頭の怪物のような艦装、白い尾のような下半身を持った、人魚のような姿の異形。‥‥‥戦艦水鬼、なのか‥‥‥?

 

「クソッ‥‥‥走れ!」

 

グラーフに手を引かれ、走る。確かに艦娘として覚醒している二人は普通の人間よりも頑丈。だが、艤装が無ければ攻撃は出来ないし、防御面でも大幅に下がる。戦艦水鬼の一撃だけで墜ちるのは必至。

 

砂浜から海へ進水。波打ち際スレスレの水の上を走る二人。

 

(‥‥‥間に合わない!グラーフだけでも!)

 

こんごうは咄嗟に、グラーフを突き飛ばす。グラーフが大きく前へと飛ばされる。その場に留まったこんごうに、戦艦水鬼からの砲撃が襲う。

 

「こんごう!!」

 

突き飛ばされたグラーフが顔をあげ、砲撃された方を見つめる。煙が晴れてくると‥‥‥血塗れになった、動く気配の無いこんごうの姿が見えてきた。

 

戦艦水鬼が、足を止めたグラーフに砲を向ける。死を覚悟しつつもグラーフが向こうを睨み付ける。

‥‥‥砲を向けたまま。何故か戦艦水鬼は攻撃してこない。そのまま向きを変えて遠洋の彼方へと消えていく。

 

 

 

 

「どういう事だ‥‥‥今のは‥‥‥確かに‥‥‥」

 

動揺し、呆然とするグラーフは確かに見た。距離は遠かったが、他でもないグラーフが見間違う筈が無い。その戦艦水鬼の顔は‥‥‥確かに『金剛』のそれだった。

 

暫く動けなかったグラーフだが、ハッと我に返りこんごうに駆け寄る。うつ伏せに倒れているこんごうを抱き上げる。直撃は免れているようだが、身体は血塗れで流血が止まらない‥‥‥虫の息。早く治療を施さなくては間に合わなくなる。

 

「確りしろ、大丈夫だからな‥‥‥すぐに入渠させてやる」

 

こんごうを抱き、グラーフが走り出す。漸くその視界に、艤装を備えた那珂と雷の姿が見えてきた。

 

******

 

「こんごうさん‥‥‥」

 

比叡が傍に座り、両手で左手を握って回復を祈る。こんごうが艦娘なのが幸いだった。入渠し身体の方は元に戻った。しかし、意識はまだ戻らない。現在は医務室に寝かされている。

 

「こんごうさん‥‥‥比叡は‥‥‥比叡は‥‥‥」

 

高速修復材を使用した為、身体自体はもう問題ない筈。もう目覚めてもいい筈なのだ。

しかし、こんごうは目を覚まさない。

 

「こんなの嫌です‥‥‥起きて‥‥‥起きてくださいよ」

 

金剛を目の前で失った悲しみは、未だ比叡を苦しめ続けている。それなのに、更にこんごうの身にまで万が一があったら今度こそ耐えられない。

 

「駄目‥‥‥なんです」

 

初めは、金剛が帰ってきたと思っていた。けれど別人で、しかし別人とは思えなくて。会ってからたった数日間の筈なのに、もうずっと一緒に居る気がして。まるで金剛と居るかのように心が安らいだ。

 

「‥‥‥居なくならないでくださいよ‥‥‥」

 

こんごうの中に金剛を見ている自分がいた。彼女の笑顔の中に、金剛を重ねていた。そして、それがもしかしたら間違いではないかも知れないと知った。

失いたくない。もう二度と‥‥‥失いたくない。

 

「‥‥‥『お姉さま』‥‥‥」

 

比叡の瞳から涙が零れ、包み込むように握っているこんごうの手にポタリ、と落ちる。

 

「こんごうさん?‥‥‥こんごうさんっ」

 

微かに、握り返してきたのが分かった。比叡が上から覆い被さるように顔を覗き込むと、こんごうの唇が微かに動いた。

 

「分かりますか?比叡ですよ?こんごうさん」

 

静かに、潤む瞳で語り掛ける比叡。それに答えるように、ゆっくりと瞳を開けるこんごう。

 

「良かった‥‥‥こんごうさん‥‥‥」

 

まだ焦点が合わない様子のこんごう。状況を飲み込めていないのだろうか、ボーッと比叡を見つめたまま動かない。

 

「‥‥‥‥‥‥比叡、さん」

 

「はい。比叡は此処です、こんごうさん」

 

やっと言葉を口にしたこんごうの手を強く握り締める。そうしていなければ消えてしまうような気がしてならない。‥‥‥あの時の金剛のように、消えてしまう気がして。

 

「‥‥‥痛い、です」

 

こんごうに言われてやっと、思いの外強く握り過ぎていた事に気付き慌てて掌から力を抜く。ゆっくりと上体を起こしたこんごうに衝動的に抱き着くと、少し驚いた表情で見られた。

 

「もう大丈夫ですよ、こんごうさん。次はきっと‥‥‥いえ、必ず、この比叡が貴女を守ります」

 

「ありがとう‥‥‥ございます、比叡さん」

 

今度は、守る。金剛に守られてばかりだった自分だが。失わせない。必ず。

 

「‥‥‥比叡、でいいですよ、こんごうさん」

 

「‥‥‥はい、比叡」

 

******

 

翌朝。執務室から聞こえてきたのは、グラーフの怒鳴り声だ。

 

「Admiral!納得の行く説明をしろ!『アレ』は一体どういう事なんだ!」

 

山本のデスクの上には、『マル秘』と書かれた大本営からの書類。勿論、中にあったのは横須賀鎮守府の遭遇した化け物、戦艦水鬼についてと、警戒レベルの引き上げについてだ。近隣の鎮守府から何人かの艦娘を横須賀に緊急配備させる旨も書かれている。

 

その中に入れられた戦艦水鬼の写真を叩き付け、山本を睨むグラーフ。遠目からの写真だが、見る人が見れば分かる。その顔は明らかに金剛。上半身に纏う巫女服のようなものも、金剛が着ていたものを真っ黒に染めたであろうデザインだ。

 

「何とか言わないか!知っているのだろう、Admiral!どうして彼女が‥‥‥金剛が深海棲艦なんだ!」

 

山本は沈黙したまま答えない。電はそれを心配そうに、涙を溜めて見守っている。

 

「Admiral、貴様‥‥‥」

 

ギリっ、と歯軋りをしたグラーフが掴みかかろうとしたその時。執務室の扉が開く。立っていた人物は二人。駆逐艦夕立と戦艦大和だ。

 

「山本少佐、彼女には話しておくべきです」

 

静かに話す大和の隣で「言わなきゃ駄目っぽい」と何時にも増して真剣な眼差しの夕立。

 

「グラーフさん、今から話す事は口外禁止っぽい」

 

そうして、あくまでも推測の域の話だと前置きし、夕立と大和が話していく。艦娘の魂の在りかたと、姫級や鬼級の生まれ方についてを。

 

椅子に座り、呆然としているグラーフ。話を聞けばそれも致し方ない。何せ、『艦娘の轟沈が深海棲艦を生み出す』というのだから。

 

「なん‥‥‥だと‥‥‥それなら‥‥‥」

 

グラーフも、同じ疑問を抱いたようだ。『何故、その事を上層部は黙っているのか』。

それについては、慎重に慎重を期さねばならない。地方にいる山本は迂闊に動けないし、東郷だって限界がある。

 

「まだ推測の域を出ない。恐らくだが‥‥‥大本営の存在意義に関わる事なのだろうな」

 

山本の表情は重い。電も、夕立も、大和さえも顔を叛け俯く。確証が得られていない状態で、他の者にはまだ言うべきではないのだろう。

 

暫しの間。静けさに包まれる執務室。‥‥‥と、扉の外で物音がして、誰かが走る足音。電が慌てて扉を開くが、辺りには誰もいない。

 

「誰かに聞かれたのです‥‥‥」

 

******

 

息を切らせ逃げるように走る、比叡。こんごうの容態も落ち着いたので問題ない、と報告に来たつもりだった。

戦艦大和と、帰った筈の夕立の姿が見えて、思わず隠れて覗き見してしまった。

 

(そんな‥‥‥じゃあ‥‥‥)

 

戦艦水鬼‥‥‥こんごうを瀕死に至らしめた深海棲艦‥‥‥それが他でもない金剛だと言うのだ。思考は纏まる筈もない。立ち止まり、トボトボと歩き始める。

 

(こんごうさんは守りたい‥‥‥でも、お姉さまと戦うなんて‥‥‥出来る訳ない‥‥‥)

 

無意識に向かった先は、何時ものクラゲの水槽。落ち込んだり悩んだりしたときに良く来る場所だ。

 

(あれ?)

 

先客が居た。こんごうだった。彼女は座って水槽をボーッと眺めたまま身動きひとつしない。

 

「こんごう‥‥‥さん?」

 

比叡の掛けた声で、やっと瞳を動かしたこんごう。少しぎこちなくではあるが「比‥‥‥叡?」と気付いてもらえた。

 

「隣、座ってもいいですか?」

 

返事を聞かないまま、比叡はこんごうの隣に腰掛ける。暫く無言のまま二人で水槽を眺めた。

どのくらい時間が過ぎたのか。比叡の瞳から涙が溢れてきた。こんごうの手を握り、そのまま下を向く。涙は頬を伝い、太股に流れ落ちる。

 

「こんごう‥‥‥さん‥‥‥比叡は‥‥‥比叡のせいで‥‥‥」

 

こんごうも強く握り返してくれた。自身の事も有るのだろうし、比叡にも思う事は有るのだろうが、今はどう声を掛けていいのか分からないのだろう。

‥‥‥それでも、こんごうの思いを少しでもを感じる事ができ、比叡には有り難かった。

 

******

 

再び、執務室。

大和と夕立、それとグラーフ。3人を交え、今後を話す山本と電。

 

「だが二人が出てしまって呉は大丈夫なのか?呉鎮守府が襲われる可能性もあるだろう」

 

山本の心配も分かる。大和と夕立、呉鎮守府の誇る第一艦隊の主力二人が抜けていて、呉の守りは大丈夫なのか。

 

「心配要りません。暁に任せてきました。彼女は優秀です。それに、戦艦水鬼‥‥‥きっと近い内にまた此処に来ます。だからこそ、提督は私と夕立さんを派遣したのです」

 

「大和さんの言う通りっぽい。狙いはきっとこんごうさん、それに山本さんと電ちゃんっぽい」

 

大和と夕立、二人の言葉に電は首から下げて服の中に入れている御守りを握り締める。

暁は一年前にイギリスから日本へ戻ってきていた。確か最近『ケッコンした』と嬉しそうに報告してきた筈だと思いながら夕立を見るが、今はそれ処ではない。山本とこんごうが狙われる理由は何となく分かる。そこに自分も加えられる、というのなら、電に対する金剛‥‥‥戦艦水鬼の感情は恐らく、嫉妬だ。妬み、恨み。深海棲艦を動かす感情の一つだ。

 

「心配せずとも、電さんは私が全力で守ります」

 

そんな、不安の色の見えていた電の肩に大和の手が置かれた。超弩級戦艦と言われる大和。彼女と会うのは初めてだが、夕立と同じで言葉では表せない何かを全身から感じる。

 

(電のせいでもあるのです。金剛さんは‥‥‥せめて電達が‥‥‥)

 

電はもう一度、服の上から山本に貰った御守りを握り締める。横須賀鎮守府でも敗走するほどの相手だ。自分達でどうにかできるかは分からない。しかし、止めてみせる。金剛の為にも、比叡達の為にも。

 

 




暁:駆逐艦。一年前にイギリスから帰ってきた。イギリス時代の提督仕込みの理論を元に、今は呉鎮守府の作戦立案を担当。大和が言う通り優秀。レベル103‥‥‥あっ‥‥‥ジュウコンカッコカリ‥‥‥東郷のやつ課金してやがったww

大和:日本が誇る超弩級戦艦。レベル84。夕立と共に暫く山本の鎮守府に滞在する事になった。

電の御守り:山本からのプレゼント。中に入っている物は‥‥‥お察し。
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