その手を   作:アイリスさん

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私からは一言。
良かったね、電ちゃん

今回は幕間です。

では、本編。


sentence12 真意

海上。電の肩に座り、再び首を傾げる『こんごう』妖精さんが覗き込んでいるのは、再度計測したこんごうのデータ。

身体の調子と艤装の具合を確認する意味もあって、再度計測。だが、またしてもおかしい。計器類の故障という訳でもない。

 

「最大船速30.3ノット‥‥‥最大16万馬力‥‥‥前回と全然違うのです」

 

最大船速は悪くない。『こんごう』妖精さんも、『こんごうの艤装ならこのくらい出る』と言ってくれている。ただ、馬力の方が異常値なのだ。こんごうの艤装では、本来なら出ても10万馬力だそうだ。エンジンに過負荷が掛かっているとか、オーバーヒートしそうとか、そんな兆候が全くない。

 

「こんごうさん、もう一度測ってみるのです」

 

「はい、電ちゃん‥‥‥」

 

こんごうは不意に目眩いに襲われ、バランスを崩す。一瞬にして視界がまっ黒になり、立っていられずに背中側に倒れそうになる。

慌てて電が傍に寄り、身体を支えてくれた。

 

「はわわっ、だっ、大丈夫なのですか!?」

 

「大丈夫です、電ちゃん。少し目眩い‥‥‥が‥‥‥」

 

こんごうはプツリ、とスイッチが切れるように気を失い、グッタリとして動かなくなる。「こんごうさんっ!?確りするのです、こんごうさんっ」という電の言葉も、全く届いていない。陸で控えていた大和が気付き、真っ直ぐに此方に向かってくる。

 

******

 

見渡す限り、真っ白な世界。こんごうが気付くと、そんな非現実的な世界に居た。立っている、というよりも水面に浮いている感覚に近い。ただ、水や地面は無く、足は空中に浮いている。

 

(あれ?確か‥‥‥)

 

鎮守府前の海上で、電と大和と共に居た筈。何が起こったのか理解出来ぬまま、呆然と佇む。

 

‥‥‥と、前方に何かが見える。右足を恐る恐る踏み出してみると、地面が無いにも関わらず、不思議と歩けた。

 

兎に角、前方の何かまで行かないと始まらない。走らず、ゆっくりと前へと歩く。

 

(‥‥‥違う。何も無いんじゃない)

 

歩いてみて分かった。例えるなら、ジグソーパズルの枠。まだ中にピースを嵌め込んでいない状態。その証拠に、空間の所々に映像がパズルのピースように嵌まっている。今まで見た、『艦娘金剛』の記憶の映像だ。

 

(あ、そうか。たぶん)

 

こんごうの意識、若しくは艦娘金剛の魂の記憶。何れにしてもそんな所だろう。

真っ直ぐ歩き辿り着いた先は、やはり映像。ただ、かなり不鮮明だし音も途切れ途切れになっている。こんごうの記憶喪失と関係が有るのだろうか?目を凝らし、耳を澄まして、映像に意識を傾ける。

 

 

 

『夏美お姉さま!お願いです、考え直してください!』

 

所々映像が掠れているが、恐らく比叡、だろう。という事は、話しかけられている此方はやはり金剛か。

 

『心配ないネー!ワタシがこの戦争を終わらせてやりマース!』

 

『お姉さま、そうじゃなくて!』

 

何処かの軍の施設だろうか?比叡の方は既に艦娘になっているようだが、鏡に映る金剛の姿にはその雰囲気はない。

 

『お姉さまには艦娘になって欲しくないんです!私は‥‥‥比叡は、だから艦娘になったんです!お姉さまに人として幸せになって欲しいから!お姉さまの幸せをこの手で守りたいから!』

 

こんごうは期せずして知ってしまった。比叡の想い、願い。それが全て打ち砕かれた今の比叡の心がどれ程ボロボロになっているかを。

 

涙を流し、必死に訴える比叡の姿。居た堪れず目を逸らそうとしたこんごうの耳に、『聞いてください、アキホ』という金剛の声が聞こえてきた、

 

『ワタ―――――‥‥‥貴――が――――――――――――。それを守れるなら、―――てして――るヨ。――――だって―――――みせマス‥‥‥だか――――夫デース!』

 

肝心な部分が乱れ、聞き取れない。艦娘金剛の魂が、こんごうに宿ってまでしたかった事、理由が。

 

(金剛さん、貴女の想いは‥‥‥。私は、どうしたらいいの?ねえ、金剛さん‥‥‥)

 

******

 

再び気が付いた時、自身の顔に覆い被さるように覗き込む、心配そうな電の顔があった。

 

「気が付いたのです!よかった‥‥‥」

 

心底ホッとしている表情の、瞳を潤ませる電。この少女は、本当に心優しい人なのだろう。こんな時代でなければ、戦いなど経験する必要もなく幸せに暮らせたのかも知れない。そんな事を思いながら暫しその顔を眺めていたこんごうは、慌てて上半身を起こした。大和の膝枕に寝かされていたのだ。

 

「気が付かれましたか、こんごうさん。良かった」

 

膝は折ったまま、ニコリと微笑む大和。この大和撫子の姿だけを見れば、とてもではないが超弩級戦艦には見えない。榛名もそうだったが、大和はより一層そう感じる。

 

「ありがとう、ございます」

 

ぎこちなくお礼を口にし、こんごうはゆっくりと立ち上がる。傍に置いてあった艤装に手を置いて、先程気が付くまで見ていた光景を必死に思い出す。

 

(金剛さん‥‥‥)

 

一瞬。本当にほんの一瞬。何かを感じたような気がした。ただ、それが何かが分からない。何を感じたのかさえも分からないが、確かに。金剛が何かを伝えようとしたのか。或いは別の何かなのか。

 

「こんごうさん、どうしたのですか?そろそろ皆さんが戻ってくるのです」

 

ボーッとしてしまっていたこんごうの元へ電が駆け寄ってきて手を握ってくれた。電に心配をかけまいと笑顔を作り「そうですね」と海へと視線を向ける。

 

‥‥‥海上には、比叡、雷、夕立、春雨の姿。最後の一体なのか、春雨が駆逐イ級を追いかけている。12.7㎝連装砲を構え狙いすまして砲撃。直撃‥‥‥せずにアッサリと 右に回避されている。尚も諦めず追う春雨。

どうやら練習も兼ねて春雨に仕留めさせる気のようだ。それにしても‥‥‥。

春雨が再び砲撃。今度は距離が足りず、イ級の少し後方に水柱。「春雨、頑張るっぽい!」と声援を送る夕立に焦ったのか、春雨は‥‥‥バランスを崩し転倒。

雷に抱え上げられ立ち上り、再び前を見る春雨。

「ていっ!」という、何というか和むような可愛らしい声と共に連続で打ち出された弾は、今度こそイ級に直撃。煙をあげオイル臭を漂わせながらイ級が爆発。漸く海底に沈んでいく。

 

「流石春雨!将来有望っぽい!!」

 

‥‥‥姉馬鹿というべきだろう。夕立はどう贔屓目に見ても大袈裟に評価し、手を叩いて喜んでいる。春雨のほうはそれを恥ずかしそうにしながらも、嬉しそうなのは間違いない。

 

そんな、追跡劇をやっと終わらせた四人がこんごう達の方へと向かってくる。先頭の春雨は此方に手を振ってくれている。

その直後、「春雨っ!!」という夕立の声が響き、夕立の持つ連装砲が振り向いた春雨に向く。驚きと夕立の形相の恐怖に動けない春雨に向かい、夕立は躊躇なく砲撃。直後、水面から飛び上がってきたイ級に砲弾が当たり爆発。どうやら夕立はもう一匹居たらしいイ級を狙ったようだ。

春雨に抱き着く夕立。その様子をやれやれといった感じで見ている雷と、複雑な表情の比叡。

 

そうして哨戒から戻ってきた四人を、こんごうは笑顔で出迎える。「春雨、山本さんに沢山誉めてもらうっぽい!」と春雨を急かし鎮守府へと走る夕立達を見送りながら、一人離れ歩く比叡の右手を後ろから握った。

比叡が驚き振り返る。

 

「‥‥‥おかえりなさい、比叡」

 

きっと、この人を泣かせてはいけないのだ。比叡の姉、艦娘金剛はきっと‥‥‥。そう思い、こんごうは精一杯の笑顔を向ける。

 

「はい、ただいま戻りました!」

 

比叡もそれに笑顔を見せて応えた。

 

「比叡は‥‥‥こんごうさんの淹れた紅茶が飲みたいです!」

 

勿論、こんごうは紅茶など淹れた事はない。比叡が淹れるよりは幾分マシかも知れないが、金剛のそれには遥か及ばないだろう。

 

「美味しく淹れられないかも知れませんよ?」

 

「それでも、です」

 

比叡に手を引かれ、こんごうも鎮守府へと急かされ走っていく。

 

 

 

 

 

 

 

「こんごうさんが来てくれて‥‥‥良かったのです」

 

御守りを握り、二人を見守り微笑む電。金剛が轟沈した直後の比叡の塞ぎ込みようを知っているだけに、笑顔が見られるようになった事に安堵していた。こんごうが傍にいてくれれば、きっと比叡はこのまま前を向ける。そう思って。

そんな電の手に、大和の視線。どうやら大事そうに電が持っている御守りに興味を持ったようだ。

 

「その御守りは?」

 

「司令官さんに、貰ったのです」

 

嬉しそうに答えた電の態度で、何となく想像できたようだ。大和の表情が柔らかくなった。

 

「電ちゃん、もしかして‥‥‥中は指輪、ですか?」

 

コクン、と真っ赤な顔で頷く。当然ながら「どうして嵌めないのですか?」と聞いてきた大和に「それは‥‥‥電の練度が足りないからなのです」とお決まりの筈の答え‥‥‥。

 

「貸して頂けませんか?」という突然の大和の提案。勿論躊躇した。大和がそれをどうこうする筈は無いのは分かる。ただ、山本に貰ったものを一時的とは言え手離すのに、非常に抵抗感があった。

 

「直ぐにお返ししますから。確かめたい事があるだけです」

 

ニコリ、と微笑む大和に折れて、電は御守りを渡す。大和は丁寧に中の指輪を取り出し、翳す。

 

「‥‥‥電ちゃん、これ‥‥‥ちゃんと確認しましたか?」

 

「え?」

 

電は、大和の言葉の意味が理解出来なかった。駆け寄り、大和が翳している指輪に視線を向ける。

 

「ケッコンカッコカリ用の指輪は、練度が達していない艦娘には渡せない筈なんですよ?」

 

言葉とは裏腹に、大和の表情は穏やかだ。其れ処か、電に微笑ましい者を見るような視線を送ってきている。

 

「電ちゃん、失礼を承知で聞きます。本名のイニシャルは『M』、ですね?」

 

「えっ?どうして知っているのです?」

 

大和の言動の意図が全く掴めない。電の本名は実は『美鈴』。確かにM、だ。どうして知っているのか、とか、なぜ其れを今聞くのかとか。

 

「『“From J to M”』。この指輪の裏に彫られていますよ?それから、この指輪、ケッコンカッコカリの指輪じゃありません。プラチナ、ですかね」

 

思考が止まる。我に返り、大和の手の中の指輪の裏側を覗き込む。‥‥‥From J to M‥‥‥『十三から美鈴へ』。

‥‥‥きっと、山本もいっぱいいっぱいだったのだろう。確かに『指輪』としか言われなかった。

 

「じゃあ、じゃあ大和さん、これ‥‥‥これって‥‥‥」

 

それ以上は言葉に出来なかった。電は、そのまま大和の胸に顔を埋めて泣き出してしまった。勿論、心から嬉しかったから。

 




30.3ノット、16万馬力:とある戦艦の一番艦の改二と同じ性能ですね。いやー、凄い偶然だなぁ

夕立は姉馬鹿。

こんごう:比叡を泣かせない為に、と奮闘。だが、よくよく考えると比叡は元々金剛love。比叡から見たら、こんごうがアプローチしてきているようにしか見えないかも知れない‥‥‥!?

電の本名:美鈴。因みにだが、雷の本名は美琴。ええ、もう言う必要も無いですね
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