その手を   作:アイリスさん

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比叡がやっと一歩。それから‥‥‥。

さてさて、本編へ。


sentence16 誓い

「大本営が‥‥‥山本少佐、本気で言ってるんですか?」

 

明石が山本を睨んだ。当然の反応だ。妖精さん達と協力して艦娘を育て、深海棲艦と戦い、その艦娘の知識を世界に広め人類の反攻の急先鋒を担ってきた筈の大本営。その大本営こそが、今の深海棲艦を生み出した元凶だと言うのだから。

明石だって‥‥‥人類の為に戦う『正義』の大本営、それに賛同したからこそ、今ここにいるのだ。

 

「間違いない筈だ。艦娘は日本で最初に生まれた。そして、姫級や鬼級は艦娘が轟沈しなければ生まれない。‥‥‥最初に南方棲戦姫が生まれたんじゃなく、大本営が意図的に艦娘を轟沈させて南方棲戦姫を産み出した、と考えれば辻褄が合う」

 

「だからって!」

 

掴み掛かろうとして、明石はハッとして手を止めた。思い出したのだ。いつだったか武蔵と足柄が『漣‥‥‥辛かったのだろうな』『そうね。騙されていたのも同じだもの』と呟いていた事を。漣(二代目)は他の鎮守府所属だし、何か嘘を吹き込まれて辛い思いをしたのか?程度に思っていた話。だが、こうして山本の話の後によくよく考えてみれば『初代の漣が大本営に騙されていた』とも考えられる。初代の漣と言えば、当時の人類の宿敵、最初の南方棲戦姫を駆逐艦の身でありながら倒した英雄だ。武蔵も足柄も当時を知る人物。その漣が『騙されていた』というのなら、山本の説も急に説得力が沸いてくる。

 

「それなら‥‥‥そうだとしたら‥‥‥」

 

明石は振り上げた拳を下げ、その場に座り込んだ。他の面々も、何と言っていいのか分からない、困惑した様子。

 

「他のみんなには話さないでもらいたい。先ずは戦艦水鬼‥‥‥『金剛』を止める。事は、それからだ」

 

山本の膝に座っている電が、スカートの裾を強く握っている。比叡は動揺し目が游いでいる。大和と夕立は東郷から聞いているらしく、動揺はない。代わりに険しい表情だ。

 

「あの‥‥‥事、って?」

 

こんごうは大本営の事はよく分からない。どうやらこの鎮守府の上に当たる組織が焦臭い、程度には認識できるが。ただ、それなら気にはなる。『事を起こす』。嫌な予感がしてならないが、聞かない訳にはいかない。

 

「すまないな、こんごう。君の考えている通りだ」

 

こんごうの表情が固まる。それはつまり‥‥‥。

 

 

 

(大本営を倒す、って事?)

 

 

 

比叡の手を握った。比叡は此方に視線を向け、微かにその身体を震わせていたからだ。そのまま、落ち着かせようと後ろから手を回して抱き寄せた。

 

その二人から視線を外した山本が「それから、明石」と、鋭い視線。

明石も目は逸らさない。

 

「大丈夫ですよ、山本少佐。漏らしたりしません。ですが、約束してください‥‥‥必ず成し遂げる、と。他の全艦娘の為にも」

 

「手荒な真似をする訳じゃない。罪を認めさせるだけだ。深海棲艦、それと艦娘達が苦しむ原因を産み出した事を」

 

視線を外し、山本は天井を見上げた。まだ、証拠は足りない。恐らく時間は掛かるし、この鎮守府の艦娘達にも迷惑を掛けるかも知れない。それでも、大本営の非は問わねばならない。放置していれば、何時かまた過ちを犯すかも知れない。今度こそ、人類は滅びる可能性だってある。

 

「今日は一先ず‥‥‥解散なのです」

 

山本の膝に収まっていた電が立ち上り、扉の鍵を開けた。各々思う事はあるだろうが、部屋へと戻っていく。こんごうも比叡を支え戻ろうとしたが、山本に呼び止められた。

 

「こんごう、明日から他の駆逐艦達の訓練に混ざってくれないか?確かに君の装備の性能は目を見張るものがある。だが、君自身の練度はまだまだだ」

 

戦艦水鬼が山本、電、そしてこんごうを狙って来るのだとすれば、必ず砲雷撃戦になる。それは、避けられない。只でさえ比叡達に比べ装甲の薄いこんごう。相対した時に満足に動けないのでは、一方的にやられて沈むだけだ。比叡に、これ以上悲しい思いはさせたくない。こんごうは「わかりました」と決意の籠った返事を返す。

 

「それと、君の妖精を借りてもいいか?聞いておきたい事があってね」

 

こんごうの肩に乗っていた、『こんごう』妖精さんの一人がその場に残る。こんごう達、それと電が執務室を出た事を確認し、山本は椅子に腰掛ける。残ったのは『こんごう』妖精さんと二人だけ。山本は鋭い視線を向けた。

 

「言いたい事はわかるな?」

 

『こんごう』妖精さんがたじろぐ。ダラダラと冷や汗を流しながらも『何の事か分からない』とばかりに両手を広げてみせている。

 

「僕が気付かないと思ったのか?他でもない大切な君の事だぞ?」

 

『大切な君』という言葉に舞い上がってしまった。『こんごう』妖精さんはそれまで隠していた事を忘れ、ついつい口走ってしまった。

 

『テートクぅ!ワタシの事ちゃんと見ててくれてたんデスネ!!emotion!感激デース!やっぱりワタシのloveはテートクに届いて‥‥‥ハッ!?』

 

誘導尋問に引っ掛かった事に気付き、しまった、とばかりに口を手で抑え後ずさる『こんごう』妖精さん。山本は大きく溜め息をついて、逃げられないよう両手で捕まえ抱き上げた。

 

『誤解デス!今のは言葉のアヤって奴デース!』

 

「さて、何処から説明してもらおうか‥‥‥なあ、『金剛』?」

 

******

 

「比叡は‥‥‥比叡には‥‥‥」

 

比叡は自室のベッドにうつ伏せに横になり、枕に顔を埋めながら呟く。

 

「比叡には‥‥‥無理です‥‥‥」

 

やはり出来ない。深海棲艦とはいえ、他でもない金剛に砲を向けるなど。

 

「お姉さまを砲撃するなんて‥‥‥」

 

瞳がじんわりと滲んでくる。例え魂が抜けていたとしても、その姿は金剛。そんな戦艦水鬼を撃てるのか‥‥‥。そんな想いを巡らせていた比叡の手が、こんごうに強く確りと握られた。こんごうがそのままベッドに腰掛ける。

 

「ねえ、比叡。そうじゃ‥‥‥そうじゃない。あれは金剛さんじゃない。金剛さんの身体を無理矢理奪っている敵です。だから、金剛さんの肉体を静かに眠らせてあげないと」

 

比叡はゆっくりと顔をあげた。滲む視界には、優しく微笑むこんごう。

 

「それに、金剛さんは‥‥‥金剛さんの魂は、私の中に宿ってるんです。だから‥‥‥金剛さんは、ちゃんと貴女の傍にいるんです」

 

手を握り返し、比叡は身体を起こす。そうだ。そうだった。金剛の写し身、その魂を宿している、言わば生まれ変わりとも言える『こんごう』が居てくれる。比叡にとって、その身を懸けて守るべき人が。

 

「分かりました、こんごうさん。比叡は‥‥‥比叡は、きっとお姉さまの身体を深海棲艦から取り戻してみせます。それから‥‥‥こんごうさん、貴女を守ります。今度こそ、必ず」

 

決意を込め、比叡はこんごうを抱き締めた。今度は、今度こそ死なせない。今度は絶対に守ってみせる。こんごうと、こんごうに宿る艦娘『金剛』の魂を、必ず。

 

「こんごうさん‥‥‥」

 

比叡の唇が、こんごうの唇にゆっくり近づいていく。こんごうの方は瞳を閉じているので、それに全く気付いていない。

触れるまであと数センチ。ほんの、数センチという所で、ノック音と共に「失礼するぞ」という山本が扉を開いた。

それに驚いた比叡の顔がブレて、こんごうの頬に一瞬唇が触れた。

 

「‥‥‥比叡?今、何か‥‥‥」

 

キスされたという事に全く気付いていないこんごうは、瞳を開きキョトンとしている。一方の比叡は、こんごうを抱き締めキスしている場面を山本と『こんごう』妖精さんにバッチリ目撃されてしまい、全身茹で蛸のように真っ赤に染まって停止してしまっていた。

 

「‥‥‥あー、その、邪魔して悪かったな。僕はさっさと退散する事にする。『こんごう妖精さん』は確かに届けたからな。それじゃ」

 

バツが悪そうに撤退していった山本。目を合わせられず、呆然としていた比叡は暫くしてやっと我に返り、恥ずかし過ぎてこんごうから手を離し、ベッドに突っ伏し直した。

 

「比叡?大丈夫ですか?」

 

心配は嬉しいが、今は其れ処ではない。こんごうの顔をまともに見れない。きっと自分は、今情けない顔をしているに違いない。「大丈夫じゃないです‥‥‥」とだけ発し、比叡は現実逃避の為に寝てしまおうと瞳を閉じた。

 

******

 

そんな事のあった翌日の午後、訓練場。整列しているのは春雨や雷ら駆逐艦達とこんごう、それと、何故か夕立。

 

「夕立姉さんと一緒に訓練できるなんて‥‥‥凄く嬉しいです!」

 

嬉しそうな春雨を他所に、夕立本人は納得いっていない様子。別の鎮守府、しかも基礎訓練。疎かにしていいわけでは無いものの、今更な感は拭えない。

 

「‥‥‥どうしてアタシも参加っぽい?」

 

大本営から戻って来た、山本の隣に座る東郷に視線を向けた。夕立の表情には、明らかに不満が見えている。

 

その瞬間、夕立は後ろからポカッと頭を叩かれた。驚き叩かれた部分を抑え「叩くなんて酷いっぽい!」と抗議をして‥‥‥表情が凍った。

 

「不満そうね、夕立。基礎訓練は大切って教えた筈だけど?」

 

「あっ、あっ、あっ、足柄教官!?ごめんなさいっぽ‥‥‥ごめんなさいっ、じゃない、失礼しましたっ!」

 

「ぽい」と言い掛けたのを慌てて訂正。夕立の声には恐怖が滲んでいる。不気味な程の笑顔で立っていたのは足柄。いや、元・足柄。東郷の話を聞いた後に色々と考えた結果、付いてきたのだ。

 

「夕立‥‥‥ごめんなさい、で済んだら海軍は要らないのよ?」

 

ゴキっ、という音が響き、夕立がその場に倒れた。一瞬で何が起きたか分からなかったが、どうやら足柄が夕立に何かしたらしい。

 

「さて。これから暫く皆さんの訓練を担当します、足柄です‥‥‥いえ、引退したから元・足柄かしら。宜しくお願いしますね」

 

ニコリ、と微笑んだ元・足柄。えもいわれぬ恐ろしい程のオーラを纏っている。その足元に、完全に伸びて白目を剥いている夕立。あの夕立が瞬殺されるのを目の当たりにし、駆逐艦達が凍りついている。

 

 

 

『妖精になって本当に良かったデス‥‥‥。足柄教官の教導また受けるなんて冗談じゃ無いデース!』

 

その訓練を、山本の胸ポケットの中から顔だけを出して遠目に見ている妖精『金剛』。山本は東郷から足柄の事を、東郷の方は山本からこの金剛の事を先程各々聞いた所だ。

 

「おい、山本。それで?金剛の事は何時まで連中に黙ってる気だ?」

 

「時が来るまで、ですよ、大佐」

 

 

 

 




少しだけ短めでした。13話のフラグをここで回収。やっと妖精『金剛』が登場。構想段階では9話くらいで出る筈だったのに‥‥‥。

妖精『金剛』:艦娘『金剛』の記憶がある。魂をこんごうと一部共有している為、余りこんごうから離れる事ができない。正体はまだこんごう達には隠したまま。能力は
『こんごうの艤装を操作できる』『????の????????????????できる』
です。

元・足柄:鬼教官。駆逐艦がみんな若いのが憎い、とかでは決して無い。艤装無しとはいえ、夕立を一撃で倒せる程の実力者。日本の最古参の艦娘の一人。
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