その手を   作:アイリスさん

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14話。話は疑惑の核心へ。


sentence14 枷

「ねえ、大井っち、イッコだけ確認したいんだけどさぁ」

 

イ級を撃ち抜き、そのまま頭上の敵艦載機に砲を向ける北上。その何時もの口調とは裏腹に、額には冷や汗。

 

「はい、北上さん」

 

答えた大井もリ級に魚雷を命中させ、一体撃破。流石に大井も手練だが、此方もその笑顔に余裕は無い。

 

「南方棲鬼ってさぁ、南に居るから南方棲鬼って言うんだよね?‥‥‥何でこんな所に居るのかねぇ?」

 

言いながらも、北上は敵艦載機を数機撃ち落とす。リ級の砲撃を避けつつヲ級に魚雷を二発放つが、これは避けられた。「チェッ」と舌打ち。

 

「どうしてですかね?‥‥‥北上さん、朗報ですよ。もうすぐ支援艦隊が到着するそうです。旗艦は『あの』戦艦大和、それと噂の化け物駆逐艦も居るそうですよ」

 

北上に合わせ45度ずれた方角から大井が放った魚雷が先程のヲ級を捉えた。爆発し、それが水底に沈んでいく。

 

「へぇ‥‥‥そりゃ有り難いね‥‥‥っと」

 

寸での所で気付いて、北上はその場でしゃがむ。たった今まで頭があった場所を、南方棲鬼の砲が掠めた。当たっていれば北上の頭は木端微塵に吹っ飛んでいただろう。危機一髪だ。

 

「あっぶな~‥‥‥早く来てくれないかね」

 

しゃがんだ体勢のまま、真後ろに砲を向ける北上。振り向かずに二発砲撃し、迫っていたイ級二体が轟沈していく。

 

とは言え、このままでは不味い。イ級は兎も角リ級とヲ級を一体ずつだが落としているのは流石だが、二人とも既に小破。何せ敵艦載機の雨のような爆撃をどうにか避けながらの反撃劇。何時ものような動きはとてもではないが出来ない。

 

突然。頭上、上空で爆発音。北上も大井も驚き慌てて上を確認すると、敵の艦載機が『何か』に攻撃されてその数を減らしていっている。

 

「大井っち‥‥‥『アレ』、なんだろう?」

 

「‥‥‥何でしょうね?」

 

敵の艦載機目掛け一度に十数発ずつ向かっていくそれは、明らかにバラバラに飛んでいる艦載機を各々が追いかけ、確実に撃墜している。それが何度も繰り返され、上空はあっという間に綺麗になった‥‥‥こんごうの対空ミサイルだ。

 

視線を水上に戻す。大井の方に、リ級二体が向かってくる。爆撃機が掃除された事もあり、大井は落ち着いてリ級に魚雷を向ける。

 

「大井っち!!」

 

大井の耳に、北上が叫ぶ声が聞こえた。それと同時に目眩まし役のリ級二体は左右に離れていく。目の前には、既に南方棲鬼の16inch三連装砲から放たれた砲弾‥‥‥避け切れない‥‥‥。

爆発と轟音は大井の目の前であがった。大和が間に割って入り、背中の巨大な艤装を敵側に向けて砲弾を防いでいたのだ。代わりに大和の艤装は半壊。大和自身も傷付き、服装もボロボロであられもない姿になってしまっている。

 

「大井さん、ですね?大丈夫ですか?」

 

それでも無事な大井の姿に安堵し、笑顔を向ける大和。「あ、はい。ありがとうございます」と呆けながらお礼をする大井から視線を南方棲鬼に向けた大和は、どうにか無事な片方の、主砲の46㎝三連装砲の動きを確認しつつ直ぐに表情を引き締める。

 

「大井さんは北上さんと共にリ級を。私達は南方棲鬼を叩きます」

 

ヲ級の方は比叡とこんごうが既に対処していた。こんごうが投げつけた対艦ミサイルを、ヲ級が持っている杖で力の限り叩きつける。爆発に巻き込まれはしたが、まだヲ級は健在‥‥‥が、畳み掛けるように放った比叡の砲撃が直撃し、ヲ級が沈んでいく。

 

******

 

グラーフの放った爆撃機、Ju87C改が南方棲鬼を襲う。鬱陶しそうに上空を狙った南方棲鬼の腕に、何かが絡み付く。

 

「離さない‥‥‥のです!」

 

電の放ったアンカー。それが絡まったままで南方棲鬼は電を引き摺るように走り始めた。電の力で止められる筈もなく、引っ張られる。

 

だが、電のアンカーが絡まったせいで思うように速度が出ない。苛ついたらしい南方棲鬼は、16inch三連装砲を電に向ける。この距離、しかもアンカーで引かれている状態の電ではきっと避けられない。

砲を発射する前に、南方棲鬼の両肩に重量感。気付いて上を見上げた南方棲鬼の視線が捉えたのは、両手に計四つの魚雷を抱えた夕立が、紅く光る瞳で不敵な笑みを向けて肩に立っている姿。

 

 

 

 

「最ッ高ォに素敵なパーティしましょう?」

 

 

 

 

夕立はその肩を蹴りつけ、宙返りしながら後方へと跳ぶ。と同時に抱えていた魚雷を、全て南方棲鬼に投げつけた。四発全てが命中。同時に、放たれていた大和の主砲が着弾し、爆発が起こる。

 

煙が晴れても、まだ南方棲鬼は立っている。流石に艤装は動かせそうにないようだが。

 

トドメとばかりに、再びJu87C改の爆撃。それと、水面を横に滑りながらの電の砲撃。流石に耐えられなかったらしい南方棲鬼は、今度こそ水底に沈んでいく。

 

「うわぉ」と感嘆の声をあげた北上。リ級を片付けた大井と合流、大和の方へ。

 

「助かったよ、大和さん、ありがとう」

 

「いえ。お二人とも、無事で何よりです」

 

大和は無線をオンにし「作戦完了。これより第一艦隊、全員帰投します」と山本へと連絡を入れた後、南方棲鬼の沈んでいった場所を名残り惜しそうに眺め、その場を離れた。

 

******

 

帰投した六人。南方棲鬼を墜としてからずっと憂いた表情のままの大和は中破の為、一人残りまだ入渠中。他の5人は既にあがり、部屋へ。

 

こんごうの両肩には、各々一人(?)ずつ『こんごう』妖精さんが座っている。そのこんごうは紅茶を蒸らしている最中だ。3分程蒸らした所で、茶葉を濾しながらカップに注ぐ。‥‥‥と、比叡がじっと見つめているのに気付いた。

 

「あの‥‥‥比叡?」

 

「‥‥‥へっ?」

 

どうやら自覚が無かったらしい。カップを受け取り、恥ずかしそうに俯いた比叡が、紅茶を口にしならがチラチラと此方を見ている。

 

「比叡、あの‥‥‥」

 

「あ、いえ、これはですね、えっと」

 

しどろもどろの比叡がカップをテーブルに置き、何かを決意したように立ち上がる。カップを口にしていたこんごうの前に立って、両手を握ってきた。

 

「こっ、こんごうさんっ!」

 

「はい‥‥‥」

 

余りに真剣な表情に、思わず返事をして固まる。比叡が続きを話そうとした所で、タイミングよくノック音。

 

「お二人とも、大和さんが入渠から戻ったのです」

 

呼びに来た電が扉を開けて二人を、主にこんごうの手を握っている比叡を見ている。顔を真っ赤にして手を離した比叡は、「ヒェェ‥‥‥わっ、わっ、分かりましたッ」と叫び走り部屋から飛び出していった。

 

「あの‥‥‥」

 

事態を理解出来ていないこんごう。どうやら気付いているらしい電に説明を求めようと声を掛けるも「電が言っていい事では無いのです」とはぐらかされた。両肩の『こんごう』妖精さんは分かっているようで右肩の妖精さんは『はぁ』と溜め息。左肩の妖精さんは『やれやれ』と困った様子で両手を広げている。

 

(比叡‥‥‥貴女は‥‥‥どうして)

 

******

 

「はぁ‥‥‥はぁ‥‥‥」

 

逃げるように走り、比叡は気付けば何時ものクラゲの水槽の前に座っていた。

 

頭では分かってはいる。こんごうは『こんごう』であって『金剛』ではない。だが、本能がそれを許してくれない。いや、別人であるからこそ、か。こんごう本人は分からないだろうが、気のせいでは無く、その言動の端々に金剛のそれを感じてしまう。

 

(分かってる‥‥‥こんごうさんは‥‥‥お姉さまの代わりじゃないって事くらい)

 

比叡は、幼い頃からお姉ちゃんッ子だった。何をするにも、金剛の後をついて回った。何をするのも、金剛と一緒だった。比叡は金剛が大好きだったし、金剛も比叡を可愛がっていた。

金剛のイギリス行きにも、最後まで反対した。一時期離れたせいか、比叡のシスコンは一層進む事になった。勿論、金剛が艦娘になると言い出した時は全力で、文字通り力づくでも止めるつもりだった。結局、止める事は出来ずに。‥‥‥金剛を失った。

自身を責めた。自身の力の無さを呪った。もしも『こんごう』があのタイミングで現れなかったら、後を追って自殺していた、とも思う。

こんごうにすがってしまうのは、仕方無い事なのかも知れない。

 

けれど、違う。‥‥‥違う。確かにこんごうと金剛を重ねている。だが、違うのだ。こんごうと過ごしたのはたったの数日だが、今や『こんごう』は‥‥‥。

 

「比叡さん」

 

突然声を掛けられ振り向くと、電が居た。

 

「比叡さん‥‥‥誰も、比叡さんを責めたりしないのです。でも‥‥‥向き合って欲しいのです」

 

言葉を発せられず、電を呆然と眺めるのみ。身長差はあるものの、座っている為に今は電とは目線は同じくらい。

 

「向き合う‥‥‥ですか」

 

やっと発した一言。目を遇わせていられなくなって電から視線を外して、その電の右手の薬指に光るリングに今更ながら気が付いた。

 

「あ‥‥‥えっと‥‥‥司令か‥‥‥十三さんに、貰ったのです。電は‥‥‥比叡さんにも笑顔になって欲しいだけなのです」

 

その右手を差し出して、電が手を握る。促されるまま立ち上がった比叡の手を引き、電はゆっくりと歩きだした。

 

「執務室でお話するのです。比叡さんとこんごうさんにとって、とっても大切な話、なのです」

 

******

 

比叡は電に手を引かれたまま、執務室に入る。中には山本、大和、明石、夕立、それとこんごうの姿。

 

「これで揃ったか」

 

山本の言葉に合わせるように、電が入口扉の鍵を閉めた。今から話す事は、他の者にはどうやら聞かれたくないらしい。

 

「奥で話そうか」

 

山本に促され、七人は今は山本がプライベートで使用している奥の部屋へ。8畳程の広さで家具が幾つか置かれていて、全員が入ると少し狭く感じる。またしても電が鍵を掛けた。

 

「狭いが少しだけ我慢してくれ。それから夕立、悪いが『それ』は戻しておいてくれ」

 

山本に言われ、夕立は最近撮られたであろう写真が収まっているその写真立てを戻した。

 

「立たせているのも申し訳ないからね。先ずは適当に座ってくれ。話はそれからだ」

 

各々、ベッドやソファにそれこそ適当に座る。最後に電が椅子に座っている山本の膝に収まった所で、話は始まった。

既に夕立や大和、電は聞いている、艦娘の深海棲艦化の話。それに付け加え先程の南方棲鬼が恐らく先で轟沈した戦艦武蔵であろう事。それから、戦艦水鬼のイレギュラーは恐らく金剛であろう事。

 

「ちょっ‥‥‥ちょっと待ってくださいよ、艦娘の轟沈が鬼級や姫級を生み出す、って言うんですか!?」

 

明石は驚いている。当然の反応だ。そして、彼女は気が付いた。証拠に、その視線がこんごうへと向いている。

 

「じゃあ、じゃあ、ですよ?仮に戦艦水鬼のイレギュラーが金剛さんだとしたら、今私の目の前にいる彼女は何なんですか!?」

 

「こんごう型ミサイル護衛艦一番艦。それが、彼女‥‥‥『こんごう』だ」

 

山本の説明に納得がいかない明石が、バンッ、とテーブルを叩いた。これももう何度目のやり取りとなったか。丁寧に説明した山本に、明石は尚も食い下がる。

 

「いいでしょう。彼女が『金剛さん』とは別人なのは認めましょう。ですが、それを大本営に黙っている必要がある理由とは?」

 

確かに、よくよく考えてみると、大本営に黙っている理由としては弱い。普通ならば、こんごうの装備を解析、他の艦娘に普及させる為に大本営に知らせた方が戦局が有利になる筈だ。山本個人の兵器『こんごう』の独占、とも取ることができる状況だ。

 

「明石、今から話す事は絶対に口外しないでくれ。話した君にまで害が及ぶ可能性がある。みんなも、いいな?」

 

何時になく真剣な表情の山本に、全員が無言で頷く。膝に収まっている電に左腕を強く抱き絞めらた格好で、山本は衝撃の言葉を口にした。

 

「いいか、これはあくまでも推測だ。だが、恐らく確実だと思っている。世界で最初に現れた深海棲艦の姫級、南方棲戦姫‥‥‥あれは‥‥‥あれを造り出したのは、恐らく大本営だ」

 




悩める比叡の出す結論は?

12対2でも冷静なスーパー北上様。それと男前な登場の大和さん。

爆撃→アンカーでロック→夕立突撃・大和主砲のコンボは無論、暁の作った作戦の一つです。

大和さん、中破‥‥‥ぎゃああああ

夕立の見付けた写真立て:まあ、二ショット写真ですね

こんごうと比叡居なくても勝てたよね?とか言っちゃだめ、なのです
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