その手を   作:アイリスさん

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少し短いですが、19話です。金剛の亡霊との決戦開始。あと少しですね。


sentence19 決戦

 

「電ちゃん!!」

 

呼ばれた事に気付いて顔をあげる電。瞬間、鳴り響く轟音と視界を覆う火柱。何時かの‥‥‥金剛を失った日の事がフラッシュバックする。その直後、何かが電にぶつかってきて、一緒に大きく後方へと吹き飛ばされた。

 

「痛っ‥‥‥こんごうさん!確りするのです、こんごうさんっ!」

 

海上に仰向けに倒れた電の膝の上に、こんごうがうつ伏せに倒れていた。幸い、電の魚雷に体が引っ掛かり、こんごうは上半身の胸の辺りから上が水面に出ていて沈まずに済んでいる‥‥‥完全に浮力を失っていた。

 

呼び掛けるものの、こんごうからは返事はおろか反応すらない。グッタリとしたままピクリとも動かない。

 

「こんごうさん‥‥‥?」

 

兎に角水面から上へ引き上げようと、殆んど艤装の残っていないこんごうの背中に手を回した電の両掌には、ベットリとした嫌な感触。恐る恐る右掌を見てみた電の瞳に映ったのは、手一杯に付着したどす黒い赤い液体‥‥‥血だ。

 

「嘘‥‥‥なのです‥‥‥こんごうさん?」

 

回らない頭をやっとの事で落ち着ける。電は‥‥‥庇われたのだ。こんごうに、文字通り身を呈して。

 

「嫌なのです‥‥‥こんごうさん‥‥‥イヤぁぁぁぁあっ!!」

 

************

 

その少しだけ前の事。集められた鎮守府内の全艦娘。重い表情の山本の口から、その時が来た事が告げられる。

 

「よく聞いてくれ。戦艦水鬼のイレギュラー‥‥‥奴が現れた。今回は単艦ではない。艦隊を組んでいる。時間がないので簡潔に伝える」

 

大きめのホワイトボードに、現れた深海棲艦が書かれていく。その名が書かれる程に、全員の表情に驚きと焦りが見え、まだ練度の低い駆逐艦達には絶望にも似た表情が見れる。

 

戦艦水鬼のイレギュラー、それとは別の戦艦水鬼。それから、戦艦レ級、重巡棲姫。

それらを囲むように雷巡チ級2体とイ級が4体の計10艦。それが二艦隊に分れ此方に向かっている。

 

「詳細を送ってくれた青葉の偵察機からの通信が途絶えた。撃墜されたものと判断する。迎撃には二艦隊‥‥‥12名での連合艦隊で挑む」

 

第一艦隊、旗艦大和、夕立、電、グラーフ、比叡、こんごう。

第二艦隊、旗艦赤城、足柄、青葉、雷、那珂、それと、春雨。

 

「戦艦水鬼のイレギュラー‥‥‥便宜上ghostと呼称するものとする。第一艦隊はghostの艦隊を、第二艦隊は戦艦水鬼の艦隊を頼む。近隣の鎮守府に応援を依頼してあるが、支援艦隊が到着するまでは此方で持ちこたえるしかない」

 

これは、足柄と山本が話し合った結果だ。春雨は兎も角、他の駆逐艦は足手纏いになるだけ。轟沈の危険が大の為待機。横須賀の第一艦隊すら敵わなかった戦艦水鬼のイレギュラーには主力をぶつける。第二艦隊には足柄が加わる事で戦力をカバー。既に足柄の艤装は納入済みだ。

 

「みんないいか、この戦いには日本の未来が掛かっている。此処で負けるような事が有れば、今後日本には反攻のチャンスは殆んど残されないかも知れない。大和、夕立、分かっているな?」

 

振られた意味を理解している大和、夕立両名が強く頷いた。既に武蔵、陸奥を失っている海軍において、更に夕立、大和を失えばその戦力は大きく傾く。勿論、高速戦艦の金剛型二番艦の比叡、足柄、こんごう、とこの先の対深海棲艦戦略に於いて重要な意味を持つ艦娘達も失う訳にはいかない。

 

「二人だけじゃない。全員生きて帰ってくる事。ghost率いる敵艦隊を撃退、出来るなら殲滅する事。目標はこの二つだ。いいな?」

 

その場の全員が頷き、解散。幼い駆逐艦達は自室へと戻り、出撃予定の12人はドックへ。

 

「出来るだけの事はしました。皆さん、必ず戻って来てください」と言う明石から各々装備を受け取り、一番ドックから海面へと出た。

 

まだ敵艦隊は遠いが、このまま待機しても15分で会敵する距離。12人は二艦隊に別れ、ゆっくりと前進していく。

 

『こんごう』

 

「はい、敵艦隊は此方に向けて‥‥‥あれっ?」

 

山本からの通信に答えたこんごうは、直ぐに違和感に気付いた。レーダー上の10人の艦隊の筈の敵影が、9人分しかない。

 

『どうした、こんごう?』

 

何か嫌な予感を感じたのか、グラーフも通信を入れてきた。戸惑いつつも、こんごうは現状を伝える。

 

「あの‥‥‥敵影が9しかなくて‥‥‥」

 

途中で撤退したのか、それとも別動隊なのか。何れにしても用心しなくてはならない。少し悩んだであろう山本から、グラーフと赤城へ発艦指示が出された。グラーフの甲板からJu87C改が発艦、同時に赤城が放った弓から彗星一二型甲が次々と飛び立っていく。

だが、赤城もグラーフも顔を顰めた。理由はひとつだ。グラーフの山本への『妙だ、Admiral。此方の艦載機と全く通信が繋がらない』という通信が、この後訪れる苦境の前触れだった。

 

突然、上空で爆発。音の方に顔を向けたグラーフと赤城。二人が見たものは‥‥‥此方の艦載機が撃墜され、瞬く間にその数を減らしていっている光景。それも、何処かで見たような‥‥‥。

 

『赤城っ、グラーフっ!艦載機を戻すデース!‥‥‥対空ミサイルデース!!』

 

現状を真っ先に理解した金剛が叫ぶ。山本達が思っていたよりも事態は重かったのだ。

 

慌てて構えたグラーフ達の正面、まだ遠くはあるが、10機程の何かが近付いてくる。敵艦載機‥‥‥ではない。敵からの対艦ミサイルだ。

 

『Shit!最悪デース‥‥‥こんごうっ!』

 

金剛が舌打ち混じりに叫んだ‥‥‥こんごうの艤装のハッチが開き、同数のミサイルが放たれた。恐らくは相手側のそれも自動追尾してくる。それなら、撃墜するしかない。

丁度中間地点でぶつかり、両ミサイルが爆発。呆気に取られた一同の隙を突くかのように、声をあげる事も出来ずに何かに那珂が殴り飛ばされ、海面を大きく転がる。殴り飛ばした物体は戦艦水鬼『金剛』の尻尾だった。

 

「本当に戦艦水鬼!?速すぎるっぽい!」

 

気付いて振り向いた夕立の目前には、既に対艦ミサイル。慌てて左に転がりながら避けるが、やはり向きを変えて追ってきた。

咄嗟に魚雷を手にした夕立が、ギリギリの距離でミサイルに魚雷を投げつけた。直撃は免れたが、夕立自身は爆風で大きく後方へと飛ばされる。追撃ちをかけようとした戦艦水鬼『金剛』に向け、大和が砲撃。避けられるが後方に下がってくれたお陰で夕立と那珂を回収する隙が出来た。

電が夕立を、青葉が那珂を各々助けに走っている間、足柄と大和が戦艦水鬼『金剛』と対峙し時間を稼ぐ。今度は艤装の20inch連装砲を嵐のように放ってくる戦艦水鬼『金剛』。その名の通り鬼のような強さだ。

 

「不味いです!敵艦隊、会敵します!‥‥‥え?」

 

レーダーを確認していたこんごうの表情が固まった。他の敵9隻に関しては確かに映っているのだが、肝心の戦艦水鬼『金剛』の姿はレーダー上の何処にもない。確かに目の前にいるのに、だ。

 

レーダーに映らず、艦載機の通信を妨害。誘導ミサイルと対空ミサイル、それに戦艦水鬼そのものの耐久力、砲撃力。更には戦艦にあるまじきスピード。成る程、横須賀の艦隊がやられた理由が分かる。チートもいいところだ。言わば『こんごうと大和』の完全上位互換。文字通り化け物だ。

 

「陣形を戻しなさいっ!予定通り二手に別れて叩くわよっ!青葉!那珂っ!」

 

浮き足立っていた11人を、足柄が叱責。落ち着きを少しだけ取り戻し、艦隊が二手に別れた。足柄達は向かってくる戦艦水鬼とレ級の方へ。大和達はそのまま戦艦水鬼『金剛』と、合流した重巡棲姫と対峙。

 

「電ちゃんと比叡さん、グラーフさんは重巡棲姫を、私とこんごうさん、夕立でghostを叩きます!」

 

大和の指示が飛ぶ。比叡とグラーフが重巡棲姫を挟撃できる位置へと走り、大和自身も夕立と連係を取りながら海面を走る。

 

******

 

『この戦いが終わったら、話したい事がある』

 

電は、出撃前の山本の言葉を思い出していた。あったのは、嬉しさではなく恐怖。別れ話を切り出されるかも知れないという、怖さだ。

連装高角砲を構えつつも、心の中ではその思いが渦巻く。指示する大和の声を聞いてしまってからは尚更だ。

山本の事は好きだ。大和の事も、友人としては好き。ただ‥‥‥二人が付き合うとなると、電の心はキリキリと痛む。

 

(やっぱり‥‥‥電みたいなお子様よりも大和さんみたいな大人の方が‥‥‥いいのですか?)

 

今は戦闘の真っ最中だ。別の事に意識を割いていい筈がないし、電だって過去一度もそんな事は無かった。だが、今は‥‥‥。

 

(十三さん‥‥‥電は‥‥‥)

 

電は気付かなかった。考え事をして動きの鈍った自身に戦艦水鬼『金剛』の砲が向いている事に。戦艦水鬼とレ級に手一杯の青葉や足柄達も、気付けていない。勿論、大和や夕立だって気を抜けば一瞬で沈む。大和も夕立も、まさか自分達の外側の電が狙われているとは気付けない。

一見すれば夕立を狙ったようにも見えた戦艦水鬼『金剛』の連装砲撃。当然ながら夕立を掠め、その後方へと飛んで行く。その射線上に居た電へと真っ直ぐに。

 

 

 

 

 

気付けたのはこんごうだけだった。「電ちゃん!!」と叫んで全速力で走り、射線上に割り込む。電がやっと気付いて顔をあげたのと、こんごうが背中を向けて艤装を盾代わりに飛び込んだのとが同時。轟音と衝撃、有り得ない程の痛みがこんごうを襲った。

 

(あ‥‥‥沈むんだ‥‥‥)

 

最後に本能的にそう悟ったこんごう。直後その意識を真っ黒に刈り取られた。

 

 




イージス艦としての主な能力はマルっと金剛水鬼に奪われている事が判明。そりゃあ横須賀艦隊もお手上げです。

‥‥‥山本のせいで連合艦隊ピンチです。
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